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70:エピローグ
しおりを挟む「全部、思い出したのか、暁?」
緑の森の中で、背後からオレを抱き込んで離さない翡翠の言葉に、苦笑が零れる。
この世界を滅ぼす気か? と聞きたくなるくらいの、はじめの竜5体による総当たりの大喧嘩(黄麟のみ不参加)の最中、一瞬の隙を突いてオレを攫い、自分の領域に隠れ込んだ緑の竜が、何をそんな消え入りそうなぼそぼそ声で、背後から確認してくるのだ。これは、笑うなという方が無理である。
オレは―――お前たちが天狼から一番星を奪うために、全員で協力し一番星の転生体を99回殺し、この世界にオレの魂を縛り付ける気だったことをさっきまで知らなかった。
しかし、一番星も随分な苦行を、皆に強いたものだ。
自分を愛してる竜達に、自分を99回殺せなんて、普通そんなコト頼むだろうか? 本当にオソロシイ女神様である。
「……オレ殺しの実行犯は黄麟だけど、協賛と協力には全員の名前が記されてた事か?」
「ゴメン……」
ぎゅうっと抱き締めて来る翡翠が、オレの肩口に顔を摺り寄せて、許して欲しいと乞うてくる。ああ、どうしようもなく……愛しいよ、翡翠。
オレは翡翠の胸に背を預け、すりっと顔を摺り寄せ、翡翠の顎に噛みついた。
「この件の首謀者は一番星だ。恨んではいない……それに……お互い、惚れた弱みってのも、あるだろ?」
「―――……うん」
翡翠の唇が、静かにオレに降りて来る。
最初はゆっくりと、確かめるように。それから深く、互いを求めるように……。
翡翠の舌が、オレの歯列を割って、上顎を舐めてオレの舌を求めて来るけれど、何とかそれを押しのけて、唇が触れてまま、声を上げる。
「……ゴメンなら……オレもだ。オレは、スイを愛してるのに、黒羽の事も」
「黒羽の事も愛してるって? そんなん、どうでもいい……お前が、俺を求めて、愛していてくれるなら、そんなこと、俺は、どうでもいいんだ」
翡翠がオレの唇に齧り付いて、問答無用とオレを求め、舌に吸い付き痺れる程に口腔内を犯してくる。絶対に逃がさないと抱き締めて来る両腕が、不埒な動きを見せ始め、片手は胸元に、もう片方が腰を滑り、足の付け根を撫でてゆく。
オレの心を確かめたいのはわかるし、オレとしても、翡翠に求められるのは、正直嬉しくもあるのだけれど、今は、駄目だ。
「……ま、て―――スイ」
「待たない」
「……今の、この状況を……正しく思い出せ……って」
「あ~――……っ」
性急な動きを見せ始める翡翠の手を止めるために、ちょっと強めに舌を齧り、「メッ!」とその名の色を称える翡翠の瞳を見据えたら、やっと現実に気付いてくれた翡翠が「チッ!」と舌打ちしてその手を止めてくれた。
オレは座った姿勢で背後から翡翠に抱き締められ、その腕の中に捕らわれているのだが、投げ出した足の上には、小竜と仔竜がすやすやと眠っているのだ。
オレの膝の上でぐっすりと眠っているのは、黒い小竜と、黄色い仔竜。
まだ成竜とは言えないが、出会った頃の仔竜の姿から比べたら中学生?位まで育った黒瑠璃と、オレの胸に縋りつき子供みたいに泣き続け、流した涙に比例する様にどんどん小さく、幼稚園児? くらいまでちっちゃくなった黄麟が、本日分のエネルギーを使い果たしたお子様の様に、俺の膝の上で眠っている。出会った頃の瑠璃サイズの仔竜に変化してしまった黄麟の目元には、まだ涙が滲んでいる。
「……コイツラ、どうやって俺の領域に潜り込んだんだ。クソうっ」
「リンはオレにしがみ付いてたからわかると言えばわかるが……黒瑠璃の反射速度は驚嘆に値するな」
「黒瑠璃? 黒羽でなくて?」
「オレが一番星を乗っ取ったのと違って、黒羽と瑠璃は、融合したみたいな感じだから……」
『乗っ取った』と言葉にしてから、少々自虐的だったかと視線を逸らしたら、翡翠が目元にキスしてきて、顎を取られて―――唇に、優しいキスをくれた。
「お前は、俺の暁だ。生まれた瞬間から一緒に居て、ずっと愛してる、暁だ」
「……スイ」
もっと翡翠のキスが欲しくて、強請るように唇を開き頬を摺り寄せて目を閉じる。そうしたら、翡翠がオレの欲しいものをくれた。
ゆっくりと唇を重ね、少しづつ、何度も角度を変えて互いの想いを交わし合う。
「……黒羽のことはどうでもいいって言ったが……この、黒瑠璃? と、お前がこんなことするのは……許せないというか、何というか」
「……そこは、オレも倫理的にどうかと。だから、待って、て話はして」
「1ミリでも大きくなったら良いって言った」
翡翠と二人して、はたっと目を見開き視線を落とすと、黒瑠璃のオッドアイがぱっちりと開いて、こちらを見上げていらっしゃった。
もしかして……全部見てたとか……言わないよな?
「暁と、約束した」
「……シマシタ」
金色の瞳と瑠璃色の瞳に真っ直ぐ見つめられると、オレは、白旗を振るしかない。頬が触れたままの距離から、悪鬼の如き目を向けて来る翡翠の視線に焼かれて死にそうだ。
黄麟は、まだ眠っている。ああ、良かった……。こここで黄麟まで目覚められたら、オレは逃げ道を塞がれるトコロである。
「リ、リンがまだ眠っているし、この場は、納めて―――くれないかな、二人とも」
アッと思う間もなく、俺は黄麟と共に場外に投げ出され、リングゴングの音が辺りに響き渡っていた。
「サシで勝負と行こうか、黒瑠璃とやら?」
「望むところだ。おれが勝ったら、暁から手を引け」
「どの口が言っている―――?!」
相変わらず、黒羽は翡翠を煽るのが天才的に上手い。黒羽は黒瑠璃になっても、ソコのトコロは、全く変わらないらしい……。
こうなると、長いんだよなあ。
二人はもともと、仲が悪いように見えて、なかなかに馬が合う。
半場、オレを肴にじゃれ合っているようなものなのだ。
はあ……と溜息を吐いて胸に抱いたちっちゃい黄麟を撫でたら、黄麟が気持ちよさそうな幸せな顔をして、薄く目を開いた。
「……あかつき」
猫みたいに喉を鳴らして、黄麟がオレの胸に身を摺り寄せ、この世の春の様に笑う。……このあざとさは、昔から変わらないけれど、可愛いから困り物である。
もしかして、オレがちっちゃい頃のお前達に弱いのを知っていて、わざと仔竜に変化したわけではないよな、黄麟……?
「黄麟はあざとさ200%だな……。どれ、俺もそれにあやかるか」
「ソウ?! どっから来たんだ―――?!」
「緑の手口は読めてるから、緑の宮の門をぶっ壊して、緑の領域に無理やり押し入った」
突如として現れた蒼天が、その姿を見せるなりオレをぎゅうぎゅうに抱き締めて、ぽんっ!っと音をたて、その身を変化させた―――黄麟と並ぶ、青い仔竜に……。
「黄の手管は正しいし、上手い手だ。思い返せば、お前は幼い俺達にメロメロだったものな」
オレの肩口に巻き付いて、尻尾で右手を引っ張り上げるなり、その腕の中に潜り込んだ蒼天が、抜けるようなスカイブルーの瞳で俺を見上げ「どうだ?」とばかりに満面の笑みを浮かべる……。
うううう……。反則だって、ソウ……。
これを愛でるなって方が、無理ってもんだろう?!
「っち……。青竜はいつも僕の邪魔をする」
「その舌打ち。中身がそのまんまだな黄。とりあえず、暁の左腕はお前に譲ってやるから、有難く思え」
腕の中に抱いた青と黄の仔竜は、ちっちゃい頃の可愛らしい時代を思い出させてくれて、本当に可愛いのですが、中身と言動が余り可愛くない。というか、中身はそのままで、その仔竜姿というのは、詐欺というモノである。
目の前では、緑の竜と黒い竜が、じゃれ合いからの本気の喧嘩に変化しているので、そろそろ止めに入りたい所なのだが、「両手に花」、ならぬ、「両手に青と黄の仔竜」となると、四ツ巴の大喧嘩になるのが、火を見るよりも明らかだ。
それに……ここに蒼天が押し入って来れたということは、残りの赤白の竜が同じくということで―――。
「何だお前ら?! 子供姿は俺の専売特許だぞ!!」
「……青竜がちっちゃくなってるのは、キモチワルイですねって、赤竜! あなたまでちっちゃくなって暁に抱っこされないでください!! 私のポジションが無くなります!!」
ぽんっ! ぽんっ!! と順次仔竜に変化した蘇芳と白漣が飛びついてきて、堪らず尻もちを付く。
「「「「暁?!」」」」
どこまでも深い森の中で、やわらかな黄色い木漏れ日がオレを照らす。その先には青空と白い雲が見えて、風に揺れる赤い花が鼻先をくすぐり、木陰の黒い影と緑の絨毯みたいな芝生が、優しくオレを包み込んでくれた。
「「お前ら! 暁に何してる?!」」
一時休戦で飛んでくる翡翠と黒瑠璃、ちっちゃな蒼天と黄麟と、蘇芳と白漣が、心配する様にオレの顔を覗き込んでくる。
ああ、みんながいる。
オレをこの世界の人間にしてくれた、はじめの竜達が……ここに、こんなに傍に居てくれる……。
生まれ変わる度に心を無くし、すべてを捨て、冷たく寒い世界を渡り歩いた日々が、ここに、今この時に繋がっていたんだ。
不要なことなんて、何一つなかったと……すべての道程があったからこその、「今」、なのだと、オレはいま、すべてを理解することができた。
力の限り手を伸ばし、大切なはじめの竜達を抱き締める。
そして、万感の思いを込めて、伝える。
「……オレを諦めないでくれて、ありがとう」
全ての思いを込めて伝えたのに、オレの大切なはじめの竜達には、オレの言葉は正しくは伝わらなかったらしい……。
「諦めるわけなど無い! 暁はおれのだ!!」
「違う! 俺のだ!!」
いつの間にか両目が金色になっている黒瑠璃に翡翠が噛みつくと、
「何月何日の何時何分に暁が黒と緑のモノになったってんだ!」
「青いのの言う通りだ! 顔洗って出直してこい! 黒いの!緑の!」
最早子供の喧嘩言葉となっている蒼天と蘇芳ががなり立て、
「…………」
「黄竜?! 無言で暁の懐に潜り込まないでください!!」
腹から服の中に潜り込んでくる麒麟を、白漣が鬼の形相で引っ張り出し、鉄拳制裁を加えている。
ああ、これが今日からの日常になるのか……と、嬉しいような困ったようなこそばゆい状況に、口元が緩んだ瞬間、天からの声が、聞こえてきた。
【竜の執着がウザくなった? その世界を潰して、迎えに行こうか?】
お前もみんなと同じだ天狼様。
オレは、命が尽きるまで皆の傍にいると決めたんだから、この世界を潰すなんて、絶対に止めて下さいね?
この世界の帰属となったオレの魂が、すべてを終えたその時には、きっとそこに、還るから……。
終
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