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第十話【差し入れレアチーズムース】報告と告白はきっちりと!?
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夕飯の後片付けまで済ませると、早速キッチンに並んで立つ。
リネンシャツの長そでを肘まで捲り上げ、いつもの黒いエプロンを身に着けた怜の隣に、リネン素材でふんわりとした薄桃色のエプロンを付けた美寧が立つ。
美寧のエプロンは、料理を覚えたいと彼女が言った翌日に、怜が買ってきてプレゼントしたものだった。
「何を作るの?れいちゃん」
「つわりの時期でも食べやすいように、塩レモンを使ったレアチーズムースにしようかと思います」
「レアチーズムース!」
「ちゃんとミネの分もありますよ?」
「やったぁ」
スイーツが大好きな美寧が、大きな瞳をキラキラと輝かせて怜を見上げたその瞬間。
腰を折った怜が素早く小さな唇をさらって行った。
「む、……ムース、作るんだよね?」
言いながら頬がじわじわと赤く染まっていく。
今みたいな軽いくちづけならもう何度もしているはずなのに、美寧はいつまで経ってもそれに慣れることが出来ず、恥ずかしくて顔を伏せてしまう。
けれど、何としても今日中に作らないと明日ラプワールに持っていくことができないじゃないか。そう思った美寧は、視線だけを持ち上げ怜を見た。
「ね、早く作ろ?」
美寧なりに考えた精一杯の催促に、なぜか怜が軽く目を見張る。すぐに頷いてくれるだろうと思っていたのに、更に腰に腕を回してきゅっと抱き寄せられた。
「れ、れいちゃ、」
「可愛すぎるあなたが悪い」
耳元に低い声が囁くと、さっきよりも深く唇を奪われた。
(さっきご飯食べたばっかりなのにっ!)
食後の歯磨きがまだだったことに気が付いて、美寧はしがみ付いていた怜の背中を軽く叩いた。
美寧の抗議に気付かないはずがないのに、怜はそれには気にも留めず更にくちづけを深くする。
美寧の腰がカクンと抜けた。腰に回された腕の支えがなければその場に崩れ落ちていただろう。
ようやく解放された唇から、大きく息を吸い込む。腰を支えられ怜の胸に寄りかかった美寧は、肩を上下させながら荒い息を整えようとした。
段々と呼吸が整ってきたところで、「もうっ」と抗議の声を上げようと顔を上げた時、先に口を開いたのは怜の方だった。
「何を言おうとしたんですか?」
「え?」
「差し入れ作りを一緒にすると俺が言った後、『ありがとう』の後に何か言いかけてやめたでしょう?」
「あ、………」
「あ」の口をつぐむ美寧。
『何のことか心当たりがある』と書いてある顔を見て、怜は薄く瞳を細めた。
「俺には言えないことですか?」
「なっ!……そ、そんなこと……そういうわけじゃないんだけど……」
言おうとしていた言葉が頭に浮かぶ。自然と美寧の顔が赤くなっていく。
「教えてくれませんか?」
「……言わないとダメ?」
「出来れば。ミネがどうしても嫌なら構いませんが――」
「………だ……き、って」
「ん?」
「ありがとう、れいちゃん……大好き、って……」
恥ずかしさのあまり顔を伏せる。頭から湯気が出ているんじゃないだろうか。
真っ赤になった顔を両手で覆い、怜の胸もとにコツンと額を付けた。彼は黙ったままで何も言わない。
(うぅっ、やっぱり言わない方が良かったかも……)
怜と藤波家のお墓参りに行った日。自分の気持ちを自覚した美寧だったが、まだそれを怜に告げていない。
いや、正確には“告げられていない”。
あれから十日ほど。その間に美寧は、何度か怜に自分の気持ちを告白しようとした。
けれどなかなかタイミングが掴めず、いざ告白しようとすると邪魔が入ったり、なぜか今日みたいに怜に口を塞がれたりして、結局出来ないまま今に至ってしまった。
前に同じように「大好き」と言った時には、『俺の心中を忖度してください』と困ったような表情をされた。だから、今度こそちゃんと正しく「好き」だと言おうと思っていたのに――
(また困らせちゃったかな……それとも、同じこと言わせないで、って呆れてる?)
何の反応もなく無言のままの怜のことが気になり始め、美寧は赤い顔を少しだけ持ち上げ、ちらりと怜の顔を盗み見た。
怜は横を向いていた。まるで美寧のことを見ていられないとばかりに。
目が合わないことをいいことに、思わずじぃっと整った横顔を見詰める。すると、怜の様子がいつもと違うことに気付いた。
頬が心なしか薄く染まっていて、耳の端ははっきりと赤い。
(もしかして…………照れてる、とか?)
普段から彼はあまり表情を大きく変えることがない。だから顔を赤くすることなんて考えたこともなかった。
あまりの珍しさに、美寧は食い入るようにその横顔に見入っていると、怜が横を向いたままチラリと視線だけ寄越した。
「……あまりじろじろ見ないでください」
「ご……ごめんね?」
よく分からなくて小首を傾げながら、とりあえず謝ってみる。すると、そんな美寧を見て、怜が長く深い息を吐きだした。
「……作りましょうか」
「うん……」
腰に回された腕が解かれそっと離された距離に、なぜだか少し寂しくなりながら美寧は小さく頷いた。
夕飯の後片付けまで済ませると、早速キッチンに並んで立つ。
リネンシャツの長そでを肘まで捲り上げ、いつもの黒いエプロンを身に着けた怜の隣に、リネン素材でふんわりとした薄桃色のエプロンを付けた美寧が立つ。
美寧のエプロンは、料理を覚えたいと彼女が言った翌日に、怜が買ってきてプレゼントしたものだった。
「何を作るの?れいちゃん」
「つわりの時期でも食べやすいように、塩レモンを使ったレアチーズムースにしようかと思います」
「レアチーズムース!」
「ちゃんとミネの分もありますよ?」
「やったぁ」
スイーツが大好きな美寧が、大きな瞳をキラキラと輝かせて怜を見上げたその瞬間。
腰を折った怜が素早く小さな唇をさらって行った。
「む、……ムース、作るんだよね?」
言いながら頬がじわじわと赤く染まっていく。
今みたいな軽いくちづけならもう何度もしているはずなのに、美寧はいつまで経ってもそれに慣れることが出来ず、恥ずかしくて顔を伏せてしまう。
けれど、何としても今日中に作らないと明日ラプワールに持っていくことができないじゃないか。そう思った美寧は、視線だけを持ち上げ怜を見た。
「ね、早く作ろ?」
美寧なりに考えた精一杯の催促に、なぜか怜が軽く目を見張る。すぐに頷いてくれるだろうと思っていたのに、更に腰に腕を回してきゅっと抱き寄せられた。
「れ、れいちゃ、」
「可愛すぎるあなたが悪い」
耳元に低い声が囁くと、さっきよりも深く唇を奪われた。
(さっきご飯食べたばっかりなのにっ!)
食後の歯磨きがまだだったことに気が付いて、美寧はしがみ付いていた怜の背中を軽く叩いた。
美寧の抗議に気付かないはずがないのに、怜はそれには気にも留めず更にくちづけを深くする。
美寧の腰がカクンと抜けた。腰に回された腕の支えがなければその場に崩れ落ちていただろう。
ようやく解放された唇から、大きく息を吸い込む。腰を支えられ怜の胸に寄りかかった美寧は、肩を上下させながら荒い息を整えようとした。
段々と呼吸が整ってきたところで、「もうっ」と抗議の声を上げようと顔を上げた時、先に口を開いたのは怜の方だった。
「何を言おうとしたんですか?」
「え?」
「差し入れ作りを一緒にすると俺が言った後、『ありがとう』の後に何か言いかけてやめたでしょう?」
「あ、………」
「あ」の口をつぐむ美寧。
『何のことか心当たりがある』と書いてある顔を見て、怜は薄く瞳を細めた。
「俺には言えないことですか?」
「なっ!……そ、そんなこと……そういうわけじゃないんだけど……」
言おうとしていた言葉が頭に浮かぶ。自然と美寧の顔が赤くなっていく。
「教えてくれませんか?」
「……言わないとダメ?」
「出来れば。ミネがどうしても嫌なら構いませんが――」
「………だ……き、って」
「ん?」
「ありがとう、れいちゃん……大好き、って……」
恥ずかしさのあまり顔を伏せる。頭から湯気が出ているんじゃないだろうか。
真っ赤になった顔を両手で覆い、怜の胸もとにコツンと額を付けた。彼は黙ったままで何も言わない。
(うぅっ、やっぱり言わない方が良かったかも……)
怜と藤波家のお墓参りに行った日。自分の気持ちを自覚した美寧だったが、まだそれを怜に告げていない。
いや、正確には“告げられていない”。
あれから十日ほど。その間に美寧は、何度か怜に自分の気持ちを告白しようとした。
けれどなかなかタイミングが掴めず、いざ告白しようとすると邪魔が入ったり、なぜか今日みたいに怜に口を塞がれたりして、結局出来ないまま今に至ってしまった。
前に同じように「大好き」と言った時には、『俺の心中を忖度してください』と困ったような表情をされた。だから、今度こそちゃんと正しく「好き」だと言おうと思っていたのに――
(また困らせちゃったかな……それとも、同じこと言わせないで、って呆れてる?)
何の反応もなく無言のままの怜のことが気になり始め、美寧は赤い顔を少しだけ持ち上げ、ちらりと怜の顔を盗み見た。
怜は横を向いていた。まるで美寧のことを見ていられないとばかりに。
目が合わないことをいいことに、思わずじぃっと整った横顔を見詰める。すると、怜の様子がいつもと違うことに気付いた。
頬が心なしか薄く染まっていて、耳の端ははっきりと赤い。
(もしかして…………照れてる、とか?)
普段から彼はあまり表情を大きく変えることがない。だから顔を赤くすることなんて考えたこともなかった。
あまりの珍しさに、美寧は食い入るようにその横顔に見入っていると、怜が横を向いたままチラリと視線だけ寄越した。
「……あまりじろじろ見ないでください」
「ご……ごめんね?」
よく分からなくて小首を傾げながら、とりあえず謝ってみる。すると、そんな美寧を見て、怜が長く深い息を吐きだした。
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