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伝言1
6 はじめは大事
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翌日…
“朝一番で“と言われた一ノ瀬は、指定された場所は自分の自宅から10分もかからないところであったが念のため何時もより30分くらい早めに家を出た。
それから予定通り、10分くらいで目的地である『永山マンション』に着きロビーで待機していた。
『永山マンション』は最近建った高齢者専用マンションで、入居者は追加料金なしで一階にある薬局やフィットネスクラブを利用できるようになっている。最近はこの市でも市民の高齢化が問題になってきているので、このような高齢者の一人暮らしをサポートするマンションがあちこちに建ち始めているのだ。
「……にしても、課長遅いな…」
一ノ瀬が来てからだいぶ時間が経っていた。だが、ここに来るように言った三井は全く現れる気配がない。
ロビーの片隅にあるソファで待っている一ノ瀬は少しその場では浮いていた。行く人々は「おはよう」と挨拶をして過ぎていくのだが、なにせここは“高齢者専用マンション”であるため通行する人はみんなおじいちゃんやおばあちゃん達である。若く(といっても30だが)スーツ姿の一ノ瀬は何となく居心地が悪かった。
(課長、なんで来ないんだ!ハッ、まさか場所を間違えた!?…いや、それはない。だって受け取ったカードキーでこのロビーに入れたし…)
一度電話をしてみようと思った一ノ瀬はケータイを取り出し電話帳を開いたのだが…
(電話番号知らないじゃないか…!)
昨日聞くつもりであったのにすっかり忘れていた。どうしようもなくなってしまった。
(一度市役所に戻った方が良いかもしれないな)
そう思った一ノ瀬はため息をつきながらソファから立ち上がろうとした。するとふと後ろの方から「あの…」と声をかけられたので、振り向くとそこには一人の女性が立っていた。周りには誰もいないからどうやらこの女性が声の主らしい。
「あ、おはようございます」
「あの、市役所の方ですか?」
「え、あ、そうです。市役所伝言課の一ノ瀬です。あなたは…」
突然市役所の人かと聞かれびっくりしたが、その女性の話し方はとても柔らかく一ノ瀬のほうも戸惑いながらも答える。
「やっぱりそうだったのね。昨日三井ちゃんが言ってたから、そうじゃないかなって思ったのよ」
「(三井ちゃん…?)…あ。もしかして昨日お電話いただいた、原田さんですか?」
課長のことを“三井ちゃん”というのは一ノ瀬が知っている人で昨日電話した原田さんだけだ。もっとも、一ノ瀬は配属されてから日が浅いため憶測でしかないのだが。
間違えたかと心配しながら女性を伺うと「はい、昨日お電話した原田です。わざわざ朝からごめんなさいねぇ」とにっこりとして返された。
「あの、すみません。三井はまだ来ていなくて」
「ああ、三井ちゃんならいつものことだから心配しないで。先に行きましょうか」
そう言って原田さんは何でもないようにエレベーターのボタンを押す。
「え、課長いつもなんですか!」
まさか、課長は時間にまでルーズだったのか。いや、昨日の連絡が無かった一件で気づくべきだった。
「昨日の夕方に三井ちゃんから電話があったのよ。『うちの部下が明日伺うから』って。ここに若い人が来ることはめったにないし、誰かを待ってるみたいだったからきっと三井ちゃんの部下だってわかったの」
「ああ、そうだったんですね。というか、課長はいつも約束の時間にはこないんですか」
「うーん、まちまちね。ほら、私たちみたいな年寄りは朝がはやいでしょう?だから朝に約束することが多いんだけど、三井ちゃん朝が弱いみたいなのよねぇ。だから今回朝からって三井ちゃんが言い出してびっくりしたわ」
(課長ー!仕事してくださーい!)
原田さんはこのことについて気にしていないようだが、普通社会人としてコレはダメなことだ。しかも理由が“朝が弱いから”って、学生じゃあるまいし。一ノ瀬は軽く頭痛がした。
「なんか本当、すみません。三井にはよく言っておきますので…」
エレベーターに乗って、一ノ瀬がぺこぺこあたまを下げると「気にしないで」と原田さんが言ってくれた。
「でも…」
「ふふっ。これじゃあどっちが部下かわからないわね」
「はははっ…」
この言葉になんと返していいのか分からなかったので、取り敢えず苦笑いですましておいた。
そうしている間にエレベーターは6階に止まり、二人は降りて廊下を歩いた。
「私の部屋は604よ。さあ、あがって」
「お邪魔いたします」
部屋は広くバリアフリーの構造になっていた。廊下を突き当ったところにあるリビングに通され、ソファに座るよう勧められるがまま一ノ瀬は腰をおちつける。
「いまお茶入れるわね」
「あ、お構いなく」
そう言って出されたお茶とお菓子はとても美味しかった。少しホッとして初仕事に自分が緊張していたことが分かる。
「ふふっ。緊張しなくていいのよ」
どうやら原田さんにはばれていたようだ。一ノ瀬は恥ずかしくなり頬を掻いた。
「あの、お電話いただいた依頼内容ですが」
「ああ、そうだったわ。すっかり落ちついてしまっていたわ」
そう言って、原田さんは少し背筋を伸ばしゆっくりと事の内容を話しはじめた。
“朝一番で“と言われた一ノ瀬は、指定された場所は自分の自宅から10分もかからないところであったが念のため何時もより30分くらい早めに家を出た。
それから予定通り、10分くらいで目的地である『永山マンション』に着きロビーで待機していた。
『永山マンション』は最近建った高齢者専用マンションで、入居者は追加料金なしで一階にある薬局やフィットネスクラブを利用できるようになっている。最近はこの市でも市民の高齢化が問題になってきているので、このような高齢者の一人暮らしをサポートするマンションがあちこちに建ち始めているのだ。
「……にしても、課長遅いな…」
一ノ瀬が来てからだいぶ時間が経っていた。だが、ここに来るように言った三井は全く現れる気配がない。
ロビーの片隅にあるソファで待っている一ノ瀬は少しその場では浮いていた。行く人々は「おはよう」と挨拶をして過ぎていくのだが、なにせここは“高齢者専用マンション”であるため通行する人はみんなおじいちゃんやおばあちゃん達である。若く(といっても30だが)スーツ姿の一ノ瀬は何となく居心地が悪かった。
(課長、なんで来ないんだ!ハッ、まさか場所を間違えた!?…いや、それはない。だって受け取ったカードキーでこのロビーに入れたし…)
一度電話をしてみようと思った一ノ瀬はケータイを取り出し電話帳を開いたのだが…
(電話番号知らないじゃないか…!)
