ダンジョン大国 日本 〜引きニートの俺は部屋を出て過酷な現実を攻略する〜

坂東太郎

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セカンドアタック/拠点

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=== 拠点 ===

「体調よし、装備よし、持ち物よし」

 安全な拠点で、カズヤがメモを見ながら指差し確認する。

(自称)陽キャ勇者:ヨシッ!
犬好き勇者:ハス美は? ねえハス美は?
ベテラン勇者LV.1:気負うなよテイマー勇者。何度でもやり直せばいい
先輩風勇者:そんな装備なら大丈夫だ!
名無しの勇者:テイムモンスターいたら擬態しやすいよなあ

 なお、すでにライブ配信ははじまっている。
 自分ではじめたクセに、視聴者に優しくないのは零細配信者のサガか。

 カズヤの格好はグレイのパーカーにくるぶしあたりで絞られた黒いズボン。
 つば付きのキャップは日よけのほか、モンスターの視線を遮る効果もある。
 スタンピードをきっかけにサポートキャラとなったモンスターが、あの日すぐに買ってきたものだ。郊外にも存在してくれてありがとうユニク○。

 装備のほかに「これはプレゼントね」と電動バリカンとセルフカットのやり方をプリントした紙を手渡された。
 キャップから覗くもみあげはスッキリしている。無精ヒゲもない。

 身軽さを武器にするタイプの勇者の正装である。
 都市型ダンジョンを攻略する場合は、別バージョンとしてかっちりタイプの正装も存在する。

 パーカーのポケットには念のためにと、ダンジョン最深部までのマップが入っている。
 それともう一つ、大事なもの。

 カズヤはポケットから取り出して、を見つめた。

「これで……ダンジョン最深部を攻略するんだ。勇者の証を手に入れるんだ」

 ダンジョンマスターに手渡すと、ダンジョンの秘宝と交換してもらえる、攻略に必須のキーアイテム。

 5,000イェンである。
 お釣りももらえる。

 サポートキャラから手渡されたものだが、出所はサポートキャラ、もとい、姉ではない。

 対面してフラグを立てたわけではない。
 だがこれは、第二階層に生息するモンスターが用意したものだという。
 第三階層の攻略に失敗して逃げ帰ったカズヤを、泣きそうな目で見送ったモンスターの。

 わずかな間、目を閉じる。
 5,000イェンを手にした指にぎゅっと力がこもった。
 慎重にポケットにしまう。

 最後にカズヤは、スマホに視線を向けた。
 告げなければ決意が揺らいでしまいそうで。

 宣言する。

「今日、俺は真の勇者になる。行ってきます」

 旅立つ勇者の健闘を祈る、勇者たちの言葉であふれかえったコメントを見ることなく。

 カズヤは、ダンジョン入り口の扉を開ける。

 扉の前には、キリッとした顔のハス美が待っていた。
 ハス美、おともするよ! とでも言いたげに。


 勇気と5,000イェンを持って、勇者はふたたびダンジョンに挑む。

 テイムしたモンスター愛犬の、ハス美と一緒に。

 ライブ配信を見守る、勇者たちとともに。


 ちなみに、玄関——第三階層への扉の手前——で、ハス美のお散歩セット(ビニール袋とスコップほか)も忘れず手にした。えらい。


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