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三章 行き倒れの水の精霊王
16. ベリーシロップのかき氷
しおりを挟むフォーレンハイト家のような広い土地を持つ貴族ともなると、荘園の領主館には、たいてい氷室がある。
庭の隅に、塔のようなものがある。中は地下深く掘り込まれていて、そこに冬の間に氷を作っておくのだ。夏になると氷室から氷を切り出して使う。
その深い穴は、慣れた人でないと危ない。どんなものか見てみたい気もしたが、おばあ様が固い表情でゆっくりと首を横に振ったので、私は素直に使用人に任せることにした。
おばあ様は、ちゃんと理由があって駄目と言う。特にこんな怖い顔をしている時は、本当に危険なのだ。
お屋敷に来て二日目に、近づいてはいけないと言われていた地下室に入って、扉の立て付けが悪いせいで閉じ込められた私が言うから間違いない。
さて、氷が届くまで、キッチンでシロップを作ることになった。
ベリーを砂糖で煮詰めたコンポートだ。鍋から甘いにおいがただよい始めた頃、ようやく使用人が氷を運んできた。両手で持てるくらいの大きさに、四角く切られている。
「これって、この形に作っているの?」
木箱に入れられた氷は透明で、ひやりとした空気を放っている。表面はすでに汗をかき始めているようだ。
運んできた使用人の男が、丁寧に答える。
「いいえ、お嬢様。もう少し大きいのを、のこぎりで切り出すんですよ」
「力仕事なのね!」
料理長の答えに、私は目をまん丸にして驚く。
「シロップはおいしそうなのに、氷か……」
火の精霊王であるガーネストには、冷たいものは天敵のようで、面白くなさそうだ。私ははっとなる。
「ガネス、氷が溶けちゃうから、離れて!」
「別に僕がいたからって氷が溶けるわけじゃ……」
「水の精霊王様が弱っちゃうでしょ。お友達のことは大事にしなきゃ!」
「はあ? 別にあいつとはお友達じゃ……ああもう、分かったから押すな!」
私がガーネストの背中をぐいぐいと押すので、ガーネストはすねて、自分の部屋で昼寝するとキッチンを出て行った。
「ガーネスト様には、後で牛乳プリンのベリーシロップがけを持っていきましょう」
優しいおばあ様は気遣って、手の空いている料理人に牛乳プリンを作るように声をかける。
この数日で、気まぐれなガーネストを、お屋敷に滞在する困ったお坊ちゃん扱いし始めている使用人達は、微笑ましそうに了解と返した。
「シロップは使う分だけ取り分けて、冷ましておきましょう」
おばあ様にうながされ、私は鍋のシロップをお玉ですくい、小皿に移す。
それから、かき氷を作る機械が置かれたテーブルに向かう。氷が落ちないように固定して、それをハンドルを手回しして、氷を削るそうだ。
「わぁ、何これ、すごいわ!」
かき氷機なんて、初めて見た。王都では、シャーベットを先割れスプーンで削りながら食べるほうが主流だ。
ショリショリと音がするたびに、細かい氷がガラス皿に降り積もっていく。
「あら、アイリスはこれを見るのは初めて? 最近、東国から入ってきたんですって。わたくしが調理道具好きだから、あなたのお父様が送ってくださったのよ」
お父様は、離れていてもおばあ様を気にかけているようだ。おかげで私はかき氷機を見られたので、今度、お父様にハグしてチューしておこう。
「そうなの? ねえ、私もやってみたい!」
私がおねだりすると、料理人は快くゆずってくれた。踏み台を用意してくれたので、さっそくかき氷機のハンドルを回す。
見た目よりもずっと重くて、私はすぐにへとへとになってしまった。
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