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22.ことの真相
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久しぶりにアマリスに到着したリンは、チームウルマの事務所に行く前に早速ギルドに着いた。単に隊商と別れた場所が事務所よりギルドの方が近かっただけなのだが、とにかく卵は早めに渡しておきたい。
ギルドに入るとすぐに職員のライカとレンザが駆け寄ってきた。
「おかえりなさい。リン様」
今まで見たこともないぐらいライカとレンザは青い顔をしており、リンの肩のラプタを見ていた。
「お久しぶりです。ライカさん、レンザさん」
手に持ったラプタの卵を渡す。一応布に包んで持ってきたが、運搬機を使用しないで持ってきたことはばれないようにしなければならない。
「承りました。レンザ、検査に回して」
ライカの指示でレンザは卵を受け取って奥に入って行った。リンの話を聞きたいらしく、かなり後ろ髪を引かれた様子だった。
「こちらの応接に来てください」
ギルドの応接室に入るのは初めてである。そういえばリンがC級の仕事を終了させたのも初めてなのでそうなのかな、と思った。
ライカの案内で応接室に入ると、そこにライカの上司だというグレイという銀髪の初老の痩身の男が待っていた。
挨拶を終えるとライカは出ていき、グレイがリンに座るよううながした。
失礼しますと言ってリンが応接室の立派なソファに座ると、グレイが真剣な表情でリンに言った。
「まずは無事アマリスに到着お疲れ様でございます」
「ありがとうございます」
話の内容はサベンテのオルク商会事務所全焼事件の事であった。
ああ、そういえばそうだったな、とリンは思い出した。ギルドでは事務所全焼事件のことは、高級雑貨店の男が放火をしたということ、オルク商会で雇った男たちが仕事を放棄して奴隷となったこと、冤罪で手配されたシーマ達がサベンテの町から外に出て行方不明となりおそらく魔獣によって死亡したことなどが昨日知らされていた。知らせたのはタロスという商人だそうだ。
リンは知らないことであったが、実際にはタロスはギルドが放ったサベンテへの調査員であり、それを裏で知った行政官のカームがマーレを使って足止めをしていた。カームが警戒すべき人物が具体的に誰であることをマーレに知らせることがなかったので逆にタロスはかなりの所まで調べがついていた。
タロスの知らせを受けた元請オルク商会は発注元のミュールに対して仕事の失敗を報告、全面的に仕事はキャンセルであるとシーマの事務所にその旨知らせたのだった。
今回の場合、元請けのオルク商会からキャンセルが通達されたので損金として人数分の拘束日数分の金貨が出ることになっていた。拘束日数は二十日間。チームウルマの拘束人数は三人(奴隷は人数に含まない)なので、金貨六十枚が支払われるとのこと。また、三人が行方不明なので死亡認定が下りたのち、加えて一人当たり五十枚の見舞金が支払われる。
ところが同日夕方になってレーベからの隊商がシーマと思われる少女が意識不明の重体でレーベにいる話が伝わり、さらに今朝になって豪商ミュールからチームウルマの隊長が娘婿のイアンの病気の原因を突き止めて回復手術を行ったという連絡があったという。謝礼の金貨三百枚をチームウルマに渡すよう言付かってもいるそうだ。
ミュールと元請けのオルク商会と話し合いが行われ、仕事のキャンセルと損金の取り扱いについての詳細が決められているところであるという話もある。
ミュールとしては娘婿のイアンの病が治ればいいのだから、必ずしもサベンテ疾患の原因がわかる必要はないのだ。だからわざわざ元請けのオルク商会を通さずに直接チームウルマに金貨を渡すようにギルドに言ってきたのだ。
元請けを無視してそのようなことをされるとギルドも困るが、ミュールはサベンテ疾患が原因ではなく勘違いであったという説明をしてキャンセルをし、別件で原因の解明どころか治療まで行ったとなればギルドとしても大型顧客であるミュールの意向を無視できない。
有名なサベンテ疾患の解決をしたのではないから金貨三百は多いものの、治すところまで行ったのであれば減額するのは信義に反するのだ。
あまりにも情報が錯綜しているのでギルドでも対処に困っているところだったが、丁度いろいろ知ってそうな当事者が現れたということで、渡りに船とばかりにギルド所長のグレイが事情聴取をすることになったのだ。
「まずはご心配おかけして申し訳ありません」
