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第二章 偽りの生活
8 事情聴取2 sideアルフレッド
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「リアさんのことにつきましては、先生から少し伺いましたので……。あなたと、逃走中のテオドールさんについて聞きたいのですが。あの廃屋で、一体何を?」
「……先生から聞いてないですか?」
正直言って、思い出したくもない事件なのだ。自分の口からは、あまり言いたくない。
「聞いていますよ。私どもは、各方面から話を聞いて情報を整理しておりますので、アルフレッドさんからのお話も聞いておきたいんです」
それはたしかに、そうかもしれない。
俺は、当日の一連の流れだけを説明した。
そもそも、廃屋で何があったのか、俺の考えは想像でしかない。
すると、ディルク刑事は、
「まさか、本当にゴンドル族を匿っていたとは……。よく今まで隠し通せましたね」
と、リアがゴンドル族であることを持ち出してきた。
「……それは、今関係ないのでは?」
「ふふ、これは切り札です。つまり、あなたが何を言おうと、我々はあなたを逮捕する理由を持っている、という事です」
……!
「ちょっと待ってください」
ポポロム先生が間に入ってくれた。
「彼は、僕の患者さんなので、病人を簡単に逮捕してもらっちゃ困りますよ~」
表情はにこやかだったが、とても強い圧を感じた。
先生は、「怪我人」ではなく「病人」と言った。そちらの方が都合がいいのかもしれない。
「それに、ゴンドル族の扱いについては、ダニエル氏が遺した書簡により規制が緩んだはずでは?」
「……父さんが!?」
そういえば、父が逮捕される前、そのようなことを言っていた気がする。
「それは、まだ正式な決定ではない! 審議中だ!」
「でも、審議中にしろ国民の意識が変わったのは確かです。ヘタに逮捕すると、国民の反感を買いかねませんよ」
ポポロム先生とディルク刑事の口論が続く。
「ぐっ……。そもそも、よくゴンドル族を庇えるものだ。彼らはとても粗野で野蛮だと聞く」
その言い分にカチンと来て、俺も口を挟んだ。
「……それは、戦争中に政府やマスコミが流したプロパガンダでしょう。ゴンドル族全てがそうとは限りません。また、逆に人間にも同じ事が言えます」
「ふん……。それは、弟さんの事を言っているのかな?」
嫌味に対して、嫌味を返された。
「まあ、いい。今は目下の事件だ。それで、テオドールさんは、今どこに?」
「こちらが聞きたいくらいです」
「兄であるあなたが、庇ってるんじゃないですか?」
「こっちは肋骨を折られているんです。庇う理由がありません」
「警察では、あなたが共犯者で、弟さんと一緒に義妹さんを襲ったのではないかという話も出てるんですよ。そして、何らかのトラブルになり、弟さんが裏切った……」
本当に、いろんな可能性を考えるものだ。
「違います。俺があの場に行った時は、すでに義妹は……」
「ふう……。まあ、いいでしょう。こちらはテオドールさんの捜索に入ります」
「刑事さん」
「はい」
「テオ……弟は、嘘をつくのがうまいです。決して騙されないよう……」
「まあ、すべて疑ってかかるのが警察ですからね。その辺りはご心配なく。では、失礼します」
そう言って、ディルク刑事は病室を出て行った。
最後には冷静になっていたディルク刑事だが、会話から察するにゴンドル族に対してあまりいい印象を持っていないようだ。20年前の戦争を経験した者なら──こればかりは仕方ないのかもしれない。
「ふー……」
やっと終わった、とベッドのリクライニングに背中を預けた。
なんとなく、肋骨の傷が疼く。
「お疲れ様でした」
「まさか、自分が疑われていたとは……」
