女王様は十五歳 お忍び世直し奮闘記

佐倉じゅうがつ

文字の大きさ
24 / 39
四章 恋に落ちた暗殺者

女王様と、もう一度

しおりを挟む
 ル・ハイドさんの言葉の意味を考えようとしたとき、雷のような衝撃と残響が一瞬とぎれた。



「……エルミーナさん!」



「おっ目が覚めたか、あんちゃん!」
「ちょっと我慢してくださいねー」
「え……あぐっ!!」

 不意にやってきた痛みは石弓にやられたときとは違うものだった! まるで体からなにかを抜き取られたような――

「うう……僕、気を失ってました?」
「そうですよー。あ、手当てしてるので動かないでください」

 視界がはっきりしてくると、僕のそばに二人の女性がいるのがわかった。

「もしかして……昼の旅芸人さんと、おひねりのメイドさん」

 肩の応急処置をしてくれているのはメイドさんのほうだ。テキパキしてるな……

「じゃなくて、エルミーナさん!!」
「ほわっ」
「ちょ、動いたらアカンて!」




 上体を起こしてあたりを見まわす。体がフラフラするけど構わない。ユンデ卿たちは女王様を葬ろうとしている……なんとしても守らなくては!
 そう決心した僕の目に映った光景は――すさまじい速さで、身の丈ほどの大剣を振るうエルミーナさんだった。

「はあっ!」
「ぐわっ!!」

 五人……以上いる警備兵が、なすすべもなくやられていく。剣が、槍が、彼女にいっさい届かず跳ねかえされる。
 その剣技は、僕が『剣のつむじ風』と名付けた技なんて足元にもおよばない――まさに神業だった!



「ええい、飛び道具だ! 飛び道具をつかえ!」

 武器のぶつかりあう金属音がひびく中、ユンデ卿の怒号がひびいた。 
 すると数人が壁役となってエルミーナさんの前に立ち、その間にひとり、またひとりと保管庫に駆けこんでいく。あそこにはたくさんの石弓が――!

「まずい!」
「あ――!?」

 芸人さんたちの声が聞こえた気がするけど、それどころじゃない!



 腹にありったけの力をこめて吠えた。

「やめろ、やめてくれ!! その人は……エルミ……そのお方は女王なんだ!! アンナ・ルル・ド・エルミタージュ様なんだああああ!!」

「トーマスさん!?」





『隙あり……』

 ビィン……と、どこかから弦の音。まさか石弓――



「あ……ああ……!」





 エルミーナさんが倒れることはなかった。

 気づけば左腕が……なにかをかつぐような形になっており、その手には首筋を狙ったと思しき矢が握られていた。



「これほど気がそれた一瞬において止めるとは。素質は先代……いや、それ以上か」
「その声はル・ハイドだな!? もう一発うて! 早く殺せ!」
「女王よ、今は退いておく。だが覚えておけ……星の光で闇をはらうことはかなわぬと」
「おい逃げる気か! ワシを置いてか! 同志たるこのワシを!! ル・ハイドォォォォォォ!!!!」

「姐さん、あいつ逃げるつもりやで!」
「追いかけたいのはやまやまですけど……お二人を置いていくわけにはいきません」
「くぅ……ウチにお嬢みたいな腕っぷしがあったらなぁ」



 あっという間のできごとだった。警備兵たちはぽかんとしているのか動きが止まっていた。
 彼らに駆け寄りながら、もういちど叫ぶ。

「その人はハイナリア王国の女王なんだ!! 武器をおろせ、おろすんだ!」



「女王だって……?」
「そんなバカな」
「いやしかし――」

「ハハハハハハ!!」

 笑い声をあげたのはユンデ卿だった。

「お前のようなクズ……『乱心のダグラス』の息子の言葉など、誰が信じるというのだ! お前ら、耳を貸すな!」

 なぜだろう。父の不名誉な二つ名を聞いたのに、心の中で波が起きることはなかった。ぼうぜんとこちらに視線を向ける兵士たち。



「ユンデ様……恐れながら申しあげます」

 ひとりが手を挙げ、おずおずと言った。




「その、恐縮なのですが……この青年を存じております。父とは似ても似つかぬ、正直でまじめな青年で――」

 またひとりが言う。

「あの……わたくしも似た評判だと聞き及んでおります」



「なんだ、ワシが嘘をついているというのか」

「し、しかしながら先ほどの男も『女王』と……」
「どうなのですか、ユンデ様!?」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!!」
「ユンデ様!」

