23 / 31
1
23.勇者リン
しおりを挟む
タロスはアマリスの中央に近いところに宿を取っているようだった。
とりあえず今日は事務所に戻って皆に挨拶して寝よう。
リンはそう思ってギルドを辞することにした。
リンが出て行ったあと、グレイはライカとレンザを呼んでリンのことを聞いた。
「見た感じ、前と同じ人間に見えますがね」
「私も同じくあれは先日会ったのと同一人物と思います。
いわゆる「魔族のなりすまし」を考えていたグレイは二人の言葉に腕を組んで思案した。
「では君ら二人ともサベンテからアマリスまであの娘が九歳の娘を連れて移動できると思うかね?」
まず無理でしょうという二人の答えは一致していた。
「ということは何かしら別の力を利用したか、或いは利用されているかと見てよいということでよいか?」
グレイの問いに二人とも肯定する。
とにかく見張っておくべきという意見で今日はこれまでにした。
リンがチームウルマの事務所に戻ると、ヤライ他ミラとラキが涙で迎えてくれた。
ミラとラキは泣きながら言葉にならない。ヤライも「リン様よくぞご無事で」と絶句したまま立ち尽くしている。
「大げさだなみんな」
極力大げさに無事をアピールして、もうすぐシーマも回復してこちらに向かうだろうと伝えた。
そして食堂で二人の意外な人物を見て驚いた。
一人はタロスである。今日無事にこちらについたという報を受けて急遽やってきたのだ。シーマの事も心配しており、明日にでもレーベに向かうかもしれない。
レーベにはオラレも一緒にいるが、タロスが知っているのはシンキが化けたオラレであるから、話をすれば同一人物ではないことはすぐわかってしまうかもしれない。
まずいなとは思うがそこはどうしようもない。出来るだけこちらに引き留めておくことにしよう。
もう一人の意外な人物はオルテシアであった。ウルマの生き残り領主としてアラン隊長と共にどこかに行っていたのだが、シーマの訃報を聞いてこちらに来たのだそうだ。それが誤報であると知って涙を流して喜んでいた。後で知ったのだが、イノセント領に来てからも時々会っていたらしい。シーマの行動力の裏にある資金源がなんとなくわかった気がする。
それにしてもここ一か月ずいぶんと休みなしで働けたと思う。
明日は野丁場長のオルク商会に挨拶に行ってイアンに挨拶に行ってそれからそれからと考えているうちにリンは眠りについてしまった。
翌日、朝起きるとラプタのフウハがいなくなっていた。
まあ、魔族などいてもいなくても良いので、久しぶりに皆と食事を取ることにした。
いつもは奴隷たちは別の場所で食事を取っているのだが、そうするとリンだけ一人飯になってしまう。従って、リンは双子を同席させて食事を取ったのだった。ヤライは相変わらずつまみ食いで終わらせていた。
その日、予定通りオルク商会とイアンの所に行き、ついでにギルドに寄ってみた。
すぐにレンザが寄ってきて、話ができないかと言ってきた。
ギルドの小食堂で飲み物を飲みながら二人は話すことにした。
「大したことではないのだが」そう前置きをしてラプタが今日いないのはなぜなのかを聞く。
「ああ、どこかに遊びに行ったみたい。食事かもしれないけど恋人いるみたいだし」
「どこかにって?」
行き先を知らないのか?というより話がリンが使役しているラプタの話をしているはずなのに、知り合いの友達の話をしているような感覚だ。
「あのラプタは山で知り合ったの。ちょっと心を折ったかもしれないけど謝ったから仲直りしてるし。だから別に向こうがどう思っているか知らないけど飼っているわけでもないし、何かしてもらおうとも思ってないし」
ストローで飲み物をずずーという音を立てて飲んでいるリンに対してレンザは衝撃を受けていた。そのような感覚でラプタに接したことがある人物は聞いたことがない。まさに友達感覚。
普通なら支配して言うことを聞かせるし、場合によっては制裁を加えることもある。
また、隙あれば逃げようとするし、ラプタは賢いので主人を見限る事さえある。
ところがリンは全く違うやり方で信頼関係を築いていた。それがレンザにとって衝撃なのであった。
レンザは今後の鷹匠の在り方を根本的に変えてしまうかもしれない、そう期待を膨らませていた。
