邪神の神子 ――召喚されてすぐに処刑されたので、助けた王子を王にして、安泰ライフを手に入れます――

草野瀬津璃

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第一部 邪神の神子と不遇な王子

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 有紗が探してもらうことにしたのは、元々は騎士をしていたが、怪我や病気がもとで仕事を辞めざるをえなくなり、落ちぶれている人だ。できれば仕事を探している人で、家族のためにもかせぎたいといった理由があるともっと良い。
 そういう人に声をかけて、治療と引き換えに、レグルスへの忠誠と助力を誓ってもらう。そして、レグルスの血筋など関係なく、恩への気持ちから真面目に仕事をしてもらおうという魂胆だ。

 ガーエン領というのがどれくらいの広さか分からないが、ここにいなければ、王都で探すのも良いかもしれない。都と呼ぶほどなら、人も多いだろう。
 ロドルフはすぐに人を呼んで、そういった者を探しに行かせた。
 返事が戻るまでは暇である。

 その日の午前中、有紗はレグルスの傍にいて、書斎の棚の掃除をした。棚の上のほうの埃を拭いて、本や書類を並べなおす。
 ここで初めて、この世界の文字をちゃんと目にしたが、有紗にはなんて書いてあるか分からない。アルファベットのような、楔形文字のような、見たことがあるようで、全くなじみがない。そんな文字が並んでいる。そういえば、有紗の言葉が互いに通じているのは、神子になった影響だろうか。
 今まで気付かなかったが、裸眼なのに遠くまで物が見えている。元々、有紗は目が良いほうだ。それでも、以前より視力が上がっていることに驚いた。
 することが無くなったら、レグルスの隣に座ってじっとしていた。彼らが仕事しているのを眺めながら、まるでリアルな映画の世界にお邪魔しているような気分になったが、これが現実だ。



 午後、ヴァネッサとの約束のため、ヴァネッサの部屋に向かった。
 その際、黒髪黒目を見られるわけにはいかないので、有紗は前もって準備をした。ウィンプルで髪を覆い隠し、その上にフードを目深にかぶれば、目元は見えない。
 その状態で仕立屋に寸法をはかってもらい、色の好みなどを伝えた。ここに来る前は赤が好きだったが、赤を見ると血を思い出すので、緑や青と答えておく。
 怪しまれるだろうかと不安だったが、仕立屋は余計なことはまったく訊かないのでほっとした。
 それが済むと、長剣をたずさえたレグルスが、いかにもお忍びという地味な色合いの服に着替えてやって来た。

「アリサ、聖堂に行きましょう。そのついでに、城下町の酒場ものぞいていきましょう」

 レグルスは有紗に灰色の外套まんとを着せかけて、ブローチでマントをとめる。そういえば有紗の食事ために、聖堂に行くと話していたと思い出す。

「酒場?」
「落ちぶれた者は、酒場でくだを巻いているものです。野盗になる者もいますよ」
「お酒を飲むお金があるのに?」
「酔って忘れたいんでしょうね。犯罪は悪いことですが、本当の悪人はほんのひとにぎりです。皆、何かしら事情がある。そういった人々を助けられるのは、素晴らしいことだと思います」

 レグルスはほんのりと笑みを浮かべた。
 有紗の提案を、良いほうに受け取っているようだ。

「私……別にそんな良いことのために言ったんじゃなくて。ただね、どうしようもない暗いところから、ちょっと引っ張り上げてもらえたら、それだけでとてもその人に感謝するし、信頼を感じるの。レグルスに助けられた時がそうだった。今もありがたいと思ってる」

 気まずくて、有紗は手を握ったり開いたりする。

「でも、レグルスには裏はなかったけど、この提案はそういう気持ちを利用するから、ちょっと……」
「罪悪感が? しかしそれで気持ちが救われて、仕事を得られて、その後が順調になるならば、結果として良いことでしょう。一度、騎士として転落した者が、上へ戻るのはむずかしいものですよ。どんな良い医者にかかっても、元通りに体は動かないし、年をとれば体力がもちませんから。再起さいきできるなら、それは奇跡だ」

「……ありがとう」

 レグルスの考えを聞いて、有紗の罪悪感は薄れた。少しだけ笑みを浮かべる。

「そうだね。どうせするなら、する偽善ぎぜんってやつだよね」
「面白い言葉ですね」

 そんなふうに話していると、片付けをしていた仕立屋の女主人と針子やヴァネッサがこちらを見ているのに気付いた。

「まあまあ、なんて微笑ましいんでしょう。殿下がお妃様候補をお招きになったと聞いて驚きましたが、相思相愛なのは良いことですわ。おめでとうございます、ヴァネッサ様」
「ええ、ありがとう」
「結婚式の時は、ぜひ、うちにご依頼ください。腕によりをかけて婚礼衣装を作りますわ」
「気持ちはうれしいけれど、まだ様子見段階なの。でもその時はよろしくお願いするわね」

 女主人とヴァネッサの会話に、有紗はまた気まずさを覚える。安全のために妃のふりをしているだけだなんて、とても言い出せない雰囲気だ。

「お出かけするんでしょう? 日が高いうちに行ってらっしゃい。レグルス、きちんとアリサを守るのですよ」
「はい、母上。行きましょう、アリサ。僕から離れないように」
「うん!」

 ヴァネッサに見送られ、有紗はレグルスの傍らにぴたっと寄り添い、城を出た。
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