『好きになったら負け』のはずなんだけど、もしかするとお互いにずっと好きだったのかもしれない

α作

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#蒼依視点 #五歩目

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 スマホをしまい、ふと駅の窓に目を向ける。
 そこに映っているのは、制服姿の自分。いつもは気にならないのに、今日は自然と足を止めていた。

「……はぁ、何やってんのよ、私」
 ついさっきまで写真を見ていたせいか、無意識にガラスに映った自分と見比べてしまう。
 そこには、なんとなく難しい顔をした私がいた。
 こないだの写真とは、全然違う表情。

 「自然体、か……」
 春樹が見てた『私』と、今の『私』は、何が違うんだろう。
 スマホの中の『私』は、ただの一瞬を切り取っただけ。
 演じたわけでも、作ったわけでもない。

 でも、それを『良い』って言われた時——
 なんか、胸の奥がくすぐったかった。

 『そこでちょっと止まってろよ』
 『いいから、じっとしてて』
 『自然体で、美少女って感じだったぞ』

 ——ばっ、バカじゃないの!?
 思い出した瞬間、顔が熱くなるのが分かった。
 慌てて、窓から視線を外す。
 ……まったく、春樹ってば、普段は適当なくせに、こういうことをさらっと言う。

 駅のホーム。電車が滑りこんでくる。
 ドアが開くと、私は何も考えずに乗りこんだ。
(違うよ。きっと考えてないふりをしてるだけ)
 向かいの窓に映った、自分の顔。
 また、昨日の写真とは違う。
 ——今度は、何も考えていない顔。

「……はぁ、もういいっての」
 スマホを取り出す。何も考えずに。
 けれど、どういうわけか、指が勝手に写真フォルダをタップしていた。

 そして、昨日の写真が目に入る。
 ちょっと戸惑ってる私。
 こういうのって、あんまり私らしくない、と思うんだけど。

「これが、自然体……?」
 無意識につぶやいたその言葉に、自分で驚く。
 だって、私は写真を撮られるのがそんなに得意じゃなくて、いつも変に意識してしまうのに。
 春樹が撮ったこの一枚は、やっぱり変に飾っていない。
 ただの無防備な私が写っている。
(いやいや、そういうことじゃなくて!)

 慌ててスマホを閉じる。
 暗くなった画面に、今の私が映っていた。
 ——なんか、真剣に考えすぎじゃない? 私。

 こんなの、きっとゲームでしかなくて。
『好きになった方が負け』っていう、変な勝負。
 でも——
「負けたくないはずなのに、なんでこんなこと気にしてるのよ」
 小さく息を吐いて、顔を上げた。

 スマホに通知。春樹からのメッセージ。
『昨日の写真、意外と気に入ってるだろ?』
 ——は? 何言ってんの!?
 思わず、スマホを持つ手に力が入っていた。

 いやいや、そんなわけないでしょ。
 こんなの、ただの試練で撮っただけで——
(……いや、何であいつ、そんなこと聞くのよ)

 すると、すぐに追加のメッセージが届く。
『今頃、どうせ見返してるんだろうなと思って』
「~~っ!!?」
 思わず、スマホの画面を消していた。
 どこかで見てる? いや、そんなはずない。
 でも、偶然にしてはタイミングが良すぎるし……。
(何でこういうときだけ、勘が鋭いのよ!)

 考えすぎて、顔が熱くなってくる。
 ドアが開いた瞬間、私は勢いよく電車を降りた。

 家に着くと、私は制服のままベッドに倒れこんだ。柔らかいマットレスに揺られて、干したばかりの掛け布団の匂いに包まれる。

「……なんでこんなに疲れるのよ」
 枕に顔を埋めながら、ため息をつく。
 春樹のメッセージが頭から離れない。
『昨日の写真、意外と気に入ってるだろ?』
 春樹に言われると、なぜか反発したくなる。
『別に気に入ってなんかないし』と言い返したい。
 でも。
 ……写真、まだ消せてない。
 そっとスマホを手に取り、また写真を開く。
 昨日の自分。
 知らないうちに、自然と撮られていた一枚。
 これが、『私』なの?
 起き上がって、部屋の鏡の前に立ってみる。
 鏡の中には、不安そうな顔をしてる私。

「どっちが、本当の私なんだろ」
 写真の私は、ちょっと戸惑ってるけど、今の私よりも、ずっと素直な顔をしていた。
(自然体、って、そういうこと?)

 次に春樹がシャッターを切る時、私はどんな顔をしてるんだろう。

 そんなことを、考えた瞬間——
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