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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第4-4節:反省と素直な気持ち
しおりを挟むそして彼女の言葉には私自身も思わずハッとさせられる。
確かに私は辺境伯夫人としてのプレッシャーを、知らず知らずのうちに感じていたのかもしれない。指摘されてみて初めて気付いた。あらためて自分の言行を振り返ってみると、思い当たる節がある。
「もしかしたら今回のことで、すでにシャロン様の心はリカルド様から離れている可能性もあります。ですが仕方がないですね、自業自得ですから」
「ま、まさかそんな……ッ!」
すかさず顔を上げ、体を震わせながら私の方を向くリカルド。その表情には珍しく明らかな動揺の色が浮かんでいる。普段ならこの程度で取り乱すことはほとんどないはずなのに……。
おそらく今まで発せられたリーザさんの『言葉の刃』によって、すでに精神的な余裕がなくなっているのだろう。
一方、その様子を見たリーザさんはキリッとした真顔が一変、瞬間的にニヤッと小悪魔っぽく笑う。それは私の気のせいだった可能性もあるけど、もしそうだとしたらその意図は果たして……?
「分からないですよ? 私がシャロン様の立場だったら、リカルド様への情熱が冷めてしまったかもしれません。あくまでも私の感想ですけど。勝手な想像ですけど。いえ、きっとそうですね」
「おいおい、リーザ。それはさすがにリカルド様を脅し――」
「ゼファル! あーたは黙ってて! 私はリカルド様と話してるの! 邪魔しないで!」
「は、はいぃ……」
眉を曇らせながら口を挟もうとした冒険者の男性――ゼファルさんと呼ばれた人は、鬼のような形相になったリーザさんの一喝で即座に萎んでしまった。
ただ、そんなふたりのやりとりも、呆然として心ここに在らずといった様子のリカルドにはおそらく届いていない。瞳は光を失い、真っ青な顔をしたまま唇を震わせている。
そんな彼を見ていると私まで苦しい気持ちになってきて、胸が張り裂けそうになる。 今まで心を支配していた彼に対する怒りや悲しみなんて、いつの間にかどこかに吹き飛んでしまっている。
「――シャロン!」
「わっ!? わわっ!」
不意に立ち上がって駆け寄ってきたリカルドに私は強く抱き締められていた。
一瞬、何が起きたのか分からずに戸惑ったけど、私の体を包む彼の温もりと匂いですぐに状況を理解する。
彼の加速し続ける心臓の音が聞こえる。息遣いを間近で感じる。
なんだろう、この幸せで満たされた気持ちは。ずっとこうされていたい。こうしていたい。
「シャロン、僕が悪かった! どうか許してほしい! 僕は想像力も配慮も欠如していた! 親しくなったことで調子に乗りすぎていた! なんて僕は愚かなんだ……くっ……」
「リカルド……」
「僕はしばらくキミと距離を置き、頭を冷すべきなのかもしれないな……」
「ダメっ!」
彼の言葉が終わるか否かの瞬間、私は無意識のうちにリカルドを抱き締め返していた。そうしないとそのままどこか遠くに行ってしまうような気がしたから。それがきっと怖かったから。
この手を決して離してはいけないような気がしたから!
そして私は押し留めていた想いを素直に、躊躇いなく吐き出す。
「嫌だよ! リカルドと離れるなんて! ずっと一緒にいたい! 全部許すからそんな悲しいことを言わないでよ! 私っ、寂しくて耐えられないよ!」
「っ!?」
「私もゴメン! ちょっと意固地になってた! ゴメン……ゴメンね……」
「キミは何も悪くない! 悪いのは僕だ……僕なんだ……」
彼の想いが私の心の中に流れ込んでくる。照れくささとか周りにいるみんなに見られていることなんて、不思議と気にならない。
やがてリカルドは私の耳元に口を寄せ、私にだけ聞こえる声量で囁く。
「シャロン、僕はキミのことを愛している。僕の中で一番だ」
「私も……リカルドのことを愛してるよ……」
なんだろう、今は不思議と気持ちがすんなり言葉となって出た。いつもなら焦りや緊張、照れ、不安などで頭の中が一杯一杯になって、うまく言えないのに。
そして私が囁き返した瞬間、抱き締める力は強まって、胸の鼓動もお互いに大きく速くなったような気がする。
体が熱くて、のぼせて倒れそうだ。でも全然嫌じゃないし、むしろそうなったとしても良いとさえ思える。
(つづく……)
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