14 / 31
1
14.龍の衣
しおりを挟む
シーマはリンとオラレを連れて焼け跡を後にした。飲んだくれの男どもがタロスに奴隷の受け入れ申請をし始めたからである。
今、お金が足りなくなってきたことを悟られたくはない。
「どこに行くつもりだ?」
オラレの問いに、シーマはあの龍の情報の持ち主を当たってみると言った。
まず「紅龍の使者来たれり」から探ってみよう。とのこと。
リンはオラレを見たが、シーマがいるので「紅龍シンキ」としての意見を聞かせてほしいとは言えない。
この情報は街の西はずれにある一軒家の老人から受けっとった情報であると記録されていたが、その一軒家はすでになかった。
先日の地滑りに飲み込まれたという話だった。
次の「龍の衣をまとい不死鳥にして守る」これはあきらめた。昨日火だるまになった男が話したという記録だったからだ。
口が軽い男のようだったので、昨日制裁を加えられたと判断してよいだろう。
「龍秘密漏洩は火あぶり」はその火あぶりを目の当たりにしたところだが、この情報については町のオルク商会の事務所や行政官事務所がある町の南側の反対側の来たの一軒家に住んでいる男であるとなっていた。
その一軒家に行ってみると、中には人の気配がなかった。
入り口の扉は壊れていたので中に忍び込んでみるが、特に資料は見当たらなかった。途中、家の壁が崩れて大量の埃が舞い上がり、しばらく人が住んでいないのは明白だった。
最後の「赤龍の呪い」に関して探したところ、ひと月前にサベンテ症候群で死亡したということだった。
一日かけて調べてみたが、結局手詰まりとなってしまった。
夕方、食事もとらずにシーマは頭を抱えていた。さすがに弱気になっているのかもしれないとリンは思ったが、明日は立ち入り禁止地区に忍び込もうと言い出した。
まだシーマはあきらめていないようだ。
その晩、リンはリッカを呼び出した。サベンテに来てからリッカは沈黙していたので何か魔術的な制約でもあるのかと思って話しかけていなかったのである。
「なにかあったの?」
『いや、ちょっとな』
リッカは何かしら含むものがあるらしいが、リンはそれ以上追求せずここまでの情報から病気についての見解を聞いてみることにした。
「サベンテ疾患の検討はついているの?」
そうリンが言うとリッカは『もちろんだ』と答えた。
『だが、確証も無いし、証明のしようもない』
むーとリンがうなる。確証はなくても少しでも前に進めるなら聞いておきたい。
リンがそういうと、リッカは仮説だがと言って断りながら説明をしてきた。
『まず龍の衣、私は同じものを見たことがあるのだ。火がキーワードになっている。赤とか不死鳥とかそんな単語な。昨日の火事で不自然だと思わなかったか?延焼がオルク商会の建物だけというのはおかしい。そして決定的なのはサベンテ症候群の症状だ』
もしかして、元の世界にも共通する病気があったのか。リンはこの世界の独特の病気としか考えていなかったのだ。
『セキメンだ』
赤面?リンは聞き直した。
『ああ、法律ではだいたいセキメンだが、一般用語ではイシワタとかアスベストと呼んでいる。つまりサベンテ症候群は中皮腫なのだ。おそらく』
中皮腫、聞いたことがある。昔授業でやった気がする。潜伏期間が何十年もあるとか、とんでもなく長かったような。確かに証明が難しい。
リンはようやく理解できた。まさに氷解という感じですらある。
龍の布とは石綿を利用した防火の布なのだ。
「龍の衣をまとい不死鳥にして守る」とはその言葉通りである。おそらくその技術や製法は秘匿され、門外不出の技術とされている。
そして当然ながらサベンテの住民は気が付いていたのだ。龍の布を製作するとサベンテ症候群になるということを。だからそれを「赤龍の呪い」と伝えられているのだ。
しかし、リンが石綿が原因で中皮腫になっていると説明してもギルドもオルク商会のウラガンも、依頼主のミュールでも誰も信じないだろう。リッカはそう指摘する。
シーマにすら説得できる自信はない。何か証明するものを提示しなければならないのだ。
考えなければならない。リッカは道を示してくれた。だから自分が考えねば。
もう一つ「紅龍の使者来たれり」とは何か?紅龍の使者とはだれか?
