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スローライフを満喫したい
[1]ー3
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「犬小屋が欲しいと言っただろう」
番犬よりは近いが、微妙に違っている。
正確には『犬小屋でもお願いいたしましょうか』だ。
もともと辺境の屋敷での生活が落ち着いたら、犬を飼おうと思っていた。前世のときから憧れのひとつだったのだ。
田舎暮らしと言えば畑仕事とニワトリと大きな犬。自分でも笑えるくらい安直な発想だが、この人生もいつ終わりを迎えるかわからないのだから、叶えられるものは貪欲に叶えていきたい。
だからと言って帝国の皇太子に犬小屋作りを頼む者がどこにいるというのだろう。ただの居候に頼むのとはわけが違う。
遠回しに『皇太子殿下にしていただくようなことはなにもございません』と、冗談交じりに断ったつもりだった。
「小屋のついでだ。中身もあった方がいいだろう?」
気が利くだろうと言わんばかりの笑みに、リリィは思わず額を押さえた。
「皇太子殿下……」
「アルでいい」
まだ言うか。
令嬢らしくないツッコミが心の中で湧き上がるが、必死に抑え込む。相手は帝国の皇太子だ。彼の人となりはなんとなくわかっているが、あまり失礼な態度を取ることはできない。
そこでやっと、自分がまだひと言もお礼を口にしていないことに気がついた。
予想外の贈り物もそうだが、王妃との一件もある。あんなにすっきりと解決したのは、彼が口添えしてくれたおかげに違いない。
相手の地位など関係ない。受けた恩にお礼をするのは、人として当たり前の道義である。
「殿下のご厚意に心より感謝いたします」
スカートの裾を持ち上げて腰を落とすと、アルが眉を持ち上げた。
どこかおかしいところでもあったのだろうか。
舞踏会とは違いくるぶしから下は見えているが、カーテシーは完璧なはずだ。
伏せた視線によく磨かれた革のつま先が入り込む。距離の近さにギョッとした瞬間、伸びてきた手に頬をすくい上げられた。
「……っ」
見開いた両目に整った顔が映る。森の奥深くでこんこんと湧き出る泉のような色をした虹彩にくぎ付けになった。
至近距離から見つめられ、いや応なしに鼓動が加速していく。お願いだからもう少し離れてほしい。
「お、お戯れを、皇太子殿下」
「〝アル〟だ」
更に距離を詰められ、顔が真っ赤になりなにも考えらなくなった。
「アル! わかったから離れて!」
思わず叫んだら、彼が満足そうに微笑んで離れた。
もしかして、またからかわれたの?
暴れる心臓をなだめていると、アルがすたすたとソファーに戻り、どしんと腰を落とした。
「今日の昼は?」
「はい?」
「昼飯は決まっているのか?」
「夏野菜と手打ち麺ですわ」
「悪くないな」
口角を持ち上げたアルが不敵に微笑む。
「犬小屋が完成するまでの間、またよろしくな」
目を見張ってその場に静止していると、玄関の方からにぎやかな声が聞こえてくる。ジャン達が戻ってきたのだ。
熱い中作業に勤しんでくれた彼らに早く食事を出してあげなければ。
リリィは大きく息を吐きだすと、顔を上げた。
「わかりました、アル。ここにいらっしゃる間は〝前と同じように〟させていただきますわ」
「ああ、よろしくな、リリィ」
目を細めた彼の足元で茶色い尻尾がふさふさと揺れる。
呼びに来たマノンに食事の人数がひとり増えることを伝え、自分も昼食準備に取りかかることにした。
さて、腕によりをかけて作りますわよ。
だれが来ようと、自分がすることは変わらない。せっかく手に入れたこの暮らしを満喫するだけだ。
リリィは袖をまくり上げながら、キッチンへと向かった。
【おわり】
番犬よりは近いが、微妙に違っている。
正確には『犬小屋でもお願いいたしましょうか』だ。
もともと辺境の屋敷での生活が落ち着いたら、犬を飼おうと思っていた。前世のときから憧れのひとつだったのだ。
田舎暮らしと言えば畑仕事とニワトリと大きな犬。自分でも笑えるくらい安直な発想だが、この人生もいつ終わりを迎えるかわからないのだから、叶えられるものは貪欲に叶えていきたい。
だからと言って帝国の皇太子に犬小屋作りを頼む者がどこにいるというのだろう。ただの居候に頼むのとはわけが違う。
遠回しに『皇太子殿下にしていただくようなことはなにもございません』と、冗談交じりに断ったつもりだった。
「小屋のついでだ。中身もあった方がいいだろう?」
気が利くだろうと言わんばかりの笑みに、リリィは思わず額を押さえた。
「皇太子殿下……」
「アルでいい」
まだ言うか。
令嬢らしくないツッコミが心の中で湧き上がるが、必死に抑え込む。相手は帝国の皇太子だ。彼の人となりはなんとなくわかっているが、あまり失礼な態度を取ることはできない。
そこでやっと、自分がまだひと言もお礼を口にしていないことに気がついた。
予想外の贈り物もそうだが、王妃との一件もある。あんなにすっきりと解決したのは、彼が口添えしてくれたおかげに違いない。
相手の地位など関係ない。受けた恩にお礼をするのは、人として当たり前の道義である。
「殿下のご厚意に心より感謝いたします」
スカートの裾を持ち上げて腰を落とすと、アルが眉を持ち上げた。
どこかおかしいところでもあったのだろうか。
舞踏会とは違いくるぶしから下は見えているが、カーテシーは完璧なはずだ。
伏せた視線によく磨かれた革のつま先が入り込む。距離の近さにギョッとした瞬間、伸びてきた手に頬をすくい上げられた。
「……っ」
見開いた両目に整った顔が映る。森の奥深くでこんこんと湧き出る泉のような色をした虹彩にくぎ付けになった。
至近距離から見つめられ、いや応なしに鼓動が加速していく。お願いだからもう少し離れてほしい。
「お、お戯れを、皇太子殿下」
「〝アル〟だ」
更に距離を詰められ、顔が真っ赤になりなにも考えらなくなった。
「アル! わかったから離れて!」
思わず叫んだら、彼が満足そうに微笑んで離れた。
もしかして、またからかわれたの?
暴れる心臓をなだめていると、アルがすたすたとソファーに戻り、どしんと腰を落とした。
「今日の昼は?」
「はい?」
「昼飯は決まっているのか?」
「夏野菜と手打ち麺ですわ」
「悪くないな」
口角を持ち上げたアルが不敵に微笑む。
「犬小屋が完成するまでの間、またよろしくな」
目を見張ってその場に静止していると、玄関の方からにぎやかな声が聞こえてくる。ジャン達が戻ってきたのだ。
熱い中作業に勤しんでくれた彼らに早く食事を出してあげなければ。
リリィは大きく息を吐きだすと、顔を上げた。
「わかりました、アル。ここにいらっしゃる間は〝前と同じように〟させていただきますわ」
「ああ、よろしくな、リリィ」
目を細めた彼の足元で茶色い尻尾がふさふさと揺れる。
呼びに来たマノンに食事の人数がひとり増えることを伝え、自分も昼食準備に取りかかることにした。
さて、腕によりをかけて作りますわよ。
だれが来ようと、自分がすることは変わらない。せっかく手に入れたこの暮らしを満喫するだけだ。
リリィは袖をまくり上げながら、キッチンへと向かった。
【おわり】
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katsuko1210さん
実は恋愛ファンタジーものはこれが始めての作品でしたので(普段は大人向け現代恋愛を書いています)、そう言っていただけてとても励みになりました✨
またkatsuko1210さんに楽しんでいただけるようがんばっていこうと思います!
再度のコメントありがとうございましたm(__)m
一気に読みました☺️
番外編などで、その後の二人のを読みたいくらいです😊
chibiさん
ご感想ありがとうございます。
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