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伝言1
8 解釈にもよります
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「それでは今日はこれで」
そう言って一ノ瀬は原田さんのマンションを後にした。
結局、ひととおり話が終わっても三井が来ることはなかった。原田さん曰く、
「三井ちゃん、すっかり一ノ瀬くんのこと信頼しちゃってるのねぇ…」と頬に手を添え言っていた。
一ノ瀬は内心(いや、ちがうだろ絶対)と突っ込みつつ、課長のことはこの際置いといて佐久間さんの住所を調べるために一度市役所に戻ることにした。もう時間もお昼時だからコンビニで弁当でも買っていこうと足を市役所とは逆方向に向けた。
コンビニはここから5分とかからない場所にある。土手沿いの真っ直ぐな道を先程の会話を思い返しなから歩く。
原田さんは「小説の続きを読みたい」といっていた。だけど同時に一ノ瀬は「言葉で伝えて欲しい」ということも頼まれたのだ。あの言い方からして、二人にしかわからない何かがあるのが一ノ瀬には感じられた。でも、それが何かがわからないのだ。まるで魚の小骨が喉に刺さったままでスッキリしないような感覚である。
ただ、これだけは言えることがある。それは原田さんにはどうしても佐久間さんに会えない理由があるのだということ。それがなにかはわからないのだが、多分それが分かれば原田さんが直接会えない理由もわかってくるだろう。
「今日はメロンパンかなー」
考えながらボーっと歩いているとコンビニに着いた。入ってすぐの棚を右に曲がり、奥のパンのコーナーに向かう。
一ノ瀬は甘党だ。ここのコンビニは自宅から近いし24時間やってるからよく利用していて、きまっていつも買っているのがこのコンビニチェーンオリジナルの「こだわり!菓子パンシリーズ」である。
「お、ラッキー。メロンパンポイント2倍じゃん」
おまけに貧乏性でもある。
一ノ瀬は財布からポイントカードを取り出しレジにパンを置いて店員にカードを渡す。
「そんなに甘いもんばっか食べてると、糖尿になるよ」
「余計なお世話で……って、課長!?」
思わずびっくりして財布を落としてしまった。幸い財布の口はまだ開けてはいない。というか、依頼主との予定をすっぽかした人がなぜココにいる。
「私もお昼買いにきたんだよ」
「え、今なんで…!」
「思ったこと、そのまんま口に出てんぞー」
慌ててパッと口を手で押さえるが、課長にクスクスと笑われ恥ずかしくなり手を下ろす。
「外で待ってて。すぐ行くから」
「え、なんでですか」
「これ、上司命令だから」
そう言われてしまったら仕方がない。こんな感じでも一応自分の上司である。しぶしぶといった感じで一ノ瀬はレジ袋片手に店の外でまっていた。
しばらくして「お待たせ」と声がかかり、ふたりは市役所へと足を進めた。
「原田さん、どうだった?行ってきたんでしょ」
「ええ、だいたい電話の通りでしたよ。まあ、課長が来なかったので業務を完全に遂行できたかは分かりませんが」
語尾を少し強めに言って、課長のほうをジロリとにらむ。だが課長の方はどこ吹く風で「ふーん、そっか」と言うだけであった。まったく、分かっているのかいないのか。このまま引き下がるのもなんだから、と一ノ瀬は続ける。
「だいたい課長は連絡ミスやら遅刻やら、社会人なら当たり前にできなければいけないことができなさすぎます。しかも原田さん、いつものことだからって言ってましたけど当たり前にしちゃダメなんですからね。こんな調子じゃ、仕事にならないじゃないですか。」
なんとか言ったらどうなんですか、と勢いで言えば三井は足を止めて一ノ瀬の顔をじっと見つめる。
「な、なんですか。文句があるんで「わかった」……え?」
「うん、そうだよね。社会人としても上司としてもこのままじゃいけないよね」
三井は一人で納得しているようだが、こちとら何がなんだか分からない。だが改心してくれてはいるようなので良いか、とホッとした。
………が
