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24.新たなる台頭
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駆け出しのソフィアはD級の仕事を相棒のアロイとともに受け続けてようやくD級1組まで来ることができた。
まだしばらくはD級の仕事で実績を積みたいのだが、早くC級に上がって一緒に仕事をしたい人がいる。
この半年で頭角を現した気鋭の新人のチームウルマのリンである。
いつも仕事で不在なので実際にその姿を見たことはないが、半年前に彗星のように現れて一度も仕事を失敗することなく駆け上がって来たという天才だ。
自分たちがD級ですら仕事の成功率がようやく六割を越えるぐらいだから、チームウルマがB級までこなしてのその仕事ぶりは脅威としか言いようがない。
一度、一緒に仕事をして手ほどきを受けてみたいと思っていたのだ。
確かに自分の方が先に仕事を開始していたのだが、あっという間に追い抜かれたとか、同い年であるとかそういう事に対してのプライドとか引け目などは全くなかった。
ギルドのレンザも、その上司のライカも口をそろえて「見た目は普通の女の子」と言っているが、その同じ口で「自然体で息をするように仕事をこなしている」というのだ。
だが、自分などよりきっと仕事が早くてきびきびとしているのだろうと思う。
もしかして相手は優秀な人なので見下されるかもしれない。
年上のC級やB級の男どもはまぐれとか偶然が重なっただけといった陰口をたたくが、それでも毎度仕事に成功して報告が上がると黙り込む。別に簡単な仕事ばかり選択しているわけではない。時には大の男が二の足を踏む魔族がらみの仕事でも引き受けていつの間にか達成してしまっているのだ。その仕事の成功率100%を目にするとやはりここ二年ほど仕事を始めた新人からみると、目標であり憧れでもあった。
そういうわけでチーム春風のソフィアもC級に昇格して一線で教えを請いたいと思っている一人であった。
ソフィアはようやく手にしたC級への昇格試験の仕事として、D級で得意としていた運搬系を選ぶことにした。
早々に馬車を入手し、相棒のアロイの他、リーダーのブラス、副リーダーのコールなどと共に実績を上げていた。
リーダーのブラスは元々大手のオルク商会に勤めていた若者で、今年24歳。新しいチームを立ち上げて半年という若手の中では中堅である。
もっとも、失敗が多いことも特徴でレンザの評価はあまり高くない。
そんな中でようやくつかんだ昇格試験、チームの士気は高かった。
「この仕事にしよう」
副リーダーのコールが仕事を選んでくる。リーダーに選ばせると難易度の高いものばかり選んでくるので皆が困るのだ。「より高い目標を持ってこそ成長するんだ。何事もチャレンジだ」と本人は言うが、失敗して違約金を払って皆に迷惑をかけて自分たちも苦しむということが何度も続いたことから、全員一致で仕事の選択は副リーダーに任せることにしている。
「よしわかった。まずは皆で依頼内容の精査からだ」
「この仕事でよろしいですか?少し高めの難易度ですが」
レンザの言葉にコールは首を振った。
「うちのリーダーがちょっとわがままでね」
「わかりました。バックアップはどなたかに依頼しますか?」
C級挑戦なのでバックアップの依頼をすることができる。
しかし、バックアップを依頼した場合、ほとんどの給金はバックアップ部隊に持っていかれてしまうし、なにより前に「脅威の新人」のチームウルマが単独制覇をして以来、ウルマと同時期に台頭してきたチームオロやチーム天空といった「気鋭の新人」と呼ばれるチームを始めとしてバックアップを断るチームが続出している。
コールはチームメンバーのソフィアがそのチームウルマに憧れていることを知っているので、常々彼女が希望しているようにバックアップは断ってしまった。
ブラスは決してリーダーとしての手腕が劣っているわけではない。ただ単に志が高く実力が伴っていないだけなのだ。とはレンザが言っていた言葉だ。
それはともかくとして、ブラスよりほかにチームを引っ張れる人物はいないので皆はブラスを盛り上げていくだけである。