「まあ、それは仕方がありませんね。 警察も、いろいろな可能性を考えるでしょうし。それだけ、 期待できる刑事さんなのでしょう」
「こちらは肝が冷えましたよ」
俺が逮捕されたら、残されたリアは確実に政府に捕えられる。
それだけは避けなければならなかった。
「そういえば、 先生は父を知っていたんですね?」
「はい。 ダニエルさんは、僕の第二の父ですから!」
「第二の……父?」
「ダニエルさんの戦友の、カルステンを覚えていますか?」
「小さい頃にお会いしたような……」
「カルステンは、僕の叔父です」
「ポポロム先生の!?」
「正確には養父なんですが、父ではなく 叔父と呼べと……それと──。実は僕も、ゴンドル族の生き残りなんです」
ポポロム先生は、髪で隠れている獣耳をつまんで出して見せた。
リア以外のゴンドル族を見るのは初めてだった。
そういえば、ポポロムというのは、あまり聞き慣れない名前だと思っていたが、ゴンドル族特有のものかもしれない。
「ゴンドル族の生き残りが、リアの他にもいたとは……」
「昔、叔父の家に来た時に会ってるんですけど、覚えてませんよね」
そういえば、少し年上のお兄さんと遊んだ記憶がある。
それがポポロム先生だったのか。
「アルフレッドさん、提案があるのですが……」
「提案?」
「退院したら、リアさんをうちでお預かりしましょうか?」
「……え!?」
突然の提案に、俺は困惑を隠せなかった。
「あ……。心配ですよね、年頃の義妹さんを預けるなんて……」
ポポロム先生は、こちらの気持ちを汲み取るように察してくれた。
「ただ……。テオドールさんが捕まるまでは、そうした方がいいのではないかと」
「そう……ですね……」
「アルフレッドさんはお仕事があるでしょうし、もしかしたらテオドールさんから、何か連絡があるかもしれません。リアさんは、スマホ番号を変えて匿いましょう。テオドールさんに、知られる事のないように」
……俺はずっとリアのそばにいられるわけではない。
ましてや、俺がそばにいても、また傷つけるだけだ。
ゴンドル族に理解のあるカルステン氏に任せた方が……リアは安全かもしれない。
それに、先生も同族だし、その方がリアにとっても都合がいいだろう……。
「わかりました……。リアを……よろしくお願いします……」
俺は、観念したように頭を下げた。
*
その日の夕方、テオが起こした事件がニュースになった。
テレビでも報道され、ネットでも大騒ぎとなっている。
幸いなことに、テオが父ダニエルの息子だという事と、リアの実名は報道されなかった。
父の仕事は政府関係で、ゴンドル族の差別緩和も訴えていたので、もしかしたら、政府から報道規制の圧力がかかったのかもしれない。これに関しては、俺は感謝せざるを得なかった。
テオは、今どこで何をしているのだろうか?
あいつのことだ、きっとうまく隠れているに違いない。
俺は、テオから連絡が来ないことを祈ったが……。
数週間後、俺のスマホに一通のメッセージが届いた。
『俺を捕まえてみなよ』
「……先生から聞いてないですか?」
正直言って、思い出したくもない事件なのだ。自分の口からは、あまり言いたくない。
「聞いていますよ。私どもは、各方面から話を聞いて情報を整理しておりますので、アルフレッドさんからのお話も聞いておきたいんです」
それはたしかに、そうかもしれない。
俺は、当日の一連の流れだけを説明した。
そもそも、廃屋で何があったのか、俺の考えは想像でしかない。
すると、ディルク刑事は、
「まさか、本当にゴンドル族を匿っていたとは……。よく今まで隠し通せましたね」
と、リアがゴンドル族であることを持ち出してきた。
「……それは、今関係ないのでは?」
「ふふ、これは切り札です。つまり、あなたが何を言おうと、我々はあなたを逮捕する理由を持っている、という事です」
……!
