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第4幕:解け合う未来の奇想曲(カプリッチオ)
第4-8節:頼れる旦那様
しおりを挟むすかさず私はハンカチを取り出し、彼の顔を優しく拭ってあげた。さらに荷車のところへ行ってカップに柄杓で水を汲み、それをリカルドとナイルさんに渡す。
やがて呼吸が整ったリカルドはニッコリと微笑んで私に話しかけてくる。
「大丈夫だったか、シャロン? 勇ましい姿も素敵だが、無茶は程々にな。ま、とりあえずはノエルたちを守りきったことを褒めておくとしよう」
「な、なぜここへ?」
「畑で農作業をしている最中、水路の工事現場の方から爆発音や衝撃波、それに振動が感じられたからな。それで嫌な予感がして、ナイルとともに駆けつけたというわけだ」
「そ、そうだったんだ……。助かったよ、ありがとう……」
「惚れ直したか? まっ、フィルザードは音や衝撃を遮るものが少ないことが幸いしたな。何もないのもたまには良いことがあるもんだ。はっはっは――って、おっと」
「うっ……ううう……リカルド……リカルドぉ……」
気付けば私はリカルドに抱きつき、彼の胸の中で号泣していた。
自分でも本当によく分からないけど、もしかしたら知らず知らずのうちに強がっていた部分もあったのかもしれない。そして危機が解消されて緊張の糸がプツンと切れたことで、感情が溢れ出したんだろう……。
それにしても、こうしているとリカルドの力強さと温かさ、匂い、優しさ――様々なものがハッキリと感じられて心の底から落ち着く。
「……よく頑張った。偉いぞ、シャロン」
リカルドは私を優しく抱き締め、穏やかな声で囁いた。その瞬間、胸がキュンとして全身が熱くなってくる。
心地良くて、ずっとこうされていたい……。
ただ、状況が状況なだけにそうもいかない。後ろ髪を引かれる想いでリカルドから離れ、手の甲で涙を拭ってから真顔で彼を見つめる。
「ゴメンね、安心したら気が緩んじゃったみたいで」
「気にするな。むしろ僕としては役得だったし、な?」
リカルドは柔和に微笑むと、私に向かってウインクをした。
まったく、ちょっと油断するとすぐ私に冗談を言うんだから。でもそういうところもリカルドらしいと言えばそうなんだけど。
思わず私もわずかに口元を緩め、話を続ける。
「ふふっ……。でも、よく炎系魔法があのゴーレムに有効だって分かったね?」
「ここへ駆け寄ってくる途中、爆炎が上がっているのが分かった。そしてその使い手がキミだと察した瞬間、ピンと来てな。得意な氷系魔法や土属性のモンスターに有効な風系魔法を使わず、なぜその選択をしたのか、と」
「あ……」
「勉強家のキミがゴーレムに対する知識を持っていないとは考えにくかったしな。それに炎系は僕の最も得意な魔法属性だ。せっかくだから強力なやつをお見舞いしてやったよ。遠距離からの先制攻撃にもちょうどいい」
「さすがリカルド!」
私はリカルドの観察眼と洞察力に脱帽した。あらためて彼を見直した。
賢くて行動力も優しさも頼りがいもあって、本当に素敵だと思う。
もちろん、たまに子どもっぽいところを見せることもあるけど、男性って何歳になっても多少はそういう部分があるものだもんね。完全無欠だった父でさえ、思い当たるところがあるし。
「ナイル、狼煙を上げろ。屋敷にいる者たちへ救助へ来るように伝令を。その後は周囲の警戒を頼む」
「承知しました」
リカルドの指示を受け、ナイルさんは狼煙を上げる準備を始めた。
さっき少し話題にも出たけど、フィルザードには一部の地域を除いて空間を遮るものがほとんどない。しかも天候が安定しているから、当地において狼煙は有効な伝達手段だ。
当然、有事の際に備え、フィルザード家に仕える兵士さんの間でその技術は共有されているはず。おそらく煙の色や形などで、遠く離れた場所であっても大まかな用件くらいなら伝えることが可能なのだろう。
「動ける者や回復魔法が使える者は怪我人の手当てに回れ! ただし、無理はしなくていいからな! 無理をして動いて、自身の怪我が重くなっては意味がない!」
リカルドの号令により、怪我の程度が軽い兵士さんや作業員さんたちがその指示に従って動き始めた。特に眠っていた人たちはゴーレムに抵抗しなかっただけ被害も少なく、今は中心となって活動してくれている。
私も回復魔法が中途半端なままだったキールさんの治療を再開し、ポプラにはほかの怪我人の手当てに回ってもらう。そしてしばらくするとお屋敷から救援の兵士さんたちが到着し、私たちはゴーレムの襲撃によるピンチを乗り切ったのだった。
掘削中の水路はあちこちが破壊されてしまったけど、そんなのはまた直せばいい。
もちろん、完成の時期は遅れることになるだろうけど、人的な被害が最小限だったのだから良しとしないとね。
(つづく……)
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