リンは冒頭で謝罪をした。道理で顔見知りのライカとレンザが血相を変えるわけだ。
正直面倒ごとが全部自分に押し付けられたような気分だが、ちょっと整理させてくださいと少し休憩を依頼した。今日一日歩いてレーベから来たので疲れているのは事実である。
「ええ、どうぞどうぞ。気が利かなくて申し訳ない」
グレイがゆっくり待つと言い、途中お茶を持ってきたライカもそのまま部屋にとどまり、ラプタの卵が無事であったどころか今まで見たこともない立派な大きさと状態であることを報告しに来たレンザも部屋にとどまってリンが口を開くのを待っていた。
リンはとりあえず予想してみた。
まず、サベンテ側はサベンテ疾患の原因が流出したとは思っていない。
思っているとしたら、タロスがこんなに早く町を出ることはできない。
それにもかかわらずミュールの所からは原因が突き止められて手術を行ったという連絡が来ている。
これはシンキが化けていたオラレのことをチームウルマのリーダーと勘違いしていたのは覚えているから昨夜のうちにシンキがオラレに化けてイアンの手術をしてくれたに違いない。
その時、原因はサベンテ疾患では無かったとでも言ったのだろう。そうでないと有名な疾患の原因が分かったことがもっと騒ぎになっているだろう。
サベンテから行政官に追われて逃げたのは事実だが、きちんとお金を払って出てきているのでそれほど問題にならなかったのだろう。
問題はどのようにしてレーベにたどり着いたかだが、馬に乗った流れの商人がいたことにしよう。
答えながら自分で言ったことは忘れないようにしておく。後で矛盾点があったら大変なので「その辺は夢中で覚えていないのですが」と言ってごまかしておく。
シーマはレーベの町で療養中なので、そのことも伝える。疲労のあまり倒れたので知り合いにについていてもらっているが、オラレも今はレーベにいるようにする。治療がオラレの姿で行われたなら、ここが一番の矛盾点になってしまう。
あとはよく覚えていないの一点張りである。
「そうですか。お疲れさまでした。シーマさんにも回復したら顔を出すよう伝えてください」
そう言ってようやく解放してくれた。
確かに疲れているので、もう帰りたかった。怪鳥ラプタを連れて帰ったことに突っ込みは無かったので、そこはほっとしている。
リンは礼を言うとタロスの消息を聞いた。金貨を百四十ほど借りているのでミュール氏からの謝礼金を使って返却しなければならない。
実際にはシーマが仕切っていたのだが、不在なので自分が相手するしかないだろう。
ギルドに入るとすぐに職員のライカとレンザが駆け寄ってきた。
「おかえりなさい。リン様」
今まで見たこともないぐらいライカとレンザは青い顔をしており、リンの肩のラプタを見ていた。
「お久しぶりです。ライカさん、レンザさん」
手に持ったラプタの卵を渡す。一応布に包んで持ってきたが、運搬機を使用しないで持ってきたことはばれないようにしなければならない。
「承りました。レンザ、検査に回して」
ライカの指示でレンザは卵を受け取って奥に入って行った。リンの話を聞きたいらしく、かなり後ろ髪を引かれた様子だった。
「こちらの応接に来てください」
ギルドの応接室に入るのは初めてである。そういえばリンがC級の仕事を終了させたのも初めてなのでそうなのかな、と思った。
ライカの案内で応接室に入ると、そこにライカの上司だというグレイという銀髪の初老の痩身の男が待っていた。
挨拶を終えるとライカは出ていき、グレイがリンに座るよううながした。
失礼しますと言ってリンが応接室の立派なソファに座ると、グレイが真剣な表情でリンに言った。
「まずは無事アマリスに到着お疲れ様でございます」
「ありがとうございます」
話の内容はサベンテのオルク商会事務所全焼事件の事であった。
ああ、そういえばそうだったな、とリンは思い出した。ギルドでは事務所全焼事件のことは、高級雑貨店の男が放火をしたということ、オルク商会で雇った男たちが仕事を放棄して奴隷となったこと、冤罪で手配されたシーマ達がサベンテの町から外に出て行方不明となりおそらく魔獣によって死亡したことなどが昨日知らされていた。知らせたのはタロスという商人だそうだ。
リンは知らないことであったが、実際にはタロスはギルドが放ったサベンテへの調査員であり、それを裏で知った行政官のカームがマーレを使って足止めをしていた。カームが警戒すべき人物が具体的に誰であることをマーレに知らせることがなかったので逆にタロスはかなりの所まで調べがついていた。