「じゃあこれからは一ノ瀬の仕事ね、打ち合わせとか。うん、絶対その方が良いわ。…あーなんで気付かなかったんだろう。こんなにも仕事ができやすくなるのに!」
そうだそうしよう、と言いながら三井はスタスタと歩いていく。一方、一ノ瀬は予想外すぎる言葉に開いた口が塞がらなかった。そのため次に発することばが出るまでに幾らか時間がかかってしまった。
「ちょ、待って下さい!」
「何さ」
「いやおかしいでしょ。遅刻しないようにするのが普通でしょうが。何でそれが仕事を俺に丸投げでおわるんですか!」
「何もおかしくはないじゃない。あなたが出来るんなら、それで」
「いや、だから普通は」
「私はあんたにとっての普通とか、わかんないから」
なに言ってんだコイツ、と思い一ノ瀬は呆気に取られる。だが三井はいたって真面目にこう言い放った。
「私は自分にできる仕事をしているわ。当然、今も昔もここの課長は私であって、業務内容を決めるのは私だし勤務形態を決めるのも私。ああ、昨日言ってた仕事内容はキッチリ教えるから心配はいらない」
「いや、心配とかじゃなくて…」
「もし、このことに異論があるなら」
三井はそこで言葉を一度きって、こちらを振り返る。
「まずは目の前にある仕事をきちんとこなせるようになりなさい。人の声に触れるこの仕事がまともに出来るようになったら、あなたが言う“普通”を認めてあげる。そうじゃなきゃ、私は今の状況を変えようとは思わない」
「ぐっ……」
この女、部下だからって俺のことなめやがって。常識的に考えて自分がおかしいということがまったくもって分かっていない。
自分が言ったことは正しいはずなのに、一ノ瀬はなぜか三井の言葉に言い返すことができなかった。そのかわりに思い浮かんだのは昔、幼馴染に言われた言葉だった。
『普通普通って……ハル君の基準に、なんで私が毎回合わせなきゃいけないの!?』
相当昔の記憶だから最近はあまり思い出すことはなかったのに、なぜか今はっきりと頭に浮かんできた。その後自分は何と言ったのか。もう思い出すこともできないが……
「おーい、なにボーっとしてんのー?」
行くよー、とずいぶん遠くに行ってしまった三井の声にハッとし、止まっていた足と思考を再び動かし始めたのだった。
そう言って一ノ瀬は原田さんのマンションを後にした。
結局、ひととおり話が終わっても三井が来ることはなかった。原田さん曰く、
「三井ちゃん、すっかり一ノ瀬くんのこと信頼しちゃってるのねぇ…」と頬に手を添え言っていた。
一ノ瀬は内心(いや、ちがうだろ絶対)と突っ込みつつ、課長のことはこの際置いといて佐久間さんの住所を調べるために一度市役所に戻ることにした。もう時間もお昼時だからコンビニで弁当でも買っていこうと足を市役所とは逆方向に向けた。
コンビニはここから5分とかからない場所にある。土手沿いの真っ直ぐな道を先程の会話を思い返しなから歩く。
原田さんは「小説の続きを読みたい」といっていた。だけど同時に一ノ瀬は「言葉で伝えて欲しい」ということも頼まれたのだ。あの言い方からして、二人にしかわからない何かがあるのが一ノ瀬には感じられた。でも、それが何かがわからないのだ。まるで魚の小骨が喉に刺さったままでスッキリしないような感覚である。
ただ、これだけは言えることがある。それは原田さんにはどうしても佐久間さんに会えない理由があるのだということ。それがなにかはわからないのだが、多分それが分かれば原田さんが直接会えない理由もわかってくるだろう。
「今日はメロンパンかなー」
考えながらボーっと歩いているとコンビニに着いた。入ってすぐの棚を右に曲がり、奥のパンのコーナーに向かう。
一ノ瀬は甘党だ。ここのコンビニは自宅から近いし24時間やってるからよく利用していて、きまっていつも買っているのがこのコンビニチェーンオリジナルの「こだわり!菓子パンシリーズ」である。
「お、ラッキー。メロンパンポイント2倍じゃん」
おまけに貧乏性でもある。
一ノ瀬は財布からポイントカードを取り出しレジにパンを置いて店員にカードを渡す。
「そんなに甘いもんばっか食べてると、糖尿になるよ」
「余計なお世話で……って、課長!?」
