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最終話【あなたと食べるオムライス】ずっと一緒に
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外された手が背中に回り、そっと柔らかく抱きこまれる。
「前にも言いましたよね?」
長い腕と柔らかな声が、美寧を包み込む。
「泣きたい時は泣いていいんです。見られたくないなら、俺がずっとこうしています」
その言葉に美寧の胸の奥が熱くなり、溜まっていた雫がとうとう瞳から溢れ出した。
「うぅっ……」
次々とこぼれ落ちる涙と一緒に、美寧の嗚咽もこぼれ落ちる。
しゃくりあげながら泣く美寧。その震える背中を、怜は何も言わずただ撫で続ける。
「ごめん、な、さいっ……、なんの、や、くにも…っ立てなくて……だまって…いなく、なって………」
意味の分からない言葉を、怜はただ黙って受け止める。
「ほん…とは、ここにいちゃ、ダメっ……でもっ……」
美寧が怜の胸元のシャツをギュッと強く握る。
「でも……もう、いやなのっ、……一人ぼっちは、もう…いや………もどりたく、ない……れいちゃんといたいっ!」
短い悲鳴のような声を上げた美寧。その小さな体を怜の腕がきつく抱きしめる。
美寧はしばらくの間、怜の体にしがみ付いてわんわんと泣いた。
「私……お父さまの家から逃げ出したの……誰にも何も言わないで……」
怜の言葉にぽろりと涙をこぼしたのを最後に、泣くのを止めた美寧は、ぽつりぽつりと自分のことを語り始めた。怜は静かに美寧の言葉に耳を傾ける。
小さな頃に母親を亡くした美寧は、ずっと祖父の家で暮らしていた。けれどその祖父が亡くなったのを機に、生家である父の家に戻る。
本来なら本当の家はそこのはずなのに、美寧は少しもそこを自分の家だと思えなかった。
仕事が忙しい父はほとんど家にいない。たまに顔を合わせても、美寧と視線を合わせることはほとんどない。大好きな兄も今は海外で、美寧のことに関心を払う者はなかった。あったとしても、己の職務を全うするための義務的なものばかり。
冷たい檻のような生家で、美寧は祖父を亡くした悲しみと寂しさ、孤独を深めていった。
それでもなんとか自分にできることを探していた美寧に、初めて与えられた仕事。それは『許嫁との結婚』だという。
いつの間に決められていたのかも分からない、顔も知らない許嫁との顔合わせの前日。反射的に家を飛び出した美寧は、行く当てもなくさ迷った場所で倒れ、そして怜に拾われた―――
「お父さまには、私なんて最初からいないのと一緒だった……せめて最後にお父さまの望む相手に嫁げば、少しはお役に立てたかもしれないけれど………」
美寧は少し黙ってから、「でもそれも無理だった……」と苦しげに呟いた。
どれくらいそうしていたのだろうか。
腫れぼったい瞼をゆっくりと持ち上げる。目の前の紺色のシャツがぐっしょりと濡れて色を変えている。
「ごめん……なさい……」
小さく謝ると、背中を撫でていた手がピタリと動きを止める。
「何も言わなくて……甘えてばっかりで……」
硬い胸に額を付けたままそう言うと、ぎゅっと痛いくらい強く抱きしめられた。
「構いません……謝らないで、ミネ。言いたくないことは、言わなくてもいいのです」
怜の言葉に美寧は頭を振る。
そうやって彼の言葉に甘えたままでいたら、美寧はきっと自分が嫌いになる。誰の役にも立たない、甘えてばかりの自分が。
「俺は、あなたが何者でも構わない。『何の役にも立たない』なんて言わないで」
美寧の気持ちを読んだような怜の台詞に、美寧は思わず顔を上げた。
瞳がぶつかり合う。切れ長の瞳がまっすぐに美寧を見つめる。
出会った時から変わらない怜の瞳。吸い込まれそうなほど美しいその瞳を、美寧はただじっと見上げた。
