黄昏一番星

更科二八

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1章 呪いの女

234話 旅の初日

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「あはははは!遅いよー」
「お前たちが早すぎる!」

ギルダナから南へ向かい1番近い宿場の村リヴァ。
馬車で5時間程だと言わせていたこの村に俺は1時間もせずに辿り着いたのだが、馬に乗ったライアンとトレイにはすっかり置いて行かれてしまっていた。
氣で強化した馬は全力の倍の速度で走り続けたようだし、身軽で普段から走り慣れて足には自信があると言うトレイもこの間訓練所まで走った時とは比べようもない速度で走った。
俺もトレイと同じ強化をかけていたのにかなり差が開いてしまった。
身体能力あげようが俺は依然として足が遅かった。
それでも5時間の距離を1時間以内に走り切ったわけだが。

「馬は大丈夫だったか?」
「へーきへーき!まだ物足りないって感じだね。いやーこんなに爽快だなんて知らなかったよ。僕も付与魔法系のスキルもっと増やそうかな」
「スキルってそんな自由に取れる物なのか?」
「攻撃魔法系とか付与や耐性系は取得方法がけっこう見つかってるんだよ」
「ほーう、テイムスキルも覚えられるのか?」
「それは僕がスキル覚えた時からついてきたやつ。テイムスキルの習得方はまだ見つかってないね」
「という事はライアンの資質か、いいのを引いたな」

スキル魔法というのは本人の資質に合わせて魔法を授けてくれる。
普通に魔法を使うのと違い、スキルによる魔法は魔力操作や理論などは必要なく感覚的に使えるそうだ。
それにまだ魔法として使えないようなものまでスキルの魔法は使えてしまう。
テイムスキルもその一つで魔物や動物の使役などは現在ある魔法ではできない。

「街中ではあまり使う事もないから微妙だよ。いいところは動物に好かれやすかったり意思がわかるぐらいさ」
「隣のグラスマルクではテイムスキル持ちを集めて魔獣兵やワイバーンの飛行部隊とか作ってるとか聞いた事あるっすよ」
「物騒だなーと思ってたけど、これだけ速度出すのが楽しいなら僕もワイバーンほしいなー」

笑いながら爆速で駆けていったライアンにはワイバーン持たせて大丈夫なのだろうか、少し不安だ。

「それじゃ宿探すか、空いてればいいが」
「それが厳しそうだよ。待ってる間に何軒か聞いたけど、聖女の移動に合わせて動く商人が多いみたいで、今はどの宿も満室だって」
「そこまでか多いのか」

これはある程度予想できていた事なのだが、この宿場は比較的大きいので大丈夫だろうと思っていた。
まだ日のあるうちからこれなのだから、夕方になればもっと人が混みそうだ。
最初から見立ての甘さが出てしまったな。

「野営地の方はまだ空きあるんじゃないっすか?」
「あるけど、うちの兵士団の先遣隊が半分ほど陣取ってたよ」
「俺らも一応遊軍扱いなんだろ、やましい事はないから近所を使わせてもらうか」
「そっすね、どのみち暫くは野営続きになるっすから慣れておきたいっすね」
「僕は泊まれるなら宿がよかったよー」

俺もトレイもそれには同意だ。
野営続きとなれば当然疲れも出てくるので休める時は休んでおきたいと思うのは自然な事だ。

野営地まで移動した後は兵士団に比較的近い場所を陣取った。
兵士団の周りには既に多くの商人や護衛などが集まり陣取っていた。
夜の見張りを兵士団にあやかろうという魂胆だ。
兵士団もそれが勤めなので嫌な顔はしない。

「夕方になればここも埋まりそうだな」
「そっすねー早めにこれて正解っす」
「それじゃ俺は何か食えそうな肉取ってくるから、適当にしといてくれ」
「期待してるよー」

天幕などは各々が持っているので、野営の準備をする間に俺は食材確保に動くことにした。
数日ぶんの保存食はあるが温存の為にこうやって現地調達もやっていく。
他にも明日モーガン達が動く時には馬車に食材なども積んできてくれることになっている。

一旦宿場を離れて周りに広がる農地を散策する。
流石にこの辺りには魔物はいないので狙うのは鳥や害獣などだ。
氣を大きく広げて探ると近くの池に鳥が数羽見つかった。
池まで行き姿を見ると予想した通り鴨だった。水の上に浮かぶ鴨を3羽水魔法で捉えて引き寄せてからサクッと絞める。
羽を毟ったり解体等の処理は全部この場でやってしまった。
羽むしるのが実にめんどくさい。
色々魔法を駆使してみるもちょうどいいものがないので根気がいる。
それでも1時間半程で下処理を終えてトレイ達の元へ戻った。

