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28.悪魔の証明
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搬送の日、ブラスは今だ騒動がおさまらぬ中、朝一番でチーム春風の事務所に行った。
そこには昨日はいなかったチームオロのミカが同僚のペルラと共にやって来た。
ブラスは手短に現在の状況をミカに話す。
「搬送は昼からで、それまでに集まった住民を説得しなければならない」
ブラスの説明を聞いていたミカはペルラに何か耳打ちをした後、立ち上がった。
「チーム天空のダリスは現地に行っているのよね?」
ペルラその返事を聞くとすぐに外に出ていく。
ミカは自分たちの最大の弱点である防御力に欠けるというものをダリスに頼ることにしていた。反目しているとはいえ、別に敵対しているわけではないし、第一今回は利害は一致しているのだ。
「それはもう。住民が騒ぐとうまく説得していただけるので本当に助かっています」
ブラスは全然先が見えなかったこの仕事でこうして協力者が参加してくれたが、もう少しD級の仕事をしながら様子見をしようと反省していた。
「今回の件、他の誰にも相談していませんよね?」
ミカは最大の懸念材料であるチームウルマの協力が気になっていた。不純ではあるがそれがダリスと共にモチベーションだったからである。
ブラスもさすがにそこは気が付いていたので、他の二人、特にソフィアにはきつく接触をしないよう言い渡していた。
「大丈夫です」
「なら良いわ」
ミカは短く返事をすると倉庫に行って搬送用の入れ物を見せてくれるよう頼んだ。
「あの、昨日すでにダリスさんと共に搬送の入れ物は研究所に持っていきましたが」
「いえ、あなた達が持っている搬送用の器機を見せてと言っているの」
ブラスは少し躊躇した。各チームで所持している器機はそれぞれのチームの財産なので機密事項だ。しかも貸し借りは禁止されているので見せてもあまり見せる方にはメリットがない。
「今回、搬送する水槽が入るのはどれ?できるだけ小さいのでかまわないのでよろしく。遮光性なども無視してかまわないから」
聞けば今回の切り札に使うとのこと。
囮に使用して搬送するつもりなのか聞いてみたが、まあそんな感じと言ってごまかされた。
今回入りそうな入れ物で検討済のものはこれ、とそれを指し示すと、その器機を運び出すようブラスに指示した。
そこにペルラと共にダリスが走って来た。
「これだな?」
ダリスはブラスに確認すると、台車でその器機を運び出した。ペルラはまたミカの耳打ちでどこかに去って行った。
ミカはダリスの隣に並ぶと今回の作戦を言う。
「この作戦の肝は最後まで住民にやり方を知られないようにすることよ」
ダリスはミカたちが持っていない「力」の部分をダリスに期待していることを理解していたが、ダリスもまたミカたちに自分たちが足りない「知謀」の部分を期待していた。
「とにかくこの器機を搬入することがまず大事というわけだ」
ダリス達が研究所に着くと、例によって立て看板を持った女性たちが騒ぎ始めた。
「それが今回の物を運び出すとかいう入れ物なの?なによ。遮光性とか言っていたのにあちこち透明な部分があるじゃない」
リーダーの女性が食って掛かり、他の住民も騒ぎ立てる。
「静かにしてください。まずは通して我々の仕事の説明をさせてください」
「その機材を通すと無理やり搬送するかもしれないからまずは説明が先よ」
「無理やり通りませんよ。そこは約束します」
そしてダリスの相棒のシンがなんとか手伝って機材の搬入をする。
そのころにはアマリスの行政府が来ており、交通整理を始めた。
その警備員がブラスの所に来て今回の仕事のやり方について苦言を呈する。
「本当に大丈夫なのかね?」
「ええ、まあ」
ブラスは短くそう答えて研究所の中に入った。
そこでミカの話を聞く。
「あのリーダーの女性以外は理不尽にいう事を聞かないわけじゃない。だからある程度納得できる内容を説明し、その反論を相手が思いつかないうちに運んでしまうのが今回の作戦です」
なるほど、とブラスとダリスが首を縦に振る。
こちらが説明できない状態で攻め立てられれば相手は勢いづくが、説明した直後ならこちらの動きを止めることはできないはずだ。
作戦を説明する、とミカは言った。
あの水槽をまずこの小さい方の器機に入れ、そしてそれを今回作成した大きな方の中に入れる。緩衝材となる乾燥したツメ草を中に入れてしまうのだ。
「二重になっているからもし中の物が漏れたとしても、外の器機が守ってくれるというわけですね」
ブラスのセリフにミカはまあね。と短く言った。とにかく早く作業をしようと促した。
そのころ、研究所の外でチーム天空のシンが住民たちをなだめていたのだが、リーダーの女性に誰かが来て耳打ちをしているのが見えた。
女性は小さくうなずき、少し考える風の仕草を見せたのちに研究所の出口にまた住民を集め始めた。
そこに鞄を持ったチームオロのペルラがやってきて、シンに状況を聞いた。
「今は小康状態だが、搬出時にまた騒ぐかもしれないので十分に注意するよう伝えてほしい」
シンはペルラに言伝を頼むと、例のリーダーに耳打ちをした男が誰か考えた。この騒動、誰かが背後にいるとしたら、何が目的なのだろうか?
