異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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25.春風

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 初秋とはいえ、外の温度は高い。どのぐらいの温度からが危険なのか不明だが、ジンはそれを約二十度以下と見積もっていた。
 「承知しました」
 ブラスが答えると、頼んだよとジンは満足そうに言って研究室に入って行った。
 「手分けするか」
 ブラスの提案でチームは二手に分かれることにした。
 設計事務所へは頭脳担当のソフィアとアロイが向かう。役所へは脳筋、ではなく肉体労働および調整作業が得意なブラスとコールが向かう。
 アロイは法的な問題に強く、ソフィアは技術系が得意であったので打ち合わせをしながら移動する。
 「まず、役所にはブラスが交渉するとは思うけど、危険物認定が出ると思う。危険物の取り扱い自体は僕がその資格を持っているから問題ないけど、問題は夜間移動の許可が降りないこと」
 光や熱に当てないために夜間に移動したくてもできないということだ。
 「そうすると、設計は冷却と遮光が必須だね」
 ソフィアもすぐに理解して問題点をピックアップする。
 そのうち設計事務所についた。カラール設計アマリス支店である。
 設計事務所で既存の設計図が無いか確認すると、案の定無いとの回答である。
 設計者が誰かいないか聞いてみると今日は誰も空いておらず、明日なら大丈夫とのことであった。
 「明日来ます」
 ソフィアはそう言うと、いったん事務所に戻ってブラスと打ち合わせをすることにした。設計の予算や日程のことについて相談したかったのだ。
 歩いていると太陽の光が思いのほか暑く、途中で少し早いが昼食をとるため喫茶店に入ることにした。
 アロイが行きつけの店に入ろうと言ってソフィアを案内する。
 アモーレという喫茶店にったところで、意外と混んでいることに気が付いた。
 「相席でもよろしいでしょうか?」
 店員の言葉にハイとソフィアは答えたが、アロイはなぜか残念そうな表情をした。
 相席の相手は一人だった。正確には一人と一羽だった。動物を使役している人はそれを相棒としていることは広く認知されているので、この店でも特に気にする人はいない。
 しかしあっとソフィアが小さな声を上げた。
 どうしたの?と言いつつアロイは座り、さっそく冷たいレモネードを頼む。ソフィアも同じものを頼んでいた。
 相席の人に挨拶をして、暑いですねと声をかけると「そうですね」とにこやかに回答してきた。
 すでに緑色の何かを半分以上飲み終えて相棒の鳥の白い胸毛をさわさわと弄っている。
 「もしかして、リンさんですよね」
 ソフィアが思いもよらない人物の名前を挙げたのはその時だった。
 「そうですよ」
 またやんわりとした感じの回答があった。
 アロイは驚き、偶然に感謝した。だが、突然だったので何を話したらいいのか頭が真っ白になってしまった。
 「チーム春風のソフィアです」
 「同じくアロイです」
 「よろしくー」
 ソフィアは始めて話したのだが、レンザが言う通りなんか軽い感じの人だなというのが最初の印象だ。
 「カラール設計事務所が誰も捕まらなかったので今日時間が空いてしまって」
 アロイはテンパってしまって仕事の話になってしまっている。
 何を言っている、とソフィアは突っ込みを入れそうになった。
 「そうだね。あそこはいつもいっぱいなんだから困っちゃう。だから先に工房を押えちゃうんだよね」
 リンの言葉に二人は棒を飲んだように押し黙った。
 そうだ、今日これから工房を抑えに行かないとまた数日変わってきてしまう。
 早く工房に行かないと、とアロイとソフィアは頼んだレモネードをキャンセルしたくなった。
 一方、リンも仕事のことを考えていた。
 ついに初めてのA級の仕事の依頼が来たのである。
 A級は、ほとんどが依頼主から指名してくるのだそうだ。
 ギルドでも受けることはできるが、欠員が出た場合が多く自分からA級を請けに行くことはめったにない。
 B級で十分な報酬がもらえるし、A級はけた違いの危険度と難しさであるという。
 チームウルマは例外中の例外だった。今まで失敗事例は無いので、是非ともという理由で王都に呼ばれたのだ。
 シーマによると王都ベルクラントに行って直接内容を聞くのだそうだ。
 その上でそれを請けるのかどうかの選択をするという。ただし、断るのは余程大きなチームか、現在手いっぱいの仕事を請けているかの場合であり、新興のチームウルマはまず間違いなく断り切れるものではないらしい。
 そんな事情もあってリンは上の空だったのである。
 そうとも知らず、アロイとソフィアは結構ぼうっとしている人だなという印象を持ったのであった。
 リンと別れた後、二人はすぐに工房に行った。
 以前会ったバリトンの声の主任にアポイントを取るが、やはり会えるのは明日であった。
 「リンさんに話をしてよかったね」
 ソフィアがアロイの機転をほめる。
 リンが工房の話をしてくれなければ、二人はブラスやコールに怒鳴られることになっていたかもしれない。
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