異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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26.抵抗勢力

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 「チーム春風、C級挑戦とのことです」
 大手商人のグラドの元にギルドからの情報が届いた。
 「わかった。詳細をよこせ」
 「メンバー数四、請負数三十二、成功数二十、主な仕事は運搬」
 奴隷がメモを読み上げる。
 「ふむ、成功率はあまり良くないな。もう少しD級で実績を上げた方が良いのではないか?」
 「私にはなんとも」
 奴隷の返事にそれもそうだと回答し、グラドは思案した。
 この状態で野丁場チームに来られては足手まといどころか野丁場全体の失敗にもつながる。高い挑戦をするのは良いことだが、実力が伴わなければ迷惑するだけである。
 特にチームウルマが活躍したことにより無謀なチームが増えたと聞く。
 「あのチーム、長生きできるとは思わんがな」
 刹那的な生き方をする者たちは確かに光るものがあるが、多くの人はそれなりの成績で長生きしていくのが幸せなのだというのがグラドの持論だ。一度の失敗ですべてを失ってしまうかもしれないことをいつまでも続けられるわけはないのだ。
 チームウルマは王都に呼ばれたのだったらこの町からいなくなるし、いつまでも成功ばかりしてるわけではないのは必然だろうが、少し迷惑な実績を残してくれたものだと首を振って頭から払うようにした。確かにウルマと同様に良い成績を収めているチームも増えてきた事があるにはあるのだが。
 しばらくは前例に踊らされた新人チームの成績低下と葬式に頭を悩ましそうだ。
 「チーム春風は今回も運搬だが、いずれにしてもC級をなめてもらっては困るな」
 グラドは仕事の内容を調べるよう奴隷に伝えた。
 一方、ソフィアは前日予約していたカラール設計事務所に来ていた。
 「設計は前回運搬したものと同じ感じで、密閉性を強くしてください。また、今回は日光を遮蔽する必要があるので、黒色でお願いします」
 黒色ガラスはあまり使用されないので高価だが、生物由来の黒色材の併用で予算内に収まりそうである。
 また、全体をガラスで製作したのでは価格もそうだが重量の面でもとてもではないが実用足りえないので、ゴムを使用して密閉性を確保しつついくつかの問題も解決を図る。
 「では四日後にお引き渡しを」
 例によって必要最低限のことしか話さないシルバは赤色の眼鏡をかけなおしながら工房に引き上げていった。
 「次は計画書の作成っと」
 一応危険物なので昨日行政事務所にリーダーのブラスと副官コールが行って搬送の手続きをしおり搬送日は決まっている。
 ソフィアは計画書を作成するとブラスの所に持っていき、だいぶ板についてきたとほめられて機嫌が良くなった。
 二日ほど事務作業を行った後、依頼主のジンの研究所に四人はそろって行った。搬出計画の打ち合わせである。
 「それでは当日お願いします」
 ジンが打ち合わせの後見送りに出てきたが、研究所の入り口に数人の主婦らしき女性たちが集まっていた。
 「ちょっと、話を聞いたのだけど」
 主婦たちの一人、リーダーと思しきやせた感じの気が強そうな女性がジンに声をかけてきた。
 「今度、この研究所から毒を外に出すって本当?」
 かなり挑戦的な言い方で、少し感情的になっているのがわかる。
 「いえ、毒ではありません。扱いを間違えるとそうなるのであって・・・」
 「やっぱり毒じゃない!」
 主婦たちが騒ぎ出す。
 「ああ、君たちがここをおさめてほしい」
 ジンはブラスにそう言うと研究所の中に入って行ってしまった。
 確かに搬送の仕事はチーム春風が引き受けたので説明はブラスたちが行う必要があるにはあるのだが、今この段階で任されても困ってしまう。
 「とにかく落ち着いてください」
 ブラスが落ち着くよう説得するが、なかなか収まらない。
 そのうちかなりの人が集まって来てしまった。
 「毒をまき散らす可能性があるのなら、絶対に許しませんからね」
 人が集まってきたところで主婦たちは都合が悪くなったらしく、引き上げていった。
 集って来た野次馬も少しずついなくなっていき、ようやくブラスたちは胸をなでおろした。
 「ああいう人たちもいるんだ」
 ソフィアがこわごわと周りを見渡して隣のアロイに小声で言ったが、アロイは嫌な予感がしていた。
 翌日、アロイの予感の通り、毒物をまき散らすなとか、子供たちを守れとかいう事が書かれた立て看板を持った主婦たちが研究所の前に立っていた。
 「これは・・・どうしたものか」
 ブラスは弱ってしまった。
 とりあえず、工房のシルバの所に相談に行く。
 「ああ、製品については密閉性も遮光性も確実です。保証書も出しましょう。でも、説得はあなた方の仕事です。製品は明日出荷ですのでお忘れなく」
 製品について太鼓判を押してくれるものの、説得に協力をしない旨告げられる。
 ブラスはその保証書を持ってジンの研究所に戻り、説明を始めた。
 「中身は熱や光を当てない限り毒にはなりませんし、このように外に出ないで密封されるという保証書もあります。どうか安心してください」
 しかし、主婦たちはそれで引き下がらない。
 「私たちはその密封されているという保証書について何も知らないわよ。外にその毒が出ない証拠を出しなさいと言っているの」
 「ですから、この通り外には出ないのです」
 「だから、なんで出ていないって言いきれるの?」
 「保証書が・・・」
 ブラスの説明では全く引く様子がない。
 コールもお手上げでどうするかアロイに相談していた。アロイの方が比較的知識があるのだ。ソフィアは蚊帳の外である。
 「夜、皆が引き上げた後で搬送してしまうというのは?」
 「法的に無理そうです。灯りを一キロにわたってガンガン焚けば或いは」
 コールの意見にアロイは答えるが、そのような灯りをどうするのかという問題と、熱が発生したら手に負えないという問題が新たに発生する。
 「危険防止という名目で強引に搬送したらどうか?」
 「住民の意見を無視してそんなことできるわけがないでしょう」
 二人はほとほと困ってしまった。
 D級の仕事まではなかった事態であり、C級の仕事はかくも難しいものなのかと頭を悩ます結果となったのである。
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