偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜

草加奈呼

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第四章 選択

26 再始動 sideリア

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 家に戻ってきてから数日後、私は大学へ再び通う事になった。
 あの事件の後、お兄様が休学届を出してくれていたらしい。
 数ヶ月ぶりのキャンパス。
 ドキドキしながら学舎へ向かうと、ジェシーとモニカが出迎えてくれた。

「リアーっ」
「ジェシー! モニカ!」
「心配してたのよー! ずっと大学休んでたからー!」
「ごめんね、心配かけて。今日からまた、よろしくね」

 三人で輪になって抱き締め合った。

「あの、リア……。訊いていいかどうかわからないけど……」
「テオドール君の事……」

 二人は、あの事件をネットニュースで知ったらしい。
 そのすぐ後に、刑事さんが聞き込みに大学まで来たそうだ。
 どこまで知られているのだろうかと、心臓が大きく跳ね上がった。
 私の名前は、公表されていないはず……。

「……テオはね、今入院してるの」

 今の事実だけを伝えた。

「そうなんだ……」
「きっと、良くなって退院できるって、私は信じてる」
「そう……そうだよね……!」

 深く詮索しない事に、安堵のため息を漏らす。
 彼女たちが友人である事を嬉しく思った。

「じゃあ、今日こそリアの快気祝いに……」
「パンケーキ!」
「えっと……」

 少し離れていたお兄様に向かって、お願いするように目を向ける。

「お兄様……?」

 『行ってもいいですよね?』と、心で訴えた。

「ああ、行っておいで」

 あの時とは違う穏やかな表情。
 きっとこの違いは、私にしかわからない。

「きゃあー、やったー!」
「何ヶ月越しよ、もうー!」

「君たち。リアをよろしく頼むよ」

「……ハイッ!」

 彼女たちの心が、またキュンと鳴った気がする。
 お兄様のその笑顔も、きっと二人にはあの時と変わらないままで映っているだろう。

 それでいい。
 世の中には、知らなくてもいい事、知らない方がいい事がある。
 彼女たちには、いつまでも“イケメンの義兄”だと思っていてもらいたい。

 
 誰の監視の目もなく、友人たちと出かけられる日が来るなんて。
 ああ、でもお兄様はやっぱり心配性で、GPSは靴に仕込まれたままなのだけれど。
 でも必要以上に干渉しない事と、本当に差別緩和が実現したら外してもらう約束はしたので、その辺りは一歩前進したと思える。

「お待たせしましたー」

 目の前に置かれた三段重ねのパンケーキを見て、私は心を踊らせた。
 トッピングに色とりどりのフルーツと生クリーム。皿の上は煌びやかな別世界だ。
 一口サイズに切り、重ねたままの形をフォークに突き刺す。
 大口を開けて生クリームと共に頬張る。
 いつもだったら絶対にしない食べ方だけど、今日は特別!

「お、いい食いっぷり」

 とジェシーがスマホを向けて写真を撮った。

「んんー!? ひょっほぉちょっとぉ!」

 頬張ったままでうまく喋れなかった。
 飲み込んでから写真を見ると、膨れた頬。見事に口の周りに生クリームがついていた。

「ちょっと、消して消して!」
「リアに送ってあげるから、お兄さんに見せてみたら?」
「だ、だめー!」
「ふふ、良かった。リアが元気で」

 面白がるジェシーを止める私。
 それを見て微笑むモニカ。
 ようやく取り戻した平穏な日々を、私は幸せに思う。

 お兄様も仕事に集中できるようになり、
 叔父様は変わらず自宅でカウンセリングをしていると聞いた。
 ポポロム先生も、病院で患者に向き合う日々。
 そして時々、テオの様子も見てくれているらしい。

 だけど、私たちはまだ知らなかった。
 この幸せの裏で──あんな事が起きているとは、想像もしていなかったのだ。

 

 

 数日後──


 プルルル
 しんと静まり返る真夜中、ポポロムのスマホの着信音がけたたましく鳴った。
 
「ん……こんな夜中に……。急患か……?」

 急患自体は珍しくない事だったが、ポポロムに電話がかかってくることは稀だった。
 人手不足なのだろうかと、寝ぼけ眼でスマホを取る。

「もしもし……」

『先生、すみません! 精神科のテオドールさんが逃亡しました!』

「……えっ!?」
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