一方、研究所の中に入ったペルラは既に搬送の準備ができているのでほっとしていた。
丁度、水槽を小さな方の器機に入れ、それを大きな方の器機に入れているところであった。
ミカがツメ草が十分に乾燥しているか確認をする。
「ここまでは計画通りです。搬送はお昼ですからそれまで少し休憩しましょう」
ミカがペルラの所に行き、休憩を告げた。
そこには昨日はいなかったチームオロのミカが同僚のペルラと共にやって来た。
ブラスは手短に現在の状況をミカに話す。
「搬送は昼からで、それまでに集まった住民を説得しなければならない」
ブラスの説明を聞いていたミカはペルラに何か耳打ちをした後、立ち上がった。
「チーム天空のダリスは現地に行っているのよね?」
ペルラその返事を聞くとすぐに外に出ていく。
ミカは自分たちの最大の弱点である防御力に欠けるというものをダリスに頼ることにしていた。反目しているとはいえ、別に敵対しているわけではないし、第一今回は利害は一致しているのだ。
「それはもう。住民が騒ぐとうまく説得していただけるので本当に助かっています」
ブラスは全然先が見えなかったこの仕事でこうして協力者が参加してくれたが、もう少しD級の仕事をしながら様子見をしようと反省していた。
「今回の件、他の誰にも相談していませんよね?」
ミカは最大の懸念材料であるチームウルマの協力が気になっていた。不純ではあるがそれがダリスと共にモチベーションだったからである。
ブラスもさすがにそこは気が付いていたので、他の二人、特にソフィアにはきつく接触をしないよう言い渡していた。
「大丈夫です」
「なら良いわ」
ミカは短く返事をすると倉庫に行って搬送用の入れ物を見せてくれるよう頼んだ。
「あの、昨日すでにダリスさんと共に搬送の入れ物は研究所に持っていきましたが」
「いえ、あなた達が持っている搬送用の器機を見せてと言っているの」
ブラスは少し躊躇した。各チームで所持している器機はそれぞれのチームの財産なので機密事項だ。しかも貸し借りは禁止されているので見せてもあまり見せる方にはメリットがない。
「今回、搬送する水槽が入るのはどれ?できるだけ小さいのでかまわないのでよろしく。遮光性なども無視してかまわないから」
聞けば今回の切り札に使うとのこと。
囮に使用して搬送するつもりなのか聞いてみたが、まあそんな感じと言ってごまかされた。
今回入りそうな入れ物で検討済のものはこれ、とそれを指し示すと、その器機を運び出すようブラスに指示した。
そこにペルラと共にダリスが走って来た。
「これだな?」
ダリスはブラスに確認すると、台車でその器機を運び出した。ペルラはまたミカの耳打ちでどこかに去って行った。
ミカはダリスの隣に並ぶと今回の作戦を言う。
「この作戦の肝は最後まで住民にやり方を知られないようにすることよ」
ダリスはミカたちが持っていない「力」の部分をダリスに期待していることを理解していたが、ダリスもまたミカたちに自分たちが足りない「知謀」の部分を期待していた。
「とにかくこの器機を搬入することがまず大事というわけだ」
ダリス達が研究所に着くと、例によって立て看板を持った女性たちが騒ぎ始めた。
「それが今回の物を運び出すとかいう入れ物なの?なによ。遮光性とか言っていたのにあちこち透明な部分があるじゃない」
リーダーの女性が食って掛かり、他の住民も騒ぎ立てる。
「静かにしてください。まずは通して我々の仕事の説明をさせてください」
「その機材を通すと無理やり搬送するかもしれないからまずは説明が先よ」
「無理やり通りませんよ。そこは約束します」
そしてダリスの相棒のシンがなんとか手伝って機材の搬入をする。
そのころにはアマリスの行政府が来ており、交通整理を始めた。
その警備員がブラスの所に来て今回の仕事のやり方について苦言を呈する。
「本当に大丈夫なのかね?」
「ええ、まあ」
ブラスは短くそう答えて研究所の中に入った。
そこでミカの話を聞く。
「あのリーダーの女性以外は理不尽にいう事を聞かないわけじゃない。だからある程度納得できる内容を説明し、その反論を相手が思いつかないうちに運んでしまうのが今回の作戦です」
なるほど、とブラスとダリスが首を縦に振る。
こちらが説明できない状態で攻め立てられれば相手は勢いづくが、説明した直後ならこちらの動きを止めることはできないはずだ。
作戦を説明する、とミカは言った。
あの水槽をまずこの小さい方の器機に入れ、そしてそれを今回作成した大きな方の中に入れる。緩衝材となる乾燥したツメ草を中に入れてしまうのだ。
「二重になっているからもし中の物が漏れたとしても、外の器機が守ってくれるというわけですね」
ブラスのセリフにミカはまあね。と短く言った。とにかく早く作業をしようと促した。
そのころ、研究所の外でチーム天空のシンが住民たちをなだめていたのだが、リーダーの女性に誰かが来て耳打ちをしているのが見えた。
女性は小さくうなずき、少し考える風の仕草を見せたのちに研究所の出口にまた住民を集め始めた。
そこに鞄を持ったチームオロのペルラがやってきて、シンに状況を聞いた。
「今は小康状態だが、搬出時にまた騒ぐかもしれないので十分に注意するよう伝えてほしい」
シンはペルラに言伝を頼むと、例のリーダーに耳打ちをした男が誰か考えた。この騒動、誰かが背後にいるとしたら、何が目的なのだろうか?
一方、研究所の中に入ったペルラは既に搬送の準備ができているのでほっとしていた。
丁度、水槽を小さな方の器機に入れ、それを大きな方の器機に入れているところであった。
ミカがツメ草が十分に乾燥しているか確認をする。
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