聖女召喚ぱあとつー

拓海のり

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前編

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 私は十六歳、この春、目指した高校の受験に失敗した。
 同じ高校を受験した彼氏は合格して、私たちのお付き合いは解消、つまり、私は振られてしまった。
 滑り止めの高校は私立で、入学金も授業料も高く、三女の私は親に溜め息を吐かれ肩身が狭かった。

 おまけに入学したその高校に、私は馴染めなかった。今更行きたくないとも言えないし、段々と自分の居場所がなくなって、暗い顔をして俯いて生きていた。

  ◇◇

 そんな私が、何と異世界に聖女として召喚されてしまった。
「魔王が誕生し、世界は闇に閉ざされようとしています」
「我々はそういう時に、異世界より聖女を召喚するのです」

 床に魔法陣の描かれた召喚の間に、呆然と佇む私に、召喚したこの国の人々は、上を下への大騒ぎで歓迎した。

「私は何をすれば……」

 私みたいな人間に何ができるというのだろう。
 召喚とか転移・転生で、異世界に行った時のお約束の、スキルも魔法も加護も、何も持っていない。貰っていない。向こうの世界の私のままで、この世界に来てしまった。
 一応、話している言葉だけは通じる。言葉が分かったからといって、私にはそれでどうこうできる才能なんて無いけれど。

「聖女様は、何もすることはございません」
「国をあげて、おもてなしをさせていただきますぞ」
「それでしたら帰れるの?」
「帰れません」
 何もしないでいいのなら、帰れるかと思ったけれど甘かった。

 帰っても、家にも学校にも私の居場所なんてなかった。それでもこんな見知らぬ世界で、ひとりで生きて行けるのか、心許ない。
 ずっと俯いて生きていた私は、こんな所に来ても俯いたままだった。

  ◇◇

 何もしないで、おもてなしをされて何日かが過ぎた。
 紹介された王子様も、高位貴族のご子息様たちも、前の世界の私を振った彼氏と重なってしまう。出来が良くて、イケメンで、如才なくて、嘘くさくて──。

 彼らには、それぞれ婚約者もいらっしゃるようだし、俯いて誰も見ようとしない私に、彼らは前の彼と同じように、あっさりと背を向けた。


 そんなある日、教会の偉い方がぞろぞろとお付きの聖職者と聖騎士を引き連れて、王宮にいる私を迎えに来た。

「あなたは魔王に生け贄として捧げられます」
「生け贄……?」
「塔に閉じ込めて、塔ごと燃やして魔王に捧げます」

 一番偉そうなキンキラの立派な冠を被り、キラキラしい衣装を着た白い髭の男が、恐ろしいことを至極当然のように告げる。

「そんな……。いやよ、帰りたいわ」
「それはおかしいです。我々は死にたい人を選んでこの世界に召喚しております。帰りたいと言うはずがない」
 偉い方はきっぱりと決めつけるように告げた。

「いやっ!」
 そんな恐ろしいことは──。
 私は逃げようとしたがあっさり騎士たちに捕まって、毛布でぐるぐる巻きにされた。

「さあ、聖女様を塔にご案内するのだ」
「本来、聖女とか聖人とかいう者は、犠牲になられた尊い方をそう呼ぶのです。あなたも我々が聖女様としてその名を刻み、ずっと崇めて差し上げます」
 こんな所で名前を刻まれるなんて、まるでおバカの見本のようではないか。
「そんなことなんていらない。助けて!」

 私の叫びは聞き届けられることなく、屈強な騎士たちによって担ぎ上げられる。
「さあ、聖女様を塔に」
「聖女を魔王に捧げれば、この世界は鎮まり平和になる」

 本来、聖女と呼ばれる者は、皆の犠牲になった気高い人をそう呼ぶのだという。聖女とか聖人とか呼ぶのは、鎮魂の意味もあるらしい。
 聖女は塔に幽閉されて、期日が来たら塔ごと燃やして魔王に捧げられる。尊い聖女の御霊がこの世界を救うのだという。

 何だか、そういう皆の犠牲になった尊い聖女という状況を、無理やり作り出しているんじゃないかと疑いたくなる。


 私は確かに前の世界で、受験に失敗し彼氏に振られてヤケを起こし、もう死んじゃいたいと思ったかもしれない。
 しかし、意気地も無く、度胸もなかった私は、心で思うだけだった。不貞腐れて終わったはずだった。なのにどうしてこんな世界に来てしまったのか。

「わーん、お父さん、お母さん、お姉ちゃんたち、ごめんなさい」

 こんな所で謝ることしかできない私。せめて、私が死んだら家族にはなにがしかの幸運とか幸せが…………。
 いや、家族はみんな自立した人で、それぞれ自分の才能で普通に生きていた。私だけこんなおバカで、俯くばかりの能無しで、何もできない、どこにも行けない情けない子供で……。

 でも、こんな所に来てまで、死にたいわけではなかった。


 塔の周りにうず高く積まれた薪を見て、本気で殺す気かと泣きそうになる。もう泣いているけれど。
 カラスが塔の向かいの小高い木の枝にとまって、アホーと鳴いてバサバサと飛んで行った。本当にアホーだわ、ヒック……。

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