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伝言1
9 バカと天才は紙一重
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「よーし、じゃあ取りあえず佐久間さんの連絡先から探さなきゃね」
「でも今わかっているのは“佐久間ユキ”という名前と原田さんと同学年って情報だけですよね?どうやって探すんですか?」
コンビニから帰ってきた二人は、早速原田さんの伝言を伝えるべく仕事を再開した。
佐久間さんに関する手がかりがあまりにも少なくて探し出すのに苦労するだろうと一ノ瀬は思っていた。だが三井はそんな風ではなくてふむ、と腕を組んで少し考えた後資料室の鍵を一ノ瀬に向かって放り投げた。
「?なんで資料室の鍵なんか…」
「350-s」
「え、何ですか?350…?」
急に言われてもなにがなんだかわからなくて、言われた数字を聞き返す。
「だから、350-s。ほら、行ってきて」
「か、課長…まさかとは思いますけど佐久間さんの伝言なんていいませんよね?」
さすがの課長でも名前だけで住所が分かるわけがないだろうと一ノ瀬は思った。だが三井は至って真面目にこちらを向いて言った。
「そのまさかなんだけど、何?なんか変?」
「……えぇ……嘘でしょ」
信じられない。なんだその特技は。だけどこんな嘘を言っても仕方ないし、なにせ課長の事だ。普通でなくても何らおかしくはない。
まあとにかく、鍵を渡されたということは自分に資料を取って来いということなのだろう。先程の三井の発言に呆気に取られつつも資料室に向かうため、一ノ瀬は伝言課を後にした。
「えーと…350、350…あ、あった」
初日に鍛えられたおかげで迷う事なくお目当ての資料が見つかった。ファイルの背表紙はわずかに日に焼けていて黄ばんでいるが中に綴じてある数枚の紙はきれいな状態のままだった。
どうやら課長の発言どおり佐久間さんの依頼書で間違いなかった。その中の紙を数枚めくると佐久間ユキと細い字で書かれたページを見つける。
「これか……ん?昭和38年…って、まだ課長生まれてないんじゃ…?」
まあ、なぜこんなにも昔にあった依頼を課長が知っていたのかはこの際置いておこう。すべては『課長だから』という言葉で丸く収まるのである。
そのファイルを手に一ノ瀬は少し早足で伝言課へ戻って行った。
「おかえりー。前より時間が掛からなくなったね」
成長してんじゃん、と三井が一ノ瀬の頭に手をポンポンとする。全く、人使いが荒いうえに子供じゃ無いんだしと心の中で吐きつつ「どうも」と少し素っ気ない返事で返す。
「よし、これで佐久間ユキさんの住所分かったし。あとは伝言を伝えるんだけど…」
「だけど…なんです?」
「ただ伝えるだけじゃあ、伝言の意味が無いんだよね。これ、分かる?」
「えーっと……分かるというかわからないというか」
やっぱり、この伝言には言葉だけでは足りない何かがある。課長に原田さんとの会話を説明していて、よりそれを強く感じていた。だが自分がわかるのはここまでだ。それが何かは今の自分にはさっぱりである。
「ふむ。まあ、その込められている何かに気付きそうではあるから今回はよしとするかー」
三井はよしよしと一人納得して奥の部屋に向かっていった。
「課長、佐久間さんへのアポ、自分が取っておいていいですか?」
まだできる仕事は少ないが、これくらいなら出来る。早く他の仕事を教えてもらう為にも積極的にいかねば。そう思って課長に声をかけると「よろしくー」と返ってきた。
自分のデスク(といっても部屋の殆どを棚が占めていて、奥に放置されていた小さな机と椅子しか置けなかったのだが)においてある電話を手にとり、書かれている番号に電話をかける。
呼び出し音が数回鳴って、『はい、長野ですが』という声が聞こえてきた。
(あれ?佐久間さんじゃない…まさか、引越ししたのか?)
