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2反り返った肢体

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朝。白いレースのカーテン越しに木漏れ日が降り注ぐ。
サテンのパジャマが寝汗でぐっしょり濡れていた。
私。この先ここで生活していけるかしら?
いいえ。生きていけるかしら。

パティーションで仕切ってある隣のベッドで眠っている未華子が羨ましい。

父は大きな会社の会長で母親は公家の家系だそう。たっぷり愛情を浴びで育ったとひとめで判る。
ここのセクハラ野郎の誰も中務未華子に手を出せない。
寄付金も一位だと噂できいた。

使い物にならなくなったヨーロピアンピンクのタイツを挟みで細かく切ってダストボックスに押し込んだ。

そっと、パティーションの端からまだ眠っている未華子の穢れない子供みたいな寝顔を眺めた。
長い髪は茶色で月並みな誉め言葉がぴたりと合う
『フランス人形みたい』同級生も先輩たちも未華子を褒めた。育ちの良さで敵をつくらないのだ。
誰だったかしらロシアのバレリーナ。
そんな人がいたとか?それを、パブロアがその人を羨んだとか。
少なくとも敵はひとりいるわよ、未華子。ここにね。
玲於奈はグットアイディアが浮かんだ。
「許せないわ。この子だけ」



「ここいいかしら?」
返事も待たずに、
玲於奈は、お昼のカフェテリアで食事中の未華子の隣の席に座った。
「ええ。どうぞ。鞠もうすぐ来るわ。授業が長引いてるみたい」
「ああ。長内教授でしょう?解剖学なんてつまんないけど、脱線バレエ話が面白いわよね」愛想よく笑いかけた。
ほほ笑む未華子は女らしく淑やかだ。
わけもなく自分は下品な女だと感じた。

ヨーグルトがかかったシリアルをゆっくり銀のスプーンで食べている。
余りに上品な仕草だ。
それだけで映画が撮れる。
まあ。
ダンサーは日常すべての動きにエレガントを要求されるから珍しくない。
それでも中務未華子の周りだけ絢爛豪華な宮殿の世界が広がっている気がする。
未華子が左手をあげてひらひらと振った。
その腕の動きも関節が無いバレリーナの腕だった。
「参ったわ。時間が押して」下村鞠はホットコーヒーとゆで卵だけのトレイを未華子の隣に置いて座った。
「それしか食べないの?鞠さん」
「ええ。だって。太って来たのよ」
「まさか」
「ああ。そう。これ長内教授から預かったの」
古びたビデオデッキを脇の椅子に置いた大きなボストンバックから取り出した。
嬉しそうに未華子が受け取る。
「これ見たかったの。先生の研究室にしか置いてないの」
「いいんだ。未華子。教授のお気に入りね」
玲於奈は胸がむかむかしてきた。
「それはしょうがないね。長内教授が褒めてた。未華子君のレポート読むの毎回楽しみだって」
「へえ。踊れて、勉強もできるんだ。将来は団のエトワールね」
「やめてよ。玲於奈とんでもないわ。まだファースト・アーチストでしかないのよ。あなたなんてソリストじゃない」
「嫌味じゃないのよ。別に」
「『くるみ』楽しみね」鞠にしては珍しくはしゃいだ様子だ。
あ。そう。未華子相手だとこうなのか自分と違って。

美貌の未華子の隣に座った下村鞠は気の毒なくらい影が薄い。
平凡な顔つき。長年のシニヨンで後ろに牽引され額が広くなって禿が目立つ。
「二人は同窓なんだっけ」繋ぐ話題がない玲於奈が何の気なしに問いかける。
未華子が「そう。リリアナ女学院。懐かしいわね。式部様は先輩なの」
鞠が口に手をあてて「いけない。忘れ物。式部様に怒られるわ。ごめんなさい。お先に失礼。未華子さん。そうだ。お誕生日おめでとう。これも忘れるとこだった。式部様と私からよ」
リボンのかかった細長い箱を差し出し、
小間使いらしいせこせこした歩き方で鞠はカフェの奥にトレイを返しに消えていった。

箱をあけてネックレスを取り出す未華子の両手に蜘蛛の巣ほどに細く繊細な銀の鎖が光っている。
「これならレッスン中でもつけられるわ。嬉しい」
同じくらいの間一緒にここにいるのに式部様からプレゼントなんて一度も貰ったことない。
本当に恵まれた人のところに次々人の好意が運ばれてゆくんだーーーー

