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18. なされるがまま
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「あ……がわ」
抱きしめたいのに内部に埋め込まれたバイブが力を奪うから思うように体が動かせない。
きっと俺、阿川を不安にさせてる。そりゃそうだ。上半身裸で他の男にキスされそうになっているところを見て、挙句の果てに阿川だけが俺を好きだとまで言われて……。
「あ……がわ、も、抜い、て」
「ダメです。誰のものなのか、ちゃんと思い知って貰わないと」
「あ、がわの、ものだ……から」
ウィンウィンウィンウィン ウィンウィンウィンウィン
どんなに懇願しても阿川は容赦ない。快楽の中に落とされて欲しい快楽は与えられずに、懇願しても阿川は頑なだ。生理的なものなのか分からない涙が滲む。
「ここも噛んでいい?」
阿川が触れたのは鎖骨の下あたり、皮膚の薄い部分だ。俺を試すような阿川の視線。噛むことで阿川の不安が消えるなら……・
「いいっ、あがわぁっ」
声を絞り出すと同時に皮膚に歯が立てられる。先ほどとは違う、じわり、じわりと噛む力を強めて、何かを確認するように味うように噛む力を強めている。一気に噛まれれば痛いという感情が火花の様に散るのに、ゆっくりと真綿でしめられているような感覚に惑わされる。
「あ、がわ、も、あがわにして。おも、ちゃ……や、だ」
「そんなに僕が欲しいの? 僕が好き?」
「すき……だ」
「くす、じゃあ、自分で僕のを入れて」
ようやく出た許しに俺は下着に手をかけてゆっくりと下ろした。
「あ……ん」
下着を下しただけでバイブが抜け落ち、ベッドの上で卑猥な動きを続けている。俺は、はぁ、はぁ、と息を吐いて呼吸を整えながらベッドに乗ってきた阿川に跨った。まだ阿川の表情は硬い。
「はぁ……くっ……ん、ハァ」
「そんなに締めたらこの先入りませんよ」
「……分かって、る。わかって、るけど」
阿川のペニスが俺の中に入ると思うとアナルが勝手にキュッとなってしまう。飲み込んでいる最中にそれが頻繁に起こるものだから、なかなか先に進まない。
「あがわぁ……たのむ」
「本当に手のかかる人ですね」
阿川の唇が俺の唇に触れた瞬間、体中がもっと、と叫んだ。阿川の匂い、阿川の唇。夢中で貪っていると腰に添えられた手が俺の体を下に押した。
「あひゃっ」
「ほら、全部入った」
ぴくっ、ぴくっと俺のペニスが反応して射精が近いことを告げている。これでやっとイケる。
「んっ、あっ、あっ、はっ、はっ……ん」
腰を動かして気持ちいいところに当たるように体をずらすと阿川がクククと笑った。
「随分エロくなりましたね。そんなに欲しいですか? ここに」
「あぁっ」
一度だけ思いっきり突かれて腰が浮いてまた刺さる。脳がどんどん痺れて、大事なことが頭の中にあったはずなのに全部消えた。
「もっと、もっと突いて、あがわぁ」
唾液を上手く飲み込めているかも分からない。体が熱くて自分がどんな顔をしているかも分からない。きっと欲にまみれたどうしようもない顔だろう。
「ぐすっ……あ、がわぁ、あっ、ひっ、ああああっ!!」
欲しい場所を連続で突き上げられてあっという間に弾けた。休む間もなく体を揺さぶられて阿川にしがみ付く。
「あん、あっ、いいっ、あっ」
長時間弄ばれた体は一度イッたにも関わらず、すぐに精を吐き出そうと昇りつめた。ぬちゅぬちゅと耳を犯されながら首に阿川の歯を感じて、思考が蘇る。
「そん、なに、不安になる……なよ。だい、じょうぶ、だから」
阿川が顔をあげる。凶暴に俺を突きあげながらその表情はやっぱり泣きそうに歪んでいて、たまらずに阿川にキスをした。
何度も何度もキスをして阿川を締め付けて抱きしめて。
「そんなにされると、唇が荒れる……」
「え、あ、マジで? ごめん」
あとでリップ買ってくださいよ、と言った阿川はいつもの柔らかい表情に戻っていた。
