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「すまない。ベラに子供が出来た。君がこれからの生活に困らないだけの慰謝料は用意する。だから、俺と別れて欲しい。」
突然の離婚話に、思わずカップを落としそうになった。
「子供?」
夫のラルドは、私が離婚の事でショックを受けていると思っている様だが、そんな事で思考が止まったのではない。
ラルドの子を宿したというベラに固まったのだ。
ベラは昔から高位爵位への憧れが強く、子供の頃より侯爵夫人か公爵夫人になりたい!と言っていた。
私達の様な低位貴族が高位貴族に嫁ぐなんて相手の子息が恋に落ちてくれない限り有り得ない。
そんな夢を語っていたベラにも今は夫がいる。
ベラと同じ男爵家の嫡男だ。
一方、私の夫ラルドは子爵家の嫡男だ。
どちらも生家の爵位に釣り合う相手と結婚していたが、生家が男爵家だった私がワンランク上の子爵家の子息と結婚した事をベラは狡い!と言っていたっけ。
ラルドが爵位を継いで直ぐに私達夫婦でお互いの得意分野を活かした新規事業を立ち上げた。
そのため子供はもう少し事業が軌道に乗ったら…と話し合って決めていた。
最近はお互いが多忙で時間も合わないからと寝室も別にしていたけれど…まさか浮気をしていたなんてね。
「そう、子供が出来たのなら仕方無いわね。離婚届にサインはするけれど、貴方の不貞なのだから財産はきっちり半分は頂くわよ。あとは私が行っている方の事業の権利を私名義にしてくれれば良いわ。」
どうせラルドには私が行っている業務を行う事は出来ない。
お互いの業務を独立させ、そのまま行うのが1番だ。
私は財産分けで得たお金で、新会社を設立すれば良い。
「君はここを出て行くんだ。今の事業には手出し出来る…「私が携わって作り上げた物を貴方に簡単に渡すわけないでしょう?ここまで作り上げるのにどれだけの時間と労力が掛かったと思っているの?私の業務提携がなくては、貴方の業務は成り立たないのよ。私と仕事仲間として業務提携したいなら、ここで折れた方が良いのではなくて?」
ランドは、とても悔しそうな顔をしているが、離婚する人に優しさを持てるほど私は心が広くない。
「俺が、俺がベラと浮気したから仕返しするのか?政略結婚のお前に俺が愛情を持つことが出来なかったからなのか?お前の気持ちに応えてやれなかったのは悪いとは思うが、やっと軌道に乗った新規事業の一部を寄越せとは、少し強欲過ぎないか?それに財産も半分寄越せなどと言い出すとは…。そんな事で俺を困らせても離婚する事は変わらないのだぞ?」
この人、頭が湧いてしまっているのかしら?
さっき離婚に応じると言ったはずよ。
「離婚届にサインはすると言ったでしょう?財産分与と事業の権利の書類を作成して、貴方と私のサインが終われば、直ぐに離婚届にサインをするわよ。どちらが作る?私の方が早いと思うけれど、貴方が作ると言うのなら荷物を纏めているから、出来たら呼んで頂戴。」
荷造りすると言う私に戸惑いを見せたが、ベラとの為に一刻も早く離婚したいランドは、書類を自分が作成すると言った。
我が家の総財産を調べるのにはランドだと2、3日掛かるだろう。
私なら明日には仕上げるのに…。
早急に家を探す事を考えれば2、3日有った方が助かる。
ああ、そうだ。すっかり忘れていた。
ベラにも慰謝料の請求をしないとね。
貰える物は、きちんと貰わないと♪
…ん?ちょっと待って。
ベラに私が慰謝料を請求出来る様に、ベラの夫もランドは請求が出来るのよね…。
ハッ!狡いランドの事だ。
きっと支払った後の財産を半分にする。
慌てて今歩いて来た廊下を戻る。
