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地獄極楽
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ここは極楽です。生きている間に善い行いを積み重ねてきた人は、死後を極楽で過ごすことができるのです。
極楽はふわふわとした雲として、空に浮かんでいます。
ここには豊かに実る桃の林があり、その桃の味と来たらまさに甘露。柔らかな果実をひとくち含むと、得も言われぬ恍惚感に包まれます。
極楽で過ごす人びとは、暑くも寒くもない温暖な世界の中で、美味しいものを食べ、穏やかな気持ちで幸せ暮らす事ができるのです。
その遥か下に地獄があります。生きている間に悪いことを積み重ねた人が死後に落とされる苦しい世界です。
針山地獄や血の池地獄、色んな地獄で、たくさんの亡者が苦しんでいます。
私は慈悲の心から、桃の実を地獄に落としてやるのですが、その度に凄まじい奪い合いが地獄に起きます。
針山地獄では、針の先に刺さった、たった1つの桃の実を巡り、血の争奪戦が起きます。その血が川となって血の池に流れ込み血の池地獄をさらに深くします。
血の池地獄は血の池地獄で、桃を受け取った者の腕を食い千切ってでも奪い取ろうとする亡者達が集まって、小島のように盛り上がります。
なんと醜い浅ましい姿でしょう。生前、努力を重ね地道に働き、善行を重ねたおかげで極楽に住まうことができる私たちと違い、何の努力もせず、成功を掴もうとしている者の足の引っ張る事に血道を上げた性根の悪さゆえに、彼らは死んでから地獄に落とされたのです。
桃の実を地獄に落としてやるのは私だけではありません。そのため、あちらこちらで争いが起きます。
そこで私は、極楽に住まう方々に呼び掛けました。
もう、私たちの大切な桃を地獄の亡者に与えるのを止めましょう。奴らは果てしなく奪い合い、さらに不幸となっていくばかりです。むしろ、桃など与えないほうが争いが起きず奴らのためになるのです、と。
私の言葉に納得して、極楽に住まう方々は桃を落とすのを一斉に止めました。
やがて地獄の亡者たちは静かになりました。奪い合うことなく、静かに痛みに耐えています。常にグツグツと煮えたぎっていた血の池地獄の水面も穏やかです。ひょっとすると、血の池地獄が沸騰していたのも亡者たちがまさに血をたぎらせて争っていたからなのかもしれません。
私は、地獄の亡者に桃を与えないことこそ正しい行いなのだと確信しました。
ところがです。極楽がゆっくりと沈み始めました。そのスピードは徐々に速くなって行きます。
私は、気づきました。地獄の熱気が上昇気流となって、極楽の雲上の世界を天空に浮かばせていたのではないか。地獄で亡者たちが作り出す熱気が無くなった今、極楽が落ち始めたのではないかと。
このままでは、極楽が地獄に落ちてしまう。
私は桃を地獄に投げ落として再び地獄の熱気を取り戻さなくてはならないと考え、急いで桃の林へと向かいました。
しかし、桃の木は枯れていました。桃の木を育てた温暖な気候を支えていたのもまた、地獄の熱気だったのでしょう。
なすすべもないまま、極楽は地獄に墜落し、私は針の山を転がり落ちて、血の池地獄に沈みました。
極楽はふわふわとした雲として、空に浮かんでいます。
ここには豊かに実る桃の林があり、その桃の味と来たらまさに甘露。柔らかな果実をひとくち含むと、得も言われぬ恍惚感に包まれます。
極楽で過ごす人びとは、暑くも寒くもない温暖な世界の中で、美味しいものを食べ、穏やかな気持ちで幸せ暮らす事ができるのです。
その遥か下に地獄があります。生きている間に悪いことを積み重ねた人が死後に落とされる苦しい世界です。
針山地獄や血の池地獄、色んな地獄で、たくさんの亡者が苦しんでいます。
私は慈悲の心から、桃の実を地獄に落としてやるのですが、その度に凄まじい奪い合いが地獄に起きます。
針山地獄では、針の先に刺さった、たった1つの桃の実を巡り、血の争奪戦が起きます。その血が川となって血の池に流れ込み血の池地獄をさらに深くします。
血の池地獄は血の池地獄で、桃を受け取った者の腕を食い千切ってでも奪い取ろうとする亡者達が集まって、小島のように盛り上がります。
なんと醜い浅ましい姿でしょう。生前、努力を重ね地道に働き、善行を重ねたおかげで極楽に住まうことができる私たちと違い、何の努力もせず、成功を掴もうとしている者の足の引っ張る事に血道を上げた性根の悪さゆえに、彼らは死んでから地獄に落とされたのです。
桃の実を地獄に落としてやるのは私だけではありません。そのため、あちらこちらで争いが起きます。
そこで私は、極楽に住まう方々に呼び掛けました。
もう、私たちの大切な桃を地獄の亡者に与えるのを止めましょう。奴らは果てしなく奪い合い、さらに不幸となっていくばかりです。むしろ、桃など与えないほうが争いが起きず奴らのためになるのです、と。
私の言葉に納得して、極楽に住まう方々は桃を落とすのを一斉に止めました。
やがて地獄の亡者たちは静かになりました。奪い合うことなく、静かに痛みに耐えています。常にグツグツと煮えたぎっていた血の池地獄の水面も穏やかです。ひょっとすると、血の池地獄が沸騰していたのも亡者たちがまさに血をたぎらせて争っていたからなのかもしれません。
私は、地獄の亡者に桃を与えないことこそ正しい行いなのだと確信しました。
ところがです。極楽がゆっくりと沈み始めました。そのスピードは徐々に速くなって行きます。
私は、気づきました。地獄の熱気が上昇気流となって、極楽の雲上の世界を天空に浮かばせていたのではないか。地獄で亡者たちが作り出す熱気が無くなった今、極楽が落ち始めたのではないかと。
このままでは、極楽が地獄に落ちてしまう。
私は桃を地獄に投げ落として再び地獄の熱気を取り戻さなくてはならないと考え、急いで桃の林へと向かいました。
しかし、桃の木は枯れていました。桃の木を育てた温暖な気候を支えていたのもまた、地獄の熱気だったのでしょう。
なすすべもないまま、極楽は地獄に墜落し、私は針の山を転がり落ちて、血の池地獄に沈みました。
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