【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI

文字の大きさ
68 / 71

68:怒ります

しおりを挟む


思い返せば、この世界に落ちてきて、一番最初に出会ったのは、瑠璃だった。


「こっち見て暁」


自分より頭一つほど小さな瑠璃が、小さな体を最大限いっぱい使って、目線を合わせ、オレを守るようにぎゅうっと抱き締めてくれる。オッドアイの瑠璃と金の瞳の瞳孔が縦に割れ、獰猛な竜の眼に、我知らず心を持って行かれる。


「おれは……天狼との賭けだけでなく、奇跡に賭けた」
「奇……跡……?」
「それが、、だ」


獰猛な竜の眼が、獲物を逃さんとギラリと輝く。
でも、怖いなんて思わない。
オレは、獰猛な竜の優しさを―――知っているから。


「―――オレは……お前を……裏切った」
「翡翠を愛したことか?」


真っ直ぐなその言葉が、オレの心に突き刺さる。
そうだ。オレは、黒羽を愛している心に気付きながら、翡翠の心に溺れた。

全身を吹き抜ける風切り音が、オレの心の叫びの様に鼓膜を切り裂き、耐え切れずに瞼をぎゅっと閉じる。


「スイは……ずっとオレを守ってくれて……温もりと安堵をくれて」
「スイが暁を守っている間、おれは、暁をただ見ていることしか出来なくて―――黄麟と、暁を殺し続けた」


自嘲気味に唇を噛む瑠璃に、「それは違う」と暁は頭を振る。
全てを思い出した今、それが、自分自身を殺すことよりもツラく、魂を傷付ける程の慟哭との戦いであったことを、オレはもう分かってる。

黒羽は自分を捨て、自分の命と竜の力の全てを賭して、オレを、数多の世界の創主たる天狼から、奪い取ってくれたんだ。そしてそれは、他の竜達もきっと一緒だ。


「お前が―――己のすべてを掛けてオレをにしてくれたのを、知ってる……だのに、オレは」
「暁は、おれを、『黒羽』を見つけてくれた。そして……『瑠璃』も大切に愛してくれた。違うか?」


悪戯な微笑みは瑠璃のものだ。
でも、静かに唇を寄せて、味わうように口付けて来るソレは、黒羽のものだ。


「瑠璃」
「ん?」


離れた唇の隙間で、その名を呼ぶ。


「黒羽」
「……なに、暁?」


くすくす笑いながら、啄ばむ様に何度もキスしてくる目の前の少年を見つめ、暁は今にも泣き出しそうな顔で微笑んだ。


「……これからは、黒瑠璃くろるりって呼ぶ」
「なんだソレ?」
「だって、目の前のお前は、オレの瑠璃で黒羽なのに、更に厄介な男になってるから」
「お前といっしょだ暁。お前だって、おれの一番星で暁で、それよりも愛してるおれの宝物だ」


生意気な黒瑠璃が、少年にあるまじき、頭が真っ白に溶けそうなキスをくれる。


「このまま、暁を抱きたいな」
「ヤだよ。オレは……未成年者淫行で捕まりたくはない。早く、大きくなってくれ」
「大きくなったら、即抱くぞ? 言質はとったからな、身長が暁より一ミリでも大きくなったら、問答無用だぞ。待ってろ、すぐ魔力で成体になるから!」
「ばッ―――! それよりなにより今の状況だろう?」


ぐんぐん地面が近付いて来ているのは気のせいではない。そうだ。この状況だというのに、どうして黒瑠璃は竜に戻ってくれないんだ? オレを抱えて一緒に飛ぶのは、まだ無理なのだろうか……。

湖に落下し、瑠璃に引き上げて貰った、前回を事を思い出している暁に気付いたのか、黒瑠璃がちゅっと暁の額にキスを落とした。


「おれ達は実体じゃないから、大丈夫」
「え、だって―――こんなリアルな」


黒瑠璃の躰に触れる感覚も体温も、全部わかる。
これが、実体でなければ、一体なんだっていうのだろう。


「おれと暁が落ちる先にあるのは、自分たちの、この世界を生きる躰だ」


安心させるように笑う黒瑠璃の、大人びた表情に目を奪われる。可愛い瑠璃と、精悍な黒羽の両方が混じり合った、少年期から成長する瑞々しくも秀麗な、オレの愛する男の、顔、だ。


