姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり

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35 胴元(3)

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 さて暖斗と義純である。義純がもう一度、暖斗を引き寄せて押し倒そうとすると、今度は暖斗の方が視線を感じたらしい。
「ねえ、義さん。誰かに見られているみたいだよ」
「らしいな」

 こうなると暖斗の方が集中出来なくなった。二人で起き上がって、部屋の中をあちこち家捜ししはじめた。欄間の隙間やら、エアコンの奥、押入れ、違い棚、はめ込みの鏡、ありとあらゆるところからゾロゾロ小型のカメラが出て来た。

「あきれた……」
 押収したカメラを見て暖斗が頬を膨らませる。
「何処の何方か存じませんが、いい加減にしてくださいませんかねえ」
 義純がカメラに向かってどすを聞かせた。

「もういいや、義さん」
 まだどこかにカメラがあるような気がして、暖斗も義純も行為を続ける気が無くなった。座卓に座って暖斗がお茶を入れる。
「今度、いつでもいいから本当に新婚旅行に行こうよ」
「そうだな、はる。分った。連れて行ってやる」
「本当? 義さん」
「何処がいい? ん?」
「えへ……、そうだなあ」
 二人はぴったりと寄り添って睦言を囁きだした。行為よりもこちらの方が数段甘かった。

 * * *

(頭が痛い……、それに気分が悪い……)
 目の前にぼんやりと白い顔が見える。
(暖斗……、暖斗なのか……?)
 頭の中にテレビで見た色っぽい暖斗の顔がドドッと浮かび上がって来て、葉月は猛然とそれに手を伸ばした。それの方も手を伸ばしてきた。抱きすくめて唇を重ねる。甘い甘い唇だった。
(暖斗!!)
 葉月はそれを押し倒した。

 ガンガンガンと頭が痛い。明るい日差しが入って来て、どうやら世間では朝のようだ。
(昨夜、俺は……)
 葉月はガバと飛び起きた。
「暖斗!」
 叫んだ途端、ガアンと頭に響いて頭を押さえた。
「お薬を飲みますか?」
 部屋の向こうから声が聞こえた。暖斗の声とはまるで違う。憎憎しいアイツの声が……。頭が痛い。頭が痛いが考えなければならない事があるようだ。
(昨日俺はこいつに勧められて酒を飲んで、すぐに酔って、寝てたら後から暖斗が来て……)
 そこまで考えて葉月の思考は急停止した。

(待て。これ以上考えたくない)
 部屋に愛しい暖斗の姿は無い。その代わりに東原が葉月の返事も待たずに二日酔いの薬を持ってきた。顔を押さえた指の間から窺うと、東原は薬を取り出して水の入ったコップと一緒に葉月に差し出した。ニンヤリと笑った眼鏡の奥のその目許が何処と無しに色っぽい。葉月の下半身もやけにスッキリしている。
 夢の中でナニをしたのか……。
(お、俺は考えたくない!!)
 葉月は東原から薬をもぎ取って呷ると、もう一度布団の中に潜り込んだ。


 * * *

 さて、そういう訳でその日、大姐御を先頭に一同はゾロゾロと連れ立って、ここに来た最大の目的であるオークション会場に向かった。広間に何人もの客が集まると、やがてステージに皆を取り持った鵺のような加藤が出て来た。
「本日はお集まりいただきまして、まことにありがとうございます」と、長々と挨拶をし、それから一人の人物を紹介した。
「このオークションの主催者であり、この別荘の持ち主でいらっしゃる藤原様です」
 加藤の紹介で三十半ばにみえるおっとりとした男が出てくる。招待客が一斉に拍手した。

「どういう男なんでい」
 義純が大姐御に聞いている。
「あたしの店にも何度かお運びいただいたこともある、さる企業のオーナーでね、なんでもどこやらの非常に由緒正しい御家系のボンボンなんだそうだよ。幅広い趣味をお持ちで金に飽かせていろんなモノを買っては、興味が移る度にこうして前のコレクションを競売にかけるんだそうだ」
「ふむ」