シンキは知らないと言っていた。龍の使者は魔族ではないのか?
人ではないとしてもしかして魔獣?・・・獣、いや動物だとしたら何が来るというのか。
リンはじっとひたすら考える。龍、みずち、蛇か。どこかで見た。蛇のレリーフ。意味するものは?
リンは目をつぶり、腕を組みさらに思考にふける。
蛇が来る。そして紅龍の元に去るのだ。去るとどうなる?
死ぬ、死んでその魂は龍の元にたどり着くから死後救われると。そういう教えをしている宗教のようなものなのだ。だからサベンテ症候群になって死ぬとわかっていても、誰もその治療に協力的ではなかった。
そうだ蛇のレリーフを意味するところは、その家の誰かが発病したという意味だ。蛇が、つまり龍の使者が迎えに来たという意味なのだ。
「ああ、そうだ。それなら証明できる」
リンは目をあけて扉を見た。『そうだな』リッカもわかったらしい。元の世界では確かに証明は難しかっただろう。だが、ここは異世界なのだ。
「『この家にいる患者を治せばいい』」二人の声が一致した。
オラレは言った。原因がわかれば治せると。どうする?原因をどうすれば伝えられる?龍の衣が無いのだ。石綿をどうやって手に入れるのか。
『全焼したオルク商会の焼け方は不自然だった。木造なのに延焼していなかった。ということはサベンテの家には石綿が吹き付けられている、そう考えるのが自然だろう』
リッカのヒントで思いついたことがある。壊れた一軒家で壁が崩れたときに大量の埃を浴びた。服にもしかしてついているかもしれないし、この家の壁もおそらく石綿はついているのだろう。
「あっ埃を吸っているかも」リンがぎくりとするが、オラレに除去してもらえというリッカの声が聞こえて少し安堵する。
早速オラレに会いに行かねば。
今、お金が足りなくなってきたことを悟られたくはない。
「どこに行くつもりだ?」
オラレの問いに、シーマはあの龍の情報の持ち主を当たってみると言った。
まず「紅龍の使者来たれり」から探ってみよう。とのこと。
リンはオラレを見たが、シーマがいるので「紅龍シンキ」としての意見を聞かせてほしいとは言えない。
この情報は街の西はずれにある一軒家の老人から受けっとった情報であると記録されていたが、その一軒家はすでになかった。
先日の地滑りに飲み込まれたという話だった。
次の「龍の衣をまとい不死鳥にして守る」これはあきらめた。昨日火だるまになった男が話したという記録だったからだ。
口が軽い男のようだったので、昨日制裁を加えられたと判断してよいだろう。
「龍秘密漏洩は火あぶり」はその火あぶりを目の当たりにしたところだが、この情報については町のオルク商会の事務所や行政官事務所がある町の南側の反対側の来たの一軒家に住んでいる男であるとなっていた。
その一軒家に行ってみると、中には人の気配がなかった。
入り口の扉は壊れていたので中に忍び込んでみるが、特に資料は見当たらなかった。途中、家の壁が崩れて大量の埃が舞い上がり、しばらく人が住んでいないのは明白だった。
最後の「赤龍の呪い」に関して探したところ、ひと月前にサベンテ症候群で死亡したということだった。
一日かけて調べてみたが、結局手詰まりとなってしまった。
夕方、食事もとらずにシーマは頭を抱えていた。さすがに弱気になっているのかもしれないとリンは思ったが、明日は立ち入り禁止地区に忍び込もうと言い出した。
まだシーマはあきらめていないようだ。
その晩、リンはリッカを呼び出した。サベンテに来てからリッカは沈黙していたので何か魔術的な制約でもあるのかと思って話しかけていなかったのである。
「なにかあったの?」
『いや、ちょっとな』
リッカは何かしら含むものがあるらしいが、リンはそれ以上追求せずここまでの情報から病気についての見解を聞いてみることにした。
「サベンテ疾患の検討はついているの?」
