我慢限界な八重くんは、世話焼き同期を独占したい

白盾

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第三話 抗えない渇望

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 定時退勤する人がまばらに行き交う、会社のエントランス付近。
 エスカレーターを降りていると、後ろから声をかけられた。


「あの、橘さん」
「……は、はい?」
「今夜、もしよければ……飲みになんてどうですかね?」
「ええと……すみません行けないです」


 部署移動してしまった先輩の田中さんに、声をかけられていた。
 こんなこと、初めてだ。


 いやでも、私には八重くんとの約束がある。
彼ことが好きであると証明するためにも、今後は一切の誘いを断ると決めていた。



「良いじゃないですか。少しくらい……ね?」
「実は、体調が悪くて……本当に申し訳ないですけど」
「なら、自分の家でもいいです。
最悪、橘さんは飲まなくても良いので。
その実は、相談があるんですよ」



(目的がわからなくて怖い……)


 結局、駅までの道のりずっとしつこく、言葉巧みに着いてくる。



「ねえ、良いじゃないですか。
少しくらい付き合ってくださいよ橘さん?」
「あの、本当に勘弁してくださ……あ」

「……聞いてますか?橘さん。おーい」



 田中さんの後ろには、般若の如く
怒りに満ちた八重くんが仁王立ちしていた。


 彼が今纏っているオーラを言語化するならば、きっと殺気だろう。



「あ、ああ……後ろです」
「どうしました?そんな化け物でも見るような……って!!!!ヒィイイイイ」

「おい、嫌がってんだろーが。
いい加減にしねぇと、警察呼ぶぞ。
それとも俺が、相手してやろーか?タ・ナ・カ先輩」
「失礼しましたァァァアア!!鬼ィイイイイイイイイ!!!」
「誰が鬼だ。クソ野郎」

「や、八重くん。助けてくれてありがとう。
でも、どうしてここに?」

「そ、それは」





 --柚木ちゃんには、言えない。
 あんなこと自分からしておいて、心配だからと尾行していたなんて。

 ……言えない。



 俺は、日に日に柚木ちゃんへの自制が効かなくなっていることを自覚していた。
 同時に優しくしたいし、傷つけたくない偽善で胸を痛めながら。



 正直、彼女から好きだと言われてときめかないわけない。


 でも、嘘を言われたことが許せなかった。
 だから、あんなことして困らせて。
 理由こじつけて、彼女を縛りつけた。
 いや、俺に縛りつけたかった。


 あのまま、俺に溺れさせてしまいたかった。



 --だって今も、別の男に言い寄られていたんだから。


 やっぱり、無防備すぎる。


「……八重くん?」
「なんでそんな無防備なんだよ」
「ご、ごめん」
「ッいや、今のはアイツがしつこいだけだよな」


(我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢)




 柚木ちゃんにとって、頼りになるいちばんの存在でありたいから。


 でも田中みたいなやつが、寄って来てしまう。誰にでも優しいし、面倒見がいいから他の男は簡単にコロッといっちまうのだ。



 俺はそれが嫌だ。
 俺にだけ笑ってて欲しい。
 彼女が必要とするのは全て俺だけで完結させたい。
 俺だけを見てて欲しいし、好きでいて欲しい。



 田中に腕を握られた時も、ちゃんと振り解いて欲しかった。
 

 男に、簡単に触らせんなよ。
 


「……やっぱり許せねぇよ」
「……ッ」



 教えてやったのに、柚木ちゃんはやっぱり理解してないじゃねぇか。
 
 違う、彼女は断っていた。
 約束を守ろうとしていただろう。



 でも、自分以外に好意が向いても
 同じことが言えるか?
 本当に赤木を好いていたら……。


 嫌だ。
 嫌だ、嫌だ!!!


 気づけばふらふらと彼女へ近寄る。



「……いくつ無防備晒せば気ぃ済むんだ?」
「ごめ……」
「わざわざ教え込んだばっかだよね。
俺と約束したこともう忘れたの?
なんで俺の意見が聞けねぇーの?」


「誤解だよ!八重くんとの約束守りたくてこ、断って」
「俺がいなかったらどうしてたの?
アパートまで迫られたら断れた?」


 もう駄目だった。
 俺はとことん彼女を責めてしまう。
 人目も、柚木ちゃんの気持ちも憚《はばか》らず。



「覚悟しろっつったよな?」



 十八時過ぎのネオンが輝く歓楽街。
 無理やりに柚木ちゃんの腕を引っ張って、人通りを抜けていく。



「八重くん、私逃げないから」
「いーや、離したら逃げんだろ」
「逃げないから」
「駄目、もう離さねぇ」
「ね、ねぇ、どこ行くの?ここら辺って、その……いわゆる」
「田中にさ、あの勢いでこうやってホテル連れてかれても、こうやって着いてくの?」
「行かない!行かないよ!」
「説得力ないね」
「それは、ごめんね。って、ホテル入るの?!!だ、だめだよ!私たちまだ……!」
「約束破ったら……って、忠告したよ俺は」
「……わ、わかった」



 無理やり柚木ちゃんを連れて、ホテルへと入り込んだ。


 --最低だ俺は。
 

 でももう、なりふり構ってはいられなかった。


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