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12 夢
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その日は一日部屋に留置かれた。
旺盛な食欲で運ばれた食事を平らげた。
普段の玲於奈ならあり得ない。
加工肉など口した記憶もない。
カリカリのベーコンエッグは旨かった。マフィンもフルーツヨーグルトも、あっという間に平らげた。
冷えたシャンパンも半分は飲んでしまった。
こんなに食べ物が美味しいと感じたのも初めてだった。
食べるだけ食べて何もすることがない。
寝台に横たわると眠ってしまった。
遠い遠い記憶が夢のなかで展開したーーーーーーーーー
ある、大きなバレエ教室のオーディションを受けたのはまだ小学六の時だった。
都会の一等地にそれはあった。
横に広い大きなレンガ造りで中央と左右の端に塔が在った。
黒い鉄柵で囲われている。
周囲の喧噪をよそにそこだけ違う時間が流れているようだ。
ピアノの音が微かに聞こえて来た。
「メルヘンチックねぇ」
「うん。絵本に出てくるとこみたい」
「儲かってんのよ」
同じピンクのレオタードに着がえた少女達がバーにつく。
最初にバーレッスンで振り落としが始まった。
アレンジされたバッハのバレエ曲がMDから流れ出す。
「はい。呼吸して。お腹の中心、丹田締めて。
そう。ドゥミ、ドウミ。はい。グラン・プリエ。背中落とさないで」
そんなに難しくないわと玲於奈は安心したが、
バーだけなのに周囲の子達のレベルは今まで通っていた教室とは段違いだと直ぐに見抜いた。
なんだか綺麗な子ばっかりだあ……
広いレッスン場の三方の壁は総て鏡になている。
玲於奈はそっと母を探すと鏡越しに眼が遇った。
笑顔だ。こんなに機嫌の良い母を知らない。
他の保護者達も同じ場所に溜まっていた。
少女24人を見定める審査員が3人。
審査員の誰かひとりに肩をぽんぽん叩かれたら即不合格となって部屋を出ていくのだ。
玲於奈は最後の6人の中に残って控えの間に帰った。
母の良子は娘を抱きしめて「偉いよ!れおちゃん!」
玲於奈はめっくらって後ずさりした。
母に抱きしめられたのは生まれて初めての経験だった。
……なにこのテンション!
こんなに優しくしてくれるんだ。
バレエが出来ればママはこんなに私を好きになってくれる!
可愛がってくれるんだ!
新しい世界に踏み出した気持ちがした。
次のバリエーション試験、絶対頑張らなくちゃ。
同じ教室の子から借りて来た『眠りの森の美女』のオーロラ姫は平たく広がるボンで白の上にピンクのサテン生地。
金糸の刺繍。それに胸元には宝石に似せた石がキラキラしている。
小さなティアラを載せる。
「ほら付け睫毛するから。眼伏せて」
メイクも終わって鏡に映るのは魔法のかかった国のお姫様だ。
いつものヨレヨレのTシャツにデニムの玲於奈とは別人だ。
「綺麗な子達ばっかだなあ。ねえ。ママ?」
「あなたが一番可愛いよ。自分でもそう思ってるくせに。
いい?絶対合格するのよ。今まで積み上げたものを全部出すの。
ママ、失敗は許さない。いいわね?あなたには散々お金をかけてきたんだから。
他のお家とは条件が違うんだから」
「うん。でもレオはレオが一番可愛いとか思ってないよ」
キッと狐の顔になったママが「くちごたえすんじぇねえ。ばーか」と耳元に囁かれ血の気が引いた。
名前が呼ばれ親子は入室した。
男性教師二人が玲於奈の身体を遠慮なく触る。
「良い脚ですね。きちんとターン・アウトしてる」
そうだ。踵をつけて両足を真横に開く。180度の開脚。
これが何もかもの基礎になる。
自分の膝は生まれつき少し内向きだったが努力した。
きゃっ!あ、あそこに……
一人の手が腿まで触って「ちょっと付け根からでないな。踵で開いてるな。二重関節は無理か……」
ドキリとした。一番触られたくないところを摩られ、その上ダメ出しされたのが悔しい。
自分でもそうじゃないかとちょっとだけ思っていたから。
バレエは選ばれた者だけが踊る資格を得る。
股関節を『亜脱臼』させて左の足を首より右に持ってゆくような技を自分は出来ない。
「まあ。まあ。ここまで開くのだからよいわ」
偉そうなお婆さんの一言で二人の男は玲於奈の股を触るのを止めた。
「お医者さんにみせるのと同じなのよ」
「いやだああ」玲於奈は大きな声を出したが大人達は全く頓着しない。
チュチュの下のアンダーウエアまでずらされた。股の付け根をみたいというのだ。
母もその場を一歩も動かない。ただ視ている。
じっと恥ずかしさに耐えた。
ぷるぷる体が震えた。
何か冷たい器具が股間の奥に押し込まれた。
それは小型カメラだったがその当時知る由もない。
散々写真も撮られた。
「両手を床につけなさい」
柔軟性をみるというが前屈すれば両手がぺたりと床に付くのは大した柔軟でない。
ここにオーディションに来るくらいなんだから誰でも出来る。
なんでこんな……
少女の疑問などお構いなしに背中を後ろから押された。
「いいですね。この子のここ」
お、お尻触っている!!