「今、を手に入れるために……必要のない事なんて、何一つなかった。暁が翡翠に抱かれて、翡翠の竜力を躰に取り込んでくれていたから、暁は暁として、魂も躰も心もそのままで―――一緒に還ることが出来るんだ。翡翠に暁を取られたのは、ちょっと……だいぶ……いやかなり、腹は立ってるけど」


――人というのはね、魂と体と、そして心の、3つが揃わないといけない。


ゲートを潜って、暁として初めて次元圖書館に立った時に、天狼が言っていた言葉を思い出す。それを、黒羽は知っていて、だからこそ―――。


「認めたくはないが。あれが、なかったら、天狼からお前の魂を奪えても、俺達の世界に―――お前は生まれ直すことになっていたかもしれない」
「―――………それって」
「おれは、おれ達は―――一番星でもなく、生まれ直した一番星でもなく、暁、今のお前がいいんだ。99回の転生を繰り返し生き続け、おれ達の元に戻って来てくれた、お前だけが、欲しいんだ」


黒瑠璃の言葉が、オレの心の空虚を突いてくる。

オレはずっと、オレが一番星の魂を持っているから、皆がオレを大切にしてくれていると、思っていた。皆が大切にし、愛してるのは一番星で、暁であるオレを、見てくれはしないと、そんな風に考えていたんだ。

オレを見てくれるのは、翡翠だけ。
でも、それは、オレの間違いだった。

皆は、ただ、オレを―――想ってくれてたんだ。
あの限りなく一方通行に近い血の誓いで、嫌という程、皆は伝えてくれたというのに、オレは意外と、この件に関しこだわり過ぎていたと、やっと気付いた。

もともと、この世界に戻ってくるまで、感情も心も持っていなかったオレだ。相手の心の機微を汲み取る事なんて、そんな難しい事、簡単に理解できる筈もない。皆には悪いが、許して貰えると、嬉しいのだが……。あとで、翡翠を筆頭に物凄く怒られそうだ。


「だから、一緒に戻って欲しい。おれと、コイツも一緒に……」


黒瑠璃が静かに手渡してきた温かな何か。恐る恐る両手を開いてみると、そこには、出会った頃の瑠璃よりも小さい、両手の中に納まってしまう程に小さな黄色い竜が、小さく丸まり涙を零している。


「黄麟の、心だ。黄麟は、おれの能力を使い異界に転移し、暁の命を狩り続けた……。暁をこの世界に迎えるためだったとしても、耐え難い良心の呵責から、心を擦り切れさせて、こんなに小さくなってしまった。黄麟の責は、おれが負う。暁、どうか、許してやって欲しい」


胸に抱いた小さな黄麟が薄く目を開いて、オリーブの瞳に涙を一杯に溜めて、オレを、見上げて来る。許すも許さないも、そんな可愛らしい姿で涙目なんて、可愛いが過ぎて気が遠くなりそうだ。


「……黄麟には借りがあるから下手にでてるってのに、お前は、相変わらずあざといな」


小さな黄麟の頭を指で小突く黒瑠璃に、オレは頷くしかない。

うん。これはかなりあざといと思う。
ちなみに、お前もだ、黒瑠璃。

姿が年下に見えるのを良い事にして、甘えたで両手両足でオレに抱き着くお前の姿は、黒羽の幼い頃と同じで、かなりの瑠璃成分が出ているとしか思えない。


「今の暁の心に住み着いてるのが翡翠なのはわかってる。でも、おれは、必ず暁の心を奪い返すから、覚悟して。竜の執念と執着を甘く見るな―――それと」


ちゅっと右頬にキスしてきた黒瑠璃が、「これ以上の浮気はなしだ」と、オソロシイ声音で俺の耳に囁いてきた。




ふと落下速度が落ちた事に気付く。
周囲には、複数の竜の気配。




「……駄目だ、暁。絶対に、逝かせない」


翡翠のくぐもった低い声が、暁のすぐ傍で響いた。

さっきまで空から世界を見下ろしていたのに、いつのまにか、光の矢をこの身に射られたコロッセオの磔台にオレは戻って来ていた。翡翠はピクリとも動かないオレの抜け殻を抱き、、見上げてきた。


今のが、見えているはずはない。


だのに、翡翠のその名の通りの翡翠色の瞳は、間違いなく大気の中に揺蕩うオレを見上げ、見据えてきた。見た事もない程に、燃え盛る怒りをその目を灯して―――。


スイ……?


声にならない声で、その名を呟いたら、翡翠の瞳は更に怒りの炎を燃え盛らせた。今の自分には魂も躰もない。ただの意識体でしかない自分を、どうしてお前は見据えることが出来るのだろう? 泣きたい気持ちで翡翠を見つめたら、翡翠の怒りの形相が少しだけ緩んだ気がした。


「お前を抱いて、俺は、お前の中に俺を刻みつけて俺を浸透させた。だから、お前がどんなカタチになったって、大気に溶けたって、俺は絶対にお前を見逃さない。お前はもう、俺のモノなんだから、どこにもいかせはしない。お前がどうしても逝くっていうなら、俺も一緒に逝く」


暁の抜け殻を抱き締めていた翡翠がゆらりと立ち上がり、見える筈のない、在る筈のない、暁の意識体を躰ごとその腕の中に閉じ込め、キツク目を閉じ呟いた。


「置いて行かれるのは、もう、御免だ……」


翡翠の体温が、物質としての質量もない暁を温め、暁は翡翠の柔らかな檻に捕われる。

自分の躰に戻って、自分の腕で、翡翠を抱き締めたい。

でも、どうしたら戻れるのかが、わからない。
自分が落ちる先は、この躰だと黒瑠璃は言っていた。けれど、どうしたら……どうしたら……?

黒瑠璃の姿はない。
小さな黄麟も、手の中から消えてしまった。

どうしてよいかわからないもどかしさに、泣きたい気持ちで目を伏せる暁に、蒼天の低い声が響く。


「お前に手を出した緑は先に殺すとしても―――。お前が死んだら俺もどうにかして死ぬと、伝えた筈だ」


蒼天の両腕が、翡翠の腕の中の見えない暁を更に包み込んだ。檻が二重になり、更に蘇芳と白漣が声が続く。


「緑のの腕の中にいるんだろう、暁? 青いのと一緒で、先に緑のは殺すとして。お前が戻らないなら、俺もこの場で命を終える」
「私もです。はじめの竜が4体この場で絶命するとなると、この世界は、確実にバランスを崩して、終わりを迎えるでしょうね。その前に、あなたに手を出した翡翠は処刑決定ですが」


蘇芳と白漣は、翡翠と蒼天の腕の中の、見えないはずの暁を睨みつけて脅迫してくる。


「いや。4体じゃないな。6体全員だ。暁を射たあのクソ黄野郎も、すべてを企んだ黒野郎も……今から俺がぶち殺してくれる」
「ああ、奇遇だな青いの。俺もそれを考えていたところだ」


――もしかして、皆には―――オレが、見えているのか?


自分の呟きは、現世を生きる者には聞こえる筈もない。
そう考えていた暁を、四竜はぎろりと睨みつけ、皆一様に眉間に深い皺を刻み込み、口を開いた。



「「「「姿も見えてるし、声も聞こえてる」」」」



『竜の執念と執着をを甘く見るな』


黒瑠璃の恐ろしい声が再び聞こえ、暁を戒めてきたが、暁は暁で目の前の竜達に言いたいことがあった。



――オレは、還って来たんだ!
  そんなに怖い顔で怒ることはないだろう!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。 王命を知られる訳にもいかず… 王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる? ※[小説家になろう]様にも掲載しています。

(完結)冷徹アルファを揺さぶるオメガの衝動

相沢蒼依
BL
 名門・青陵高校に通う佐伯涼は、誰もが一目置く完璧なアルファ。冷静沈着で成績優秀、規律を重んじる彼は、常に自分を律して生きてきた。だがその裏には厳格な父と家の名に縛られ、感情を抑え込んできた孤独があった。  一方、クラスの問題児と呼ばれる榎本虎太郎は自由奔放で喧嘩っ早く、どこか影を抱えた青年。不良のような外見とは裏腹に、心はまっすぐで仲間思い。彼が強さを求めるのは、かつて“弱さ”ゆえに傷ついた過去がある。  青陵高校1年の秋。冷徹で完璧主義の委員長・佐伯涼(α)は、他校の生徒に絡まれたところを隣のクラスの榎本虎太郎(Ω)に助けられる。だがプライドを傷つけられた佐伯は「余計なことをするな」と突き放し、二人の関係は最悪の出会いから始まった。 《届かぬ調べに、心が響き合い》 https://estar.jp/novels/26414089 https://blove.jp/novel/265056/ https://www.neopage.com/book/32111833029792800 (ネオページが作品の連載がいちばん進んでおります)

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

処理中です...