聖女召喚ぱあとつー

拓海のり

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後編

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 バサバサバサ……と、羽音がした。
 何と、さっきのカラスがUターンというか、塔の周りを一周して窓辺に止まった。私が涙目でカラスを見上げると、カラスはケホンと咳払いのような声を出した。そして喋ったのだ。

「助けてやろうか?」
「カラスが?」

 涙に濡れた目でカラスを見る。カラスはもう一度ケホと鳴いて、バサリと羽を広げた。羽音と共にカラスの黒い身体が伸びた。そのまま黒い影が伸びて、私の背丈より長くなった。

 突如、カラスは長い黒髪の男になった。

「えええ、どういうこと?」
「俺、魔族だしー、こっちに来たら、お前が目に入ったしー、お前、黒髪で紫っぽい瞳だしー」

 何と男は魔族だと言うのだ。魔族というのはもっと恐ろしい姿をしているのかと思ったが、頭に角があって瞳が赤いが、他は人間と変わらない姿かたちだ。

 じっと私を見る魔族。黒い長い髪に赤い瞳だ。なんか魔族の赤い瞳って、イラストや漫画で見ると、何となく好きじゃなかったんだけど、この人の瞳は綺麗ね。惹き込まれてしまいそう。

 私はこの魔族の生け贄になるんだろうか。全然怖くないんだけれど、人を襲ったり食べたりするんだろうか。全然そんな風に見えないんだけれど。

「ちょっと気に入ったかもな」
 じっと見つめていたら、魔族がニヤリと笑って言う。
「お願いです。私を助けてください」
 ここで聖女の丸焼きになんか、なりたくない。私は魔族の男に必死になって懇願した。
「魔族でもいいんだな?」
「いい!」
 私は、もうやけくそになって叫んだ。

 この世界の王子も貴族も聖職者も、嘘くさくて冷たく感じて馴染めなかった。
 でも、この魔族は温かい感じがする、体温を感じるのだ。
 私が必死で両手に握りこぶしを作って返事をすると、魔族の男はニヤリと笑って頷いた。

「こいつはお前の身代わり人形だ」
 懐から私と等身大の人形を取り出す。目も鼻も口もない、手と胴体と足と頭が適当にくっ付いたような、縫いぐるみっぽいものだ。

「一応、燃えると骨っぽいものが残るようになっている」
 とてもいい加減だ。

 魔族は塔に私の身代わりの人形を置くと、私の身体を抱き寄せてふわりと飛び上がる。ぐるりと周辺の景色が流れた。目を開けていられなくて、魔族の身体にしがみ付き、目を閉じる。なんかちょっといい匂いがしたような気がしたが、気の所為かもしれない。


「着いたぞ」
 という言葉に目を開けると、空気の濃い深い森の中にいた。大きな木が縦横に枝を伸ばしている、薄暗い森の中だ。木と草の匂いしかしない。

「ここは?」
「境界の森だ」
「境界の森……?」
「魔界と人間界の間にある森だ」
 いきなり森の真ん中に着いたらしい。

 鬱蒼と茂った暗い森だ。蛍のような儚げな光がふわりふわりと高い木々の間を漂っている。地面は落ち葉が積み重なって柔らかい。獣道のような細い道が一本、曲がりくねって伸びていた。

 魔族の男が手を差し出したので、それに掴まる。
「息は苦しくないか?」
 しばらく森の中を歩いて、男がふと聞いてきた。
「え、あ、大丈夫です」
 この森の空気は濃い。始めは重たいのかなとも感じたが、段々慣れてきた。そうすると身体も楽になった。

「この森は境界の森だ。他の場所より魔素が濃い。ここに慣れたら、魔界でも大丈夫だ」
 どうやらいきなり魔族の国に行かないで、この境界の森で体を慣らしてから行くらしい。

「そうなんですか、魔界って?」
「俺たち魔族の国がある」
「ええと、人間と戦争してたり──」
「していないな」
 何だか話が違う。

「そうなんですか。じゃあ、どうして生け贄が必要なんだろう──」
「魔王が代替わりしたからな、昔の習慣の名残だろうな」

 なんか『魔王が誕生し、世界は闇に──』とか、テンプレみたいなことを、あの聖職者の偉い人は言っていなかったか。昔の習慣で聖女の丸焼きをやるんかい。
 酷い話ではなかろうか。

「そんなことで、迷惑な──」
「俺たち、一応見に行ってんぞ。聖女に生け贄になられたら寝覚めが悪いからよ」
「あ、ありがとうございます」
「魔族同士だと子供ができにくいからよ。召喚した異世界人を気に入ったら、魔界に連れて帰るんだ」

「気に入らなかったら?」
 私の不安そうな声に、魔族はニヤリと笑って答える。
「相手のいない奴が、順に見に行くしー、誰かが気に入るだろ」
 何とそんなシステムになっているのね。この世界、何だか人間より魔族の方が優しく思える。

「他の奴の心配までしてやるなんて、お前って優しいのな」
「そうでもないよ。あなたの方が優しい」
「そうでもないぞ、お前は優しい。多分そういうところが、お前の聖女としての能力だろう」
「え、どういうこと?」
「つまり、お前は自分が助かると他の人も助けたいと思う。お前が幸せになると、他の人も幸せになってほしいと思う。そういうのを聖女のおすそ分けっていうんだな」
 どうも聖女がそう思ったら、聖女のおすそ分けという能力が発動するらしい。聞いたことがない能力だ。

「だから、俺はお前を幸せにしてやる」
「二人で幸せになりたいわ」
「ああ、二人で幸せになろうぜ」
 私たちはお互いに見つめ合った。

「俺の嫁になるか?」
 魔族が聞いてくる。
「でも私は何の特技もないです。魔法も何も使えないし、まだ学生であんまり勉強もできないし、何も知らないし。それでもいいの?」
「俺はお前が気に入ったからな。まだこちらに来たばかりだし、できないことは教えてやるし、焦るこたぁないさ」

 そうなんだ。何となくその言葉が嬉しかった。高校に落ちても駄目じゃなくて、馴染めなくても焦ることはないと言ってくれる彼が側にいてくれる。

 そうして魔族のお兄さんに助けてもらって、すっかり彼に懐いた私は、魔界に落ち着いて、自分のできることをゆっくり見つけ、俯いていた顔を上げて次第に前向きになり、魔界で彼と結婚して子供もできて幸せになった。

 どういう訳か私が魔界に行ってから、魔族たちのカップルにも子供が生まれだした。
「お前のお陰だぜ」という彼は、押しも押されもせぬ魔王の跡継ぎであった。聖女に何か能力があってもいいとは思うけれど、別になくても私は十分幸せだ。

「あなたが代替わりして魔王になる時に、あの国はまた聖女を召喚するのかしら」と聞いたら「あの国はもう潰れたぜ」という。
 ちょっとホッとした私は悪くないと思う。


  おしまい

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