年明け1月2日。阿川が年末年始は家族旅行にいくとかで、俺は去年と変わらずの年始を送っていた。俺が働いている本屋はこの日から営業開始で中古本屋らしく新春セールなんかもやったりする。いつものセット売りの本が安くなっているだけではあるが、いつもの本がいつもより安いというのはお客さんにはやはり嬉しいらしい。
世の中の休日という事もあってこの日の本屋は大忙しだった。
「橘君、本の補充お願い」
「はいっ」
年末の大掃除で整理した本を年末に処理しきれずに新年になって売りに来る。そんなお客さんのお陰で今日は買い取りも多い。買い取った売れ筋の本は即出しが基本だし、購入のお客さんが多い日は加工、補充のスピードを上げなければ棚は直ぐにガラガラだ。
買い取ったばかりの本を並べながら、ストッカーの中に入っているストックを並べながら本日3回目の全棚補充を行っていると隣に人の気配がした。
「む、村上さん?」
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます……」
うう、先日のことを思い出すと何となく気まずい。
「忙しそうだね」
「そうっすね、忙しいですよ」
「……」
「……」
村上さんは俺の隣に立ったまま立ち去る気配も、本を選ぶ気配もない。
あー、もうっ。
「何か御用ですか?」
「今日、夜ご飯どうかと思って。朝からお店にいるみたいだし、もうすぐ上がりでしょ」
「そうですけど……」
「もしかしてこの間言ってたご飯誘ってもいいっていうのは嘘?」
「いや、いや、そんなことないです! お願いします!」
「よかった。仕事何時に終わるの?」
「18時です」
「じゃあ、18時にここに来るよ」
村上さんが連れて行ってくれたのは駅の近くにある居酒屋だ。半個室、というのだろうか。店内にドアはないものの簡単な壁で仕切られていた。
「どうする? 飲む?」
「あ、はい。頂きます」
レモンサワーと生ビールがテーブルに届くと軽く乾杯をして一口飲んだ。一口飲んで、俺はぎゅっと口を結んだ。今日は村上さんと付き合うことは出来ないとはっきり伝えようと、ここに来るまでの間に決めたのだ。
先日の阿川の、あの不安そうな顔。俺がハッキリ言わないまま村上さんと会っていたら阿川はまた不安になるに違いない。
「ぷっ、そんなに緊張しないでよ。でも、意識してくれてるってことならアリかな」
「……それなんですけど、俺、村上さんと付き合うことは出来ないし、村上さんに恋愛感情を抱くこともないと思います」
「ひゃー……ハッキリ言うなぁ」
「すみません」
勢いよく頭を下げると村上さんは、ははは、と笑って「そういうところもいいなって思うんだけどね」と呟いた。
「彼と上手くいってるんだ?」
「いってるって言うか、まぁ、はい」
「なんか含みのある言い方だなぁ」
「むっ、村上さんがつけ入る隙なんてないっすからね」
村上さんはふふふ、と笑いながらほっけの塩焼きを突っついた。
「相談に乗るよ。これでも先輩だし」
相談していいものかとじーっと村上さんを見る。確かに同性同士付き合っている友達は知らないし相談する相手もいない。村上さんには阿川とのことがバレているわけで、同性同士付き合うという経験もあるだろうし、相談相手にはもってこいだ。
でも、たった今振った相手に恋愛相談ってアリなんだろうか。俺なら……告白して玉砕してその上に相手の恋愛相談なんて傷口に塩を刷り込んで刷り込んで、数日間漬け込んだ様なダメージだ。
「いや、いいっす」
「くす、気を遣わなくてもいいよ。これも下心だし」
「下心ですか?」
「そ、振られた時に振り向いてもらえるかもしれないでしょ」
「振られないですから!!」
村上さんは豪快に笑ったあと「そういうわけだから気にしなくていいよ」と言ってくれた。
「……あの、村上さんって男性と付き合ってることを友達に話したりしました?」
「カミングアウトってこと?」
「はい」
「んー、僕はしないかな。一生一緒にいるってならまだしも、あえてリスクは犯さないよ」
「リスク、ですか」
「そう、昔に比べて同性愛に対して寛容になってきつつあるけど、でもやっぱり異質でしょ。好奇の目で見られるだけならいいけど、生理的に無理って人もまだ多いからね」
「そう……ですか」
