邪神の神子 ――召喚されてすぐに処刑されたので、助けた王子を王にして、安泰ライフを手に入れます――

草野瀬津璃

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第一部 邪神の神子と不遇な王子

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 一夜明け、騎士と召使いが多く解雇された。
 荷物をまとめた人達が給金を受け取り、暗い顔でぞろぞろと城を出て行くのを、有紗は二階の廊下から眺めている。随分、おおごとになってしまった。罪悪感が湧くが、これは彼らの自業自得だ。

「せいせいしたわ。自分の家に敵が多いのは、息が詰まるもの」

 すぐ近くで声がしたので振り返ると、ヴァネッサがいた。今日は鮮やかな赤色の上着だ。胸元が大きく開いていて、デコルテがのぞいている。赤い宝石がついたネックレスが、服とよく合っていた。彼女の手には衣類が抱えられている。

「どうしてヴァネッサさんも、あの人達を放っていたんですか?」
「私の家なら解雇するけど、ここはレグルスの城よ。それに、レグルスには何を優先にするべきか、自分で気付いて欲しかったの。父親の顔を立てようとするのは、あの子の良いところだけど、周りはそんなのお構いなしよ。血筋しか見ていないもの」

 ヴァネッサもロドルフと同じで「成長を見守る大人」なのだと有紗は気付いた。

「あの子もちゃんと男なのね。好きな人のためなら、がんばれるんだわ」
「はぁ……」

 その設定、ヴァネッサにも話したのか。有紗はレグルスを思い浮かべた。

「レグルスは、隅で静かにしていれば、平穏に暮らせると思っているみたいだけど、そんなの間違いよ。王家に生まれた以上、争いの真ん中にいるの。気に入らなければ、戦の前線にでも送られて、抹殺されるものよ。私はそんなのは嫌。たとえ最後に破滅するにしたって、戦って傷を残してやらなきゃ」

「ヴァネッサさん、強いですね」
「まあね、庶民はたくましいのよ。でないと生き残れないんだから」

 ヴァネッサは笑みを浮かべ、有紗の頭をなでる。そして有紗の様子を眺める。

「昨日はゆっくり眠れた?」
「はい、おかげさまで」
「良かった。これも着替えよ。今日の午後に仕立屋を呼ぶから、寸法をはからせてちょうだいね」
「分かりました。ありがとうございます」

 有紗は服を受け取ると、いったん部屋に戻ってチェストに収納した。



 レグルスらが朝食を終えた後、また書斎に集まった。

「護衛を大量に解雇したので、守りが薄くなりましたな。急ぎ、兵士を徴集しませんと」

 ロドルフの言葉に、レグルスは首を横に振る。

「いや、今は畑が忙しい頃だから、臨時とはいえ農民から集めるのは避けたい。新たに騎士か傭兵を雇おう」
「傭兵ですか……」

 ロドルフは渋い顔をする。
 有紗はすかさず質問した。

「はいっ、なんで傭兵だと嫌そうなの?」
「荒くれ者ですぞ。城に入れて、盗賊になったら最悪です」
「ええっ、雇われておいて盗賊になるの?」
「アリサ様はずいぶん平和な所からいらしたんですなぁ。食い詰めた傭兵は、野盗に変わるものです」
「ヤトウ?」

 聞き慣れない言葉だ。有紗がレグルスを見ると、レグルスが教えてくれた。

「外で襲ってくる盗賊のことです。町中にいる不良のことも言いますが……どちらも盗賊ですよ。大人しく金目の物を渡せば見逃してくれることもありますが、だいたいは口封じで殺されます。一人では無暗に外を出歩かないように」
「わ、分かった」

 真剣そのものなので、有紗は頷いた。

「アリサは嫌そうですが、やはり侍女を一人付けたほうが安心ですね」
「さようですな、レグルス様。ロズワルドが騒いだ際、まさか鍵を開けて自分から出てくるとは思いませんでした。これではいつか、思わぬ理由で危険な目にあわれるでしょう」

 レグルスとロドルフは心配そうにしていて、有紗は身を縮める。

「昨日は悪かったと思うけど、もうしないよ」
「しかしミシェーラ様の病が治ったので、ヴァネッサ様もいつまでもこの城にはおりません」

 ロドルフがそう断るので、有紗はふいをつかれた気分になった。

「そうなの?」

 数少ない同性の知り合いだ。急に寂しくなってきた。

「ヴァネッサ様は陛下の寵愛が深いので、姫君のためとはいえ、王宮を出るのを、陛下は渋い顔をなさっていたそうです。姫君が回復なさったのなら、間違いなく呼び戻されますよ」
「ヴァネッサさん、愛されてるんだ」
「正妃様と、他二人の側妃様は、全て政治的な関係で妃に迎えられた方々です。ヴァネッサ様はどこの派閥ともかかわりがないので、陛下も気が休まるのでしょうな」
「そっか、そうだよね。王様も人間だもんね。……うん、今のうちにいろいろと教わっておきます」

 有紗は決意を新たにした。今のところ、この世界にがんばって慣れるしかない。レグルスの邪魔になるのも嫌なので、なじむ努力はしなくては。

「えっと、とりあえず、兵士の話だったよね。信頼できる人が良いよね、偽物の忠誠心じゃ、後で怖いことになっちゃうかもしれない」
「そうですな」

 有紗は明るく笑う。

「それなら私が手伝えるかもしれない!」

 良いことを思い付いて、有紗は二人を順に見る。

「え? 何か策がおありですか、アリサ」
「ひとまず話を聞いてみましょう」

 レグルスとロドルフに、有紗は提案する。

「まずは領地の中で、こういう人がいないか調べて欲しいの」

 その話を聞いて、二人はなるほどと笑みを浮かべた。
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