「ああ……いいね」
大人達の会話の意味は解らない。
吐き気がしてきた。
両手を二番ポジションに開いて両脚も二番の位置に開く。
脇の下や衣装の肩紐をずらして乳首だけの写真を撮られた。
それとは別に動画を撮るカメラのための三脚が用意された時、
流石に玲於奈の母は慌てた。
審査の大人達と隣室で言い争う声が途切れ途切れに響いた。
――ー約束が違う。
そんな事きいてない。
入学は……
この子は将来有望株
……倍に……金額……
ガード下の木造アパートに合格通知が届いた。
西日を浴びて洗濯ものを取り込んでいた娘を母は抱きしめた。
生れて初めて母の暖かい温もりに玲於奈は幸福で一杯になった。
あれからママが私を認めてくれたのはバレエ科のある高校に入学できた時だ。
厳しいレッスンの上に受験勉強はきつかった。
合格発表の日。
帰り道でママが何かお祝いを買ってあげるよと言ってくれた。
そんなことも初めてだった。
小学校の時から欲しかったウサギのぬいぐるみをねだった。
チュチュを着ていて可愛い。フレンチピンクのウサギ。
「こんな役にも立たない。子供じゃあるまいし」
「ううん。お守りにするよ。ありがとうママ!」誰かから貰った初めてのプレゼントだ。それもママからだなんて。
嬉しくてママに抱きついた。
でもママは鬱陶しいからおやめと叫けばれた。
「あんた。調子にのるんじゃないわよ。ここの入学金。全部ママの躰で支払ったんだから」
え?
「レオ。裏口入学したってこと!?」
口の中が切れるほど殴られた。
血の味が目覚めてからも残っている気がした。
旺盛な食欲で運ばれた食事を平らげた。
普段の玲於奈ならあり得ない。
加工肉など口した記憶もない。
カリカリのベーコンエッグは旨かった。マフィンもフルーツヨーグルトも、あっという間に平らげた。
冷えたシャンパンも半分は飲んでしまった。
こんなに食べ物が美味しいと感じたのも初めてだった。
食べるだけ食べて何もすることがない。
寝台に横たわると眠ってしまった。
遠い遠い記憶が夢のなかで展開したーーーーーーーーー
ある、大きなバレエ教室のオーディションを受けたのはまだ小学六の時だった。
都会の一等地にそれはあった。
横に広い大きなレンガ造りで中央と左右の端に塔が在った。
黒い鉄柵で囲われている。
周囲の喧噪をよそにそこだけ違う時間が流れているようだ。
ピアノの音が微かに聞こえて来た。
「メルヘンチックねぇ」
「うん。絵本に出てくるとこみたい」
「儲かってんのよ」
同じピンクのレオタードに着がえた少女達がバーにつく。
最初にバーレッスンで振り落としが始まった。
アレンジされたバッハのバレエ曲がMDから流れ出す。
「はい。呼吸して。お腹の中心、丹田締めて。
そう。ドゥミ、ドウミ。はい。グラン・プリエ。背中落とさないで」
そんなに難しくないわと玲於奈は安心したが、
バーだけなのに周囲の子達のレベルは今まで通っていた教室とは段違いだと直ぐに見抜いた。
なんだか綺麗な子ばっかりだあ……
広いレッスン場の三方の壁は総て鏡になている。
玲於奈はそっと母を探すと鏡越しに眼が遇った。
笑顔だ。こんなに機嫌の良い母を知らない。
他の保護者達も同じ場所に溜まっていた。
少女24人を見定める審査員が3人。
審査員の誰かひとりに肩をぽんぽん叩かれたら即不合格となって部屋を出ていくのだ。
玲於奈は最後の6人の中に残って控えの間に帰った。
母の良子は娘を抱きしめて「偉いよ!れおちゃん!」
玲於奈はめっくらって後ずさりした。
母に抱きしめられたのは生まれて初めての経験だった。
……なにこのテンション!
