姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり

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29 隠し子(4)

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 脩二に教えてもらって赤ん坊の世話をし始めた暖斗は義純のところにも連れて行った。
「ほーら、お父さんだよー」
「オイ」
「俺は何だろう? ねえ義さん」
「俺が父ならお前は一応兄ということになるが……」
「ああ、そうか。お兄ちゃんだよー。アレ? こいつの名前なんてえの?」
「俺が知るか」
 義純はそう言ってぷいっとそっぽを向いた。
「え……!?」

 暖斗の常識では、旦那様がいて奥様がいて子供が出来て、
「ねえ、あなた。何という名前がいいかしら?」
「そうだなあ」とかいう極普通の会話が交わされるのが極普通の夫婦像だった。
 例え自分が奥様は男子高校生、旦那様はヤクザというとんでもない非常識の世界にいたとしても。

「ソレと俺を比べて見ろい。何処が似ている」
 義純が口をへの字にひん曲げて睨んだ。暖斗はむっつりと機嫌の悪い義純と腕の中にいる丸いほっぺの赤ん坊とを見比べる。
「そんな事言ったって、いかにも怖げな大男の義さんと、こんなにちっちゃくて、いたいけな赤ん坊と似るわけがないだろ」
「あほう……」
 義純はあんまりな暖斗の言葉に後が続かず脱力して顔を覆った。
「とにかく、そんなモノを俺のところに持ってくるな」
 これ以上話しても無駄と暖斗にヒラヒラと手を振って、いつものように追い払おうとした。

 暖斗は首を傾げて義純を見ていたが腕の中の赤ん坊が段々重くなってきた。そっぽを向いている義純に見切りをつけて部屋を出ようとすると丁度そこに脩二がやって来た。
「若頭領、見つかりました」
 脩二はそう言って暖斗から赤ん坊を受け取った。
「誰が?」
 暖斗が聞くと義純が答える。
「そいつの親だ」
「親って、お母さん?」
「両親だ」
 義純は虚空を睨んだ。そのまま脩二の後を追ってダダッと部屋を出て行こうとする。暖斗は慌てて義純を引き止めた。
「よ、義さん! どういう事? その子は誰の……」
「はる、お前の仕置きは後だ」
 義純は暖斗の襟髪を掴み引き寄せて唇にディープなキスをかました。暖斗の体から力が抜ける。廊下にへたり込んだ暖斗を置いて義純と赤ん坊と脩二は行ってしまった。

(両親って……。じゃあ、じゃあ……義さんの子じゃないんだ……)
 暖斗は身体も心も脱力してしまった。目から涙が溢れてぽとぽとと廊下を濡らした。子分さん達が駆けて来る。
「姐さん、大丈夫ですか?」
「うん、義さんたちがあまり酷い事をしなければいいけど」
「ご心配には及びませんや」
「うん」

 * * *

 その日の夜──、
「ねえ義さん。赤ちゃんが欲しいよ。義さんに似た赤ちゃんってどんなだろうね」
「俺は赤ん坊の時は可愛かったぞ。今度、写真を見せてやろう」
 まだ大男で恐ろしげなと自分の事を言った暖斗の言葉に拘っている義純だった。
「うん」
 一緒の布団の中である。お仕置きとはいえない甘い雰囲気の二人だった。

 ちょっとの間だったけれど世話した赤ん坊は可愛かった。赤ん坊の母親は多分義純とも関係があったんだろう。義純も脩二もその点は口を噤んで何も言わないが。
 女は義純を金持ちのボンボンだと思ったようだ。この家に来てからヤクザと分って、赤ん坊を置いて逃げ出したと脩二が言った。
 女は二股をかけていた。赤ん坊の父親は女の会社の上司だった。妻子持ちである。ヤクザに脅されて震えていたというがどうするんだろう。

「ねえ義さん、子供を作ろうよ」
「お前が産むか?」
 義純は暖斗を抱き上げて自分の膝の上に乗せる。
「義さんの子供なら産みたいな。天地が引っ繰り返って、奇跡が起きたら産めるかな」
 暖斗は義純の首に腕を回し唇にキスをした。義純は暖斗の頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜてキスをディープなものに変えてゆく。一度放ってそのまま暖斗の中にいたモノがまた力を持ってくる。
「はう……ん……、よし……さん……」
 暖斗が身体を捩って仰け反った。義純に突き上げられて後ろに反らせた首が揺れる。暖斗の細い首筋に、白い胸に義純が跡を付けてゆく。暖斗は顔を少し起こして自分の身体にせっせと痕跡を残す男を半眼のまま見上げた。
 上気した頬。半開きの唇。瞳が少し濡れている。
(色っぽくなりやがって──)
 義純はガバと暖斗を押し倒すと細い身体を抱きしめ、頬や耳や首筋に弄るようなキスを送り、自分が変えたその身体をもう一度存分に味わおうと、体勢を整えて攻め始めた。


 さて、新学期である。
 暖斗は二年生になった。元気よく学校に行って掲示板に張り出されたクラス分け表を見上げると、どういう訳か東原と葉月が同じクラスにいる。
「やあ、如月君。おはよう。同じクラスだね」
「やあ、暖斗。一年間よろしく」
 暖斗の背後から二人が同時に声をかけ、そして睨み合った。


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