実際の所はそのラプタは魔獣どころか魔族なので、そんな友人のような付き合いでラプタと親交を深めることができるわけはないのではあるがそんなことはレンザは知らない。
しかし、あのラプタがもしかして魔獣で人間に危害を加える可能性も否定できないとはレンザ不安に感じていた。その可能性を摘んでおきたいとも思う。
「それじゃあ、あのラプタは野生なのか?」
「よく言って聞かせてあるから人に危害は加えないよ。それは保証するから」
レンザの危惧にリンは打てば響くような回答をする。
そうなのか。保証するとまで言うのか。魔族や魔獣に利用されている可能性はまだ否定できないが、どうやらリンは普通の考え方をしていないようだ。考えてみればあの早熟なシーマが唯一認めている相棒とも呼べる存在なのだから、それは当たり前なのかもしれない。
実はレンザは別の資料も手に入れていた。
これは各町にあるギルドのルートから入手したもので、王都ベルクラント騎士団の報告書にあった一文で「アマリスのリン、勇気と胆力に瞠目す。勇者、惜しむらくは魔獣の森に消ゆ」というものだ。
アマリスの言葉が入っていたので記録がこちらにも飛んできたが、これを入手していることは機密事項である。
「そうだ、タロス氏がリン殿によろしくと言っていたよ。サベンテに戻るそうだが、今日今からならまだ出発に間に合うかもしれない」
ひとまずラプタのことは置いておいて、次の話題に移ったが、こちらもリンにとってあまり続けたい話ではない。。
レンザの話を聞いて「見ないと思ったら今朝の便でどこかに行ったのか」そうリンは思ったが、昨日会って話をしたのでもう特に話すことはない。オラレの件があるので実はあまり会いたくはないとも思っているぐらいだ。
しかし金欠状態は変わらないので、これから少しの間シーマという得難い知略抜きで依頼を受けなければならないのだ。
そうしてしばらくの間リンとラプタにはギルドの監視が付くことになったのだが、オラレやシーマが合流するまで数週間の間、何事も問題が発生することはなかったのである。
とりあえず今日は事務所に戻って皆に挨拶して寝よう。
リンはそう思ってギルドを辞することにした。
リンが出て行ったあと、グレイはライカとレンザを呼んでリンのことを聞いた。
「見た感じ、前と同じ人間に見えますがね」
「私も同じくあれは先日会ったのと同一人物と思います。
いわゆる「魔族のなりすまし」を考えていたグレイは二人の言葉に腕を組んで思案した。
「では君ら二人ともサベンテからアマリスまであの娘が九歳の娘を連れて移動できると思うかね?」
まず無理でしょうという二人の答えは一致していた。
「ということは何かしら別の力を利用したか、或いは利用されているかと見てよいということでよいか?」
グレイの問いに二人とも肯定する。
とにかく見張っておくべきという意見で今日はこれまでにした。
リンがチームウルマの事務所に戻ると、ヤライ他ミラとラキが涙で迎えてくれた。
ミラとラキは泣きながら言葉にならない。ヤライも「リン様よくぞご無事で」と絶句したまま立ち尽くしている。
「大げさだなみんな」
極力大げさに無事をアピールして、もうすぐシーマも回復してこちらに向かうだろうと伝えた。
そして食堂で二人の意外な人物を見て驚いた。
一人はタロスである。今日無事にこちらについたという報を受けて急遽やってきたのだ。シーマの事も心配しており、明日にでもレーベに向かうかもしれない。
レーベにはオラレも一緒にいるが、タロスが知っているのはシンキが化けたオラレであるから、話をすれば同一人物ではないことはすぐわかってしまうかもしれない。
まずいなとは思うがそこはどうしようもない。出来るだけこちらに引き留めておくことにしよう。
もう一人の意外な人物はオルテシアであった。ウルマの生き残り領主としてアラン隊長と共にどこかに行っていたのだが、シーマの訃報を聞いてこちらに来たのだそうだ。それが誤報であると知って涙を流して喜んでいた。後で知ったのだが、イノセント領に来てからも時々会っていたらしい。シーマの行動力の裏にある資金源がなんとなくわかった気がする。