昨日聞くつもりであったのにすっかり忘れていた。どうしようもなくなってしまった。
(一度市役所に戻った方が良いかもしれないな)
そう思った一ノ瀬はため息をつきながらソファから立ち上がろうとした。するとふと後ろの方から「あの…」と声をかけられたので、振り向くとそこには一人の女性が立っていた。周りには誰もいないからどうやらこの女性が声の主らしい。
「あ、おはようございます」
「あの、市役所の方ですか?」
「え、あ、そうです。市役所伝言課の一ノ瀬です。あなたは…」
突然市役所の人かと聞かれびっくりしたが、その女性の話し方はとても柔らかく一ノ瀬のほうも戸惑いながらも答える。
「やっぱりそうだったのね。昨日三井ちゃんが言ってたから、そうじゃないかなって思ったのよ」
「(三井ちゃん…?)…あ。もしかして昨日お電話いただいた、原田さんですか?」
課長のことを“三井ちゃん”というのは一ノ瀬が知っている人で昨日電話した原田さんだけだ。もっとも、一ノ瀬は配属されてから日が浅いため憶測でしかないのだが。
間違えたかと心配しながら女性を伺うと「はい、昨日お電話した原田です。わざわざ朝からごめんなさいねぇ」とにっこりとして返された。
「あの、すみません。三井はまだ来ていなくて」
「ああ、三井ちゃんならいつものことだから心配しないで。先に行きましょうか」
そう言って原田さんは何でもないようにエレベーターのボタンを押す。
「え、課長いつもなんですか!」
まさか、課長は時間にまでルーズだったのか。いや、昨日の連絡が無かった一件で気づくべきだった。
「昨日の夕方に三井ちゃんから電話があったのよ。『うちの部下が明日伺うから』って。ここに若い人が来ることはめったにないし、誰かを待ってるみたいだったからきっと三井ちゃんの部下だってわかったの」
「ああ、そうだったんですね。というか、課長はいつも約束の時間にはこないんですか」
「うーん、まちまちね。ほら、私たちみたいな年寄りは朝がはやいでしょう?だから朝に約束することが多いんだけど、三井ちゃん朝が弱いみたいなのよねぇ。だから今回朝からって三井ちゃんが言い出してびっくりしたわ」
(課長ー!仕事してくださーい!)
原田さんはこのことについて気にしていないようだが、普通社会人としてコレはダメなことだ。しかも理由が“朝が弱いから”って、学生じゃあるまいし。一ノ瀬は軽く頭痛がした。
「なんか本当、すみません。三井にはよく言っておきますので…」
エレベーターに乗って、一ノ瀬がぺこぺこあたまを下げると「気にしないで」と原田さんが言ってくれた。
「でも…」
「ふふっ。これじゃあどっちが部下かわからないわね」
「はははっ…」
この言葉になんと返していいのか分からなかったので、取り敢えず苦笑いですましておいた。
そうしている間にエレベーターは6階に止まり、二人は降りて廊下を歩いた。
「私の部屋は604よ。さあ、あがって」
「お邪魔いたします」
部屋は広くバリアフリーの構造になっていた。廊下を突き当ったところにあるリビングに通され、ソファに座るよう勧められるがまま一ノ瀬は腰をおちつける。
「いまお茶入れるわね」
「あ、お構いなく」
そう言って出されたお茶とお菓子はとても美味しかった。少しホッとして初仕事に自分が緊張していたことが分かる。
「ふふっ。緊張しなくていいのよ」
どうやら原田さんにはばれていたようだ。一ノ瀬は恥ずかしくなり頬を掻いた。
「あの、お電話いただいた依頼内容ですが」
「ああ、そうだったわ。すっかり落ちついてしまっていたわ」
そう言って、原田さんは少し背筋を伸ばしゆっくりと事の内容を話しはじめた。
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