「言い忘れてたわ!男爵に払う慰謝料は、貴方の残った半分の財産から支払うわよね?私には一切関係の無い事なのだから、そこは貴方が男爵に誠意を持ってお支払いするでしょう?まさか、財産分与する前に渡してしまえっ!なんて私にも男爵にも誠意のない事は考えていないわよね?」
「っ!!……し、支払いは勿論俺の財産から支払うつもりだ。しかしシリア、君という人は、金に、がめつい…しっかりしていたのだなっ」
「ふふふ、褒めて頂きありがとうございます。」
あの顔、私が言わなければ、絶対に総財産から支払っていたわね。
気が付いて本当に良かった、危ない危ない。
危うく私の取り分が減るところだったわ。
次の日は朝から新居探し。
今の屋敷の荷物量を考えながら、手頃な屋敷を見付け、直ぐに引っ越しを始めた。
3日後にランドから書類が出来たと言われ、確認すれば、新しい家を購入しても新会社を創設しても、まだまだ充分生活には困らない金額が残る。
「じゃあ、約束通り離婚届にサインするわ。これからは、仕事仲間として、お互いに頑張って行きましょうね。」
ランドも、無事に離婚届にサインが貰えてホッとしている。
握手を交わしていると、バタバタと走って来る音がして、扉がバンッとノックもなく開かれた。
「ちょっとシリアっ!この慰謝料の金額は何なのよ!?」
「あら、ベラ。妊娠初期に走るなんて駄目よ。転んだりでもしたらどうするの?」
「そうだぞ、ベラ。大事な大事な子爵様の子なんだろう?流産でもしたら大変だぞ。それに夫人の請求金額は妥当だろう?て、事で、これが俺から子爵様への慰謝料請求書だ。支払い宜しくっ!」
ランドに渡された請求書を覗き見る。
私がベラに請求した金額よりも少し多いが、まぁ妥当な金額かな。
それでも財産の半分を私に渡したランドには痛い金額になる。
人の奥さんを寝取って子供まで作ったんだから仕方が無いわよね。
それで愛する人と産まれてくる子供と一緒に暮らす幸せが手に入るんだもの、安いものだ。
「あんたもシリアも、あたしに支払うお金がないのは知っているでしょう?慰謝料請求されても無理なのっ!」
「無理と言われも、ベラは私にそれだけの事をしたのだから支払って貰わないと困るわ。」
「はぁぁ!?お前は散々贅沢した上に浮気だぞ。本来ならお前に請求した倍の慰謝料を払って貰いたいのを減額してやったんだ、有り難く思って支払いやがれっ!」
「ランドぉ~、グスッ…助けてよぉ~、このままだとあたし、貴方に嫁ぐ前に身重の身体で働かないといけなくなっちゃうぅ~…グスッ…」
あらあら大変ねぇ。
ベラの慰謝料まで支払ったら、残った財産が更に半分になるわねぇ~♪
「あ、あの、シリ…」
「さぁ離婚も成立しましたし、もう此処に長居しては幸せになる2人の邪魔になりますわね。それでは子爵、今後は仕事の事だ・け・で・お会いしましょう。では、ご機嫌よう♪」
私を呼び止め様としてるランドに縋り付き、よよよと泣いている振りしてるベラは、私を見ると勝った!とニヤけていた。
ふんっ!そんな浮気男、貴女に熨斗付けてあげるわよ。
離婚話しをされてもショックを受ける事は無かった。
私の中で、とっくにランドを好きな気持ちは冷めていたのかも知れない。
ベラが妊娠した事に固まったのは、向こうも既婚者だったから驚いただけで、彼女に取られたのが悔しいとか、そういうのはないんだよね。
寧ろ、子供が出来た事を心から祝福するわ♪
離婚して、元々一緒に仕事を行っていた人達を連れて新会社を始めれば、仕事を依頼したい人が多く忙しい毎日を送っている。
ランドの方はと言えば、私達の基盤があって作れる物。
同業者より質の悪い物を作れば、信用をなくし当然売上げは悪くなる。
最近は、元夫婦だったのだからと価格交渉してくるが、突っぱねている。
ベラを街で見掛けた。
男爵夫人だった時よりも質素な服装だった。
そろそろお腹が膨らんで目立つ筈なのに、ぺったんこなのは???