一応、確認はしなければならないため「こんにちは、さかえ市役所のものです」と声をかける。すると少し間があいてから『…どのようなご用件でしょうか』と聞こえた。どうやら詐欺まがいだろうかと警戒しているようだ。
「突然すみません、伝言課の一ノ瀬と申します。実は原田ミサキ様からのご依頼で佐久間ユキさんという方を探しているのですが、心当たりはございませんか?」
なるべく丁寧に事情を説明すると佐久間さんは警戒を解いたようで『ああ、原田さんから…』と言って、こちらの事を理解してくれたようだ。
『佐久間ユキは私です。佐久間は旧姓で現在は長野でございます』
「ああ、成る程…旧姓だったんですね」
資料からしばらく経っていたため、気づかなかったがなるほど。結婚で苗字が変わったということを考えていなかった。住所が変わっていないようで良かった。
『あの、さっき原田さんからの伝言がどうとかって…』
「はい、先日原田ミサキ様からの伝言を承りまして原田様の要望で直接お会いしたく思っておりまして」
『あら、そうなの。じゃあ、原田さんとお会いしなくちゃいけないのかしら』
「いえ、今回は伝言を直接伝えて欲しいとのご依頼でしたので伝言課の職員が伺う予定です」
『そう……じゃあ、申し訳ないんだけれど日時と場所をこちらで決めても良いかしら?』
「はい、勿論そのようで構いません」
『どうもありがとう。……そうねぇ、明後日の午後3時なんてどうかしら?その時間からならずっと予定が空いてるわ』
「分かりました。では明後日の午後3時からですね。場所はどうなさいますか?」
『ええと、場所はクイーンズホテルのカフェはどうかしら』
「はい、かしこまりました。では明後日の午後3時、クイーンズホテルのカフェですね。もしもご都合が悪くなるようでしたらさかえ市役所伝言課にご連絡ください。はい、では失礼します」
ガチャンと受話器を置き、日時と場所をメモにとって課長に渡す。
「課長ー、佐久間さんとのアポが……って、うわっ!」
先程課長が入っていった奥の部屋を覗くと、電話をする前までは綺麗な部屋だったはずがたった数分の間に資料が机の上に乱雑に広げられ、床には机に乗りきれなくてこぼれ落ちた紙やらファイルやらが散らばっている見るにも無残な状態になっていた。
「あ、アポ取れた?ありがとー。とりあえずそこら辺に置いといて」
そこら辺と指をさされた場所は三段全てが出された木製の引き出しの上であり、こんなところにメモを置いてしまっては数分で紛失確定である。
「…もう、せっかく俺が片付けたのにぃ……」
なんだか散らかり具合が半端じゃなさすぎて怒りではなく呆れが出てきてしまい「はあ…」とため息が出る一ノ瀬であった。
「一ノ瀬?どったの?」
「あんたのせいですよ、あんたの…!」
「??」
「でも今わかっているのは“佐久間ユキ”という名前と原田さんと同学年って情報だけですよね?どうやって探すんですか?」
コンビニから帰ってきた二人は、早速原田さんの伝言を伝えるべく仕事を再開した。
佐久間さんに関する手がかりがあまりにも少なくて探し出すのに苦労するだろうと一ノ瀬は思っていた。だが三井はそんな風ではなくてふむ、と腕を組んで少し考えた後資料室の鍵を一ノ瀬に向かって放り投げた。
「?なんで資料室の鍵なんか…」
「350-s」
「え、何ですか?350…?」
急に言われてもなにがなんだかわからなくて、言われた数字を聞き返す。
「だから、350-s。ほら、行ってきて」
「か、課長…まさかとは思いますけど佐久間さんの伝言なんていいませんよね?」
さすがの課長でも名前だけで住所が分かるわけがないだろうと一ノ瀬は思った。だが三井は至って真面目にこちらを向いて言った。
「そのまさかなんだけど、何?なんか変?」
「……えぇ……嘘でしょ」
信じられない。なんだその特技は。だけどこんな嘘を言っても仕方ないし、なにせ課長の事だ。普通でなくても何らおかしくはない。
まあとにかく、鍵を渡されたということは自分に資料を取って来いということなのだろう。先程の三井の発言に呆気に取られつつも資料室に向かうため、一ノ瀬は伝言課を後にした。
「えーと…350、350…あ、あった」
初日に鍛えられたおかげで迷う事なくお目当ての資料が見つかった。ファイルの背表紙はわずかに日に焼けていて黄ばんでいるが中に綴じてある数枚の紙はきれいな状態のままだった。
どうやら課長の発言どおり佐久間さんの依頼書で間違いなかった。その中の紙を数枚めくると佐久間ユキと細い字で書かれたページを見つける。
「これか……ん?昭和38年…って、まだ課長生まれてないんじゃ…?」
まあ、なぜこんなにも昔にあった依頼を課長が知っていたのかはこの際置いておこう。すべては『課長だから』という言葉で丸く収まるのである。
そのファイルを手に一ノ瀬は少し早足で伝言課へ戻って行った。
「おかえりー。前より時間が掛からなくなったね」
成長してんじゃん、と三井が一ノ瀬の頭に手をポンポンとする。全く、人使いが荒いうえに子供じゃ無いんだしと心の中で吐きつつ「どうも」と少し素っ気ない返事で返す。
「よし、これで佐久間ユキさんの住所分かったし。あとは伝言を伝えるんだけど…」
「だけど…なんです?」
「ただ伝えるだけじゃあ、伝言の意味が無いんだよね。これ、分かる?」
「えーっと……分かるというかわからないというか」
やっぱり、この伝言には言葉だけでは足りない何かがある。課長に原田さんとの会話を説明していて、よりそれを強く感じていた。だが自分がわかるのはここまでだ。それが何かは今の自分にはさっぱりである。
「ふむ。まあ、その込められている何かに気付きそうではあるから今回はよしとするかー」
三井はよしよしと一人納得して奥の部屋に向かっていった。
「課長、佐久間さんへのアポ、自分が取っておいていいですか?」
まだできる仕事は少ないが、これくらいなら出来る。早く他の仕事を教えてもらう為にも積極的にいかねば。そう思って課長に声をかけると「よろしくー」と返ってきた。
自分のデスク(といっても部屋の殆どを棚が占めていて、奥に放置されていた小さな机と椅子しか置けなかったのだが)においてある電話を手にとり、書かれている番号に電話をかける。
呼び出し音が数回鳴って、『はい、長野ですが』という声が聞こえてきた。
(あれ?佐久間さんじゃない…まさか、引越ししたのか?)
一応、確認はしなければならないため「こんにちは、さかえ市役所のものです」と声をかける。すると少し間があいてから『…どのようなご用件でしょうか』と聞こえた。どうやら詐欺まがいだろうかと警戒しているようだ。
「突然すみません、伝言課の一ノ瀬と申します。実は原田ミサキ様からのご依頼で佐久間ユキさんという方を探しているのですが、心当たりはございませんか?」
なるべく丁寧に事情を説明すると佐久間さんは警戒を解いたようで『ああ、原田さんから…』と言って、こちらの事を理解してくれたようだ。
『佐久間ユキは私です。佐久間は旧姓で現在は長野でございます』
「ああ、成る程…旧姓だったんですね」
資料からしばらく経っていたため、気づかなかったがなるほど。結婚で苗字が変わったということを考えていなかった。住所が変わっていないようで良かった。
『あの、さっき原田さんからの伝言がどうとかって…』
「はい、先日原田ミサキ様からの伝言を承りまして原田様の要望で直接お会いしたく思っておりまして」
『あら、そうなの。じゃあ、原田さんとお会いしなくちゃいけないのかしら』
「いえ、今回は伝言を直接伝えて欲しいとのご依頼でしたので伝言課の職員が伺う予定です」
『そう……じゃあ、申し訳ないんだけれど日時と場所をこちらで決めても良いかしら?』
「はい、勿論そのようで構いません」
『どうもありがとう。……そうねぇ、明後日の午後3時なんてどうかしら?その時間からならずっと予定が空いてるわ』
「分かりました。では明後日の午後3時からですね。場所はどうなさいますか?」
『ええと、場所はクイーンズホテルのカフェはどうかしら』
「はい、かしこまりました。では明後日の午後3時、クイーンズホテルのカフェですね。もしもご都合が悪くなるようでしたらさかえ市役所伝言課にご連絡ください。はい、では失礼します」
ガチャンと受話器を置き、日時と場所をメモにとって課長に渡す。
「課長ー、佐久間さんとのアポが……って、うわっ!」
先程課長が入っていった奥の部屋を覗くと、電話をする前までは綺麗な部屋だったはずがたった数分の間に資料が机の上に乱雑に広げられ、床には机に乗りきれなくてこぼれ落ちた紙やらファイルやらが散らばっている見るにも無残な状態になっていた。
「あ、アポ取れた?ありがとー。とりあえずそこら辺に置いといて」
そこら辺と指をさされた場所は三段全てが出された木製の引き出しの上であり、こんなところにメモを置いてしまっては数分で紛失確定である。
「…もう、せっかく俺が片付けたのにぃ……」
なんだか散らかり具合が半端じゃなさすぎて怒りではなく呆れが出てきてしまい「はあ…」とため息が出る一ノ瀬であった。
「一ノ瀬?どったの?」
「あんたのせいですよ、あんたの…!」
「??」
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