「運搬とは言っても、流石にC級だけあって今回の運搬物は大きいな」
依頼人はジン。運搬物は人が一人横たわって入れそうな水槽である。中身は入っていて研究用の液体。これを水槽ごとジンの東の研究所から北の研究所まで移動するとのこと。中身は絶対にこぼしてはいけないのが条件。成功報酬は金貨五十枚でかなり高めだが、他の運搬の依頼はもっと難しいものしかない。期限は十日間。
「重さもあるな。重量は約五十キログラムか。いや、違う約五百キログラム!?」
最初一桁見間違えたアロイが驚いている。それはまあ、C級なのだから簡単に運べる代物ではないのはわかっている。
「まずは依頼者と話をしてから設計事務所に行こう」
ブラスの提案でまず研究所に行くことになった。
研究所に着くと早速ブラスは依頼主のジンに挨拶をした。
「今度運搬を受注したチーム春風のブラスです。よろしく」
「こちらこそよろしく」
ジンは神経質そうなやせ型の男で、研究肌にありがちな自分の興味以外には特に気を使わない人物であった。
「早速だがまず実物を見てもらう」
研究室に案内され、相当な大きさの水槽の横に運搬するための小型の水槽が置いてある。
「依頼書に書いた通り、重さは約五百キログラム。移動距離は約一キロメートルだ」
ジンは研究所内の動線を紹介する。
「地面に関してはバリアフリーとなっていて、台車で運んでも問題ないだろう」
部屋の中から外に案内をして表に出る。扉も水槽より幅があるので特に支障はなさそうだ。
「気を付けなければならないのは、まず温度だ。液体は赤い光とか日光とかとにかく熱さに弱いから気を付けて。二十度以下ならまず安全だと思うが、当然ながら余裕を持ってほしい」
「はい」
今まで使用したことがある輸送用の入れ物にはぎりぎり入りそうだが、完全洗浄済みのそれは透明なガラス製であるので今回使用することが出来なさそうだ。
改めてこの水槽を完全に覆い隠すような感じの設計を依頼しなければならない。
「熱に当たるとどうなるのですか?」
コールが念のため聞いてみる。
「ああ、猛毒が発生するのだ」
ジンが何事も無いように言った。
「ええっ猛毒?」
ソフィアが驚いて聞き返す。
「そうだよ。だから冷やしながら光に当てず運搬してくれ」
ジンはそう言って中に入るよう促した。
まだしばらくはD級の仕事で実績を積みたいのだが、早くC級に上がって一緒に仕事をしたい人がいる。
この半年で頭角を現した気鋭の新人のチームウルマのリンである。
いつも仕事で不在なので実際にその姿を見たことはないが、半年前に彗星のように現れて一度も仕事を失敗することなく駆け上がって来たという天才だ。
自分たちがD級ですら仕事の成功率がようやく六割を越えるぐらいだから、チームウルマがB級までこなしてのその仕事ぶりは脅威としか言いようがない。
一度、一緒に仕事をして手ほどきを受けてみたいと思っていたのだ。
確かに自分の方が先に仕事を開始していたのだが、あっという間に追い抜かれたとか、同い年であるとかそういう事に対してのプライドとか引け目などは全くなかった。
ギルドのレンザも、その上司のライカも口をそろえて「見た目は普通の女の子」と言っているが、その同じ口で「自然体で息をするように仕事をこなしている」というのだ。
だが、自分などよりきっと仕事が早くてきびきびとしているのだろうと思う。
もしかして相手は優秀な人なので見下されるかもしれない。
年上のC級やB級の男どもはまぐれとか偶然が重なっただけといった陰口をたたくが、それでも毎度仕事に成功して報告が上がると黙り込む。別に簡単な仕事ばかり選択しているわけではない。時には大の男が二の足を踏む魔族がらみの仕事でも引き受けていつの間にか達成してしまっているのだ。その仕事の成功率100%を目にするとやはりここ二年ほど仕事を始めた新人からみると、目標であり憧れでもあった。
そういうわけでチーム春風のソフィアもC級に昇格して一線で教えを請いたいと思っている一人であった。
ソフィアはようやく手にしたC級への昇格試験の仕事として、D級で得意としていた運搬系を選ぶことにした。
早々に馬車を入手し、相棒のアロイの他、リーダーのブラス、副リーダーのコールなどと共に実績を上げていた。
