はい、こちら伝言課

かみくら+

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伝言1

4 始めてのお仕事は

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 あれからもう3時間が経った。
だがまったく帰ってくる気配がないどころか、連絡一つすらない。

 掃除するぞ!と意気込んだのは良かったのだが、ここに配属されてまだ2日。手を付けられる事は少なく、この2日間で何度もやった資料整理が主な作業だったため棚に戻して床を掃くということを続け、残るは課長と初めて会ったあの部屋だけになった。

「30になってこんな体使う仕事してたら、明日の筋肉痛が怖いな…」

 そう思いながら作業を続けていると、部屋の机の上にあった電話が鳴った。

 動かしていた手を止め、床の資料を避けながら受話器に手を伸ばす。

「はいはーい、今出ます……はい、伝言課です」

 咄嗟にとってしまったが、こんな感じで良いのだろうか。

(あ、もしかして課長かも…?)

『あら?男の方?そちら伝言課ですよねぇ?』

「え、はい、伝言課ですけど。私、新しく配属いたしました一ノ瀬です」

 聞こえてきたのは70才くらいのおばあちゃんの声だった。

『あらぁ、そうだったの。いっつも三井ちゃんが出てたから、てっきりかけ間違えしちゃったのかと思ったわ』

 (三井ちゃん?…ああ、課長のことか)

一瞬、“三井ちゃん”が誰なのか分からなかったが、ほほほ、と聞こえてきた言葉からこの人が課長の知り合いだという事がわかる。

「あの、すみません。三井は今外に出ておりまして…戻るのも何時頃になるかは…」

『あら、そうなのね。困ったわ、『伝言』を頼みたかったのだけれど…』

 『伝言』。彼女ははっきりとそう言った。これはきっと業務なのだろう。だが、何をすれば良いのか今の一ノ瀬にはまったくわからない。

(取り敢えず一か八か、やらなきゃ)

 一ノ瀬はすっと背筋をのばし、息を吸ってから受話器の横に紙とペンを寄せる。

「はい。伝言は承ります。お名前とご用件をどうぞ」

 これで合っているかどうかは分からないけれど、市役所は市民の要望を形にする所であると一ノ瀬はおもっている。まずは、その“声”を聞かなくては。

(ちょっと、いやかなり内心ドキドキだけど)

『あら、良かったわ!じゃあ、おねがいしますね。私、原田と申します。内容は…』




 それから内容、伝え先、原田さんの住所を聞き、メモを取った。

「はい…はい、かしこまりました。ではこちら、三井に伝えておきますね」

ガチャリと受話器を置き、ホッと一息つく。

(なんとかやりきった…一番心配していた伝言内容のメモ取りもしっかり出来たし)

 ここでまさか、資料整理していた時に何気なく見たプリント内容が役に立つとは思っていなかった。先ほどまで床にあったプリントには過去に預かった伝言についての資料だったため、依頼主から何を聞き取るのかが資料整理をしているうちに一ノ瀬の頭に勝手に入っていたのだ。

「まあ、伝言を受け取ったのはいいけど課長がいないんじゃ、こっから先が分かんないよ…」

 伝言内容はこうだ。

『友人へ三年前に預けた本を返して欲しいという事を伝えること。その友人の名前は佐久間ユキさんといい、依頼主の原田さんの女学校時代の同級生。三年前の同窓会の時、“かつて原田さんが集めていた作家の本が全て揃った”という話をして偶然にも佐久間さんもその作家が好きなのだったそう。だが、どうしても手に入らない一冊があり貸したのだそうだ。それから同窓会は5年に1回しかない為会う機会がなく、連絡先も交換しなかったので市役所の伝言課を頼った』

 きっと3年も経っているから読み終わっているだろうし、やっと揃った本が一冊ないままというのも心寂しいのだという。

「俺も本が好きだから、なんとなくその気持ちが分かる」

 他人からすれば5年待ってからでも良いのでは、と思うだろう。だが、原田さんにとってはその本はコレクションの一つなのだ。欠けたままではそう思って当然だ。

 だが一ノ瀬、“佐久間さん”の連絡先が分からないとなると此方も探しようがないのではと思った。しかし依頼を断るわけにはいかないし、原田さんはしきりに“三井ちゃんなら大丈夫だから”と言っていた。つまり課長ならこれをどうにか出来る手段を持っているということなのだろう。

「課長、いつ帰ってくんのかな…」

 そんな事を考えながら、一ノ瀬は一旦止めていた掃除を再開するべくメモした紙を課長のデスクの上に置いて床に落ちている資料の整理をし始めた。




(今日一日帰ってこない、とか……ない、よな……?)
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