 義純が藤原の方をそれとなく窺うと、会場を見回していた藤原と目が合った。その目がスッと逸れて隣の暖斗の所で止まる。男の目尻がにへらと下がったような気がして、義純は口をへの字に曲げた。隣の暖斗が藤原の視線に気付いて身動ぎした。義純にコソッと言う。
「昨日のアレ、アイツじゃないの?」
 義純は黙って頷いた。鋭い視線で藤原を射ると、藤原は身を震わせて舞台からそそくさと降りた。

 さて、ステージに藤原のコレクションが次々運び込まれる。それは名画であったり骨董品であったり楽器であったりと実に様々手当たり次第という感じで、どういう趣味でそういう物を集めたのか普通人には理解できない。
 しかし藤原という男が目利きであるのか、品物はどれも極上の一品で、それを狙って来た客が値を競り上げてよい値が付いてさばかれた。
 大姐御も狙っていた物件をはじめの内こそ他の客と競っていたが、やがて降りてしまった。
「どうもあの男は商売人だねえ」と、苦笑いしている。

「さて、本日の目玉商品であります」
 司会の男が口調を改めて言う。ファンファーレが鳴った。
 そして、ステージにずらずらずらっと運び込まれたものは、何と!!
「本日のオークションの目玉商品は、はるちゃんグッズです!!」
「嘘だろ、オイ……」
「はるちゃんの生写真!! はるちゃん人形!! はるちゃんの抱き枕!!」
 何と、暖斗を形取った人形やら抱き枕などの製品や、昨夜の義純との濡れ場一歩手前の写真などがずらずらと並べられている。あまりのことに脱力する暖斗を他所にオークションは始まった。
「買った!!」
「俺も!!」
 と、そこここで声が上がる。すぐ近くにいる葉月も身を乗り出した。義純の向こうの葵も叫んでいる。

 その時である。義純が立ち上がった。止める者もあらばこそ皆気圧されて見守る中、ステージの間近にいる藤原の所まで行き、その襟元を掴み上げる。ドスのきいた低い声で言った。
「おい、商標登録したのかよ」
「し、申請はしているんですが……」
 藤原は義純がこう来るとは予想していなかったらしい。いかにもボンボンそうな顔を引きつらせて答えた。
「誰に断った。肖像権の侵害だぞ。全部没収する」
 藤原の返事も聞かず、義純はサッサと手を上げて差配する。脩二以下子分さん達がドドッとステージに上がってそこにあるグッズを全て没収して行った。もちろんガード連中はいたのだが、義純が藤原を押さえているし、言う事にも一理あるので手出しが出来ない。
 はるちゃんグッズは義純の手によって全て没収されてしまった。

「あああ、せめて一つだけでも……」
 葉月がガックリとうな垂れている。
「チェッ、藁人形の中に埋め込んでやろうと思ったのによ」
 葵も残念そうだ。
「あれで全部か?」
 義純が藤原の襟元をまだ掴んで凄んでいる。
「もし、こんな物が出回ったら、即、あんたを訴えるからそう思え」
 藤原は青くなってガクガクと頷いていた。

 * * *

「やれやれ、とんだくたびれ儲けだったねえ」
 オークションが終わってゾロゾロと引き上げながら大姐御が義純に言う。
「義、お前少しでも巻き上げてやったらよかったのに」
「大姐御の店の客だしな。それより後で儲かる仕事を貰いに行くさ。断らねえだろうよ」
「それもそうだね」
 二人は顔を見合わせてニヤリと笑った。

「せめて一つだけでも……」
 葉月がまだ物欲しそうに言った。隣にいた東原が悪魔の囁きをして寄越した。
「実は、僕は藤原さんとはちょっとした知り合いなんですよ。それで一つだけ貰ってあるんです」
 そう言って取り出したのは、はるちゃんの抱き枕だった。どういう知り合いか知らないが、その枕は見れば見るほど良く出来ている。暖斗の綺麗で可愛いところをぎゅっと詰め込んだような枕だった。
(欲しい……、しかし……)
 東原が胡散臭そうな顔でニンヤリと笑っている。はるちゃんの抱き枕を抱えて。


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