異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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27.黄金のワルキューレ

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 ブラスは他の三人と共にギルドに相談に行くことにした。中身が出ている、ではなく出ていないということの証明。そのような仕事が過去にあったかどうかを聞きたかったのである。
 ギルドではレンザが対応した。
 「困りますね。C級挑戦ですからバックアップの申請を出すべきだったでしょう。ここまで話が大きくなってしまったら私達ギルドの者たちも困ってしまうのですよ」
 レンザがくぎを刺す。
 背伸びして仕事を請けて失敗し、しかもハードルを上げて別のチームに依頼ということになったら依頼人にも後のチームにも大迷惑である。
 先日もマーレという移動商人と新鋭チームがもめて大変なことになったのだ。
 まあ、あの場合はマーレが無茶な難題を突き付けたのだろうとレンザは判断していたが、このチーム春風に関しては実力不足としか言いようがない。
 「今からでもバックアップの申請は出せますか?」
 藁にも縋る思いでブラスはレンザに頼み込む。レンザはそんなこの状況でバックアップを受けてくれるチームがあるのかねと言いながら申請は受けられると告げた。
 「で、搬送は明後日なんだけど」
 その場にいたC級チームは皆、首を振って自分の仕事に戻って行った。あまりにもずさんすぎる。
 「もしチームウルマでも引き受けてくれませんかね?」
 ダメもとでソフィアがレンザに聞いてみた。先日リンと話をしたので一応顔見知りだし。
 「チームウルマですか。これまでバックアップを引き受けたという話は無いですね。まあ、新鋭のチームなので当然ですけど」
 レンザはちょうど今チームウルマのシーマ嬢が来ているから聞いてみると言って奥に入って行った。
 そしてしばらくして帰ってきたレンザは首を振った。話を聞くと、シーマはライカと商談をしていたが、状況を聞くなり即座に断ったという。
 ソフィアはもう一度直接リーダーのリンと話をしたいと言ったが、レンザは首を振った。
 「一度断られたのをしつこく言うのはだめですよ。それにチームウルマはもうすぐ王都に行くのですから、今面倒ごとは引き受けられない事情をわかってください」
 ブラスを始めとしてチーム春風のメンバーが落ち込んでいると、筋肉の鎧のような男が大声をかけてきた。
 「チームウルマが断った仕事とはどのようなものか?」
 筋肉の男はチーム天空のダリスと名乗った。最近新鋭で名高いチームの一つである。狩猟や討伐などが中心のチームで成功率は九割を超える。ダリスはチームリーダーでその筋肉とはまた別にスマートな顔をしていることで女性受けが非常に良いらしく、依頼人から人気ナンバーワンの地位をもらっている。
 「ああ、このチーム春風のバックアップで・・・」
 レンザがそう説明を始めると今度はまた別の長い黒髪の少女が声をかけてきた。
 「その話、我々が引き受ける」
 チームオロのミカと名乗るが、彼女はやはり新鋭で名高いチームの副官である。ちなみに今回の仕事の内容は聞いていない。そして仕事の成功率はやはり九割を超えており、失敗例は一度のみである。こちらのチームは女性ばかりのチームという非常に特異でしかも知勇のバランスに富んだ編成をしており、チームオロという本名よりワルキューレという二つなの方が有名である。
 「俺らが先に聞いた話ぞ」
 ダリスがそう言うと「我々が先に引き受けた仕事だ」とミカは切り返す。
 レンザが唖然として見ていると、二つのチームは争いを始めた。二人はいつもチーム100%とかチームパーフェクトなどと呼ばれるウルマの後を追って対抗しようとしているのだ。
 そこにシーマを見送ったライカが来て何事かレンザに尋ねた。
 レンザが説明をするとライカは頭を押さえて二チームに言った。
 「頭を冷やして。チームウルマがやったことがないとか、断ったとかそんな理由で仕事を選ばないで。まず仕事の内容を聞きなさい」
 掴みかからんばかりに切迫していた二人であったが、確かにその通りだと言ってダリスに説明を求めた。
 「そうか。わかった。明日、具体的にチーム春風の事務所に行く。これは決定事項だ」
 オロのミカがそう言うと天空のダリスも「俺らは特に報酬などいらぬ。だがバックアップは任せておけ」などと言って頼もし気な笑顔を見せた。
 ライカとレンザはため息をしつつ「仲良くね」とあきらめたように言った。
 翌日、チーム春風の事務所に天空のダリスとその相棒のシンが姿を現した。チームオロのミカはどうしても用事が外せず、明日の参加である。決定事項とか言っていたが、チームオロのリーダーのサフィロに叱られたらしい。資料は今日、アロイがサフィロの所に持っていく予定だ。
 「ありがとうございます」
 ブラスは礼を言ってまず現場に案内をした。例の立て看板はさらに増えており、立てこもる主婦と野次馬の数も確実に多くなっていた。
 「私の目が黒いうちは絶対に毒は外に出しませんから」
 あのリーダー格の女性がブラスの顔を見ると近寄ってきてそう宣言をした。
 「まずは落ち着いてください」
 筋肉のダリスが女性をなだめはじめた。
 「毒にならないように遮光性は高いし、密閉性も高い入れ物に入っています。その器械を作っているのは王室にも納めている世界的にも認められているカラール設計ですから問題ありません」
 まずは最大限に権威を利用する。それでだめなら力ずくと考えていた。
 「まあそれならば大丈夫かもしれませんね」
 リーダーの女性以外がそうざわざわしながら話すのが聞こえる。
 「大丈夫ですよ。私が責任を持ってこの搬送の指示をいたしましょう」
 筋肉隆々たる美丈夫がそう宣言すると、かなりの女性がキャーという歓声を上げて手を振った。
 これが人気ナンバーワンの実力か。ブラスは自分が言ったことには全く耳を傾けなかったのに美男子は違うなと少し憮然としてそれを見ていた。
 味方が少なくなった女性リーダーが沈黙したところでコールがため息をついた。
 「あることを証明するのはできますが、無いことを証明するのは無理なんですよ。もう」
 この言葉にまた女性リーダーが逆上した。
 「やはり毒が外に出ていないことの証明にはなっていないじゃない!」
 コールがしまったという顔をしたが、また騒然となった現場をダリスが額に汗を浮かべながら収めた。
 そして念のため混乱防止という名目で、その晩カラール設計から納品された搬送用のケースをこっそりと研究所に運び込んだのであった。
 翌日は搬送の日である。
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