それにしてもここ一か月ずいぶんと休みなしで働けたと思う。
明日は野丁場長のオルク商会に挨拶に行ってイアンに挨拶に行ってそれからそれからと考えているうちにリンは眠りについてしまった。
翌日、朝起きるとラプタのフウハがいなくなっていた。
まあ、魔族などいてもいなくても良いので、久しぶりに皆と食事を取ることにした。
いつもは奴隷たちは別の場所で食事を取っているのだが、そうするとリンだけ一人飯になってしまう。従って、リンは双子を同席させて食事を取ったのだった。ヤライは相変わらずつまみ食いで終わらせていた。
その日、予定通りオルク商会とイアンの所に行き、ついでにギルドに寄ってみた。
すぐにレンザが寄ってきて、話ができないかと言ってきた。
ギルドの小食堂で飲み物を飲みながら二人は話すことにした。
「大したことではないのだが」そう前置きをしてラプタが今日いないのはなぜなのかを聞く。
「ああ、どこかに遊びに行ったみたい。食事かもしれないけど恋人いるみたいだし」
「どこかにって?」
行き先を知らないのか?というより話がリンが使役しているラプタの話をしているはずなのに、知り合いの友達の話をしているような感覚だ。
「あのラプタは山で知り合ったの。ちょっと心を折ったかもしれないけど謝ったから仲直りしてるし。だから別に向こうがどう思っているか知らないけど飼っているわけでもないし、何かしてもらおうとも思ってないし」
ストローで飲み物をずずーという音を立てて飲んでいるリンに対してレンザは衝撃を受けていた。そのような感覚でラプタに接したことがある人物は聞いたことがない。まさに友達感覚。
普通なら支配して言うことを聞かせるし、場合によっては制裁を加えることもある。
また、隙あれば逃げようとするし、ラプタは賢いので主人を見限る事さえある。
ところがリンは全く違うやり方で信頼関係を築いていた。それがレンザにとって衝撃なのであった。
レンザは今後の鷹匠の在り方を根本的に変えてしまうかもしれない、そう期待を膨らませていた。
実際の所はそのラプタは魔獣どころか魔族なので、そんな友人のような付き合いでラプタと親交を深めることができるわけはないのではあるがそんなことはレンザは知らない。
しかし、あのラプタがもしかして魔獣で人間に危害を加える可能性も否定できないとはレンザ不安に感じていた。その可能性を摘んでおきたいとも思う。
「それじゃあ、あのラプタは野生なのか?」
「よく言って聞かせてあるから人に危害は加えないよ。それは保証するから」
レンザの危惧にリンは打てば響くような回答をする。
そうなのか。保証するとまで言うのか。魔族や魔獣に利用されている可能性はまだ否定できないが、どうやらリンは普通の考え方をしていないようだ。考えてみればあの早熟なシーマが唯一認めている相棒とも呼べる存在なのだから、それは当たり前なのかもしれない。
実はレンザは別の資料も手に入れていた。
これは各町にあるギルドのルートから入手したもので、王都ベルクラント騎士団の報告書にあった一文で「アマリスのリン、勇気と胆力に瞠目す。勇者、惜しむらくは魔獣の森に消ゆ」というものだ。
アマリスの言葉が入っていたので記録がこちらにも飛んできたが、これを入手していることは機密事項である。
「そうだ、タロス氏がリン殿によろしくと言っていたよ。サベンテに戻るそうだが、今日今からならまだ出発に間に合うかもしれない」
ひとまずラプタのことは置いておいて、次の話題に移ったが、こちらもリンにとってあまり続けたい話ではない。。
レンザの話を聞いて「見ないと思ったら今朝の便でどこかに行ったのか」そうリンは思ったが、昨日会って話をしたのでもう特に話すことはない。オラレの件があるので実はあまり会いたくはないとも思っているぐらいだ。
しかし金欠状態は変わらないので、これから少しの間シーマという得難い知略抜きで依頼を受けなければならないのだ。
そうしてしばらくの間リンとラプタにはギルドの監視が付くことになったのだが、オラレやシーマが合流するまで数週間の間、何事も問題が発生することはなかったのである。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる