異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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15.核心

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 部屋を出てオラレの部屋の扉をノックする。夜中、出かけていなければ良いが。
 カチャリと音を立てて扉が開き、オラレが出てくるのを見て、リンは涙が出そうになった。
 「オラレ、やってほしいことがある!」
 リンがオラレに抱き着いて叫んだ。
 オラレは若い娘が夜中に何をやっとるとかぶつぶつ言いながら部屋に引き入れた。
 そして「何をどうしてほしいのだ」とリンに説明を求めた。
 リンは小声で「サベンテ症候群の正体がわかった」と言った。本当はまだ可能性が高いとしか言えないはずだったが、まずはオラレにやらせてみる価値はある。
 オラレは驚いて先を促した。
 「サベンテ症候群はこの土地で取れる石が原因なのです。この石は布に使うと燃えず、家の壁に塗ると火事にならず、そして体に入ると毒になるのです」
 そんな石があるのか。オラレはにわかに信じられないと言った。
 この服にきらきら光る埃があるのが見える?リンは必死になって上着を脱いでバタバタとはたいた。結構埃が出てくるし、確かにランプの光で少しきらきらするものが見える。
 こんな小さな埃が病気の元なのか?そういってオラレが手をかざすと煙を吸い込むように手のひらに埃の光が集まった。
 「原因はこの埃、でも元の石を加工するときはもっと沢山の石を使うのです。だから、この家の主人の体の中にこの石がたまり、発病したのでしょう」
 オラレが中皮腫という癌を治せるかわからない。だがやってみる価値はある。
 リッカから教えてもらった中皮腫の説明をする。
 心臓は動いているときに周りの臓器と擦れないようその周りに空間があり、その空間を中皮という膜で覆っているから・・・・
 つたないリンの説明ではあったが、オラレは意外と人体の仕組みを知っている知識に驚いた。
 「とにかく試してみようじゃないか」
 一通りリンが説明を終えるとオラレは一階に降りてこの家の主人の部屋を探すことにした。
 食堂を抜けて奥の方に行くと、咳をする声が聞こえる。
 声が聞こえる部屋を確認すると、扉に蛇のレリーフが飾ってあった。
 カチリと部屋の扉を開き、ランプの薄明りの中で主人を探す。
 彼はベッドの中にいて、壁の方を見ていた。
 「かあさんかい?」
 人の気配を感じて男は咳をしながらこちらを見ずに言った。
 すかさずオラレが近づいて頭に手をのせて目をふさいだ。
 「誰だ!」
 男は慌てて手を除けようとしたが、オラレは毛布を使って手を拘束した。
 そしてすぐに男はおとなしくなった。
 「おみごと」
 リンはオラレの手際の良さに感心した。
 人体の仕組みを事細かに指さしながらリンはオラレに説明をする。中皮細胞のことや癌の特徴から石綿の性質、特徴までリッカの受け売りであるが身振り手振りで必死だ。
 リンはここまできたらもうその知識の出元がどこにあるかなどどうでもよくなってきていた。
 「治療はどう?」
 「今やってみる」
 オラレは手のひらをかざし、身体の上から下までゆっくりとなぞった。
 「なるほど、この石が原因だったか」
 手のひらにきらきらした石が集まっている。
 「あとはその中皮腫とかいう病巣を正常化するのだな」
 オラレの手が心臓の辺りにめり込んでいるような気がするのだが、気にしないことにする。
 「こうやって、こう。なるほど。身体の仕組みはこうか」
 ぶつぶつ言いながらオラレは男をいじくりまわし、そのたびに男は痙攣したり、のけ反ったりする。やはり気にしないことにする。
 リンは男がぐふっと言って血を吐いたあたりでちょっと気になってオラレに大丈夫か聞いてみた。
 「ああ、夢中になってしまってな。すまぬ」
 悶絶した男をぽんぽんと手で叩いて「これで完了だ」と小声で言った。
 「りん、これは間違いない。原因はこの石だ。言われてみれば確かにシュランでもこの石はあちこちに生えている」
 長い溜息をついてリンは床に腰を落とした。
 そうだ、シーマに報告しなければ。部屋を出ながらそう思ったとき、どう言えばいいのか詰まってしまった。
 入れ違いで部屋に入ってきた女将とすれ違い、オラレが不安な一言「任せておけ」を吐きながらリンを抱えて主人の部屋を出るとシーマの部屋に直行した。
 シーマは疲れて眠っていた。少し目の下が濡れているようだ。こうして見るとまだ九歳なのだ、リンはそう実感した。
 だがオラレはそんなことはお構いなしに「シーマ起きろ」とたたき起こした。
 シーマはたたき起こされたことで相当驚きつつ、何事があったのか聞いてきた。
 「んむ、シュ・ベンテ疾患の原因がわかったのだ」
 シーマは寝起きなのであまり頭が働かなかったようだが、オラレの話を聞いて目が覚めたらしい。
 「龍の衣、アレを作るときにその主成分となる石を吸い込むとサベンテ疾患になる。龍の衣の正体は燃えない布で出来た鎧だ」
 オラレの言っていることは少し違う気もするしかなり端折られていたが、シーマは頭の中で咀嚼しているらしく、口を挟まない。
 「我も信じられなかったが、この宿の主人で人体の仕組みの確認とその病巣の確認、そして治療を試してみたから間違いない」
 その言葉を聞いてシーマは固まった。
 試した、ということは誰かが核心に迫っていることを主人は知っている。
 「誰にも会わなかった?」
 シーマの問いに「主人の部屋を出る時に女将さんとすれ違ったよ」とリンが説明する。
 「まずいわ」
 どうしてそのお試しとやらに自分を混ぜてくれなかったのか呪いながらすぐに出発すると宣言した。
 この宿の女将は行政官カームにすでに知らせに行っているかもしれない。今まで何度も先手を打たれたのだ。
 「秘密を洩らした者を火あぶりにするような奴らよ。朝まで私たちが眠っていたら永遠に目が覚めないかもしれないわ」
 とるものもとりあえず、宿を出ることにした。入り口に料金を置いておくのを忘れない。そんなことで指名手配でもされたら大変だ。とぼけるかもしれないが、事実は事実として払っておきたい。
 三人は暗闇の中、逃亡を開始した。
 まずは先日崩壊した街はずれの北の一軒家に隠れることにしたのだった。
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