黄昏一番星

更科二八

文字の大きさ
452 / 519
3章 バーンデッドディザスター

449話 術中

しおりを挟む
氣の精度を磨く鍛錬の中には目を隠し耳を塞いだ状態での稽古もある。
氣の感覚のみで相手の動きを察知して立ち回るものだが、相手も達人クラスになってくると当然のように気配を消して向かってくる。
そうなると相手の気配以外のあらゆるものをくまなく感じ取り変化を見つけて対応せざるを得なくなる。

俺は産まれてこのかた72年のうちの殆どを氣や剣技の鍛錬に費やしてきた。
騎士の家に生まれ、人々を守る役目を果たす為には自身を鍛える事は当然であるし、自分自身武を極めるという事は好きだった。
才能で言えば俺以上なんていくらでもいるだろう。
でも長い経験上才能や実力差を努力で覆すという事をなん度も見てきたし、体験もある。
逆境などなんのその、心を燃やして折れないものが最後に勝つ。

俺は雪の積もる森の中を全速力で走る。
極北の国のルスウェーの騎士にはこんな足元の悪さは慣れたもの。
相手の魔導士も逃げてはいるがそれほど早くはない。俺が魔導士と対峙するまでにはそう時間は掛からなかった。
とはいえ俺は魔導士を認識出来ない魔法を受けてしまっている為姿の視認はできないが、目の前にいることは雪についた足跡や衣類の擦れる音、空気の流れ、などで感じ取れる。

「なんで分かるんだよめんどくせーな!」

魔導士はよほど自分のかけた認識出来なくなる魔法に自信があったのか、焦る様子で悪態をつく。

「舐められたものだな。覚悟!」

見えない相手に告げると同時に接近を試みる。しかし魔導士の魔法も早く俺の進路に燃え盛る土壁が出現して道を塞いだ。

「それがどうした!」

俺は歩みを止めることなく壁を剣で一薙ぎして魔導士の方へ切り飛ばす。

「うわっ!」

自分の魔法を利用された攻撃を魔導士はなんとか交わしていたようだが、更に追い討ちで、俺が道中に拾っておいた木の小枝を投げ撃つ。

「くっ!」

小枝はしっかりと魔導士に命中すると同時に俺の視界にも魔導士の姿が見えるようになった。
普人族の小柄な女で、雪景色の森には目立ちすぎる黒い分厚いローブ姿だ。
なんで姿が見えるようになったのかだが、認識出来ないという魔法の前提が俺のこれまでの行動で崩れ、攻撃を当てた事で意味をなさなくなったから魔法が解けたのだろう。

姿が見えて認識できるようになれば好都合。一瞬で強力な殺気を放ち、行動を否定し、素早く接近すると上段から思いっきり殺気を込めた剣で魔導士を真っ二つに切り捨てた。

「くそっ」

今度は俺が悪態を放つ。
認識が出来た時点で気がついたが、この魔導士は魔法で出来た人形だった。俺はまんまと偽物を追わされていた。

「ふふふ、頑張ったのに残念だったな。ここは俺の領域だ、テメェらが自由になる事はねえ。久々の客だ。じっくりと可愛がってやるよ」

どこからともなく魔導士の言葉が響いてくる。
状況が悪い。俺が氣で感じ取れる範囲全てをくまなく探しても何の手がかりもない。
魔導士はおそらくずっと遠くから俺の行動を監視し、遠隔で魔法を行使している。
魔導士の言葉には得体の知れないものを感じる。
強力な魔導士がいる想定はあったが、俺が思っていたよりもずっと強い。
それに魔導士の言葉は俺だけとは言っていない事も気がかりだ。

「気になるよな。テメェの連れの魔人族の女は既に捕らえさせてもらったぜ」
「!」
「ははは!助けたいか?助けたいよなー仲間だもんな。取り返しに来いよ、探してみろよ、遊ぼうぜ」
「下衆が!」
「楽しませてくれよ」

不快に笑う魔導士の声が途切れ、そして俺の世界が壊れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安
ファンタジー
ごく普通のフリーター・岩倉運命は謎の少年に刺され、命を落としてしまう。そんな岩倉運命だったが、サダメ・レールステンとして転生を果たす…

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

陰陽師と結ばれた縁

サクサク
ファンタジー
2本に古くから続く一族の直系に生まれた女の子、安倍咲月は一族の中では霊力と神力が少なく、使用人や分家の親族からは“役たたず”と呼ばれていた。 だが、現当主である成親は彼女に最大限の愛情を注いでいる。 そして、そんな彼女の傍には強い力を持たないのその姿を見る事すっらできない、守護神である十二神将が控えていた。 18歳の誕生日に他の兄妹と同じように、一族内での成人式裳儀に挑むことになるのだが・・・・・。 ※なろう、カクヨムでも同じ小説を掲載中です。 どうぞよろしくお願いいたします。

聖女召喚2

胸の轟
ファンタジー
召喚に成功した男たちは歓喜した。これで憎き敵国を滅ぼすことが出来ると。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...