「ちょっと待ってください」
ポポロム先生が間に入ってくれた。
「彼は、僕の患者さんなので、病人を簡単に逮捕してもらっちゃ困りますよ~」
表情はにこやかだったが、とても強い圧を感じた。
先生は、「怪我人」ではなく「病人」と言った。そちらの方が都合がいいのかもしれない。
「それに、ゴンドル族の扱いについては、ダニエル氏が遺した書簡により規制が緩んだはずでは?」
「……父さんが!?」
そういえば、父が逮捕される前、そのようなことを言っていた気がする。
「それは、まだ正式な決定ではない! 審議中だ!」
「でも、審議中にしろ国民の意識が変わったのは確かです。ヘタに逮捕すると、国民の反感を買いかねませんよ」
ポポロム先生とディルク刑事の口論が続く。
「ぐっ……。そもそも、よくゴンドル族を庇えるものだ。彼らはとても粗野で野蛮だと聞く」
その言い分にカチンと来て、俺も口を挟んだ。
「……それは、戦争中に政府やマスコミが流したプロパガンダでしょう。ゴンドル族全てがそうとは限りません。また、逆に人間にも同じ事が言えます」
「ふん……。それは、弟さんの事を言っているのかな?」
嫌味に対して、嫌味を返された。
「まあ、いい。今は目下の事件だ。それで、テオドールさんは、今どこに?」
「こちらが聞きたいくらいです」
「兄であるあなたが、庇ってるんじゃないですか?」
「こっちは肋骨を折られているんです。庇う理由がありません」
「警察では、あなたが共犯者で、弟さんと一緒に義妹さんを襲ったのではないかという話も出てるんですよ。そして、何らかのトラブルになり、弟さんが裏切った……」
本当に、いろんな可能性を考えるものだ。
「違います。俺があの場に行った時は、すでに義妹は……」
「ふう……。まあ、いいでしょう。こちらはテオドールさんの捜索に入ります」
「刑事さん」
「はい」
「テオ……弟は、嘘をつくのがうまいです。決して騙されないよう……」
「まあ、すべて疑ってかかるのが警察ですからね。その辺りはご心配なく。では、失礼します」
そう言って、ディルク刑事は病室を出て行った。
最後には冷静になっていたディルク刑事だが、会話から察するにゴンドル族に対してあまりいい印象を持っていないようだ。20年前の戦争を経験した者なら──こればかりは仕方ないのかもしれない。
「ふー……」
やっと終わった、とベッドのリクライニングに背中を預けた。
なんとなく、肋骨の傷が疼く。
「お疲れ様でした」
「まさか、自分が疑われていたとは……」
「まあ、それは仕方がありませんね。 警察も、いろいろな可能性を考えるでしょうし。それだけ、 期待できる刑事さんなのでしょう」
「こちらは肝が冷えましたよ」
俺が逮捕されたら、残されたリアは確実に政府に捕えられる。
それだけは避けなければならなかった。
「そういえば、 先生は父を知っていたんですね?」
「はい。 ダニエルさんは、僕の第二の父ですから!」
「第二の……父?」
「ダニエルさんの戦友の、カルステンを覚えていますか?」
「小さい頃にお会いしたような……」
「カルステンは、僕の叔父です」
「ポポロム先生の!?」
「正確には養父なんですが、父ではなく 叔父と呼べと……それと──。実は僕も、ゴンドル族の生き残りなんです」
ポポロム先生は、髪で隠れている獣耳をつまんで出して見せた。
リア以外のゴンドル族を見るのは初めてだった。
そういえば、ポポロムというのは、あまり聞き慣れない名前だと思っていたが、ゴンドル族特有のものかもしれない。
「ゴンドル族の生き残りが、リアの他にもいたとは……」
「昔、叔父の家に来た時に会ってるんですけど、覚えてませんよね」
そういえば、少し年上のお兄さんと遊んだ記憶がある。
それがポポロム先生だったのか。
「アルフレッドさん、提案があるのですが……」
「提案?」
「退院したら、リアさんをうちでお預かりしましょうか?」
「……え!?」
突然の提案に、俺は困惑を隠せなかった。
「あ……。心配ですよね、年頃の義妹さんを預けるなんて……」
ポポロム先生は、こちらの気持ちを汲み取るように察してくれた。
「ただ……。テオドールさんが捕まるまでは、そうした方がいいのではないかと」
「そう……ですね……」
「アルフレッドさんはお仕事があるでしょうし、もしかしたらテオドールさんから、何か連絡があるかもしれません。リアさんは、スマホ番号を変えて匿いましょう。テオドールさんに、知られる事のないように」
……俺はずっとリアのそばにいられるわけではない。
ましてや、俺がそばにいても、また傷つけるだけだ。
ゴンドル族に理解のあるカルステン氏に任せた方が……リアは安全かもしれない。
それに、先生も同族だし、その方がリアにとっても都合がいいだろう……。
「わかりました……。リアを……よろしくお願いします……」
俺は、観念したように頭を下げた。
*
その日の夕方、テオが起こした事件がニュースになった。
テレビでも報道され、ネットでも大騒ぎとなっている。
幸いなことに、テオが父ダニエルの息子だという事と、リアの実名は報道されなかった。
父の仕事は政府関係で、ゴンドル族の差別緩和も訴えていたので、もしかしたら、政府から報道規制の圧力がかかったのかもしれない。これに関しては、俺は感謝せざるを得なかった。
テオは、今どこで何をしているのだろうか?
あいつのことだ、きっとうまく隠れているに違いない。
俺は、テオから連絡が来ないことを祈ったが……。
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