思わずびっくりして財布を落としてしまった。幸い財布の口はまだ開けてはいない。というか、依頼主との予定をすっぽかした人がなぜココにいる。
「私もお昼買いにきたんだよ」
「え、今なんで…!」
「思ったこと、そのまんま口に出てんぞー」
慌ててパッと口を手で押さえるが、課長にクスクスと笑われ恥ずかしくなり手を下ろす。
「外で待ってて。すぐ行くから」
「え、なんでですか」
「これ、上司命令だから」
そう言われてしまったら仕方がない。こんな感じでも一応自分の上司である。しぶしぶといった感じで一ノ瀬はレジ袋片手に店の外でまっていた。
しばらくして「お待たせ」と声がかかり、ふたりは市役所へと足を進めた。
「原田さん、どうだった?行ってきたんでしょ」
「ええ、だいたい電話の通りでしたよ。まあ、課長が来なかったので業務を完全に遂行できたかは分かりませんが」
語尾を少し強めに言って、課長のほうをジロリとにらむ。だが課長の方はどこ吹く風で「ふーん、そっか」と言うだけであった。まったく、分かっているのかいないのか。このまま引き下がるのもなんだから、と一ノ瀬は続ける。
「だいたい課長は連絡ミスやら遅刻やら、社会人なら当たり前にできなければいけないことができなさすぎます。しかも原田さん、いつものことだからって言ってましたけど当たり前にしちゃダメなんですからね。こんな調子じゃ、仕事にならないじゃないですか。」
なんとか言ったらどうなんですか、と勢いで言えば三井は足を止めて一ノ瀬の顔をじっと見つめる。
「な、なんですか。文句があるんで「わかった」……え?」
「うん、そうだよね。社会人としても上司としてもこのままじゃいけないよね」
三井は一人で納得しているようだが、こちとら何がなんだか分からない。だが改心してくれてはいるようなので良いか、とホッとした。
………が
「じゃあこれからは一ノ瀬の仕事ね、打ち合わせとか。うん、絶対その方が良いわ。…あーなんで気付かなかったんだろう。こんなにも仕事ができやすくなるのに!」
そうだそうしよう、と言いながら三井はスタスタと歩いていく。一方、一ノ瀬は予想外すぎる言葉に開いた口が塞がらなかった。そのため次に発することばが出るまでに幾らか時間がかかってしまった。
「ちょ、待って下さい!」
「何さ」
「いやおかしいでしょ。遅刻しないようにするのが普通でしょうが。何でそれが仕事を俺に丸投げでおわるんですか!」
「何もおかしくはないじゃない。あなたが出来るんなら、それで」
「いや、だから普通は」
「私はあんたにとっての普通とか、わかんないから」
なに言ってんだコイツ、と思い一ノ瀬は呆気に取られる。だが三井はいたって真面目にこう言い放った。
「私は自分にできる仕事をしているわ。当然、今も昔もここの課長は私であって、業務内容を決めるのは私だし勤務形態を決めるのも私。ああ、昨日言ってた仕事内容はキッチリ教えるから心配はいらない」
「いや、心配とかじゃなくて…」
「もし、このことに異論があるなら」
三井はそこで言葉を一度きって、こちらを振り返る。
「まずは目の前にある仕事をきちんとこなせるようになりなさい。人の声に触れるこの仕事がまともに出来るようになったら、あなたが言う“普通”を認めてあげる。そうじゃなきゃ、私は今の状況を変えようとは思わない」
「ぐっ……」
この女、部下だからって俺のことなめやがって。常識的に考えて自分がおかしいということがまったくもって分かっていない。
自分が言ったことは正しいはずなのに、一ノ瀬はなぜか三井の言葉に言い返すことができなかった。そのかわりに思い浮かんだのは昔、幼馴染に言われた言葉だった。
『普通普通って……ハル君の基準に、なんで私が毎回合わせなきゃいけないの!?』
相当昔の記憶だから最近はあまり思い出すことはなかったのに、なぜか今はっきりと頭に浮かんできた。その後自分は何と言ったのか。もう思い出すこともできないが……
「おーい、なにボーっとしてんのー?」
行くよー、とずいぶん遠くに行ってしまった三井の声にハッとし、止まっていた足と思考を再び動かし始めたのだった。
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