リーダーのブラスは元々大手のオルク商会に勤めていた若者で、今年24歳。新しいチームを立ち上げて半年という若手の中では中堅である。
もっとも、失敗が多いことも特徴でレンザの評価はあまり高くない。
そんな中でようやくつかんだ昇格試験、チームの士気は高かった。
「この仕事にしよう」
副リーダーのコールが仕事を選んでくる。リーダーに選ばせると難易度の高いものばかり選んでくるので皆が困るのだ。「より高い目標を持ってこそ成長するんだ。何事もチャレンジだ」と本人は言うが、失敗して違約金を払って皆に迷惑をかけて自分たちも苦しむということが何度も続いたことから、全員一致で仕事の選択は副リーダーに任せることにしている。
「よしわかった。まずは皆で依頼内容の精査からだ」
「この仕事でよろしいですか?少し高めの難易度ですが」
レンザの言葉にコールは首を振った。
「うちのリーダーがちょっとわがままでね」
「わかりました。バックアップはどなたかに依頼しますか?」
C級挑戦なのでバックアップの依頼をすることができる。
しかし、バックアップを依頼した場合、ほとんどの給金はバックアップ部隊に持っていかれてしまうし、なにより前に「脅威の新人」のチームウルマが単独制覇をして以来、ウルマと同時期に台頭してきたチームオロやチーム天空といった「気鋭の新人」と呼ばれるチームを始めとしてバックアップを断るチームが続出している。
コールはチームメンバーのソフィアがそのチームウルマに憧れていることを知っているので、常々彼女が希望しているようにバックアップは断ってしまった。
ブラスは決してリーダーとしての手腕が劣っているわけではない。ただ単に志が高く実力が伴っていないだけなのだ。とはレンザが言っていた言葉だ。
それはともかくとして、ブラスよりほかにチームを引っ張れる人物はいないので皆はブラスを盛り上げていくだけである。
「運搬とは言っても、流石にC級だけあって今回の運搬物は大きいな」
依頼人はジン。運搬物は人が一人横たわって入れそうな水槽である。中身は入っていて研究用の液体。これを水槽ごとジンの東の研究所から北の研究所まで移動するとのこと。中身は絶対にこぼしてはいけないのが条件。成功報酬は金貨五十枚でかなり高めだが、他の運搬の依頼はもっと難しいものしかない。期限は十日間。
「重さもあるな。重量は約五十キログラムか。いや、違う約五百キログラム!?」
最初一桁見間違えたアロイが驚いている。それはまあ、C級なのだから簡単に運べる代物ではないのはわかっている。
「まずは依頼者と話をしてから設計事務所に行こう」
ブラスの提案でまず研究所に行くことになった。
研究所に着くと早速ブラスは依頼主のジンに挨拶をした。
「今度運搬を受注したチーム春風のブラスです。よろしく」
「こちらこそよろしく」
ジンは神経質そうなやせ型の男で、研究肌にありがちな自分の興味以外には特に気を使わない人物であった。
「早速だがまず実物を見てもらう」
研究室に案内され、相当な大きさの水槽の横に運搬するための小型の水槽が置いてある。
「依頼書に書いた通り、重さは約五百キログラム。移動距離は約一キロメートルだ」
ジンは研究所内の動線を紹介する。
「地面に関してはバリアフリーとなっていて、台車で運んでも問題ないだろう」
部屋の中から外に案内をして表に出る。扉も水槽より幅があるので特に支障はなさそうだ。
「気を付けなければならないのは、まず温度だ。液体は赤い光とか日光とかとにかく熱さに弱いから気を付けて。二十度以下ならまず安全だと思うが、当然ながら余裕を持ってほしい」
「はい」
今まで使用したことがある輸送用の入れ物にはぎりぎり入りそうだが、完全洗浄済みのそれは透明なガラス製であるので今回使用することが出来なさそうだ。
改めてこの水槽を完全に覆い隠すような感じの設計を依頼しなければならない。
「熱に当たるとどうなるのですか?」
コールが念のため聞いてみる。
「ああ、猛毒が発生するのだ」
ジンが何事も無いように言った。
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