「俺にはあなたが必要なんだ。美寧」
降ってきた言葉に、美寧の瞳から涙のしずくがこぼれ落ちた。
「前にも言いましたよね?」
長い腕と柔らかな声が、美寧を包み込む。
「泣きたい時は泣いていいんです。見られたくないなら、俺がずっとこうしています」
その言葉に美寧の胸の奥が熱くなり、溜まっていた雫がとうとう瞳から溢れ出した。
「うぅっ……」
次々とこぼれ落ちる涙と一緒に、美寧の嗚咽もこぼれ落ちる。
しゃくりあげながら泣く美寧。その震える背中を、怜は何も言わずただ撫で続ける。
「ごめん、な、さいっ……、なんの、や、くにも…っ立てなくて……だまって…いなく、なって………」
意味の分からない言葉を、怜はただ黙って受け止める。
「ほん…とは、ここにいちゃ、ダメっ……でもっ……」
美寧が怜の胸元のシャツをギュッと強く握る。
「でも……もう、いやなのっ、……一人ぼっちは、もう…いや………もどりたく、ない……れいちゃんといたいっ!」
短い悲鳴のような声を上げた美寧。その小さな体を怜の腕がきつく抱きしめる。
美寧はしばらくの間、怜の体にしがみ付いてわんわんと泣いた。
「私……お父さまの家から逃げ出したの……誰にも何も言わないで……」
怜の言葉にぽろりと涙をこぼしたのを最後に、泣くのを止めた美寧は、ぽつりぽつりと自分のことを語り始めた。怜は静かに美寧の言葉に耳を傾ける。
小さな頃に母親を亡くした美寧は、ずっと祖父の家で暮らしていた。けれどその祖父が亡くなったのを機に、生家である父の家に戻る。
本来なら本当の家はそこのはずなのに、美寧は少しもそこを自分の家だと思えなかった。
仕事が忙しい父はほとんど家にいない。たまに顔を合わせても、美寧と視線を合わせることはほとんどない。大好きな兄も今は海外で、美寧のことに関心を払う者はなかった。あったとしても、己の職務を全うするための義務的なものばかり。
冷たい檻のような生家で、美寧は祖父を亡くした悲しみと寂しさ、孤独を深めていった。
それでもなんとか自分にできることを探していた美寧に、初めて与えられた仕事。それは『許嫁との結婚』だという。
いつの間に決められていたのかも分からない、顔も知らない許嫁との顔合わせの前日。反射的に家を飛び出した美寧は、行く当てもなくさ迷った場所で倒れ、そして怜に拾われた―――
「お父さまには、私なんて最初からいないのと一緒だった……せめて最後にお父さまの望む相手に嫁げば、少しはお役に立てたかもしれないけれど………」
美寧は少し黙ってから、「でもそれも無理だった……」と苦しげに呟いた。
どれくらいそうしていたのだろうか。
腫れぼったい瞼をゆっくりと持ち上げる。目の前の紺色のシャツがぐっしょりと濡れて色を変えている。
「ごめん……なさい……」
小さく謝ると、背中を撫でていた手がピタリと動きを止める。
「何も言わなくて……甘えてばっかりで……」
硬い胸に額を付けたままそう言うと、ぎゅっと痛いくらい強く抱きしめられた。
「構いません……謝らないで、ミネ。言いたくないことは、言わなくてもいいのです」
怜の言葉に美寧は頭を振る。
そうやって彼の言葉に甘えたままでいたら、美寧はきっと自分が嫌いになる。誰の役にも立たない、甘えてばかりの自分が。
「俺は、あなたが何者でも構わない。『何の役にも立たない』なんて言わないで」
美寧の気持ちを読んだような怜の台詞に、美寧は思わず顔を上げた。
瞳がぶつかり合う。切れ長の瞳がまっすぐに美寧を見つめる。
出会った時から変わらない怜の瞳。吸い込まれそうなほど美しいその瞳を、美寧はただじっと見上げた。
「俺にはあなたが必要なんだ。美寧」
降ってきた言葉に、美寧の瞳から涙のしずくがこぼれ落ちた。
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