異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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30.エピローグ

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 アマリスの事務所では事務所の引き払いの手続きをシーマが終えていた。
 王都ベルクラントには先週行ったときに既に新たな事務所を契約し、住居を構えている。
 場所は王都の南の端であり中央の繁華街からは遠いが特に不便は無いようである。
 アマリス、王都の両方のギルドの方にも挨拶は行っており、出立の日は今日である。
 既にミラとラキの双子は王都で生活をしているので、今回この町を出るのはリン、オラレ、シーマ、ヤライの四人。ラプタは無言でリンの肩にとまっている。
 見送りは特になかったが、同じ隊商にチーム春風のソフィアがいた。
 運搬の仕事を請け負っているのだそうだが、どうしても最後にチームウルマに同行したかったのだそうだ。アロイも同行しているが、リーダーのブラスと副リーダーのコールは姿が見えない。
 シーマにジンの毒運びの件での失態を知られているので都合が悪いとソフィアに語っている。
 「前、サポート依頼があった時受けられなくてごめんね。王都に行く用事とかぶってしまって」
 いろいろな人のおかげで大丈夫だったとソフィアは謝るリンに否定するように手を振った。
 「リンさんはどんな仕事が得意なのですか?」
 ソフィアがリンに対して質問づくめなのを見ながらシーマは隊商の馬車の端に座っている。
 「ええと、特に得意なものは無いんだけど、強いて言えばそうだな、楽なのが良い」
 「それは私もそうですぅ」
 ヤライとオラレは知らんぷりを決め込んでおり、ソフィアのリンへの情熱を知っているアロイは寝たふりである。
 王都への道は今までリンが見たことがある道の中で最も広く、最も整備された平坦なものであったが、隊商は警戒を怠っていなかった。
 魔獣にとっては人の作った道など関係がなかったからである。
 一方、シーマは今回の野丁場長オルク商会の依頼の内容を考えていた。
 「アンバス砦の援護」である。
 おそらくこれを引き受けることになるだろうが、問題はなぜ自分たちがこの救援に呼ばれたかだ。
 アンバス砦は魔族との抗争の最前線と聞いているので、例えばチーム天空が呼ばれるなら話は分かる。
 他に何か情報は無いか冊子を読んでいると、今回新たに動員される増援部隊に新たに騎士支団長を拝命したアルテナという人物に目が留まった。
 クロテア騎士団は知っているが、確か息子がそういう名前であったと記憶している。
 伯爵の娘として生活していた当時、王国の五色の騎士団については覚えていたが、クロテアは黒衣の騎士で名をはせている。
 息子も同じような風貌だそうだが、二世と聞くとあまり良い印象はないのは気のせいか。
 王都ベルクラント自体の情報は、実直で勉学や訓練を重視する実力主義者たちがいるという話や、亜人と呼ばれる者たちを奴隷に使っているという話、行方不明者も多数出るという話も聞いた。
 何年か前に就任した宰相のアガートが切れ者で今の体制になったという。
 「王都は久しぶりですが、今回搬送するのは王都に向かう便で衣服類、王都で二十日ぐらい滞在したあと、王都からの帰りの便は美術品などの高級品の予定なんです」
 ソフィアがリンにそんなことを言っているが、他の隊商には聞こえていないようなので聞かないふりをする。
 大体そんなことを軽々しく世間話で出して、帰りに盗賊に襲われたらどうするつもりだ。
 「王都では、嗜好品や過度な装飾が次第に禁止されているようなのです」
 アロイも話に加わってくる。
 宰相アガートの方針で「役に立つもの」以外の物が排除され始めたという。
 芸術関係は真っ先に禁止され、対魔族への訓練活動や、生産性を重視した一次産業が推奨されているとのこと。
 だから、王都の豪商たちは地方に美術品を移し始めたのだと。
 確かに魔族や魔獣との抗争は熾烈を極め、いわゆるゆとりが無くなってきているのは確かなので、過剰に綱紀粛正を図り王都を守ろうとしているのではないか。
 七日後、王都につくとソフィアは後ろ髪を引かれているのが良くわかる感じでアロイと共に分かれて行った。
 そしてリンたちは翌日アンバス砦に向かう騎士団に会うためにギルドに行くことになる。
 こうして、王都ベルクラントで新たに生活が始まったのである。
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