異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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14.龍の衣

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 シーマはリンとオラレを連れて焼け跡を後にした。飲んだくれの男どもがタロスに奴隷の受け入れ申請をし始めたからである。
 今、お金が足りなくなってきたことを悟られたくはない。
 「どこに行くつもりだ?」
 オラレの問いに、シーマはあの龍の情報の持ち主を当たってみると言った。
 まず「紅龍の使者来たれり」から探ってみよう。とのこと。
 リンはオラレを見たが、シーマがいるので「紅龍シンキ」としての意見を聞かせてほしいとは言えない。
 この情報は街の西はずれにある一軒家の老人から受けっとった情報であると記録されていたが、その一軒家はすでになかった。
 先日の地滑りに飲み込まれたという話だった。
 次の「龍の衣をまとい不死鳥にして守る」これはあきらめた。昨日火だるまになった男が話したという記録だったからだ。
 口が軽い男のようだったので、昨日制裁を加えられたと判断してよいだろう。
 「龍秘密漏洩は火あぶり」はその火あぶりを目の当たりにしたところだが、この情報については町のオルク商会の事務所や行政官事務所がある町の南側の反対側の来たの一軒家に住んでいる男であるとなっていた。
 その一軒家に行ってみると、中には人の気配がなかった。
 入り口の扉は壊れていたので中に忍び込んでみるが、特に資料は見当たらなかった。途中、家の壁が崩れて大量の埃が舞い上がり、しばらく人が住んでいないのは明白だった。
 最後の「赤龍の呪い」に関して探したところ、ひと月前にサベンテ症候群で死亡したということだった。
 一日かけて調べてみたが、結局手詰まりとなってしまった。
 夕方、食事もとらずにシーマは頭を抱えていた。さすがに弱気になっているのかもしれないとリンは思ったが、明日は立ち入り禁止地区に忍び込もうと言い出した。
 まだシーマはあきらめていないようだ。
 その晩、リンはリッカを呼び出した。サベンテに来てからリッカは沈黙していたので何か魔術的な制約でもあるのかと思って話しかけていなかったのである。
 「なにかあったの?」
 『いや、ちょっとな』
 リッカは何かしら含むものがあるらしいが、リンはそれ以上追求せずここまでの情報から病気についての見解を聞いてみることにした。
 「サベンテ疾患の検討はついているの?」
 そうリンが言うとリッカは『もちろんだ』と答えた。
 『だが、確証も無いし、証明のしようもない』
 むーとリンがうなる。確証はなくても少しでも前に進めるなら聞いておきたい。
 リンがそういうと、リッカは仮説だがと言って断りながら説明をしてきた。
 『まず龍の衣、私は同じものを見たことがあるのだ。火がキーワードになっている。赤とか不死鳥とかそんな単語な。昨日の火事で不自然だと思わなかったか?延焼がオルク商会の建物だけというのはおかしい。そして決定的なのはサベンテ症候群の症状だ』
 もしかして、元の世界にも共通する病気があったのか。リンはこの世界の独特の病気としか考えていなかったのだ。
 『セキメンだ』
 赤面?リンは聞き直した。
 『ああ、法律ではだいたいセキメンだが、一般用語ではイシワタとかアスベストと呼んでいる。つまりサベンテ症候群は中皮腫なのだ。おそらく』
 中皮腫、聞いたことがある。昔授業でやった気がする。潜伏期間が何十年もあるとか、とんでもなく長かったような。確かに証明が難しい。
 リンはようやく理解できた。まさに氷解という感じですらある。
 龍の布とは石綿を利用した防火の布なのだ。
 「龍の衣をまとい不死鳥にして守る」とはその言葉通りである。おそらくその技術や製法は秘匿され、門外不出の技術とされている。
 そして当然ながらサベンテの住民は気が付いていたのだ。龍の布を製作するとサベンテ症候群になるということを。だからそれを「赤龍の呪い」と伝えられているのだ。
 しかし、リンが石綿が原因で中皮腫になっていると説明してもギルドもオルク商会のウラガンも、依頼主のミュールでも誰も信じないだろう。リッカはそう指摘する。
 シーマにすら説得できる自信はない。何か証明するものを提示しなければならないのだ。
 考えなければならない。リッカは道を示してくれた。だから自分が考えねば。
 もう一つ「紅龍の使者来たれり」とは何か?紅龍の使者とはだれか?
 シンキは知らないと言っていた。龍の使者は魔族ではないのか?
 人ではないとしてもしかして魔獣?・・・獣、いや動物だとしたら何が来るというのか。
 リンはじっとひたすら考える。龍、みずち、蛇か。どこかで見た。蛇のレリーフ。意味するものは?
 リンは目をつぶり、腕を組みさらに思考にふける。
 蛇が来る。そして紅龍の元に去るのだ。去るとどうなる?
 死ぬ、死んでその魂は龍の元にたどり着くから死後救われると。そういう教えをしている宗教のようなものなのだ。だからサベンテ症候群になって死ぬとわかっていても、誰もその治療に協力的ではなかった。
 そうだ蛇のレリーフを意味するところは、その家の誰かが発病したという意味だ。蛇が、つまり龍の使者が迎えに来たという意味なのだ。
 「ああ、そうだ。それなら証明できる」
 リンは目をあけて扉を見た。『そうだな』リッカもわかったらしい。元の世界では確かに証明は難しかっただろう。だが、ここは異世界なのだ。
 「『この家にいる患者を治せばいい』」二人の声が一致した。
 オラレは言った。原因がわかれば治せると。どうする?原因をどうすれば伝えられる?龍の衣が無いのだ。石綿をどうやって手に入れるのか。
 『全焼したオルク商会の焼け方は不自然だった。木造なのに延焼していなかった。ということはサベンテの家には石綿が吹き付けられている、そう考えるのが自然だろう』
 リッカのヒントで思いついたことがある。壊れた一軒家で壁が崩れたときに大量の埃を浴びた。服にもしかしてついているかもしれないし、この家の壁もおそらく石綿はついているのだろう。
 「あっ埃を吸っているかも」リンがぎくりとするが、オラレに除去してもらえというリッカの声が聞こえて少し安堵する。
 早速オラレに会いに行かねば。
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