黄昏一番星

更科二八

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3章 バーンデッドディザスター

452話 逃走

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5隻目の船の船体を両断する。
敵方の逃げ足の一つは絶った。これで一旦は目的を果たした。

「貴様ー!何やってくれてんだ!!!」
「漁に行けなくなったじゃねえか!」

結構スピーディーに船の破壊をこなしていたが、流石に時間をかけた分この場に駆けつけてきた港の奴らで人だかりができてしまっている。
今度はここからの逃走を考えなければいけない。
アンジェリカ殿の状況もまだわかっていないし、港の者たちの状況を注視するならばここでやられてしまうわけにはいかない。

チグハグにされた感覚への対処方も何となくだがわかってきた。
見える全てが自分の常識に当てはまらない感覚を覚えて、氣の感覚を狂わされているが、結局のところは偽られているだけで見えているものが全てなのだ。
自分の常識を信じ切る事に徹すれば混乱せず、氣の扱いも多少はマシになった。
探知などはまだ出来ないが、戦う事に関しては何とかなるだろう。
とはいえ数十人相手は骨が折れる。だからまずは殺気で威圧する。

「死にたくなければ退け!」

言葉にもはっきりと殺意を乗せて凄むと、取り囲んだ者の半分以上は腰を抜かしてへたり込んだ。
意外と耐性があるものが多い。

「威勢だけはいいようだがな、これだけのことしでかしといて逃すわけねえだろうがよ!!」

俺の威圧にも全く動じない、普人族にしてはやたら体格がでかい熊のような大男が叫ぶ。

「押し通るまで!」

俺も相手の気迫に負けぬように気合を入れると大男とは真逆に向かって走る。何もまともに相手してやる義理はない。
俺の威圧にギリギリ耐えて立っていた取り巻きを蹴散らして、一目散にまた森の方へ向かって走る。まだ立っていた取り巻きの中には魔導士やスキル持ちがいたようで、俺に向かって攻撃魔法が飛んでくるが、鎧のように纏った氣で弾ける程度。無視して走る。
だがしかし、取り巻きから少しの距離を離したところで無視できないものが現れた。

「家畜風情がやってくれたなぁ!!」
「こいつ覚えてるぜ、前の狩りん時に邪魔してくれたデカチン野郎だなぁ」
「スカディナ!どっかで聞いてるんだろ!どうなってやがる!」

俺の前に立ちはだかった3人は、俺がルスウェーで対峙した奴隷狩りの中にいた奴らだった。
こいつらがここにいるという事は確実にルスウェーの奴隷狩りと関わりがあるという証拠だ。

「テメェの面見るとまた腹がたつ!もっかいズタズタにしてやるぜ」
「やめとけビャルケ、上物傷つけてスレインに殴られただろ。せっかく綺麗になって帰って来たんだ。しっかり躾けて高く売ろうぜ。俺らの待遇も良くなる」
「価値があんのはチンポの方だろ、殺して剥製でもいいじゃねえか」

3人は俺の前に立ちはだかり俺の扱いを検討し出した。とても良くない事を考えている。
確かにだいぶ自信があるが、性奴隷とか見せ物になるのは願い下げだ。
あのときは空腹と疲労で不覚をとったが、今なら負けん。

「貴様らの思い通りにはさせん!」

3人は余裕たっぷりなようだが、以前の俺とは状況が違う。油断している今がチャンスだ。
3人には全力の殺気を浴びせつつ、3人の中で一番大柄な男に素早く接近する。
3人ともスキル持ちである事はルスウェーで対峙した時に確認していて、大柄な男の能力は割れている。
肌を岩のように硬くする能力と異常なまでの再生力。壁役としては非常に厄介だが、俺としては一番落としやすい。
大柄な男は俺を迎撃しようと斧を振るうが回避して男の胸部に拳を当てる。そして殺意のこもった氣を体に流し込み相手の氣を掻き乱す。

「うがっ!」

スキル頼みで氣の扱いを知らないものならこれだけでいい。俺の攻撃を受けた大柄な男はぐったりと倒れこむ。

「ビャルケ!」
「テメェ調子乗んなよ!」

後の二人は少々厄介だ。身を切り裂く風魔法を素早く連打してくる者と石ころを矢よりも早く打ち出してくる者。牽制力が高く、さらに剣技もそこそこ。
俺がビャルケと呼ばれた大柄の男を倒す間に2人はそれぞれで距離をとった。次に倒すべきは石ころのやつだろう。風魔法は無視。
石ころの男に視線を向けると体の周りにいくつもの石ころを浮かべ魔法の準備が整っている。
あれにあたれば身を貫通し骨が砕ける。氣の状態が万全ではない俺では攻撃方向も読めず、受けて防ぐのも厳しい。一撃で致命傷になりかねないのでとにかくよく見る。そして動きで翻弄する。

「くそっ!ちょこまかと!」

次々に打ち出される石を躱し、剣で弾き、素早く追い詰めると石ころの男が迎撃の為に剣を抜いて切り掛かってくるが、俺も剣で受け流しつつ相手の手元に速攻の一撃を打ち込む。

「うぎゃっ!指が!」

石ころ男の指を切り落として怯んだ隙にさらに蹴りを入れて吹っ飛ばす。ビャルケと同じように氣も打ち込んだので立てなくなるはずだ。

「スカディナ!何してんだ!早くしろ!」

残った風魔法使いの男が叫ぶ。
仲間に何かを催促しているようだが、敵の体制は崩れた。ならばこの隙に逃走あるのみだ。

「あっ!!こらっ!待ちやがれ!」

待たない。風魔法使いを置き去りに離脱を図る。
そもそも俺の目的はこの場の逃走だ。隙さえ生まれれば全員相手する必要はない。

全力で走り港から森の間の草原へと抜けた時に俺の体に強烈な衝撃が走った。

「ぐあああっ!」

走っていた勢いもあり俺は白銀の世界をゴロゴロと転がる。
全身が痛み痺れる。雷に打たれたような衝撃だった。いや、実際に雷の魔法を受けたのだろう。

「はーあ、まじめんどくせえ」

再びあの魔導士の声がした。
今度ははっきりと声の方向がわかり視線を向けると黒いローブの女が立っている。

「楽しくねえな、全く不愉快、キモい、生きてる価値ないゴミの癖してよ」

魔導士の女はただただ悪態を吐く。そして手に持っていた何かを俺の方へと投げ放つ。

「ほら、テメェが望んだもんだ」

俺の目の前に転がったそれはアンジェリカ殿の首だった。
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