ぐっと堪えていた何かか自分の中で崩れた。

唇を噛んで眉を顰め「あのね。未華子さん。お願いがあるのよ」
なにかしらと小首を傾げる。
「ちょっと言いずらいの。実はね。今晩、医務室のベッドに寝ていて欲しいの」と白い封筒をトートバッグから取り出した。
「これはただの封筒なんだけど。北条奏さんがお金を持ってくるからこの中に入れて私のところに持ってきて欲しいの。秘密よ。北条さんのお父様のお友達がバレエに造詣が深いの。その篤志家の方が私に『投資』してくださっているの。海外なんかじゃ当たり前にダンサーを支援するパトロンがいるでしょ?それと同じなの。私が貧乏なのは知ってるわね?」
コクコクと頷いた。
ヤな奴。
崩れそうになった顔を取り繕って「この団では、そんな事に疎いのよ。公にはダメ。でもこうして静かにやり取りする分には『OK』というわけ。
受け取りは誰にも分らないように医務室のベッドなのよ。いくつもあるしカーテンで解らないでしょう?大丈夫。早乙女先生は全部ご存じだから。今夜の10時なんだけど。ほら。発表会でクララもらったでしょう?マイムが難しくて居残りなの。12時までかかるわ」
茶色い瞳を潤ませてわかったと未華子が請け合った。


玲於奈は鍵をかけないで有名な図書室で夜の十時になるまで、ヘッドホンをしてくるみ割りのDVDを観ていた。
「そろそろ来るわね」
へボーン式の床をうち履きのシューズで音を立てずに歩く。どうしても両方の足先が外に向く。
医務室の灯りは消えている。

ふふふふっ―――やってるわね

ドアノブの合鍵を使ってそっと開けた。

ガタンガタン ギシギシ 派手な音がする。
はあ はあ と、獣じみた男の喘ぎ声にいつもはぞっとするのに今は笑いがこみ上げてくる。

カーテンが並ぶベッドのひとつにベッドサイドライトが付いたところがある。
大胆にも仕切りのカーテンは開けてある。そこには三脚があってビデオカメラが回っていた。

早乙女医師が下半身のズボンを膝まで脱いで
白衣の巨漢を揺すっている。
細い女の脚が180度開かれて医師の下敷きになって犯されていた。
女が悲鳴も挙げないのは口にショーツを押し込まれているからだ。
―――アイツはそれがお気に入りなのよね。変態。
大男のせいで簡素なパイプベッドが壊れそうだ。
茶色の長い髪の毛が零れて見える。
泣いているでしょうね。
未華子姫。あはっ。ははは。
私って嫌な子ね。でも仕方ないわ。私より嫌な子は未華子だもん。貧乏な私に同情なんかして。
もっと酷い場面を観たいと願っていると、巨漢がぐるんと動いて寝ころび腹の上に女が跨る騎乗位になった。腕に跡ができるくらい女の細い両肘を掴んで離さない。
激しく上下に動かして未華子を突いた。
いつもクリトリスをいじって突くのよね、早乙女の奴。
結構、気持ちいいんだわアレ。

案外、カンジテル??
ふふ。そんなわけないかーーー

ショックで見開いた瞳には何も映っていない。

男は未華子の両肩を押して押して、片手でほっそりした腰を掴んで固定する。
女の躰はアルファベットのCの字に近くなった。
それが自然とUの字になってゆく。
男の両手は女の腰だけ掴んで離さなくなった。
上下のピストンが更に激しくなる。
ウエーブした長い髪を乱して頭も躰もガクガクさせるだけの未華子は乱暴に扱われるバービー人形---

いえ、まるで『瀕死の白鳥』オデット姫の様---だ!
優美に細く長くしなやかな羽根のある腕が小刻みに揺れる。

オデットの父ロットバルトはオデットを愛しているという解釈を玲於奈は信じていた。

醜い早乙女に犯されている未華子が一瞬、
白いチュチュの衣装に白い羽根の髪飾りをしているオデットと重なった。

そんな考えは、むしろ腹が立つ。
最悪の地獄にハメてやったけど全然可哀そうに思えない。

早乙女は新しく手に入った玩具、未華子を相当に気に入ったようだ。
何度果てても直ぐに男根が形を取り戻して反り返った。
四つん這いになった未華子の口から漸くショーツが取れて初めて声を発した。
「や。やめ。いや。い、いや。いいいやあ。あああ。だれ、だれか」

時折、未華子が妙な声を出しひきつけて息を呑む。
未華子の一番女らしい、カンジルところを早乙女が指の腹で擦った瞬間に違いない。
玲於奈は机の陰から、吹き出さないよう必死に口を押えていた。

小さくて形の良い胸。多分AAカップ。少女体形だ。
ここまで墜としてもまだそんなところに嫉妬する自分を玲於奈は怖いと思った。
カメラで撮っておけば未華子が口外しないし、また抱けるからと指南したのも玲於奈だ。
今回のことでたっぷり早乙女から報酬をもらう予定。


いいじゃない!!
あの子はお金に困らない。多分一生。リッチなバレリーナ。
これでやっと処女を卒業するんだし。
大人の女を演じられるようになるわけだし―――ね?
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