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再び宮廷へ
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しおりを挟むベルナール家からの手紙が届いた翌日、リリィはマノンを伴って王都の伯爵邸へと戻った。
手紙に同封されていたのは、宮廷で開かれる舞踏会への招待状だった。驚くべきはそこに王妃のサインがあったこと。王妃主催のパーティに呼び出されたのだ。
きっと第四王子がらみだ。
第四王子から婚約破棄を言い渡されてすぐに、リリィは辺境の別邸へ移った。あとのことはすべて父親がひとりで引き受けてくれた。
父親にとってリリィは遅くにできた娘だ。目に入れても痛くないほどかわいがってくれたが、相手が王家では下手なことはできない。
せめて最悪の事態にならないようにと、遠く離れた辺境の別邸をリリィにくれた。
本来なら今回の呼び出しにも父親が参上する予定だった。が、無理がたたったのか体調を崩し寝込んでいる。そのため家令がリリィのところへ知らせをくれたというわけだ。
これ以上老齢の父親に無理はさせたくない。散々心労をかけたという自覚もある。父親のためにもここは自分の口から王妃に身の潔白を説明するべきだと奮い立った。
なにがあっても伯爵家の令嬢として毅然とふるうことを決意する。
「お嬢様、本当によろしいのですか?」
マノンに声をかけられ顔を上げる。宮廷へ向かう馬車の中だったことを思い出した。
「なにがですの?」
「なにがって……急に呼び出された上に時間もなく、ドレスだって有り合わせなのですよ」
「しかたないわよ。王妃様からのお呼び出しですもの」
リリィの手元に手紙が届いたときには、舞踏会までもう一週間を切っていた。ドレスなら伯爵邸に山ほどあるから問題ないと言ったが、マノンは不服そうだ。
「ジョナス殿下と相手の女にだってお会いするかもしれませんのに」
「ええ、そうね」
「せめてエスコートをしてくださる方がいらっしゃれば……」
「大丈夫よ、一瞬だもの。きっと誰も気にかけたりしないわ」
マノンを安心させるためにそう言ったものの、さすがにパートナーを連れずに舞踏会に参加するのは気が重かった。
エスコートを引き受けてくれる男性が誰もいなかったのだ。
幼いときから第四王子の許嫁だったため、異性の友人はまったくいない。リリィに兄弟はおらず、親族も年頃の独身男性はすでに恋人との参加を決めていた。
伝手を頼ってパートナーになってくれそうな男性を探したけれど、ことごとく断られた。第四王子の許嫁でありながら悪女のうわさの立ったリリィにかかわると、宮廷での立場が悪くなると思ったのかもしれない。
舞踏会への参加を辞退すれば、王家への叛意と見なされてもおかしくない。単身乗り込むことにはさすがのリリィも抵抗があったが、王妃との謁見が終わればすぐに退散する。短時間だからと耐えることにした。
早く帰りたいわ。
うっかりつきそうになったため息をのみ込む。
思い浮かべたのは、今し方後にしたばかりの伯爵邸ではない。
リリィが王都に戻ると聞いた途端、ジャンは泣きだしそうな顔で『帰ってくるよね』と聞いてきた。種を植える約束をして別れたのがずいぶん前のことに感じてしまう。
アルとはきちんと別れを惜しめなかったのが心残りだった。帰郷直前の慌ただしさのせいで、『お世話になりました』くらいしか伝えることができなかった。
近くまで来たときは顔を出してね、くらい言えばよかったかしら。
二度と会えないかもしれないと思ったら、胸の奥がなぜか鉛を含んだように重たくなる。
「お嬢様、到着いたしました」
マノンの介添えで馬車から降り、両脇に衛兵の立つ城門を見上げる。
リリィは静かに深呼吸をした。
「マノン、少しの間待っていてくれる? すぐに戻って参りますわ」
心配そうに眉を下げたまま、マノンがうなずく。侍女は連れて入れない決まりなのだ。
「では、行ってまいりますわ」
「行ってらっしゃいませ、リリィ=ブランシュお嬢様」
深々と腰を折ったマノンに見送られながら、リリィは城門をくぐった。
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