離婚して1年近く経った頃、ランドの会社は負債を抱えて倒産。
産まれている筈の子は産まれていない。
ベラがランドと再婚したい為の嘘だったのだ。
騙されたぁー!と言って、私の所で喚いてるランドに忙しいからと帰る様に冷たく言えば…
「君は俺を好きだったじゃないかっ!?なぁ俺達またやり直さないか?もう浮気は絶対にしないし、君だけを愛するから。」
「ふざけるなっ!今の貴方と私が再婚してなんの得が有るのよ!?無一文、いえ負債を抱えている貴方と再婚なんてしたら、私の財産が減るだけじゃない!?本気で再婚したいなら、それなりに整えてから来なさいっ!!」
大方、人の財産を当てにして再婚したいなんて言っているのだろう。
ふざけてる。
それに私には、想いを寄せている人が居るのだ。
相手の伯爵様は、結婚直後に事故で奥様を亡くされていた。
知人からの紹介だったけれど、会って話してみると趣味も合い意気投合した。
この人ならば、これからの人生を一緒に歩んで行けると信じている。
End
最後まで読んで頂き ありがとうございます。
突然の離婚話に、思わずカップを落としそうになった。
「子供?」
夫のラルドは、私が離婚の事でショックを受けていると思っている様だが、そんな事で思考が止まったのではない。
ラルドの子を宿したというベラに固まったのだ。
ベラは昔から高位爵位への憧れが強く、子供の頃より侯爵夫人か公爵夫人になりたい!と言っていた。
私達の様な低位貴族が高位貴族に嫁ぐなんて相手の子息が恋に落ちてくれない限り有り得ない。
そんな夢を語っていたベラにも今は夫がいる。
ベラと同じ男爵家の嫡男だ。
一方、私の夫ラルドは子爵家の嫡男だ。
どちらも生家の爵位に釣り合う相手と結婚していたが、生家が男爵家だった私がワンランク上の子爵家の子息と結婚した事をベラは狡い!と言っていたっけ。
ラルドが爵位を継いで直ぐに私達夫婦でお互いの得意分野を活かした新規事業を立ち上げた。
そのため子供はもう少し事業が軌道に乗ったら…と話し合って決めていた。
最近はお互いが多忙で時間も合わないからと寝室も別にしていたけれど…まさか浮気をしていたなんてね。
「そう、子供が出来たのなら仕方無いわね。離婚届にサインはするけれど、貴方の不貞なのだから財産はきっちり半分は頂くわよ。あとは私が行っている方の事業の権利を私名義にしてくれれば良いわ。」
どうせラルドには私が行っている業務を行う事は出来ない。
お互いの業務を独立させ、そのまま行うのが1番だ。
私は財産分けで得たお金で、新会社を設立すれば良い。
「君はここを出て行くんだ。今の事業には手出し出来る…「私が携わって作り上げた物を貴方に簡単に渡すわけないでしょう?ここまで作り上げるのにどれだけの時間と労力が掛かったと思っているの?私の業務提携がなくては、貴方の業務は成り立たないのよ。私と仕事仲間として業務提携したいなら、ここで折れた方が良いのではなくて?」
ランドは、とても悔しそうな顔をしているが、離婚する人に優しさを持てるほど私は心が広くない。
「俺が、俺がベラと浮気したから仕返しするのか?政略結婚のお前に俺が愛情を持つことが出来なかったからなのか?お前の気持ちに応えてやれなかったのは悪いとは思うが、やっと軌道に乗った新規事業の一部を寄越せとは、少し強欲過ぎないか?それに財産も半分寄越せなどと言い出すとは…。そんな事で俺を困らせても離婚する事は変わらないのだぞ?」
この人、頭が湧いてしまっているのかしら?
さっき離婚に応じると言ったはずよ。
「離婚届にサインはすると言ったでしょう?財産分与と事業の権利の書類を作成して、貴方と私のサインが終われば、直ぐに離婚届にサインをするわよ。どちらが作る?私の方が早いと思うけれど、貴方が作ると言うのなら荷物を纏めているから、出来たら呼んで頂戴。」
荷造りすると言う私に戸惑いを見せたが、ベラとの為に一刻も早く離婚したいランドは、書類を自分が作成すると言った。
我が家の総財産を調べるのにはランドだと2、3日掛かるだろう。
私なら明日には仕上げるのに…。
早急に家を探す事を考えれば2、3日有った方が助かる。
ああ、そうだ。すっかり忘れていた。
ベラにも慰謝料の請求をしないとね。
貰える物は、きちんと貰わないと♪
…ん?ちょっと待って。
ベラに私が慰謝料を請求出来る様に、ベラの夫もランドは請求が出来るのよね…。
ハッ!狡いランドの事だ。
きっと支払った後の財産を半分にする。
慌てて今歩いて来た廊下を戻る。
「言い忘れてたわ!男爵に払う慰謝料は、貴方の残った半分の財産から支払うわよね?私には一切関係の無い事なのだから、そこは貴方が男爵に誠意を持ってお支払いするでしょう?まさか、財産分与する前に渡してしまえっ!なんて私にも男爵にも誠意のない事は考えていないわよね?」
