耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

文字の大きさ
64 / 88
第十話【差し入れレアチーズムース】報告と告白はきっちりと!?

[1]ー2

しおりを挟む
***


夕飯の後片付けまで済ませると、早速キッチンに並んで立つ。

リネンシャツの長そでを肘まで捲り上げ、いつもの黒いエプロンを身に着けた怜の隣に、リネン素材でふんわりとした薄桃色のエプロンを付けた美寧が立つ。
美寧のエプロンは、料理を覚えたいと彼女が言った翌日に、怜が買ってきてプレゼントしたものだった。

「何を作るの?れいちゃん」

「つわりの時期でも食べやすいように、塩レモンを使ったレアチーズムースにしようかと思います」

「レアチーズムース!」

「ちゃんとミネの分もありますよ?」

「やったぁ」

スイーツが大好きな美寧が、大きな瞳をキラキラと輝かせて怜を見上げたその瞬間。
腰を折った怜が素早く小さな唇をさらって行った。

「む、……ムース、作るんだよね?」

言いながら頬がじわじわと赤く染まっていく。
今みたいな軽いくちづけならもう何度もしているはずなのに、美寧はいつまで経ってもそれに慣れることが出来ず、恥ずかしくて顔を伏せてしまう。
けれど、何としても今日中に作らないと明日ラプワールに持っていくことができないじゃないか。そう思った美寧は、視線だけを持ち上げ怜を見た。

「ね、早く作ろ?」

美寧なりに考えた精一杯の催促に、なぜか怜が軽く目を見張る。すぐに頷いてくれるだろうと思っていたのに、更に腰に腕を回してきゅっと抱き寄せられた。

「れ、れいちゃ、」

「可愛すぎるあなたが悪い」

耳元に低い声が囁くと、さっきよりも深く唇を奪われた。

(さっきご飯食べたばっかりなのにっ!)

食後の歯磨きがまだだったことに気が付いて、美寧はしがみ付いていた怜の背中を軽く叩いた。
美寧の抗議に気付かないはずがないのに、怜はそれには気にも留めず更にくちづけを深くする。

美寧の腰がカクンと抜けた。腰に回された腕の支えがなければその場に崩れ落ちていただろう。

ようやく解放された唇から、大きく息を吸い込む。腰を支えられ怜の胸に寄りかかった美寧は、肩を上下させながら荒い息を整えようとした。

段々と呼吸が整ってきたところで、「もうっ」と抗議の声を上げようと顔を上げた時、先に口を開いたのは怜の方だった。

「何を言おうとしたんですか?」

「え?」

「差し入れ作りを一緒にすると俺が言った後、『ありがとう』の後に何か言いかけてやめたでしょう?」

「あ、………」

「あ」の口をつぐむ美寧。
『何のことか心当たりがある』と書いてある顔を見て、怜は薄く瞳を細めた。

「俺には言えないことですか?」

「なっ!……そ、そんなこと……そういうわけじゃないんだけど……」

言おうとしていた言葉が頭に浮かぶ。自然と美寧の顔が赤くなっていく。

「教えてくれませんか?」

「……言わないとダメ?」

「出来れば。ミネがどうしても嫌なら構いませんが――」

「………だ……き、って」

「ん?」

「ありがとう、れいちゃん……大好き、って……」

恥ずかしさのあまり顔を伏せる。頭から湯気が出ているんじゃないだろうか。
真っ赤になった顔を両手で覆い、怜の胸もとにコツンと額を付けた。彼は黙ったままで何も言わない。

(うぅっ、やっぱり言わない方が良かったかも……)

怜と藤波家のお墓参りに行った日。自分の気持ちを自覚した美寧だったが、まだそれを怜に告げていない。
いや、正確には“告げられていない”。

あれから十日ほど。その間に美寧は、何度か怜に自分の気持ちを告白しようとした。
けれどなかなかタイミングが掴めず、いざ告白しようとすると邪魔が入ったり、なぜか今日みたいに怜に口を塞がれたりして、結局出来ないまま今に至ってしまった。

前に同じように「大好き」と言った時には、『俺の心中を忖度してください』と困ったような表情をされた。だから、今度こそちゃんと正しく「好き」だと言おうと思っていたのに――

(また困らせちゃったかな……それとも、同じこと言わせないで、って呆れてる?)

何の反応もなく無言のままの怜のことが気になり始め、美寧は赤い顔を少しだけ持ち上げ、ちらりと怜の顔を盗み見た。

怜は横を向いていた。まるで美寧のことを見ていられないとばかりに。

目が合わないことをいいことに、思わずじぃっと整った横顔を見詰める。すると、怜の様子がいつもと違うことに気付いた。
頬が心なしか薄く染まっていて、耳の端ははっきりと赤い。

(もしかして…………照れてる、とか?)

普段から彼はあまり表情を大きく変えることがない。だから顔を赤くすることなんて考えたこともなかった。

あまりの珍しさに、美寧は食い入るようにその横顔に見入っていると、怜が横を向いたままチラリと視線だけ寄越した。

「……あまりじろじろ見ないでください」

「ご……ごめんね?」

よく分からなくて小首を傾げながら、とりあえず謝ってみる。すると、そんな美寧を見て、怜が長く深い息を吐きだした。

「……作りましょうか」

「うん……」

腰に回された腕が解かれそっと離された距離に、なぜだか少し寂しくなりながら美寧は小さく頷いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

俺様系和服社長の家庭教師になりました。

蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。  ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。  冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。  「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」  それから気づくと色の家庭教師になることに!?  期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、  俺様社長に翻弄される日々がスタートした。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

処理中です...