こんなに優しくしてくれるんだ。
バレエが出来ればママはこんなに私を好きになってくれる!
可愛がってくれるんだ!
新しい世界に踏み出した気持ちがした。
次のバリエーション試験、絶対頑張らなくちゃ。
同じ教室の子から借りて来た『眠りの森の美女』のオーロラ姫は平たく広がるボンで白の上にピンクのサテン生地。
金糸の刺繍。それに胸元には宝石に似せた石がキラキラしている。
小さなティアラを載せる。
「ほら付け睫毛するから。眼伏せて」
メイクも終わって鏡に映るのは魔法のかかった国のお姫様だ。
いつものヨレヨレのTシャツにデニムの玲於奈とは別人だ。
「綺麗な子達ばっかだなあ。ねえ。ママ?」
「あなたが一番可愛いよ。自分でもそう思ってるくせに。
いい?絶対合格するのよ。今まで積み上げたものを全部出すの。
ママ、失敗は許さない。いいわね?あなたには散々お金をかけてきたんだから。
他のお家とは条件が違うんだから」
「うん。でもレオはレオが一番可愛いとか思ってないよ」
キッと狐の顔になったママが「くちごたえすんじぇねえ。ばーか」と耳元に囁かれ血の気が引いた。
名前が呼ばれ親子は入室した。
男性教師二人が玲於奈の身体を遠慮なく触る。
「良い脚ですね。きちんとターン・アウトしてる」
そうだ。踵をつけて両足を真横に開く。180度の開脚。
これが何もかもの基礎になる。
自分の膝は生まれつき少し内向きだったが努力した。
きゃっ!あ、あそこに……
一人の手が腿まで触って「ちょっと付け根からでないな。踵で開いてるな。二重関節は無理か……」
ドキリとした。一番触られたくないところを摩られ、その上ダメ出しされたのが悔しい。
自分でもそうじゃないかとちょっとだけ思っていたから。
バレエは選ばれた者だけが踊る資格を得る。
股関節を『亜脱臼』させて左の足を首より右に持ってゆくような技を自分は出来ない。
「まあ。まあ。ここまで開くのだからよいわ」
偉そうなお婆さんの一言で二人の男は玲於奈の股を触るのを止めた。
「お医者さんにみせるのと同じなのよ」
「いやだああ」玲於奈は大きな声を出したが大人達は全く頓着しない。
チュチュの下のアンダーウエアまでずらされた。股の付け根をみたいというのだ。
母もその場を一歩も動かない。ただ視ている。
じっと恥ずかしさに耐えた。
ぷるぷる体が震えた。
何か冷たい器具が股間の奥に押し込まれた。
それは小型カメラだったがその当時知る由もない。
散々写真も撮られた。
「両手を床につけなさい」
柔軟性をみるというが前屈すれば両手がぺたりと床に付くのは大した柔軟でない。
ここにオーディションに来るくらいなんだから誰でも出来る。
なんでこんな……
少女の疑問などお構いなしに背中を後ろから押された。
「いいですね。この子のここ」
お、お尻触っている!!
「ああ……いいね」
大人達の会話の意味は解らない。
吐き気がしてきた。
両手を二番ポジションに開いて両脚も二番の位置に開く。
脇の下や衣装の肩紐をずらして乳首だけの写真を撮られた。
それとは別に動画を撮るカメラのための三脚が用意された時、
流石に玲於奈の母は慌てた。
審査の大人達と隣室で言い争う声が途切れ途切れに響いた。
――ー約束が違う。
そんな事きいてない。
入学は……
この子は将来有望株
……倍に……金額……
ガード下の木造アパートに合格通知が届いた。
西日を浴びて洗濯ものを取り込んでいた娘を母は抱きしめた。
生れて初めて母の暖かい温もりに玲於奈は幸福で一杯になった。
あれからママが私を認めてくれたのはバレエ科のある高校に入学できた時だ。
厳しいレッスンの上に受験勉強はきつかった。
合格発表の日。
帰り道でママが何かお祝いを買ってあげるよと言ってくれた。
そんなことも初めてだった。
小学校の時から欲しかったウサギのぬいぐるみをねだった。
チュチュを着ていて可愛い。フレンチピンクのウサギ。
「こんな役にも立たない。子供じゃあるまいし」
「ううん。お守りにするよ。ありがとうママ!」誰かから貰った初めてのプレゼントだ。それもママからだなんて。
嬉しくてママに抱きついた。
でもママは鬱陶しいからおやめと叫けばれた。
「あんた。調子にのるんじゃないわよ。ここの入学金。全部ママの躰で支払ったんだから」
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