「何? 橘君は公表したいの?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど、でも、あいつは不安なのかなって思うことがあって。あいつは公表しても構わない派なんで」
「不安……かぁ。ちょっと分かるなー」
村上さんがお酒に手を伸ばしたのを見て、つられるように俺もお酒に手を伸ばした。ごくっと一口飲んだ後で村上さんが顔を傾ける。
「橘君って男じゃなきゃダメじゃないでしょ。むしろ、今までは女性しか恋愛対象じゃなかった」
「そうですけど」
「女性と付き合えるならさ、女性の方がいいんだよ。こうやって公表するかどうか悩まなくてもいいし、両親にも簡単に紹介できる。子供も持てるし、差別もない」
「……確かに」
「付き合っている最中にやっぱり女性の方がいいってなるかもしれない……考え出したらキリがないよ」
「そう、なんですね」
3杯目のビールを飲み干した後、村上さんはちょっとだけ、と言って日本酒を注文した。その日本酒を舐めて、んーっと顔をしかめてから俺を見た。
「公表は無理しなくてもいいと思うよ。凄く意地悪なこと言うとさ、男同士のカップルって長く続く事、なかなか無いから」
「え?」
「普通のカップルでも破局することがあるんだから、それより試練のある同性カップルが破局しやすいってのは想像するに難くないでしょ。橘君が振られる確率だってあるんだから」
「俺が振られる!?」
「くす、そうだよ。彼氏、あんなにイケメンなんだもん。同性にモテないってことはあり得ないよ」
「そ……そうですよね」
そうだ、そりゃあ、そうだろう。阿川を一人にしたくないと、阿川に寂しい顔をさせたくないと思っていたけれど阿川が俺を要らないと思うこともあり得るのだ。
だいたい阿川はなんで俺なんだろう。イケメンというわけでも頭が良いわけでもない。将来性があるわけでもないし金もない。何かあるとすれば、阿川の初めての男というだけだ。
刷り込みってやつだったりして……。ひな鳥が初めて見た生き物を母親だと思って慕う、あれだ。
まさか……な。
一抹の不安に背中を冷たい風が通った気がした。
抱きしめたいのに内部に埋め込まれたバイブが力を奪うから思うように体が動かせない。
きっと俺、阿川を不安にさせてる。そりゃそうだ。上半身裸で他の男にキスされそうになっているところを見て、挙句の果てに阿川だけが俺を好きだとまで言われて……。
「あ……がわ、も、抜い、て」
「ダメです。誰のものなのか、ちゃんと思い知って貰わないと」
「あ、がわの、ものだ……から」
ウィンウィンウィンウィン ウィンウィンウィンウィン
どんなに懇願しても阿川は容赦ない。快楽の中に落とされて欲しい快楽は与えられずに、懇願しても阿川は頑なだ。生理的なものなのか分からない涙が滲む。
「ここも噛んでいい?」
阿川が触れたのは鎖骨の下あたり、皮膚の薄い部分だ。俺を試すような阿川の視線。噛むことで阿川の不安が消えるなら……・
「いいっ、あがわぁっ」
声を絞り出すと同時に皮膚に歯が立てられる。先ほどとは違う、じわり、じわりと噛む力を強めて、何かを確認するように味うように噛む力を強めている。一気に噛まれれば痛いという感情が火花の様に散るのに、ゆっくりと真綿でしめられているような感覚に惑わされる。
「あ、がわ、も、あがわにして。おも、ちゃ……や、だ」
「そんなに僕が欲しいの? 僕が好き?」
「すき……だ」
「くす、じゃあ、自分で僕のを入れて」
ようやく出た許しに俺は下着に手をかけてゆっくりと下ろした。
「あ……ん」
下着を下しただけでバイブが抜け落ち、ベッドの上で卑猥な動きを続けている。俺は、はぁ、はぁ、と息を吐いて呼吸を整えながらベッドに乗ってきた阿川に跨った。まだ阿川の表情は硬い。
「はぁ……くっ……ん、ハァ」
「そんなに締めたらこの先入りませんよ」
「……分かって、る。わかって、るけど」
阿川のペニスが俺の中に入ると思うとアナルが勝手にキュッとなってしまう。飲み込んでいる最中にそれが頻繁に起こるものだから、なかなか先に進まない。
「あがわぁ……たのむ」
「本当に手のかかる人ですね」
阿川の唇が俺の唇に触れた瞬間、体中がもっと、と叫んだ。阿川の匂い、阿川の唇。夢中で貪っていると腰に添えられた手が俺の体を下に押した。
「あひゃっ」
「ほら、全部入った」
ぴくっ、ぴくっと俺のペニスが反応して射精が近いことを告げている。これでやっとイケる。
「んっ、あっ、あっ、はっ、はっ……ん」
腰を動かして気持ちいいところに当たるように体をずらすと阿川がクククと笑った。
「随分エロくなりましたね。そんなに欲しいですか? ここに」
「あぁっ」
一度だけ思いっきり突かれて腰が浮いてまた刺さる。脳がどんどん痺れて、大事なことが頭の中にあったはずなのに全部消えた。
「もっと、もっと突いて、あがわぁ」
唾液を上手く飲み込めているかも分からない。体が熱くて自分がどんな顔をしているかも分からない。きっと欲にまみれたどうしようもない顔だろう。
「ぐすっ……あ、がわぁ、あっ、ひっ、ああああっ!!」
欲しい場所を連続で突き上げられてあっという間に弾けた。休む間もなく体を揺さぶられて阿川にしがみ付く。
「あん、あっ、いいっ、あっ」
長時間弄ばれた体は一度イッたにも関わらず、すぐに精を吐き出そうと昇りつめた。ぬちゅぬちゅと耳を犯されながら首に阿川の歯を感じて、思考が蘇る。
「そん、なに、不安になる……なよ。だい、じょうぶ、だから」
阿川が顔をあげる。凶暴に俺を突きあげながらその表情はやっぱり泣きそうに歪んでいて、たまらずに阿川にキスをした。
何度も何度もキスをして阿川を締め付けて抱きしめて。
「そんなにされると、唇が荒れる……」
「え、あ、マジで? ごめん」
あとでリップ買ってくださいよ、と言った阿川はいつもの柔らかい表情に戻っていた。
年明け1月2日。阿川が年末年始は家族旅行にいくとかで、俺は去年と変わらずの年始を送っていた。俺が働いている本屋はこの日から営業開始で中古本屋らしく新春セールなんかもやったりする。いつものセット売りの本が安くなっているだけではあるが、いつもの本がいつもより安いというのはお客さんにはやはり嬉しいらしい。
世の中の休日という事もあってこの日の本屋は大忙しだった。
「橘君、本の補充お願い」
「はいっ」
年末の大掃除で整理した本を年末に処理しきれずに新年になって売りに来る。そんなお客さんのお陰で今日は買い取りも多い。買い取った売れ筋の本は即出しが基本だし、購入のお客さんが多い日は加工、補充のスピードを上げなければ棚は直ぐにガラガラだ。
買い取ったばかりの本を並べながら、ストッカーの中に入っているストックを並べながら本日3回目の全棚補充を行っていると隣に人の気配がした。
「む、村上さん?」
「明けましておめでとう」
「おめでとうございます……」
うう、先日のことを思い出すと何となく気まずい。
「忙しそうだね」
「そうっすね、忙しいですよ」
「……」
「……」
村上さんは俺の隣に立ったまま立ち去る気配も、本を選ぶ気配もない。
あー、もうっ。
「何か御用ですか?」
「今日、夜ご飯どうかと思って。朝からお店にいるみたいだし、もうすぐ上がりでしょ」
「そうですけど……」
「もしかしてこの間言ってたご飯誘ってもいいっていうのは嘘?」
「いや、いや、そんなことないです! お願いします!」
「よかった。仕事何時に終わるの?」
「18時です」
「じゃあ、18時にここに来るよ」
村上さんが連れて行ってくれたのは駅の近くにある居酒屋だ。半個室、というのだろうか。店内にドアはないものの簡単な壁で仕切られていた。
「どうする? 飲む?」
「あ、はい。頂きます」
レモンサワーと生ビールがテーブルに届くと軽く乾杯をして一口飲んだ。一口飲んで、俺はぎゅっと口を結んだ。今日は村上さんと付き合うことは出来ないとはっきり伝えようと、ここに来るまでの間に決めたのだ。
先日の阿川の、あの不安そうな顔。俺がハッキリ言わないまま村上さんと会っていたら阿川はまた不安になるに違いない。
「ぷっ、そんなに緊張しないでよ。でも、意識してくれてるってことならアリかな」
「……それなんですけど、俺、村上さんと付き合うことは出来ないし、村上さんに恋愛感情を抱くこともないと思います」
「ひゃー……ハッキリ言うなぁ」
「すみません」
勢いよく頭を下げると村上さんは、ははは、と笑って「そういうところもいいなって思うんだけどね」と呟いた。
「彼と上手くいってるんだ?」
「いってるって言うか、まぁ、はい」
「なんか含みのある言い方だなぁ」
「むっ、村上さんがつけ入る隙なんてないっすからね」
村上さんはふふふ、と笑いながらほっけの塩焼きを突っついた。
「相談に乗るよ。これでも先輩だし」
相談していいものかとじーっと村上さんを見る。確かに同性同士付き合っている友達は知らないし相談する相手もいない。村上さんには阿川とのことがバレているわけで、同性同士付き合うという経験もあるだろうし、相談相手にはもってこいだ。
でも、たった今振った相手に恋愛相談ってアリなんだろうか。俺なら……告白して玉砕してその上に相手の恋愛相談なんて傷口に塩を刷り込んで刷り込んで、数日間漬け込んだ様なダメージだ。
「いや、いいっす」
「くす、気を遣わなくてもいいよ。これも下心だし」
「下心ですか?」
「そ、振られた時に振り向いてもらえるかもしれないでしょ」
「振られないですから!!」
村上さんは豪快に笑ったあと「そういうわけだから気にしなくていいよ」と言ってくれた。
「……あの、村上さんって男性と付き合ってることを友達に話したりしました?」
「カミングアウトってこと?」
「はい」
「んー、僕はしないかな。一生一緒にいるってならまだしも、あえてリスクは犯さないよ」
「リスク、ですか」
「そう、昔に比べて同性愛に対して寛容になってきつつあるけど、でもやっぱり異質でしょ。好奇の目で見られるだけならいいけど、生理的に無理って人もまだ多いからね」
「そう……ですか」
「何? 橘君は公表したいの?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど、でも、あいつは不安なのかなって思うことがあって。あいつは公表しても構わない派なんで」
「不安……かぁ。ちょっと分かるなー」
村上さんがお酒に手を伸ばしたのを見て、つられるように俺もお酒に手を伸ばした。ごくっと一口飲んだ後で村上さんが顔を傾ける。
「橘君って男じゃなきゃダメじゃないでしょ。むしろ、今までは女性しか恋愛対象じゃなかった」
「そうですけど」
「女性と付き合えるならさ、女性の方がいいんだよ。こうやって公表するかどうか悩まなくてもいいし、両親にも簡単に紹介できる。子供も持てるし、差別もない」
「……確かに」
「付き合っている最中にやっぱり女性の方がいいってなるかもしれない……考え出したらキリがないよ」
「そう、なんですね」
3杯目のビールを飲み干した後、村上さんはちょっとだけ、と言って日本酒を注文した。その日本酒を舐めて、んーっと顔をしかめてから俺を見た。
「公表は無理しなくてもいいと思うよ。凄く意地悪なこと言うとさ、男同士のカップルって長く続く事、なかなか無いから」
「え?」
「普通のカップルでも破局することがあるんだから、それより試練のある同性カップルが破局しやすいってのは想像するに難くないでしょ。橘君が振られる確率だってあるんだから」
「俺が振られる!?」
「くす、そうだよ。彼氏、あんなにイケメンなんだもん。同性にモテないってことはあり得ないよ」
「そ……そうですよね」
そうだ、そりゃあ、そうだろう。阿川を一人にしたくないと、阿川に寂しい顔をさせたくないと思っていたけれど阿川が俺を要らないと思うこともあり得るのだ。
だいたい阿川はなんで俺なんだろう。イケメンというわけでも頭が良いわけでもない。将来性があるわけでもないし金もない。何かあるとすれば、阿川の初めての男というだけだ。
刷り込みってやつだったりして……。ひな鳥が初めて見た生き物を母親だと思って慕う、あれだ。
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一抹の不安に背中を冷たい風が通った気がした。
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