そうリンが言うとリッカは『もちろんだ』と答えた。
『だが、確証も無いし、証明のしようもない』
むーとリンがうなる。確証はなくても少しでも前に進めるなら聞いておきたい。
リンがそういうと、リッカは仮説だがと言って断りながら説明をしてきた。
『まず龍の衣、私は同じものを見たことがあるのだ。火がキーワードになっている。赤とか不死鳥とかそんな単語な。昨日の火事で不自然だと思わなかったか?延焼がオルク商会の建物だけというのはおかしい。そして決定的なのはサベンテ症候群の症状だ』
もしかして、元の世界にも共通する病気があったのか。リンはこの世界の独特の病気としか考えていなかったのだ。
『セキメンだ』
赤面?リンは聞き直した。
『ああ、法律ではだいたいセキメンだが、一般用語ではイシワタとかアスベストと呼んでいる。つまりサベンテ症候群は中皮腫なのだ。おそらく』
中皮腫、聞いたことがある。昔授業でやった気がする。潜伏期間が何十年もあるとか、とんでもなく長かったような。確かに証明が難しい。
リンはようやく理解できた。まさに氷解という感じですらある。
龍の布とは石綿を利用した防火の布なのだ。
「龍の衣をまとい不死鳥にして守る」とはその言葉通りである。おそらくその技術や製法は秘匿され、門外不出の技術とされている。
そして当然ながらサベンテの住民は気が付いていたのだ。龍の布を製作するとサベンテ症候群になるということを。だからそれを「赤龍の呪い」と伝えられているのだ。
しかし、リンが石綿が原因で中皮腫になっていると説明してもギルドもオルク商会のウラガンも、依頼主のミュールでも誰も信じないだろう。リッカはそう指摘する。
シーマにすら説得できる自信はない。何か証明するものを提示しなければならないのだ。
考えなければならない。リッカは道を示してくれた。だから自分が考えねば。
もう一つ「紅龍の使者来たれり」とは何か?紅龍の使者とはだれか?
シンキは知らないと言っていた。龍の使者は魔族ではないのか?
人ではないとしてもしかして魔獣?・・・獣、いや動物だとしたら何が来るというのか。
リンはじっとひたすら考える。龍、みずち、蛇か。どこかで見た。蛇のレリーフ。意味するものは?
リンは目をつぶり、腕を組みさらに思考にふける。
蛇が来る。そして紅龍の元に去るのだ。去るとどうなる?
死ぬ、死んでその魂は龍の元にたどり着くから死後救われると。そういう教えをしている宗教のようなものなのだ。だからサベンテ症候群になって死ぬとわかっていても、誰もその治療に協力的ではなかった。
そうだ蛇のレリーフを意味するところは、その家の誰かが発病したという意味だ。蛇が、つまり龍の使者が迎えに来たという意味なのだ。
「ああ、そうだ。それなら証明できる」
リンは目をあけて扉を見た。『そうだな』リッカもわかったらしい。元の世界では確かに証明は難しかっただろう。だが、ここは異世界なのだ。
「『この家にいる患者を治せばいい』」二人の声が一致した。
オラレは言った。原因がわかれば治せると。どうする?原因をどうすれば伝えられる?龍の衣が無いのだ。石綿をどうやって手に入れるのか。
『全焼したオルク商会の焼け方は不自然だった。木造なのに延焼していなかった。ということはサベンテの家には石綿が吹き付けられている、そう考えるのが自然だろう』
リッカのヒントで思いついたことがある。壊れた一軒家で壁が崩れたときに大量の埃を浴びた。服にもしかしてついているかもしれないし、この家の壁もおそらく石綿はついているのだろう。
「あっ埃を吸っているかも」リンがぎくりとするが、オラレに除去してもらえというリッカの声が聞こえて少し安堵する。
早速オラレに会いに行かねば。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる