11 / 13
伝言1
10 達成感よりモヤモヤ感
しおりを挟む
そして約束の日。一ノ瀬は指定された場所であるホテルのカフェに30分前くらいに着いて、資料の確認をしていた。
「今回は逃しませんでしたよ、課長」
「あーあ。捕まっちったかー」
前回のように三井が遅刻しないように、一ノ瀬はしっかりと課長を捕まえていた。 いやいやな様子からは三井が今日も約束に来ないつもりであったことが一目瞭然である。
「さすがの課長でも午後まで出社しないなんてことはありませんからね。今回こそはしっかりと同席していただきます」
「へいへい。そりゃ綿密な計画なことで」
「そんなに嫌そうな顔をしないで下さい、これは仕事ですよ。しかも課長は今回隣に座ってるだけでいいんですから文句を言う筋合いないですからね」
「うー…一ノ瀬がだんだん賢くなってる」
「な、なんですかその嫌な言い方は。俺だってもういい歳なんだし、仕事はしっかり覚えますよ?」
「……いや、これ褒めてないし。まあこれから教育し直すからいっか」
「なんなんですか、本当に。まあ、課長はしっかり確保しましたし、今日のとこは大目に見ましょう」
「お前……わかってはいるだろうが、私は一応上司なんだからな?」
少し、いやかなり気分が良い一ノ瀬は三井の話は全く耳に入っていない様子で、ほくほく顔で依頼人をまっていた。
「課長、コーヒーかなにか頼まれますか?まだ約束の時間まで20分くらいはありますから」
「そうだね。……うーん、一ノ瀬と同じもんでいいかなぁ」
「え、そんな適当でいいんですか?…ええと、じゃあアイスカフェオレでいいですか?」
「うん、じゃあそれで」
「すみませーん!」
そうしてアイスカフェオレを2つ頼み、課長と暫くおしゃべりをしていると、佐久間さんがやって来て追加でコーヒーを頼んだところで「それでは」と一ノ瀬が話しをきり出した。
「この度はわざわざ出向いて頂きありがとうございます」
「いえ、本当はこちらが原田さんに直接お返ししなきゃいけないのにわざわざ市役所の方に取りに来ていただくなんて。こちらこそどうもありがとう」
佐久間さんはニコッと柔らかく微笑んでこちらに軽くお辞儀をした。
にしても、電話で聞いた声のイメージではもっと気の強いタイプなのかな、と思っていだがどうやら大分警戒されていたみたいだ。今こうして面と向かって話しをしていると佐久間さんもその警戒を解いてくれているのが分かる。
「それでは早速、ご依頼のお品をお預かりしたいのですが」
「はい……この本です。確認をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください…」
そうして預かった本のタイトルと原田さんからもらった本のリストのメモを照らし合わせていると、佐久間さんがあの、と口を開いた。
「原田さん、お元気ですか?」
「はい、お元気ですよ。私がお伺いしたのも数日前ですが、さかえ市に新しく建設された高齢者用マンションで旦那さんとお二人でお過ごしのようです」
「そうなんですね……失礼かもしれないけど、一ノ瀬さんがお伺いされた時ヘルパーさんなんかいましたか?」
「?いいえ、原田さんお一人のようでしたよ。高齢者用マンションですので、ヘルパーさんを利用される方も多いみたいですが…」
一ノ瀬はそう言いながら疑問に思った。この依頼があった時点で原田さんが健在なのは分かることだし、第一同窓会でばったり会って本を貸し借りしただけの仲だ。そんなに何度も自分に尋ねてるほど、相手の事が気になるのは少し不自然だと思った。
原田さんが言っていた本と同じもので、どうやら間違いなさそうだ。一ノ瀬は依頼完了の書類を出して、佐久間さんに署名してもらう。今日市役所を出る前に三井が依頼完了したら先方と依頼主のサインがいる、と教えてくれたのだ。
「はい、ありがとうございました。ではこちらは私どもがしっかりと原田さんにお渡しいたします」
「はい。よろしくお願いします」
そうして佐久間さんが席を立ち、自分も後を追って立とうとした。
すると今まで黙っていた(大人しく座っていた)三井が「原田さんは」と言って顔を上げた。
「原田さんは、お元気です。最近は少し杖をついていらっしゃいますが、積極的に外に出ていらっしゃるようです。」
課長がそう言うと原田さんはこちらを振り返ってすこし驚いたような表情になった。
「そうですか……よかったです」
そう言って、佐久間さんは安心したように微笑んで「それでは」とカフェを後にした。
一ノ瀬は、なにがなんだか分からなかった。課長はなぜあんなことを突然言ったのだろうか?そもそも杖とは?自分が原田さんに会ったときはそんな素振りは一度もなかったはずだ。
「……そこに直接会えない理由が、あった…?」
すると急に課長が自分の顔を覗き込んで来た。どうやら知らないうちに下を向いて考え込んでいたみたいだ。これは自分の癖である。
「なんか納得できない、って顔してるね」
課長はにんまりとしてそう言った。
「課長!原田さんはどうして「はいはい、がっつくながっつくな。詳しくは庁舎に戻ってから……ね?」
「…はい」
そうして最初よりも大きなモヤモヤ感を持って、一ノ瀬は飲みかけのカフェオレをそのままにホテルを出たのだった。
