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「浮気してるの、山波美羅っていう女と。ビックリした?
 自分の他にも付き合ってる相手がいて。
 あげるよ、あんな裏切り者。熨斗付けてあげる」




「意味不明だけど私は苺佳の旦那なんて欲しくないぞ。
やるって言われてもいらん・・っていうか、旦那浮気してるのか?
 大丈夫か、苺佳」




 さきほどから私を責め続ける苺佳は、顔に能面のような表情を貼り付けて
目の前に突っ立っている。




「たまたま串カツ屋で一緒になったことで私も浮気相手にされているよう
だけど、誤解だから、それ。私の話をちゃんと聞いてる?

 今も話したけどあの日は学会の帰りで・・」




いろいろ言い訳を口にして私を言いくるめようとしている瑤ちゃんに

私は予《かね》てから準備していたブツをポケットから取り出し、

彼女の目の前に出した。




――

 一番信頼していた旦那に浮気をされ、仲良しさんだけど以前一度
信用をなくしている私はたまたまとはいえ、苺佳の旦那と同じ店で
相席して食事なんかしているわけで、信じてもらうのは
難しいのかもしれない。



 苺佳があの日のことを確認しているっていうことは、おそらく
興信所を使ったか自分でつけた尾行したのか ? 
動かぬ証拠があるのだろう。            ―――





 小さいとはいえナイフを向けている私のほうへ瑤ちゃんが
近づいて来て、固まっている私の首筋に軽くキスを落とした。

 瑤ちゃんの唇の感触がして私は困惑した。
 この人《瑤ちゃん》何してんの? 
 思う間もなく、瑤ちゃんが私を抱き締めて囁いた。

          ◇ ◇ ◇ ◇

「好きな子の悲しがることなんて私はしない。苺佳、辛い思い
してたんだな。これからは私がいる。私を頼れ。

 ン? なっ、苺佳、ナイフが刺さってないけどナンデ?」



 そう言いながら瑤ちゃんがちっとも自分の身体に刺さってない
ナイフを私の手から奪い取った。

「苺佳ぁ~、何よこれ。無理・・うぷっ。
こんな時に申し訳ないけど、あははぁ~やばいぜ苺佳」


「しようがないじゃん。気持ちだよ。
ナイフ向けるくらいの気持ちだったってこと」

「うひひぃ~、こんな時に人を笑わすんじゃないよ、全くぅ」

 そうひとり受けながら私の玩具のナイフの刃を出したり引っこめたり
している。




 何か、自分のしたことが恥ずかしくなったのと、瑤ちゃんに
やさしくキスされたことで私は瑤ちゃんの顔をまともに見ることが
できなくなった。


 確か私のことを『好きな子』って瑤ちゃんが言ったよね。

 それを反芻すると、私の胸はバックンバックン破裂しそうな勢いで
鳴り出した。


「笑ってごめん。ひとつ、確認。
英介さんがその山波っていう女と浮気してるっていうのは確かなのか?」

「うん、証拠もあるよ」

          ◇ ◇ ◇ ◇


「そういうことなら、いっか。
 本当は墓場まで持って行くつもりだったんだけど、
私は英介さんじゃなくて・・私の好きなのは苺佳なんだ。

 昨年嫉妬して意地悪したのは、そういうこと。
 英介さんに嫉妬したんだよ」







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