 主従の言い合いが次第に熱を帯び、醜くなっていく。そのとき一本の矢が、両者の間に放たれた。

「ひっ!?」

 エルミーナさんが、つかんだ矢を地面に投げたのだ。石弓で放たれたかのごとくまっすぐに、深く突き刺さっている。

「ユンデ卿……これまでです」



 あっという間に『この方は女王である』という空気が支配的になった。兵士たちが一転、自分たちの主君を壁際に追いつめる。
 僕も……彼の前に立つひとりに加わった。
 


「あー、やめだやめだ! どいつもこいつも役に立たん! もうワシの負けでいいわい!」

 ぶっきらぼうに吐き捨て、座り込んだ老人。とても『賢のユンデ』の二つ名とはほど遠い姿だ……哀れみすら覚える。

「おお、いいことを思いついたぞ……トーマスくん。ワシを仇だとか言っておったな。その肩を射抜いたのもワシだ。ほれ、今が好機ぞ? 仕返しに殺せ。殺してみろ。ん?」

「そうですね……」

 そばの棚に並ぶ武器から……ひとつを選ぶ。







 僕はムチを手にとり、宿敵の体に『巻きつけ』た。

「くっ……なんのつもりだ?」
「僕の夢は仇をとることではありません。あなたのことは、法の裁きにゆだねます」

「なるほど自分の手は汚さんというわけか! ハハハハハ! まじめまじめ! ハハハハハ!!」



 狂乱の笑いがむなしくこだまする……が、笑いとともに鈍い打撃音が鳴った。

「ハガッ……!」

 音の主は、あのメイドさん。

「おっとぉ……すいませんね。急いで縄を持ってきた勢いで、蹴っちゃいましたー」





 

「トーマスさん……」
「エルミ……じょ、女王様……その、申しわけありません!」

「謝ることなどありません。あなたの迷いながらも正しくあろうとする姿……崖道で見たときから信じていましたよ」
「あ……!!!!」

 あのとき……『標的』にむかって弓を引き、目が合って……驚いて、止めた。
 僕は相手の顔を覚えた。だから覚えられて当然だったんだ。



「お嬢様、書き終わりましたよ。最後に署名をお願いします」
「……トーマスさん。これは今回の一件をしたためた書状です。カランド公まで届けてくださいますか?」
「僕が、ですか?」
「ええ。ぜひ、あなたに」

 女王様はそういうと、いたずらっぽく笑った。

「途中で読んでもいいですよ? ふふっ」








「どういう意味だったんだろう……」

 道中ずっとドキドキしていた。兵士ではなく僕を指名し、いかにも読んでほしそうな言い方。期待をふくらませるなというほうが無理な話じゃないか?

「よ……読んじゃおうかな!?」

 ふるえる指先を必死に落ち着かせながら、紙を広げる。そこに書かれていたのはユンデに対する告発。それから――



 ひとつめは、書状を持参した者を騎士に推薦すること。
 ふたつめは、前騎士団長ダグラスについて再調査の命令。



 以上だった。



「わああーーーー!!」

 極上のよろこび! そして甘酸っぱくてしょっぱい……言葉で表せない気持ち!
 感情のままに後ろをふりかえり、万感の思いで頭を下げた。

「ありがとうございます……そして、ありがとうございました!」






 カランド公に仕え、お付きとしてもういちど……あの方に会いたい。

 それが朝の陽ざしの中でかかげた、僕の新しい夢だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...