「今回は逃しませんでしたよ、課長」
「あーあ。捕まっちったかー」
前回のように三井が遅刻しないように、一ノ瀬はしっかりと課長を捕まえていた。 いやいやな様子からは三井が今日も約束に来ないつもりであったことが一目瞭然である。
「さすがの課長でも午後まで出社しないなんてことはありませんからね。今回こそはしっかりと同席していただきます」
「へいへい。そりゃ綿密な計画なことで」
「そんなに嫌そうな顔をしないで下さい、これは仕事ですよ。しかも課長は今回隣に座ってるだけでいいんですから文句を言う筋合いないですからね」
「うー…一ノ瀬がだんだん賢くなってる」
「な、なんですかその嫌な言い方は。俺だってもういい歳なんだし、仕事はしっかり覚えますよ?」
「……いや、これ褒めてないし。まあこれから教育し直すからいっか」
「なんなんですか、本当に。まあ、課長はしっかり確保しましたし、今日のとこは大目に見ましょう」
「お前……わかってはいるだろうが、私は一応上司なんだからな?」
少し、いやかなり気分が良い一ノ瀬は三井の話は全く耳に入っていない様子で、ほくほく顔で依頼人をまっていた。
「課長、コーヒーかなにか頼まれますか?まだ約束の時間まで20分くらいはありますから」
「そうだね。……うーん、一ノ瀬と同じもんでいいかなぁ」
「え、そんな適当でいいんですか?…ええと、じゃあアイスカフェオレでいいですか?」
「うん、じゃあそれで」
「すみませーん!」
そうしてアイスカフェオレを2つ頼み、課長と暫くおしゃべりをしていると、佐久間さんがやって来て追加でコーヒーを頼んだところで「それでは」と一ノ瀬が話しをきり出した。
「この度はわざわざ出向いて頂きありがとうございます」
「いえ、本当はこちらが原田さんに直接お返ししなきゃいけないのにわざわざ市役所の方に取りに来ていただくなんて。こちらこそどうもありがとう」
佐久間さんはニコッと柔らかく微笑んでこちらに軽くお辞儀をした。
にしても、電話で聞いた声のイメージではもっと気の強いタイプなのかな、と思っていだがどうやら大分警戒されていたみたいだ。今こうして面と向かって話しをしていると佐久間さんもその警戒を解いてくれているのが分かる。
「それでは早速、ご依頼のお品をお預かりしたいのですが」
「はい……この本です。確認をお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください…」
そうして預かった本のタイトルと原田さんからもらった本のリストのメモを照らし合わせていると、佐久間さんがあの、と口を開いた。
「原田さん、お元気ですか?」
「はい、お元気ですよ。私がお伺いしたのも数日前ですが、さかえ市に新しく建設された高齢者用マンションで旦那さんとお二人でお過ごしのようです」
「そうなんですね……失礼かもしれないけど、一ノ瀬さんがお伺いされた時ヘルパーさんなんかいましたか?」
「?いいえ、原田さんお一人のようでしたよ。高齢者用マンションですので、ヘルパーさんを利用される方も多いみたいですが…」
一ノ瀬はそう言いながら疑問に思った。この依頼があった時点で原田さんが健在なのは分かることだし、第一同窓会でばったり会って本を貸し借りしただけの仲だ。そんなに何度も自分に尋ねてるほど、相手の事が気になるのは少し不自然だと思った。
原田さんが言っていた本と同じもので、どうやら間違いなさそうだ。一ノ瀬は依頼完了の書類を出して、佐久間さんに署名してもらう。今日市役所を出る前に三井が依頼完了したら先方と依頼主のサインがいる、と教えてくれたのだ。
「はい、ありがとうございました。ではこちらは私どもがしっかりと原田さんにお渡しいたします」
「はい。よろしくお願いします」
そうして佐久間さんが席を立ち、自分も後を追って立とうとした。
すると今まで黙っていた(大人しく座っていた)三井が「原田さんは」と言って顔を上げた。
「原田さんは、お元気です。最近は少し杖をついていらっしゃいますが、積極的に外に出ていらっしゃるようです。」
課長がそう言うと原田さんはこちらを振り返ってすこし驚いたような表情になった。
「そうですか……よかったです」
そう言って、佐久間さんは安心したように微笑んで「それでは」とカフェを後にした。
一ノ瀬は、なにがなんだか分からなかった。課長はなぜあんなことを突然言ったのだろうか?そもそも杖とは?自分が原田さんに会ったときはそんな素振りは一度もなかったはずだ。
「……そこに直接会えない理由が、あった…?」
すると急に課長が自分の顔を覗き込んで来た。どうやら知らないうちに下を向いて考え込んでいたみたいだ。これは自分の癖である。
「なんか納得できない、って顔してるね」
課長はにんまりとしてそう言った。
「課長!原田さんはどうして「はいはい、がっつくながっつくな。詳しくは庁舎に戻ってから……ね?」
「…はい」
そうして最初よりも大きなモヤモヤ感を持って、一ノ瀬は飲みかけのカフェオレをそのままにホテルを出たのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる