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18. 慰安旅行は危険な香り
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的場さんが部屋から出て行って直ぐに部屋をノックする音が聞こえた。
「羽山さん?」
「おー、どうぞ。で、相談って何?」
「相談はないです」
「は?」
高見はツカツカと僕の方へ歩いてくるとその勢いのまま僕に抱きついた。漫画本であれば僕の隣に、ぎゅうううっと文字が書かれるだろう。
「うぐっ、くるしっ」
全力で引き離しつつ高見を見ると、嬉しそうな顔をした高見の姿があった。
「まさか、二人っきりになるために僕に相談があると言ったわけじゃないよね?」
「そうですよ。バスだって羽山さんの隣に座りたかったのに女子チームに拉致されましたし、部屋こそ一緒にって思えば的場さんに阻止されるし。俺はどこで羽山さんを補給すればいいんですか?」
「補給って……」
もう一度ぎゅうううっと抱きしめられて僕は大型犬でも飼っているような気持になった。高見の背中に手を回して、とん、とん、と慰めるように叩く。
「それに、羽山さんの体、誰にも見せたくない」
「なっ、そんなの無理だろ」
照れてそっけない言葉になってしまったが、僕の肩に顔を埋めたまま高見は「分かってます、でも」と言葉を続けながら体を起こして僕の顔を見た。その顔が嫉妬というよりも寂し気に見えて、気付いたら僕から口づけていた。
「あ……つい」
唇を離すと驚いた顔をしていた高見が表情を綻ばせる。
「やべぇ、すげぇ、嬉しい」
いつもよりずっとあっさりとしたフレンチキスなのに高見は照れて口元をおさえた。
こんなに喜ぶのか……。
その後、遅れて温泉に向かった僕らは的場さんたちと一緒に風呂に入ることは無かったが、アルバイトリーダー数人とお風呂が被り、二人きりになることはなかった。高見の機嫌が悪くなるかとハラハラしたがそんなこともなく、僕はのんびりとお風呂を楽しむことが出来た。
そして夕食の時間。
「おぉぉぉぉーっ、刺身、牛、小鍋、天ぷらっ。もうっ、全員集合みたいな豪華ご飯ですね!」
池田が食事を見て小躍りしそうなほど、いや、むしろ小躍りして喜んだ。
「池田……。楽しむのは構わんがお前も高見を見習って仕事しろ」
的場さんの視線の先には「好きなところに座ってねー。今日はお酒飲んでもいいよー」とバイトリーダーたちに声をかけている高見の姿があった。
「わ、本当だ!」
池田が高見の元へと急ぐ。
「的場さん、僕、ビール頼んできますね」
「おー、頼んだ! 今日は飲むぞーっ!」
「的場さん……これも仕事だって言ってましたよね?」
的場さんは僕の肩をポンポンと叩くと「俺にはお前たちがいるからな」とニヤリとした。
席は6人席が1つに7人席が3つになっており、僕らは親睦を深めるという理由で各テーブルに1人ずつお邪魔することになった。
「では、いつも頑張ってくれているアルバイトリーダーたちに日頃の感謝を込めて。今日は飲んで食べて、楽しんでってなー。あ、二十歳になってないやつは酒は飲むなよ。じゃ、カンパーイ!!」
「カンパーイっ」
的場さんの声で皆がグラスを傾けると、若い男のリーダーたちはグイ―ッとビールを飲みほした。
「おぉー、さすが若者だねぇ。ほら、どうぞ」
僕は同じテーブルの子たちにビールを注いで回った。
「若いって、羽山さんだって若いじゃないですか」
そう言ったのは山崎君だ。21歳の大学生でガッチリとした体格で設営の仕事に入ることが多い。
「でも25歳だしなー。この年齢になると一歳の差が大きいのよ」
「そうだ!そういえば羽山さんって学生時代から長く付き合ってる彼女さんいましたよね。長く続くコツって何ですかー? 俺、最近、彼女が出来たんですよ」
えー、山崎、彼女出来たのー?マジでー?なんて話は大盛り上がりだ。
「あー……実は振られたんだよね。なんか、盛り上げってるところ悪いけど」
水を差すようで遠慮がちに言ったのだけど、むしろ更にヒートアップだ。
「何で別れたんですか? 原因は?」
「ハッキリ聞くねぇ」
「参考までに」
「なかなか会えなくてね。すれ違っちゃったかな」
「あー、なかなか会えないのはキツイなー。私も頑張れないかも」
23歳の佐藤さんがお刺身を醤油につけながら呟いた。
「えー、でも仕事じゃ仕方なくないですか? ってか羽山さん、私どうですか?」
「え?」
予期せぬ言葉に皆が高藤さんを見る。22歳の高藤さんはうちの会社の仕事をメインにしているフリーターだ。月に20日以上アルバイトに入ってくれているので、僕と顔を合わせる回数も多い。
「高藤さん、からかわないでよー」
「全然からかってないですよー。羽山さんって私たちのこともよく気に掛けてくれるし、優しいと思うんですよね。仕事も真面目にしてるし、顔だって不細工ってわけじゃない。結婚したらいいパパになりそうだと思いません?」
「確かにねー」
周りにいた女子たちが頷くのでこそばゆい気持ちになった。
「ちょっと待ってよ。そういうなら高見はどうなの? あいつだって優しいし、仕事だって真面目だよ」
「高見さんはイケメンすぎてダメです」
佐藤さんがビシッと人差し指を立て、またもや皆が頷いた。
「付き合えたら嬉しいけど、いつかどっかの女に攫われそうで安心できないです。その点、羽山さんはちょうどいいんですよ。で、さっきの話ですけど、私、どうですか? せめて一度デートだけでも」
「いやそれは」
「随分盛り上がってるけど何の話?」
「高見さぁんっ」
あれほど高見はイケメン過ぎてダメだと言っていたくせに、女子たちは高見が来た瞬間にぱぁっと笑顔を見せた。
「羽山さん、女子って結局はイケメンが好きってことなんですかね。俺、不安になってきました」
「山崎の彼女は大丈夫だよ、きっと。ほら、山崎を選ぶくらいだからさ」
「それってどういう意味ですか!」
「ガハハ、羽山さんいいこと言う~」
僕が男子と盛り上がっているうちに高見は話の成り行きを聞いたらしい。
「ねー、高見さんも協力してくださいよー。私と羽山さんが上手くいくように」
そんな声が耳に入って僕は焦って高見を見た。
「それは無理だよ。羽山さん、付き合ってる人がいるみたいだよ」
焦る僕とは裏腹、高見は余裕の笑顔だ。そして僕に「ね、羽山さん?」と振ってくる。
「あー、実はそうなんだ」
「えぇー、残念。でも、ご飯くらいは行ってみません? もしかしたら私の方がいいかもしれないじゃないですかーっ」
「高藤、がっつきすぎーっ」
「がっつく女は引かれるよーっ」
「引かれるのは困るけど、チャンスは欲しい~」
「そういうのをがっついてるって言うんじゃねーのー?」
「まぁまぁ、ほら飲んで。僕、向こうのテーブルも回ってくるからね」
「あ、逃げた」
大盛り上がりの自分のテーブルを高見に任せ、僕は逃げるように隣のテーブルに移動した。
「羽山さん?」
「おー、どうぞ。で、相談って何?」
「相談はないです」
「は?」
高見はツカツカと僕の方へ歩いてくるとその勢いのまま僕に抱きついた。漫画本であれば僕の隣に、ぎゅうううっと文字が書かれるだろう。
「うぐっ、くるしっ」
全力で引き離しつつ高見を見ると、嬉しそうな顔をした高見の姿があった。
「まさか、二人っきりになるために僕に相談があると言ったわけじゃないよね?」
「そうですよ。バスだって羽山さんの隣に座りたかったのに女子チームに拉致されましたし、部屋こそ一緒にって思えば的場さんに阻止されるし。俺はどこで羽山さんを補給すればいいんですか?」
「補給って……」
もう一度ぎゅうううっと抱きしめられて僕は大型犬でも飼っているような気持になった。高見の背中に手を回して、とん、とん、と慰めるように叩く。
「それに、羽山さんの体、誰にも見せたくない」
「なっ、そんなの無理だろ」
照れてそっけない言葉になってしまったが、僕の肩に顔を埋めたまま高見は「分かってます、でも」と言葉を続けながら体を起こして僕の顔を見た。その顔が嫉妬というよりも寂し気に見えて、気付いたら僕から口づけていた。
「あ……つい」
唇を離すと驚いた顔をしていた高見が表情を綻ばせる。
「やべぇ、すげぇ、嬉しい」
いつもよりずっとあっさりとしたフレンチキスなのに高見は照れて口元をおさえた。
こんなに喜ぶのか……。
その後、遅れて温泉に向かった僕らは的場さんたちと一緒に風呂に入ることは無かったが、アルバイトリーダー数人とお風呂が被り、二人きりになることはなかった。高見の機嫌が悪くなるかとハラハラしたがそんなこともなく、僕はのんびりとお風呂を楽しむことが出来た。
そして夕食の時間。
「おぉぉぉぉーっ、刺身、牛、小鍋、天ぷらっ。もうっ、全員集合みたいな豪華ご飯ですね!」
池田が食事を見て小躍りしそうなほど、いや、むしろ小躍りして喜んだ。
「池田……。楽しむのは構わんがお前も高見を見習って仕事しろ」
的場さんの視線の先には「好きなところに座ってねー。今日はお酒飲んでもいいよー」とバイトリーダーたちに声をかけている高見の姿があった。
「わ、本当だ!」
池田が高見の元へと急ぐ。
「的場さん、僕、ビール頼んできますね」
「おー、頼んだ! 今日は飲むぞーっ!」
「的場さん……これも仕事だって言ってましたよね?」
的場さんは僕の肩をポンポンと叩くと「俺にはお前たちがいるからな」とニヤリとした。
席は6人席が1つに7人席が3つになっており、僕らは親睦を深めるという理由で各テーブルに1人ずつお邪魔することになった。
「では、いつも頑張ってくれているアルバイトリーダーたちに日頃の感謝を込めて。今日は飲んで食べて、楽しんでってなー。あ、二十歳になってないやつは酒は飲むなよ。じゃ、カンパーイ!!」
「カンパーイっ」
的場さんの声で皆がグラスを傾けると、若い男のリーダーたちはグイ―ッとビールを飲みほした。
「おぉー、さすが若者だねぇ。ほら、どうぞ」
僕は同じテーブルの子たちにビールを注いで回った。
「若いって、羽山さんだって若いじゃないですか」
そう言ったのは山崎君だ。21歳の大学生でガッチリとした体格で設営の仕事に入ることが多い。
「でも25歳だしなー。この年齢になると一歳の差が大きいのよ」
「そうだ!そういえば羽山さんって学生時代から長く付き合ってる彼女さんいましたよね。長く続くコツって何ですかー? 俺、最近、彼女が出来たんですよ」
えー、山崎、彼女出来たのー?マジでー?なんて話は大盛り上がりだ。
「あー……実は振られたんだよね。なんか、盛り上げってるところ悪いけど」
水を差すようで遠慮がちに言ったのだけど、むしろ更にヒートアップだ。
「何で別れたんですか? 原因は?」
「ハッキリ聞くねぇ」
「参考までに」
「なかなか会えなくてね。すれ違っちゃったかな」
「あー、なかなか会えないのはキツイなー。私も頑張れないかも」
23歳の佐藤さんがお刺身を醤油につけながら呟いた。
「えー、でも仕事じゃ仕方なくないですか? ってか羽山さん、私どうですか?」
「え?」
予期せぬ言葉に皆が高藤さんを見る。22歳の高藤さんはうちの会社の仕事をメインにしているフリーターだ。月に20日以上アルバイトに入ってくれているので、僕と顔を合わせる回数も多い。
「高藤さん、からかわないでよー」
「全然からかってないですよー。羽山さんって私たちのこともよく気に掛けてくれるし、優しいと思うんですよね。仕事も真面目にしてるし、顔だって不細工ってわけじゃない。結婚したらいいパパになりそうだと思いません?」
「確かにねー」
周りにいた女子たちが頷くのでこそばゆい気持ちになった。
「ちょっと待ってよ。そういうなら高見はどうなの? あいつだって優しいし、仕事だって真面目だよ」
「高見さんはイケメンすぎてダメです」
佐藤さんがビシッと人差し指を立て、またもや皆が頷いた。
「付き合えたら嬉しいけど、いつかどっかの女に攫われそうで安心できないです。その点、羽山さんはちょうどいいんですよ。で、さっきの話ですけど、私、どうですか? せめて一度デートだけでも」
「いやそれは」
「随分盛り上がってるけど何の話?」
「高見さぁんっ」
あれほど高見はイケメン過ぎてダメだと言っていたくせに、女子たちは高見が来た瞬間にぱぁっと笑顔を見せた。
「羽山さん、女子って結局はイケメンが好きってことなんですかね。俺、不安になってきました」
「山崎の彼女は大丈夫だよ、きっと。ほら、山崎を選ぶくらいだからさ」
「それってどういう意味ですか!」
「ガハハ、羽山さんいいこと言う~」
僕が男子と盛り上がっているうちに高見は話の成り行きを聞いたらしい。
「ねー、高見さんも協力してくださいよー。私と羽山さんが上手くいくように」
そんな声が耳に入って僕は焦って高見を見た。
「それは無理だよ。羽山さん、付き合ってる人がいるみたいだよ」
焦る僕とは裏腹、高見は余裕の笑顔だ。そして僕に「ね、羽山さん?」と振ってくる。
「あー、実はそうなんだ」
「えぇー、残念。でも、ご飯くらいは行ってみません? もしかしたら私の方がいいかもしれないじゃないですかーっ」
「高藤、がっつきすぎーっ」
「がっつく女は引かれるよーっ」
「引かれるのは困るけど、チャンスは欲しい~」
「そういうのをがっついてるって言うんじゃねーのー?」
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