「っ!!……し、支払いは勿論俺の財産から支払うつもりだ。しかしシリア、君という人は、金に、がめつい…しっかりしていたのだなっ」
「ふふふ、褒めて頂きありがとうございます。」
あの顔、私が言わなければ、絶対に総財産から支払っていたわね。
気が付いて本当に良かった、危ない危ない。
危うく私の取り分が減るところだったわ。
次の日は朝から新居探し。
今の屋敷の荷物量を考えながら、手頃な屋敷を見付け、直ぐに引っ越しを始めた。
3日後にランドから書類が出来たと言われ、確認すれば、新しい家を購入しても新会社を創設しても、まだまだ充分生活には困らない金額が残る。
「じゃあ、約束通り離婚届にサインするわ。これからは、仕事仲間として、お互いに頑張って行きましょうね。」
ランドも、無事に離婚届にサインが貰えてホッとしている。
握手を交わしていると、バタバタと走って来る音がして、扉がバンッとノックもなく開かれた。
「ちょっとシリアっ!この慰謝料の金額は何なのよ!?」
「あら、ベラ。妊娠初期に走るなんて駄目よ。転んだりでもしたらどうするの?」
「そうだぞ、ベラ。大事な大事な子爵様の子なんだろう?流産でもしたら大変だぞ。それに夫人の請求金額は妥当だろう?て、事で、これが俺から子爵様への慰謝料請求書だ。支払い宜しくっ!」
ランドに渡された請求書を覗き見る。
私がベラに請求した金額よりも少し多いが、まぁ妥当な金額かな。
それでも財産の半分を私に渡したランドには痛い金額になる。
人の奥さんを寝取って子供まで作ったんだから仕方が無いわよね。
それで愛する人と産まれてくる子供と一緒に暮らす幸せが手に入るんだもの、安いものだ。
「あんたもシリアも、あたしに支払うお金がないのは知っているでしょう?慰謝料請求されても無理なのっ!」
「無理と言われも、ベラは私にそれだけの事をしたのだから支払って貰わないと困るわ。」
「はぁぁ!?お前は散々贅沢した上に浮気だぞ。本来ならお前に請求した倍の慰謝料を払って貰いたいのを減額してやったんだ、有り難く思って支払いやがれっ!」
「ランドぉ~、グスッ…助けてよぉ~、このままだとあたし、貴方に嫁ぐ前に身重の身体で働かないといけなくなっちゃうぅ~…グスッ…」
あらあら大変ねぇ。
ベラの慰謝料まで支払ったら、残った財産が更に半分になるわねぇ~♪
「あ、あの、シリ…」
「さぁ離婚も成立しましたし、もう此処に長居しては幸せになる2人の邪魔になりますわね。それでは子爵、今後は仕事の事だ・け・で・お会いしましょう。では、ご機嫌よう♪」
私を呼び止め様としてるランドに縋り付き、よよよと泣いている振りしてるベラは、私を見ると勝った!とニヤけていた。
ふんっ!そんな浮気男、貴女に熨斗付けてあげるわよ。
離婚話しをされてもショックを受ける事は無かった。
私の中で、とっくにランドを好きな気持ちは冷めていたのかも知れない。
ベラが妊娠した事に固まったのは、向こうも既婚者だったから驚いただけで、彼女に取られたのが悔しいとか、そういうのはないんだよね。
寧ろ、子供が出来た事を心から祝福するわ♪
離婚して、元々一緒に仕事を行っていた人達を連れて新会社を始めれば、仕事を依頼したい人が多く忙しい毎日を送っている。
ランドの方はと言えば、私達の基盤があって作れる物。
同業者より質の悪い物を作れば、信用をなくし当然売上げは悪くなる。
最近は、元夫婦だったのだからと価格交渉してくるが、突っぱねている。
ベラを街で見掛けた。
男爵夫人だった時よりも質素な服装だった。
そろそろお腹が膨らんで目立つ筈なのに、ぺったんこなのは???
離婚して1年近く経った頃、ランドの会社は負債を抱えて倒産。
産まれている筈の子は産まれていない。
ベラがランドと再婚したい為の嘘だったのだ。
騙されたぁー!と言って、私の所で喚いてるランドに忙しいからと帰る様に冷たく言えば…
「君は俺を好きだったじゃないかっ!?なぁ俺達またやり直さないか?もう浮気は絶対にしないし、君だけを愛するから。」
「ふざけるなっ!今の貴方と私が再婚してなんの得が有るのよ!?無一文、いえ負債を抱えている貴方と再婚なんてしたら、私の財産が減るだけじゃない!?本気で再婚したいなら、それなりに整えてから来なさいっ!!」
大方、人の財産を当てにして再婚したいなんて言っているのだろう。
ふざけてる。
それに私には、想いを寄せている人が居るのだ。
相手の伯爵様は、結婚直後に事故で奥様を亡くされていた。
知人からの紹介だったけれど、会って話してみると趣味も合い意気投合した。
この人ならば、これからの人生を一緒に歩んで行けると信じている。
End
最後まで読んで頂き ありがとうございます。
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