聖女の母と呼ばないで

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イザベルとリンジーが、4人分の飲み物を用意する。

遙香は、ホットミルクを頼んだ。
コップに手を添えると、じんわりと温かい。わずかに揺れる湯気を見て、少し気持ちが落ち着いた。


イザベルとリンジーは、遙香の向かいのソファに座った。遙香から見て、左側がシルバーの髪色で菫色の瞳のイザベル、右側が赤色の髪で明るい茶色の瞳のリンジーとなった。

アルベルトは、書斎から椅子を持ち出し、遙香の右側に少し離れて座る。




「ハルカ様とお呼びしてよいですか?」

イザベルが、遙香に微笑みながら言った。


「はい。」


遙香は、この世界に来て、初めて名前で呼ばれたことに気づいた。


「イザベルでも、ベルでも、呼びやすいように呼んでください。」

「イザベルずるい。私も!私もハルカ様とお呼びしたいです。私のことは、リンジーとお呼びください。」


イザベルの言葉に被せるように、リンジーも声をあげる。

その様子に、遙香は微笑した。

「ふふっ。二人とも、よろしくお願いします。」



「ハルカ様、笑うと可愛いですね。」

リンジーが、遙香を見て言った。

「ずっと難しいお顔をしているし、最初なんて、泣いて瞼どころか顔がすっごい状態で、うっ。」

言葉の途中で、リンジーが脇腹を押さえてうずくまる。

右から、イザベルの肘打ちが入ったようだ。

「すみません、ハルカ様。リンジーは口を開くと残念さが増すのです。」

「なんで!増すってなによー」



コントのような、姉妹のような二人のくだけた様子に、遙香もつられて笑った。

そんな遙香の様子をみて、イザベルは言った。


「心配していたのは本当ですよ。召喚されたばかりとはいえ、この別邸に来られたときから硬い表情でしたので。」

「借りてきた猫の方が、よっぽどくつろぐ、ふぐっ。」

リンジーの脇腹に、イザベルからの2発目がお見舞いされたのをみて、遙香は声を出して笑った。


「あははっ。心配かけてごめんなさい。」

遙香は、イザベルとリンジーが、自分の様子を心配してこの時間を作ってくれたのだとわかった。
二人には自分のことを話しておきたいと思った。


「ここに呼ばれる直前に、大切な人を亡くしたばかりなんです。ちょうど、葬儀が終わったあと、この世界に召喚されました。

現実を受け入れる間もなく、取り巻く環境が変わってしまって、頭では理解しようとしていたけれど、心が追い付いていかなかった。。。」

コップを揺らしながら、遙香は話す。視線は、中のホットミルクに注がれている。

これまで、どこか業務的だった遙香の様子が変わったのを見て、イザベルとリンジーは、口を挟まず遙香の言葉を待った。




「この世界のこと、聖女のこと、簡単に説明を受けました。私が、なんで召喚されたのかも。

大変なことだなぁと思います。国民の生活が脅かされるのも、国として対応しなければならない大切なことだと、理解しています。


・・・個人の感情なんて、些末なことであることも。

受け入れるしかないことも。

あの部屋に戻れたとしても、雄飛が帰ってこないこともわかっているつもりなんです。

でも。。。」








遙香の頬には、涙が伝っていた。


「雄飛に会いたい。」

言葉にして、口にして、感情が自覚される。





会いたい。

突然、いなくなってしまった雄飛に、会いたい。


もう一度、顔を見せて。

もう一度、名前を呼んで。

もう一度、抱き締めて。




お願い。。。

ただ、会いたいの。


淋しい。












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