112 / 178
第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第4-3節:すれ違いと夫婦ゲンカ
しおりを挟むこれではまるで私は道化。何も知らずに過度に畏まり、しかもそれが外向きの姿として演じているものだと冒険者さんたちにバレていたなんて……。
は、恥ずかしすぎる! 顔から火が出そうになって、耳は蒸気を纏ったかのように熱い!
それと同時に、リカルドに対して沸々と怒りがこみ上げてくる。彼が堅苦しい場であるという雰囲気を醸し出していたから、貴族の振る舞いで対応しないといけないのだと私は思ったのに。
だってリカルドに恥をかかせるワケにはいかないもん。
彼はそんな私の想いなど知る由もなく、相変わらず瞳に涙の粒を浮かべるほどに大笑いしている。
「キミが来るまでは非常に砕けた雰囲気で会談をしていたのだがな、シャロンが思った以上に彼らに対して余所行きの態度だったので、僕もそれに乗っかってみたくなってな」
「……っ……」
「まぁ、地方会議の際はあれくらいの所作でなければならんかもしれんがな。そういう意味では、今のキミの姿を見て僕は安心したとも言えるが。いずれにせよ、この場は普段の公務程度の丁寧さで良い」
「リカルドのバカっ! 私の気も知らないでッ!」
ついに私は堪えていた怒りが爆発し、みんなの目があることを忘れて怒鳴ってしまった。そのまま外方を向き、奥歯を強く噛み締める。
酷い……酷いよ、リカルド……。
なんだか今度は悲しくなってきて、勝手にうっすらと涙が浮かんでくる。胸が締め付けられる気持ちになる。思わず鼻も軽く啜る。
「参ったな……。少し巫山戯すぎたか……。シャロン、僕が悪かった。謝るから許してくれ」
「…………」
「あ……えと……シャロン、本当にゴメン……。こっちを向いてくれ……」
ようやく少しは反省してくれたのか、リカルドは意気消沈したような声を漏らした。そして腫れ物にでも触れるかのように、私の両肩を優しく掴んでくる。
でも今回ばかりは私も腹に据えかねたということもあって、意固地になってしまって何の反応も示す気が起きない。無言のまま、ピクリとも体を動かさずにいる。
その場に流れる重苦しい沈黙――。
それからしばらくしてその空気を打ち破るように、冒険者の女性が柳眉を逆立てながら口を開く。
「リカルド様、よろしいですか?」
「ん? どうした、リーザ?」
「冗談を言い合えるというのは仲がよろしくて結構なことなのですが、それでも時と場合というものがあります。ぜひともそのことをご留意ください」
「あ……う……うむ……」
責め立てるような彼女の雰囲気と声に、リカルドは素直に小さく頷いた。正論だと私も思うし、だからこそ彼が何も言い返せないのは当然だけど。
それにしても、このリーザさんという女性は肝が据わっている。彼女にとっては年下とはいえ、相手は辺境伯という高位の爵位を持つ人物。機嫌を損ねれば、侮辱罪で罰せられてもおかしくない。
それなのに物怖じすることなく苦言を呈すことが出来るなんて、格好良すぎる。
彼女の瞳には迷いがなく、凛とした光が輝いている。私は尊敬と羨望の眼差しでその気高い姿を見つめる。
「シャロン様がこの部屋にお入りなった途端、リカルド様の雰囲気が一変して急に堅苦しくなったのには少し戸惑いました。それにより事態が掴めなかったこともあり、進言が遅れて申し訳ありません。また、私の無礼をお許しください」
「それは気にしないでくれ、リーザ」
「無礼ついでにもうひとつ。シャロン様は辺境伯夫人としてのプレッシャーと戦いながら日々を過ごしているに違いありません。それがどれだけ大変なことか、リカルド様はご想像なさったことがありますか?」
「っ! ……っ……」
「もっとも、リカルド様のお話を聞いた限りシャロン様は芯の強い御方とのことですから、シャロン様自身はその大変さを意識していないかもしれませんが。いずれにしても、おそらく普段はそうしたことを口にすることも態度に出すことも堪えていることでしょう。理由は自らお考えください」
鋭く突き刺さるようなリーザさんの言葉の槍――。
それはリカルドの心を貫き、彼は苦悶に満ちたような表情を浮かべた。そして右手で自らの額の辺りを無造作かつ乱暴に掴み、そのまま俯いてしまう。まるで心の中で自責の念にかられているかのような……。
(つづく……)
10
あなたにおすすめの小説
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※コミカライズ企画進行中
なろうさんにも同作品を投稿中です。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる