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第十話【差し入れレアチーズムース】報告と告白はきっちりと!?
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冷蔵庫から素早く材料を取り出した怜は、コンロと冷蔵庫の間に置いてある小さな丸テーブルに並べていく。
「ミネ、ハチミツを出してもらっていいですか?」
「うん、分かった」
美寧は戸棚の扉を開くと、紅茶缶の隣に置いてあるハチミツの瓶を手に取る。
「これでいいの?」
「ありがとうございます」
ハチミツを丸テーブルに置くと、怜が並べた食材が目に付く。美寧は首を傾げた。
「ねぇ、れいちゃん?チーズは出さないの?」
「ええ。今日はこれを使うので」
怜は丸テーブルにあるプレーンヨーグルトを手に取ると、キッチンペーパーを引いたザルの上にそれをドサっと乗せた。
それから今週作ったばかりの塩レモンを取り出し、フードプロセッサーに掛ける。ウィーンという音が響き、あっという間に塩レモンのペーストが出来た。それをボウルに移し、その上から豆乳を注ぐ。
「ミネ、混ぜてもらえますか?」
「うん」
怜からボウルを受け取った美寧は、泡だて器でそれをぐるぐるとかき混ぜた。すると、サラッとしていた豆乳にだんだんととろみがついていく。
「それくらいで良いですよ」
美寧が泡だて器の手を止めると、怜はボウルの中身を少しだけ小さな耐熱ボウルに取り分ける。
「これをレンジで三十秒くらい温めます」
「私やりたい!」
「では、お願いしますね」
電子レンジの扱いならお手の物だと、意気揚々とレンジに向かう美寧。頭の高い位置で一つに結った髪の先が軽やかに揺れる。怜の切れ長の瞳が自然と緩んだ。
レンジで軽く温められた豆乳の中にゼラチンとハチミツを入れ溶かすと、それをさっきのボウルの中に戻す。そしてさらにその中に水切りをしたヨーグルトを入れた。
「混ぜて貰えますか?」
「うん」
怜からボウルを受け取った美寧は、再びそれを泡だて器でグルグルと混ぜた。
(楽しそうですね)
横目で見下ろすと、美寧は楽しそうに鼻歌を口ずさみながら泡だて器を回している。なんの曲なのかは分からないが、とても楽しいのだということが良く伝わってくる。
怜と一緒にキッチンに立つ美寧はいつもとても楽しそうだ。
怜の作業を隣で見ているだけのことも多いけれど、「どうしてそうするの?」「それは何?」と質問したり、怜の包丁さばきを見て「すごーい」と感動したりと、退屈するということはない。
誰かとこうして並んで料理をすることは、もうここ何年もしていない。最後に誰かと一緒に料理をしたのは、数年前に学生時代の友人が訪ねてきた時以来。ずっと一人だったこの家に自分以外の誰かの気配がある。しかもずっと昔からそうだったかのように感じてしまうのが不思議で、でも心地良い。
怜にとっても美寧と一緒にキッチンに立つのは、心安らぐ楽しいひとときだ。
「もうそれくらいで良いですよ?」
美寧が持っているボウルの中を覗いて声をかけた怜は、ボウルの中身をレードルで蓋つきの瓶と小ぶりなグラスの計八個に注いでいく。
それを冷蔵庫の中に入れていると、後ろから控えめな声が上がった。
「れいちゃん、ちょっと少なくないかなぁ……」
不安そうな声に怜は忍び笑いを漏らす。それもそのはず、冷蔵庫の中にしまった容器の中には半分ほどしかムースが入っていない。
「まだ終わりではないのですよ?」
「え?」
「もうひと仕事あります。頑張ってくださいね?ミネ」
「んん?」
美寧は猫のような瞳をくりくりと大きくする。長い睫毛をパタパタと二度ほど動かしてから小さな頭を斜めに傾げる。
「今度はこれです」
コンロ下の収納を引き出した怜が、一つの鍋を取り出した。
「あ、それ」
「はい」
怜が手にしているのは片手の雪平鍋。そう、以前肉じゃがを作ろうとした美寧が焦がしてしまったものである。
「ピカピカだね」
使い込まれた雪平鍋の底は、真っ黒こげだった過去があるとは思えないほど銀色に光っている。
「実験が成功しましたので」
「すごい!どうやったの?」
「お酢を少しだけ入れた水を沸かして、ある程度大きな焦げを落としたらあとは日に当てるだけです」
「おひさまに当てるの?」
「はい」
「すごいね……」
「はい。太陽光には様々な作用があって、昔から人間の生活になくてはならないものなのです」
「うん。でも、おひさまもすごいけど、れいちゃんもすごいよ?」
「そうですか?ふふ、ありがとうございます」
手に持っている雪平鍋に水とレモン汁を入れ、火にかける。ひと煮立ちさせた後、先ほどと同じようにゼラチンとハチミツ、そしてヨーグルトの水切りで出たホエーも加えていく。
それを美寧が混ぜ、混ぜ終わったところでバットに入れて冷蔵庫にしまった。
「あとは冷えて固まるのを待ちます。固まったら仕上げをします」
「どれくらいで固まるの?」
「二時間ほどだと思います。その間にお風呂に入ってきたらどうですか?」
「うん。じゃあお先に入ってくるね」
「いってらっしゃい」
怜に見送られ美寧は風呂へ向かった。
冷蔵庫から素早く材料を取り出した怜は、コンロと冷蔵庫の間に置いてある小さな丸テーブルに並べていく。
「ミネ、ハチミツを出してもらっていいですか?」
「うん、分かった」
美寧は戸棚の扉を開くと、紅茶缶の隣に置いてあるハチミツの瓶を手に取る。
「これでいいの?」
「ありがとうございます」
ハチミツを丸テーブルに置くと、怜が並べた食材が目に付く。美寧は首を傾げた。
「ねぇ、れいちゃん?チーズは出さないの?」
「ええ。今日はこれを使うので」
怜は丸テーブルにあるプレーンヨーグルトを手に取ると、キッチンペーパーを引いたザルの上にそれをドサっと乗せた。
それから今週作ったばかりの塩レモンを取り出し、フードプロセッサーに掛ける。ウィーンという音が響き、あっという間に塩レモンのペーストが出来た。それをボウルに移し、その上から豆乳を注ぐ。
「ミネ、混ぜてもらえますか?」
「うん」
怜からボウルを受け取った美寧は、泡だて器でそれをぐるぐるとかき混ぜた。すると、サラッとしていた豆乳にだんだんととろみがついていく。
「それくらいで良いですよ」
美寧が泡だて器の手を止めると、怜はボウルの中身を少しだけ小さな耐熱ボウルに取り分ける。
「これをレンジで三十秒くらい温めます」
「私やりたい!」
「では、お願いしますね」
電子レンジの扱いならお手の物だと、意気揚々とレンジに向かう美寧。頭の高い位置で一つに結った髪の先が軽やかに揺れる。怜の切れ長の瞳が自然と緩んだ。
レンジで軽く温められた豆乳の中にゼラチンとハチミツを入れ溶かすと、それをさっきのボウルの中に戻す。そしてさらにその中に水切りをしたヨーグルトを入れた。
「混ぜて貰えますか?」
「うん」
怜からボウルを受け取った美寧は、再びそれを泡だて器でグルグルと混ぜた。
(楽しそうですね)
横目で見下ろすと、美寧は楽しそうに鼻歌を口ずさみながら泡だて器を回している。なんの曲なのかは分からないが、とても楽しいのだということが良く伝わってくる。
怜と一緒にキッチンに立つ美寧はいつもとても楽しそうだ。
怜の作業を隣で見ているだけのことも多いけれど、「どうしてそうするの?」「それは何?」と質問したり、怜の包丁さばきを見て「すごーい」と感動したりと、退屈するということはない。
誰かとこうして並んで料理をすることは、もうここ何年もしていない。最後に誰かと一緒に料理をしたのは、数年前に学生時代の友人が訪ねてきた時以来。ずっと一人だったこの家に自分以外の誰かの気配がある。しかもずっと昔からそうだったかのように感じてしまうのが不思議で、でも心地良い。
怜にとっても美寧と一緒にキッチンに立つのは、心安らぐ楽しいひとときだ。
「もうそれくらいで良いですよ?」
美寧が持っているボウルの中を覗いて声をかけた怜は、ボウルの中身をレードルで蓋つきの瓶と小ぶりなグラスの計八個に注いでいく。
それを冷蔵庫の中に入れていると、後ろから控えめな声が上がった。
「れいちゃん、ちょっと少なくないかなぁ……」
不安そうな声に怜は忍び笑いを漏らす。それもそのはず、冷蔵庫の中にしまった容器の中には半分ほどしかムースが入っていない。
「まだ終わりではないのですよ?」
「え?」
「もうひと仕事あります。頑張ってくださいね?ミネ」
「んん?」
美寧は猫のような瞳をくりくりと大きくする。長い睫毛をパタパタと二度ほど動かしてから小さな頭を斜めに傾げる。
「今度はこれです」
コンロ下の収納を引き出した怜が、一つの鍋を取り出した。
「あ、それ」
「はい」
怜が手にしているのは片手の雪平鍋。そう、以前肉じゃがを作ろうとした美寧が焦がしてしまったものである。
「ピカピカだね」
使い込まれた雪平鍋の底は、真っ黒こげだった過去があるとは思えないほど銀色に光っている。
「実験が成功しましたので」
「すごい!どうやったの?」
「お酢を少しだけ入れた水を沸かして、ある程度大きな焦げを落としたらあとは日に当てるだけです」
「おひさまに当てるの?」
「はい」
「すごいね……」
「はい。太陽光には様々な作用があって、昔から人間の生活になくてはならないものなのです」
「うん。でも、おひさまもすごいけど、れいちゃんもすごいよ?」
「そうですか?ふふ、ありがとうございます」
手に持っている雪平鍋に水とレモン汁を入れ、火にかける。ひと煮立ちさせた後、先ほどと同じようにゼラチンとハチミツ、そしてヨーグルトの水切りで出たホエーも加えていく。
それを美寧が混ぜ、混ぜ終わったところでバットに入れて冷蔵庫にしまった。
「あとは冷えて固まるのを待ちます。固まったら仕上げをします」
「どれくらいで固まるの?」
「二時間ほどだと思います。その間にお風呂に入ってきたらどうですか?」
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怜に見送られ美寧は風呂へ向かった。
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