【完結】スーツ男子の歩き方

SAI

文字の大きさ
1 / 42

1.ずるい男

しおりを挟む
「羽山は今日も接待だろ?」
「はい」
「最近接待続きだからなぁ。適当なところでお酒断らないと、肝臓やられるぞ」

「そう思っているんですけど、僕なかなか断れなくて」
「まぁなー。年齢が上になると俺の酒が飲めないのか的なやつ、まだいるからなぁ」
「そうなんですよね……」

僕は打ち合わせの書類を鞄にしまうと背もたれにかけてあったジャケットを羽織りバタバタと立ち上がった。

「トーワさんのとこに打ち合わせに行ってきます!」

急ぎ足で駅まで行き、そのまま電車に飛び乗る。入り口側のドアに寄り掛かってため息をついた。

胃、もたれてんなぁ。胃薬でも買っていくか。


 大学在学中にアルバイトをしていたイベント会社に就職して3年。イベントを行う会社に営業をかけ、仕事を取ってくるのが僕の仕事だ。

正直いうとイベント会社に大差はない。相手の会社にしてみれば、言ったことをやってくれて値段が安ければ良し、だ。つまりそれだけ他社に乗り換えられやすい。ではどうやって自分の会社を使い続けてもらうか、それは仕事以外の+αにかかってくる。つまり、接待だ。

お酒を勧められると上手く断れなくてついつい飲み過ぎてしまう。食事を勧められるとついつい食べ過ぎてしまう。元々お酒は弱い方だし、大食いでもない僕は接待が続くとつい胃を壊してしまうのだ。

「あ、羽山さん、いらっしゃい。森岡?」
「こんにちは。はい、森岡さんはいらっしゃいますか?」
「ちょっと待ってね」

「おー、いつも悪いねぇ」

森岡さんは30代後半の陽気な男性だ。トーワさんとうちの会社は会社を立ち上げた頃からの長い付き合いで、毎回仕事をくれるお得意さんだ。

「2月の食品展示会の件ですよね」
「そうそう、来場者を1万人で考えてたんだけど、今回のメイン食材であるラッカーが急に話題になっただろ?」

展示会の開催は半年前から決まっていて、その時はまだラッカーは知名度の低い食材だった。だが1か月前に人気モデルが食べているとSNSで発信してからあっという間に火がついたのだ。今では完全に供給が間に合っていないという食材だ。

「そうですね。昼間のTVでも特集されているのをよく観ますよ」

「だろ?それで、うちにも問い合わせが多くてさ。来場者を2万人で考えたいんだよ。多くの人にラッカーを知ってもらうのがこの展示会の目的だからね。なるべく多くの人に来てもらいたいんだ」

「ですよね。一つの部屋ではなくて、同じ建物の隣の部屋も利用するという形でも大丈夫ですか?」

「急な変更だしなぁ。そこは仕方ないと思ってる。うちとしてはとにかく二万人規模の会場を確保したい」
「もし部屋が用意できない場合は、キャンセル料を払ってでも会場変更することも考えてますか?」

「だな。余計な予算はかけたくないけど、チャンスは逃したくない。いや、予算かけたくないなぁ。羽山さん、なんとかしてよー」

「分かりました。とにかく、打てる手は全部打ってみます」
「さっすが~」


打ち合わせを終え、トーワさんを出ると会場に電話をするために携帯電話を出した。液晶画面にはエインが3件の文字。2件は仕事のエインで1件は美佳からだった。食品展示会の会場に電話をして場所を確保すると、立て続けに仕事のエインの返信をする。その後で美佳のエインに返信をした。

【今日の夜、会える?】
【ごめん、今日も仕事なんだ】

美佳とは付き合ってもうすぐ4年になる。僕が就職してからは会えない日々も増え、1か月一度も会えないという月もあるほどだ。それでも怒らず待ってくれる。僕の仕事の忙しさも分かってくれるありがたい存在だ。

「15時か……。Kプラザに顔出ししておくか」

駅に向かいながら、森岡さんに電話をする。

「森岡さん?コネクトJの羽山です。会場、確保出来ました。隣接する大会場を貸してくれるそうです」
「おー、羽山君は仕事が早いねぇ。助かるよ。今度、飯でもおごるよ!」
「はははは、ありがとうございます」

僕はそう返事をしながら、飯を驕るというのが口先だけの社交辞令であることを願った。



 Kプラザは500人規模の小さな会場で主に音楽や演劇のイベントが行われる会場だ。駅近という立地なこともあり防音もしっかりしていて、数か月先まで予約が埋まることも珍しくない。

会場内にあるコネクトJの詰所のドアを開けると、胸元に無線を付けたスーツ姿の高見と目が合った。

「羽山さん? どうしたんですか?」
「少し時間があったから様子を見にね。調子はどう?」

高見は僕より一歳年下で、会社の後輩だ。営業の僕とは違い現場に入って大勢のアルバイトの管理をしたり、主催の運営の手伝いをする。コンサートの場合だと、開場の案内やチケットの確認、演奏中の警備や演奏者へのケータリング等、その仕事の範囲は広い。

「今のところ、想定の範囲内ですよ」

大勢のアルバイトを日雇いで扱うこの現場は、当日ドタキャンするバイトもいる。当然、それを考えて多めのアルバイトを用意するのだ。

「これ、差し入れ」
「お、栄養ドリンク。ありがとうございます」

180センチはあろうかという高見が爽やかな笑顔を見せた。高身長にスーツというのはそれだけでイケメン度が3割増しになるというのに、高見は本当にイケメンでしかもこういう現場を仕切れる程、頼りがいがある。

なんか、ずるいなぁ。

「あのぅ、お話し中すみません」
「あ、どうぞ」

アルバイトのリーダークラスの女性が僕たちの顔を伺いながらやってきたので僕は一歩下がった。

「高見さぁん、B地点の女の子が体調悪いって言っているんですけどぉ、帰ってもらっても大丈夫ですかぁ?」

「うん、体調悪いのはどうしようもないからね。気を付けて帰るように言って。あ、一人で帰れそうなんかな?」

「それも聞いてみますぅ」

「うん、帰れそうなら気を付けて帰るように言って。無理そうなら、救護室で休んでもらって。B地点には佐伯を向かわせるから」

「はい」

大学生くらいだろうか。高見の前で一生懸命に可愛くあろうとしているのが目に見える。結構かわいい子なのに。

「羽山さん、すみません。俺、ちょっと様子見に行かなきゃならなくて」
「全然いいよ。ちょっと寄っただけだから」
「あ、ちょっと待ってください」

高見は冷蔵庫から紙パックの小さな牛乳を持ってくると羽山に渡した。

「今日も接待でしょう?」
「え、何で分かるの?」

「今朝会社に寄った時に的場さんと話しているのが聞こえちゃいました。あんまり無理しないでくださいね。お酒を飲む前に牛乳飲むと胃に少しは優しいらしいですよ」

「あー、あれか。ありがと」
「じゃ」


高身長、イケメン、頼りがいがあって気が利く。
やっぱり、ずるいなぁ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...