はい、こちら伝言課

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伝言1

10 達成感よりモヤモヤ感

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 そして約束の日。一ノ瀬は指定された場所であるホテルのカフェに30分前くらいに着いて、資料の確認をしていた。

「今回は逃しませんでしたよ、課長」

「あーあ。捕まっちったかー」

 前回のように三井が遅刻しないように、一ノ瀬はしっかりと課長を捕まえていた。 いやいやな様子からは三井が今日も約束に来ないつもりであったことが一目瞭然である。

「さすがの課長でも午後まで出社しないなんてことはありませんからね。今回こそはしっかりと同席していただきます」

「へいへい。そりゃ綿密な計画なことで」

「そんなに嫌そうな顔をしないで下さい、これは仕事ですよ。しかも課長は今回隣に座ってるだけでいいんですから文句を言う筋合いないですからね」

「うー…一ノ瀬がだんだん賢くなってる」

「な、なんですかその嫌な言い方は。俺だってもういい歳なんだし、仕事はしっかり覚えますよ?」

「……いや、これ褒めてないし。まあこれから教育し直すからいっか」

「なんなんですか、本当に。まあ、課長はしっかり確保しましたし、今日のとこは大目に見ましょう」

「お前……わかってはいるだろうが、私は一応上司なんだからな?」
 
 少し、いやかなり気分が良い一ノ瀬は三井の話は全く耳に入っていない様子で、ほくほく顔で依頼人をまっていた。

「課長、コーヒーかなにか頼まれますか?まだ約束の時間まで20分くらいはありますから」

「そうだね。……うーん、一ノ瀬と同じもんでいいかなぁ」

「え、そんな適当でいいんですか?…ええと、じゃあアイスカフェオレでいいですか?」

「うん、じゃあそれで」

「すみませーん!」

 そうしてアイスカフェオレを2つ頼み、課長と暫くおしゃべりをしていると、佐久間さんがやって来て追加でコーヒーを頼んだところで「それでは」と一ノ瀬が話しをきり出した。

「この度はわざわざ出向いて頂きありがとうございます」

「いえ、本当はこちらが原田さんに直接お返ししなきゃいけないのにわざわざ市役所の方に取りに来ていただくなんて。こちらこそどうもありがとう」

 佐久間さんはニコッと柔らかく微笑んでこちらに軽くお辞儀をした。

 にしても、電話で聞いた声のイメージではもっと気の強いタイプなのかな、と思っていだがどうやら大分警戒されていたみたいだ。今こうして面と向かって話しをしていると佐久間さんもその警戒を解いてくれているのが分かる。

「それでは早速、ご依頼のお品をお預かりしたいのですが」

「はい……この本です。確認をお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください…」

 そうして預かった本のタイトルと原田さんからもらった本のリストのメモを照らし合わせていると、佐久間さんがあの、と口を開いた。

「原田さん、お元気ですか?」

「はい、お元気ですよ。私がお伺いしたのも数日前ですが、さかえ市に新しく建設された高齢者用マンションで旦那さんとお二人でお過ごしのようです」

「そうなんですね……失礼かもしれないけど、一ノ瀬さんがお伺いされた時ヘルパーさんなんかいましたか?」

「?いいえ、原田さんお一人のようでしたよ。高齢者用マンションですので、ヘルパーさんを利用される方も多いみたいですが…」

 一ノ瀬はそう言いながら疑問に思った。この依頼があった時点で原田さんが健在なのは分かることだし、第一同窓会でばったり会って本を貸し借りしただけの仲だ。そんなに何度も自分に尋ねてるほど、相手の事が気になるのは少し不自然だと思った。

  原田さんが言っていた本と同じもので、どうやら間違いなさそうだ。一ノ瀬は依頼完了の書類を出して、佐久間さんに署名してもらう。今日市役所を出る前に三井が依頼完了したら先方と依頼主のサインがいる、と教えてくれたのだ。

「はい、ありがとうございました。ではこちらは私どもがしっかりと原田さんにお渡しいたします」

 「はい。よろしくお願いします」

 そうして佐久間さんが席を立ち、自分も後を追って立とうとした。

すると今まで黙っていた(大人しく座っていた)三井が「原田さんは」と言って顔を上げた。

「原田さんは、お元気です。最近は少し杖をついていらっしゃいますが、積極的に外に出ていらっしゃるようです。」

  課長がそう言うと原田さんはこちらを振り返ってすこし驚いたような表情になった。

「そうですか……よかったです」

 そう言って、佐久間さんは安心したように微笑んで「それでは」とカフェを後にした。

 一ノ瀬は、なにがなんだか分からなかった。課長はなぜあんなことを突然言ったのだろうか?そもそも杖とは?自分が原田さんに会ったときはそんな素振りは一度もなかったはずだ。

「……そこに直接会えない理由が、あった…?」

 すると急に課長が自分の顔を覗き込んで来た。どうやら知らないうちに下を向いて考え込んでいたみたいだ。これは自分の癖である。

「なんか納得できない、って顔してるね」

 課長はにんまりとしてそう言った。

「課長!原田さんはどうして「はいはい、がっつくながっつくな。詳しくは庁舎に戻ってから……ね?」

「…はい」

 そうして最初よりも大きなモヤモヤ感を持って、一ノ瀬は飲みかけのカフェオレをそのままにホテルを出たのだった。
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