「鴨とってきた」
「おかえりっす」

野営地ではトレイとライアンは2つの天幕を出して馬の世話をしていた。

「どうやって食うの?」
「とりあえず煮る」
「美味くなるよね?」
「タイガ料理できるんすか?」
「まあ任せとけ」

2人に疑念の目を向けられながら俺は料理の準備をしていく。
野営地の一角に置かれているレンガをいくつか持ってきて鍋を置く場所を作る。
深鍋を一つと炒め煮のできる鍋を一つ横並びに起き、深鍋の方は下から火魔法で温める。
深鍋に水を入れて鴨の骨とねぎの青い部分を入れてしばらく煮込む。

「凄い、ちゃんとしてる気がする!」
「まだ骨を煮出しただけだろ」
「骨って煮るんすね」

これでわかったがこの2人絶対料理しないな。
骨を煮ている間に野菜も切っておく。
使うのはさっき青いところを外したネギと蕪。
ナイフは使わずに風魔法でささっと切る。
一瞬で終わったので暇になった。
まだ日は高いので無理に急ぐ事もない。
食材に保存の魔法をかけて置いておき俺も天幕を立てた。
骨からしっかりと出汁がでていい具合になってきたら骨は取り出して鴨肉を半分と蕪と塩を入れて更に煮込む。
炒め煮用の鍋も火にかけて、植物油を入れて温めたら鴨肉の残り半分とにんにく、生姜、丁子、唐辛子入れて炒める。焦げ目がついてきたら鍋に魚醤と水、麦芽糖を入れて蓋をして煮込む。

「本当に料理できるんだねー」
「だろ、小さい時から料理はしてたからまあまあマシなもんは作れるぞ」
「よかったー不安だったんだよねー」
「2人はいいっすよねー俺は先行して進むから携帯食ばっかになりそうっす」
「余裕あれば合流してもいいだろう。半月も携帯食ばかりでは辛いだろ」
「そうしたいっすね」

通常、旅の食事というと携帯食や宿場の宿などの飯なのだが、商隊やチームのワーカー達などは野営地でも食事を作ったりする。
既にこの野営地でも食事の支度をするものが多い。
変わったところだと乗合馬車が食事の支度をしている姿もある。

俺たちの料理の方に戻り、炒め煮の方の水分が半分ほどになったら火を強めて焦げないように混ぜながら水分を飛ばしていく。
水分が少なくなる時に斜めに刻んだネギを入れて少ししんなりするまで炒めて完成。
深鍋の方も蕪が煮えているのを確認して味見し、塩を少し出して味を整えたら完成。

「出来たぞ」
「おおーいい匂いっすね!」

敷物を敷き場所を作ると3人分取り分ける。そして荷物から薄焼きのパンを出して渡せば食事の支度は完了だ。

「全部任せっきりで悪いっすね」
「俺も料理は嫌いじゃないから気にしないさ」
「おお、うめえこれ!」

鴨と蕪のスープを飲んだライアンからは早速高評価だ。
俺も食べてみると、分かっていたが美味い。
高温で煮出したスープは白濁していてかなり出汁が効いている。
そして鴨肉も蕪もしっかりと煮えてほろほろになって味もしっかり染みている。
塩味しかつけていないが余計なことしなくてもめちゃくちゃ美味い。

「こっちもピリ辛で美味いっすね。パンに合うっす」

甘辛くした鴨肉の炒め物は俺が思ってた通りパンにピッタリだ。
煮込んだおかげで肉も柔らかく、ニンニクと丁子の香りが鼻を抜け、ピリ辛具合が食欲をそそる。
食感を残したネギも香りがよくいいアクセントになっている。

「気に入ってもらえたようで良かった」
「マジで美味いっす、タイガが料理できて本当よかったっす!」
「本当だねー、肉とってくるっていった時はそのまま丸ごと出てきたりしないか心配だったよ」
「前いたところでは鴨丸焼きの料理あったな、材料があれば作ってもいいな」
「作る時は呼んでほしいっす!」
「食った!お代わりしてもいいかい?」
「おう、まだあるからどんどん食え。スープの方は明日の朝も使うから少し残しといてくれ」

速攻で間に食い終わったライアンに追加分を入れてやるとトレイも食い終わり追加を渡す。
兵士2人は細身なくせしてやたら食う。
俺の分が無くなりそうなので俺も早めのペースで食い、あっという間に完食したのだった。
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