タロスの知らせを受けた元請オルク商会は発注元のミュールに対して仕事の失敗を報告、全面的に仕事はキャンセルであるとシーマの事務所にその旨知らせたのだった。
今回の場合、元請けのオルク商会からキャンセルが通達されたので損金として人数分の拘束日数分の金貨が出ることになっていた。拘束日数は二十日間。チームウルマの拘束人数は三人(奴隷は人数に含まない)なので、金貨六十枚が支払われるとのこと。また、三人が行方不明なので死亡認定が下りたのち、加えて一人当たり五十枚の見舞金が支払われる。
ところが同日夕方になってレーベからの隊商がシーマと思われる少女が意識不明の重体でレーベにいる話が伝わり、さらに今朝になって豪商ミュールからチームウルマの隊長が娘婿のイアンの病気の原因を突き止めて回復手術を行ったという連絡があったという。謝礼の金貨三百枚をチームウルマに渡すよう言付かってもいるそうだ。
ミュールと元請けのオルク商会と話し合いが行われ、仕事のキャンセルと損金の取り扱いについての詳細が決められているところであるという話もある。
ミュールとしては娘婿のイアンの病が治ればいいのだから、必ずしもサベンテ疾患の原因がわかる必要はないのだ。だからわざわざ元請けのオルク商会を通さずに直接チームウルマに金貨を渡すようにギルドに言ってきたのだ。
元請けを無視してそのようなことをされるとギルドも困るが、ミュールはサベンテ疾患が原因ではなく勘違いであったという説明をしてキャンセルをし、別件で原因の解明どころか治療まで行ったとなればギルドとしても大型顧客であるミュールの意向を無視できない。
有名なサベンテ疾患の解決をしたのではないから金貨三百は多いものの、治すところまで行ったのであれば減額するのは信義に反するのだ。
あまりにも情報が錯綜しているのでギルドでも対処に困っているところだったが、丁度いろいろ知ってそうな当事者が現れたということで、渡りに船とばかりにギルド所長のグレイが事情聴取をすることになったのだ。
「まずはご心配おかけして申し訳ありません」
リンは冒頭で謝罪をした。道理で顔見知りのライカとレンザが血相を変えるわけだ。
正直面倒ごとが全部自分に押し付けられたような気分だが、ちょっと整理させてくださいと少し休憩を依頼した。今日一日歩いてレーベから来たので疲れているのは事実である。
「ええ、どうぞどうぞ。気が利かなくて申し訳ない」
グレイがゆっくり待つと言い、途中お茶を持ってきたライカもそのまま部屋にとどまり、ラプタの卵が無事であったどころか今まで見たこともない立派な大きさと状態であることを報告しに来たレンザも部屋にとどまってリンが口を開くのを待っていた。
リンはとりあえず予想してみた。
まず、サベンテ側はサベンテ疾患の原因が流出したとは思っていない。
思っているとしたら、タロスがこんなに早く町を出ることはできない。
それにもかかわらずミュールの所からは原因が突き止められて手術を行ったという連絡が来ている。
これはシンキが化けていたオラレのことをチームウルマのリーダーと勘違いしていたのは覚えているから昨夜のうちにシンキがオラレに化けてイアンの手術をしてくれたに違いない。
その時、原因はサベンテ疾患では無かったとでも言ったのだろう。そうでないと有名な疾患の原因が分かったことがもっと騒ぎになっているだろう。
サベンテから行政官に追われて逃げたのは事実だが、きちんとお金を払って出てきているのでそれほど問題にならなかったのだろう。
問題はどのようにしてレーベにたどり着いたかだが、馬に乗った流れの商人がいたことにしよう。
答えながら自分で言ったことは忘れないようにしておく。後で矛盾点があったら大変なので「その辺は夢中で覚えていないのですが」と言ってごまかしておく。
シーマはレーベの町で療養中なので、そのことも伝える。疲労のあまり倒れたので知り合いにについていてもらっているが、オラレも今はレーベにいるようにする。治療がオラレの姿で行われたなら、ここが一番の矛盾点になってしまう。
あとはよく覚えていないの一点張りである。
「そうですか。お疲れさまでした。シーマさんにも回復したら顔を出すよう伝えてください」
そう言ってようやく解放してくれた。
確かに疲れているので、もう帰りたかった。怪鳥ラプタを連れて帰ったことに突っ込みは無かったので、そこはほっとしている。
リンは礼を言うとタロスの消息を聞いた。金貨を百四十ほど借りているのでミュール氏からの謝礼金を使って返却しなければならない。
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